令和7年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、30:45:25〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 責任追及の法的枠組みの設定(会社法423条1項・監査役による会社代表)3点・簡潔に
- 工業用機械βの購入の「重要な財産の……譲受け」(362条4項1号)該当性と取締役会決議を欠く法令違反の主張8点
- 取締役会決議に反するようにみえる業務執行と善管注意義務違反の判断枠組み(本問の核心)9点
- 本問事実関係へのあてはめ(緊急性の評価、判断内容自体の合理性、結論との整合性)8点
- 損害および任務懈怠との因果関係2点・簡潔に
設問2
- 各取締役の報酬の具体的配分を取締役会に一任することの許容性(361条1項)5点
- 取締役会から代表取締役への再一任の許容性8点
- 代表取締役による具体的報酬額の決定が善管注意義務違反を構成し得るか8点
- 善管注意義務違反の判断基準(代表取締役に認められる裁量の範囲)9点
- 本件報酬額決定へのあてはめ(善管注意義務違反の有無)10点
- 株主総会決議遵守義務違反・説明義務違反の構成5点
設問3
- 会計帳簿等閲覧謄写請求(433条1項)の少数株主要件以外の要件・拒絶事由の検討5点
- 少数株主要件(総株主の議決権の100分の3以上)を充足すべき時点7点
- 例外を認める判断枠組み(最決平成18年9月28日の応用・特段の事情/信義則)7点
- 本問事実関係へのあてはめ(特段の事情の有無と結論)6点
出題の趣旨(法務省公表)
1 本問は、上場会社である取締役会設置会社において、①一見すると取締役会の決議に反す
るように見える代表取締役が行った設備投資について、当該会社が当該代表取締役の責任を
追及する訴えを提起した場合において、当該会社の立場において考えられる主張及びその当
否を検討すること(設問1)、②取締役会が株主総会から一任された各取締役の報酬の具体
的な配分の決定を代表取締役に再一任する旨の決議に基づき、当該代表取締役が自己の報酬
額のみを増額する旨の決定をした行為について、当該会社が当該代表取締役の責任を追及す
る訴えを提起した場合において、当該会社の立場において考えられる主張及びその当否を検
討すること(設問2)、並びに③会計帳簿等の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)に
係る訴えを提起した株主が、当該訴えに係る訴訟の係属中の募集株式の発行により、総株主
の議決権の100分の3以上という少数株主要件を欠くに至った場合において、当該訴えに
係る請求が認められるか否かを検討すること(設問3)を求めるものである。いずれの設問
についても、問題点を適切に分析した上で、具体的な事実関係に応じて結論を導き出すこと
ができるかを問うものである。
2 設問1について
⑴ 設問1は、①主要な取引先である乙社から新製品の供給を打診された甲社の代表取締役
であるAが、そのために必要となる4000万円を要する設備投資(工業用機械βの購入
及び設置)を行うに当たり、改めて甲社の取締役会で承認を得るものとされていたにもか
かわらず、緊急性があることから、事前に取締役会に諮ることなく当該設備投資を行った、
②Aは、当該設備投資について事後承認が得られるだろうと考えていたが、実際には事後
承認を得ることができず、その後乙社との供給契約を締結することもできなかったという
事例において、Aに対して当該設備投資に係る責任を追及する甲社の立場において考えら
れる主張及びその主張の当否の検討を求めるものである。
⑵ まず、甲社としては、工業用機械βの購入が「重要な財産の〔中略〕譲受け」(会社法
第362条第4項第1号)に該当し、取締役会の決議によらずに工業用機械βを購入した
行為は法令に違反するものであり、Aが「その任務を怠った」(会社法第423条第1項)
と主張することが考えられる。この点については、重要な財産の処分に関する判例(最判
平成6年1月20日民集48巻1号1頁)によれば、当該財産の価額、その会社の総資産
に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の
事情を総合的に考慮して判断することとなる。本問の事実関係(例えば、4000万円と
いう工業用機械βの価額が甲社の総資産100億円に占める割合は0.4%にすぎないこ
とや、甲社の内規では、5000万円以上の取引について取締役会の承認が必要とされて
おり、これまでも5000万円未満の取引の承認が取締役会の議題とされたことはなかっ
たことなど)を踏まえると、工業用機械βの購入が「重要な財産の〔中略〕譲受け」に該
当すると解するのは、上記判例の判断基準を適用する限りは難しいであろう。
⑶ 次に、甲社としては、Aの行為は善管注意義務に違反するものであり、Aが「その任務
を怠った」と主張することが考えられる。Aは、改めて甲社の取締役会で承認を得るもの
とされていたにもかかわらず、取締役会に諮ることなく工業用機械βを購入しており、一
見すると、令和5年10月に開催された取締役会の決議に反する行為であるようにも見え
