令和7年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
施策①(a)
- 選挙権の法的性格(権利性・公務性の二元説)と自由選挙原則の内容10点
- 投票義務化の合憲・違憲をめぐる対立見解の提示と立法裁量8点
- 目的(投票率向上・議会の民主的正統性確保)の検討とひっ迫状況下での正当化7点
施策①(b)
- (a)と(b)の制約の性質の区別・論述の整合4点
- 普通選挙の保障(15条3項)と在外国民選挙権訴訟大法廷判決の判断枠組みの提示8点
- 「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」該当性の検討10点
- 「やむを得ない事由」の有無の具体的検討(目的・手段・罰金との比較)9点
施策②
- 制約される権利の特定(誰のどの自由か)と街頭演説における表現の意義7点
- 直接的制約か間接的・付随的制約か(戸別訪問禁止判決の参照)7点
- 選挙運動のルール論(伊藤正己裁判官補足意見)への言及6点
- 内容規制/内容中立規制の区分と制度の立て付け・実質的効果7点
- 判断枠組みの設定と具体的あてはめ(規制の必要性・有効性・限定の実質)8点
- 特定の見解が排除された街頭演説と議会制民主主義という根本的問い3点・簡潔に
全体
- 論理的構成・判例の正確な特定・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
1.本問は、前半が選挙権や自由選挙原則に関する規制、後半が表現の自由に関する規制で構
成された架空の法案骨子を素材とするものであり、それぞれの規制の憲法適合性を問うてい
る。これらの権利や原則は、議会制民主主義を支える上で重要なものであることから、本問
では、そのことを理解しつつ、参照すべき判例を踏まえた論述が求められている。
2.施策①は、国政選挙における低投票率に対応するため、有権者に国民主権の下での選挙権
行使の重要性を再認識させ、その権利行使を促して投票率を上げることを目的として、強制
投票制度を導入するものである。具体的には、(a)投票を義務化し、(b)国政選挙で3回連続
して投票を怠った者の国政選挙権を5年間停止する。このような施策は、議会制民主主義の
根本に関わる問題であり、人権論のみならず統治機構論にも関係する。そのことを前提に、
具体的には以下の論点の検討が求められる。
まず、施策①(a)の、投票の義務化をめぐる憲法適合性である。我が国では伝統的に任意
投票制が採用されているが、投票の義務化が違憲かどうかについて憲法学説に理解の一致が
あるわけではない。選挙権(憲法第15条第1項等)の権利性を重視する、又は、自由選挙
原則の中に任意投票(強制投票制度の禁止)を読み込む立場からは、投票の義務化の違憲性
が説かれることが多い。他方、選挙権の公務性を重視する、又は、自由選挙原則に任意投票
を含めない立場からは、投票の義務化の合憲性が説かれることが多い。まずはこうした相反
する見解があることを踏まえた上で論述する必要がある。あわせて本問では、相当程度の低
投票率が続くことで、議会制民主主義の根本を揺るがしかねない状態になるのではないかと
いった懸念から、本法案骨子が作成されていることに留意し、かようなひっ迫した状況に限
っては強制投票制度の導入が正当化されるのかどうかについて考えるべきである。
次に、施策①(b)の、3回連続して投票を怠った者の国政選挙における投票権を一定期間
停止することの憲法適合性である。憲法第15条第3項は、成年者による普通選挙の保障を
定めており、選挙権の停止は強い権利制限になる。これについてはまず、選挙権を停止する
制度自体の合憲性を論じることが必要である。そこで、そうした制限が許されるのかについ
て、何らかの判断枠組みに基づく審査が求められるが、ここでは一定の厳格性を備える判断
枠組みを示した在外国民の選挙権行使制限訴訟の最高裁大法廷判決(最大判平成17年9月
14日民集59巻7号2087頁)が参照されるべきである。同判決は「自ら選挙の公正を
害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又
はその行使を制限することは原則として許され」ないとしており、前段部分に該当すれば同
判決が示す判断枠組みから除外される。そこで、本問ではまず、選挙で連続して投票を怠っ
た者が、公民権停止を受けた選挙犯罪者等と同様に「自ら選挙の公正を害する行為をした者
等」に該当するのかどうかを考える必要がある。そして、本問の制限対象者はそれに該当し
ないと考えるのであれば、続いて、同判決が示す「選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を
認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」に当たるような「やむ
を得ない事由」が本件規制をする場合にあるのか否かの判断が必要となる。
本問では、低投票率のままの選挙では十分な民主的正統性が付与された代表者が確保でき
ないのではないかという危惧が抱かれる中で、投票率を上げ、十分な民主的正統性を持つ議
員を選出したいといったことが、選挙権を制限するきっかけとなっている。ここでは、この