るため、これをAの善管注意義務違反と評価することができるかが、本問の主要な論点で
ある(本問では、この点に問題意識を持つことなく、経営判断原則について論ずることは
求められていない。)。他方で、本問では、甲社に大きな利益をもたらすことが見込まれ
る乙社との供給契約を締結するためには、早急に工業用機械βを購入及び設置して質の良
い試作品を製作する必要があったという事情も存在する。
そのため、Aの行為を善管注意義務違反と評価することができるかについて判断するに
当たっては、代表取締役が業務執行を行うに際しては基本的には取締役会の決議に従わな
ければならないところ、①甲社の企業価値の維持・向上という観点からみて緊急性が高い
場合には、一見すると取締役会の決議に反するように見える行為を行う余地が認められる
場合があるか、また、②本問の事実関係の下で、緊急性があることを理由に事前に取締役
会の承認を得なかったAの行為は、そのような場合であると評価することができるかなど
が問題となる。結論としては、Aの責任を肯定する方向で検討することも、否定する方向
で検討することも考えられるであろうが、いずれの立場であっても、本問の事実関係を丁
寧に分析し、自らの結論との整合性について説得的に論ずることが求められる。
なお、Aの行為を善管注意義務違反と評価することができるかについて判断するに当た
っては、工業用機械βを購入するというAの判断内容自体の合理性についても問題となり
得るが、本問の事実関係の下では、判断内容自体の合理性を否定することは難しいであろ
う。
3 設問2について
⑴ 設問2は、取締役の報酬の総額の上限額を3億円とし、①各取締役の報酬の具体的な配
分の決定を取締役会に一任する旨の株主総会の決議及び②各取締役の報酬の具体的な配分
の決定を代表取締役であるAに再一任する旨の取締役会の決議に基づき、Aが自己の報酬
額のみを2億円増額する旨の決定をしたという事例において、Aに対して当該決定をして
増額した報酬を受領したことに係る責任を追及する甲社の立場において考えられる主張及
びその主張の当否の検討を求めるものである。
⑵ まず、甲社としては、①各取締役の報酬の具体的な配分の決定を取締役会に一任するこ
と又は②これを代表取締役に再一任することは許容されないと主張することが考えられる
が、株主総会では取締役の報酬の総額の上限額のみを定め、各取締役の報酬の具体的な配
分の決定を取締役会に一任することは許容される(会社法第361条第1項に反しない)
と一般に解されており、①が許容されないと解するのは難しいであろう。まずは、その点
を指摘した上で、②が許容されるかを検討することが必要となる。この点については、例
えば、株主総会の決議で取締役の報酬の総額の上限額は定まっていることや、会社法施行
規則第98条の5第6号の存在などを指摘して、②が許容されるとすることが考えられる。
これに対し、取締役会による代表取締役に対する監督機能が阻害されることなどを指摘し
て、②が許容されないとすることも考えられないではないが、甲社では、平成24年以降、
各取締役の報酬の具体的な配分を毎年代表取締役に再一任しているため、再一任を否定す
る旨の主張をすることは自社の長年にわたる報酬実務を否定することになり、さらに令和
5年度についてもA以外の取締役に対する報酬支払も不適法だとする主張となることを理
解した上で、それが本問で検討が求められる「甲社の立場において考えられる主張」とし
てふさわしい内容かも考慮することが求められる。
⑶ 次に、甲社としては、各取締役の報酬の具体的な配分の決定を代表取締役に再一任する
ことが許容されるとしても、自らの報酬額のみを2億円増額することを決定したAの行為
は善管注意義務に違反するものであり、Aが「その任務を怠った」と主張することが考え
られる。この点については、①そもそも代表取締役による具体的な報酬額の決定が善管注
意義務違反を構成することがあり得るか、②善管注意義務違反を構成することがあり得る
としても、善管注意義務違反をどのような基準で判断するべきか(代表取締役に経営判断
原則と同程度の広範な裁量を認めるべきか)、③本問の事実関係の下で、自らの報酬額の
みを2億円増額することを決定したAの行為が善管注意義務違反と評価することができる
かが問題となる。
①の点については、例えば、具体的な報酬額の決定は株主総会から委任を受けた取締役
会の職務であり、取締役会から再一任を受けた代表取締役の職務であることなどを指摘し
て、代表取締役による具体的な報酬額の決定が善管注意義務違反を構成し得ることを肯定
することも考えられるであろう。これに対し、会社法は取締役の報酬額の決定については
株主総会の決議という手続規制を加えるにとどまることなどを指摘して、代表取締役によ
る具体的な報酬額の決定が善管注意義務違反を構成し得ることを否定することも考えられ
るであろうが、この立場を採る場合であっても、定時株主総会においてAが報酬を増額す
べき理由として株主に対してした説明と、自らの報酬のみを2億円増額するという行為の
不整合について、これが善管注意義務違反(又は総会決議遵守義務違反)を構成するかに
ついて、検討する必要がある。