ことと「選挙の公正」の確保とが結びつくのか、また、このことが選挙権の制限を正当化す
る「やむを得ない事由」になるのか、といったことを丁寧に論じなければならない。その際、
罰金ではなく選挙権の停止という手段が採られていることに留意してほしい。
3.施策②は、選挙運動中の街頭演説で、演説者から半径25メートル以内の範囲では、30
分以内の間、大声での声援、ヤジ、プラカードの掲示等、演説者が圧迫感を覚え、萎縮して
演説を続けづらくなるような、聴衆による不穏当な行為を禁止する。この規制は、聴衆によ
るメッセージの発信等を制止することから、憲法第21条第1項に定める表現の自由を制約
する。以上を踏まえ、本件規制を検討するに当たっては、次の点に留意すべきである。
第1に、本件規制は、聴衆による意見表明に対する間接的・付随的制約なのか、それとも
直接的制約なのか、という点である。本件規制の目的が候補者の主張や公約等を適切に伝え
る機会を確保し、自由で公正な選挙を実現することにあるとすれば、聴衆の表現行為を直接
的に制約することを意図したものではないと評価される可能性がある。しかし、具体的には、
聴衆による大声での声援、ヤジ、プラカードの掲示等を規制するのであるから、それは表現
行為に対する直接的制約にもなり得る。
選挙運動規制をめぐる上記の間接的・付随的制約論は、戸別訪問禁止事件(最判昭和56
年6月15日刑集35巻4号205頁)で見られるものの、この議論の下では、禁止により
失われる利益と得られる利益との単純な比較較量がされやすく、あらゆる制約が広く合憲と
されることになり得る。しかし、聴衆による上記行為が政治的表現の自由として考えられる
以上、十分な理由もないままに緩やかな審査で規制が正当化されてよいのかどうかを含めた、
丁寧な検討が求められる。
第2に、本件規制をめぐっては、一般的な表現の自由の規制立法ではなく、選挙運動にお
けるルールとしての側面を持つという議論を展開することも想定し得る。上記とは別の戸別
訪問禁止事件(最判昭和56年7月21日刑集35巻5号568頁)での伊藤正己裁判官補
足意見は、「選挙運動においては各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示さ
れなければならないのではあるが、それは、あらゆる言論が必要最少限度の制約のもとに自
由に競いあう場ではなく、各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従つ
て運動するものと考えるべきである。」として、選挙運動規制には通常の表現の自由規制で
用いられる厳格な基準が適用されないことを示す。本件規制も選挙運動中の行為規制である
ことから、このような選挙運動のルール論に依拠した判断枠組みを提示し、議論を進める方
法もある。
第3に、本件規制は、内容規制であるのか、内容中立規制であるのか、といった区分も重
要となる。本件規制は、法案骨子の文言上、一定の観点や主題を理由とした規制になってお
らず、内容中立規制のようにも見える。しかし、聴衆による不穏当な行為を制止することを、
選挙管理委員会によって派遣された者に対して要請するのは、街頭演説の主催者である。こ
の仕組みの下では、演説の主催者が、聴衆の示すメッセージの内容を不穏当なものだと判断
しさえすればその要請ができることから、実質的には特定の内容を狙い撃ちした規制となり
得る。こうした制度の立て付けと実質的効果との関係を踏まえた検討が求められる。
以上の各ポイントは、憲法適合性を判断する際の基準の設定に密接に関連していることか
ら、ここでは本件規制の性質や態様について検討した上で、説得力ある判断枠組みを示し、
具体的な審査をする必要がある。
その他、本件規制が正当化できるのかどうかを考えるに当たっては、この規制によって失
われる利益がどのようなものであるのかについて十分に吟味することが求められる。本件で
は、演説者が圧迫感を覚え、萎縮して演説が続けづらくなることで、ひいては他の聴衆が候
補者等の主張や公約等を十分に聞くことができなくなるといったように、前者のみならず後
者を含めた不利益の発生防止が強調される可能性はある。もっとも、「選挙の自由妨害罪」
に該当するに至らない聴衆による行為をそれほどまでに規制しなければ候補者の主張や公約
等の発信はできなくなるのか、を考えるべきである。さらに、本件規制では、一定の時間や
距離を設けた上で制約を限定化しようとしているものの、特に30分以内の演説である場合
には、演説全体にわたって聴衆の発言等を制限できることとなり、こうした規制の有効性や
実質的な強さにも目を向けたい。
いずれにせよ施策②は、既述のように特定の見解に基づく言動のみを排除することが可能
な仕組みとして運用できる制度になっている。そうなると、そもそも特定の見解が排除され
た街頭演説が、議会制民主主義を実現するための健全な選挙運動だといえるのか。こうした
根本的な問いを十分に意識して議論を進めることが必要となる。
以上のようなポイントを踏まえた上で、施策②につき、総合的に検討することが求められ
る。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和7年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