②の点については、例えば、具体的な報酬額の決定には専門的・技術的判断が必要であ
ることなどを指摘して、経営判断原則と同じ内容の判断枠組みによるべきとすることも考
えられるであろう。これに対し、再一任を受けた代表取締役による自らの報酬額の決定の
場面では自己の利益のために恣意的な決定をする危険があるという問題があることは否定
できないことなどを指摘して、そのような判断枠組みによるべきではないとすることも十
分に考えられる。いずれの立場を採用するにしても、自らが採用する判断枠組みと整合的
な理由付けを適切に指摘することが求められる。
③の点については、②において自らが採用した判断枠組みに従い、本問の事実関係を丁
寧に分析しつつ、自らの報酬額のみを2億円増額したAの決定が善管注意義務違反と評価
することができるかについて、説得的に論ずることが求められる。また、どのような判断
枠組みを採用するとしても、定時株主総会においてAが報酬を増額すべき理由として株主
に対してした説明と、自らの報酬のみを2億円増額するという行為の不整合(株主総会の
決議で示された株主の合理的意思から逸脱した行為であるか)にも留意することが望まし
い。ただし、この不整合をAの善管注意義務違反の判断における一要素として論ずるか、
別途株主総会決議遵守義務違反として論ずるかは、いずれの構成もあり得るであろう。
なお、Aの行った報酬決定が定時株主総会においてAが株主に対してした説明と不整合
であることから、そもそも定時株主総会におけるAの説明が虚偽のものであったと考える
余地もある。この場合には、Aが虚偽の説明をしなければ株主総会決議がされなかったと
いう関係性が認められれば、甲社はAの説明義務違反に基づく損害賠償請求をすることも
考えられる。
4 設問3について
⑴ 設問3は、甲社の総株主の議決権の約3.2%に相当する数の株式を保有していたGが、
甲社に対して会計帳簿等の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)に係る訴えを提起し
たところ、当該訴えに係る訴訟の係属中に甲社が丙社に対して募集株式の発行をしたこと
により、当該訴訟の口頭弁論終結時には、Gは甲社の総株主の議決権の約2.9%に相当
する数の株式を保有することとなったという事例において、当該訴えに係る請求が認めら
れるか否かの検討を求めるものである。
⑵ まず、本問の事実関係によれば、総株主の議決権の100分の3以上という少数株主要
件以外の会計帳簿等の閲覧謄写請求の要件が満たされているか検討する必要がある。本問
の事実関係によれば、会社法第433条第2項各号が定める会計帳簿等の閲覧謄写請求の
拒絶事由は見いだし難く、また、Gによる請求の理由は具体的に明らかにされていると評
価することができるであろう。
⑶ 次に、総株主の議決権の100分の3以上という少数株主要件について、これが訴えの
提起の時点では充足されていたものの、口頭弁論終結時には充足されていなかったことが
もたらす影響について検討する必要がある。
この少数株主要件は、会計帳簿等の閲覧謄写請求が認められるための要件であり、当該
請求に係る訴えにおいて、事実審の口頭弁論終結時に充足されていることを要することが
原則であることを指摘することが求められる。
もっとも、検査役の選任申立てに関するものではあるが、判例(最決平成18年9月2
8日民集60巻7号2634頁)の判示を踏まえると、訴え提起の時点では少数株主要件
が充足されていたものの、その後の募集株式の発行によりこれが充足されないこととなっ
た場合には、会計帳簿等の閲覧謄写請求に係る訴えを妨害する目的で募集株式の発行をし
たなどの特段の事情がない限り、当該請求に係る訴えは棄却されると解することができ、
このことを反対からみると、上記の「特段の事情」がある場合には、訴えの係属中に少数
株主要件を充足しないこととなったときであっても、例外的に当該請求が認められるとい
う立論をすることが可能であろう。このような判断枠組み(なお、判断枠組みとしては、
上記の「特段の事情」の有無のほか、信義則違反によるものなども考えられ、具体的な判
断枠組みを適切に論ずることができれば、同様に評価される。)を示した上で、本問の事
実関係を丁寧に分析し、例外的に請求が認められる場合に該当するかについて説得的に論
ずることが求められる。
なお、上記の法律構成とは異なり、株主が自ら株式を譲渡することにより少数株主要件
が充足されなくなる場合と、募集株式の発行等の会社の行為により少数株主要件が充足さ
れなくなる場合とで区別をし、後者の場合には会計帳簿等の閲覧謄写請求が認められると
する考え方もあり得、このような考え方を採るべき理由を示した上で、このような考え方
を採る場合には、本問の事実関係では、甲社の募集株式の発行により少数株主要件が充足
されなくなる場合に当たることを指摘し、請求を認容するとの結論を導くこととなるであ
ろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和7年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
