令和7年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:25:40])
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 固有必要的共同訴訟の意義と、課題1で問題となるのが「訴訟共同の必要」であることの指摘6点
- 訴訟共同の必要の判断基準(実体法的観点+訴訟法的観点)8点
- 遺産確認の訴えについて訴訟共同の必要が認められる具体的根拠(平成元年判例の趣旨)9点
- 確認の利益が認められるか否かの一般的基準の提示4点・簡潔に
- XB間に争いがない場合でも即時確定の利益を肯定する理論構成(平成20年判例の射程)6点
設問2
- 証明妨害の意義(課題①)3点・簡潔に
- 証明妨害が訴訟当事者間の信義則(民訴法2条)に反すると評価できる理由(課題②前半)7点
- 信義則違反の評価を基礎付ける一般的要素(課題②後半)5点
- 当てはめ・客観的側面(課題③)5点
- 当てはめ・主観的側面および保存義務(課題③)4点
設問3
- 本件で問題となる弁論主義の内容(第一原則=主張原則)の特定5点
- 主要事実および抗弁の意義6点
- 本件各事実が本件請求原因事実に対する抗弁となることの当てはめ7点
- 課題②:不意打ちがなくとも弁論主義に反する理由(弁論主義の根拠論)10点
- 課題③:法的観点指摘義務の根拠と理論構成6点
- 課題③:本件手続経過・争点に即した当てはめ4点
全体
- 論理的構成・文章表現5点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は、Aの相続人であるXが、本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴えを提起
したいという事案を題材として、①遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解される根拠及び
共同相続人のうち本件建物が遺産であることを争わない者をも被告として訴えを提起すること
について確認の利益があるといえることについての検討(設問1)、②共同相続人の一人が遺
産確認訴訟において重要な証拠となる売買契約書を廃棄していた場合に、そのことが証明妨害
に当たり、訴訟当事者間の信義則に反すると評価できるという主張が認められるための立論(設
問2)、③本件建物をAがCから買い受けたかどうかが主要な争点となっている場合に、Aが
買い受けたが、その後AからYに黙示の贈与があったという認定をすることにつき、黙示の贈
与の主張がなかったときに弁論主義に反するといえる理由及び黙示の贈与の主張があったとし
ても裁判所がそのような法的観点(法律構成)を採用することを指摘する義務を負うという立
論(設問3)のそれぞれにつき検討を求めるものである。
1 設問1について
いわゆる遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解されている根拠について、問題文記載
の判例(最判平成元年3月28日民集43巻3号167頁)において示されている根拠を踏
まえつつ解答した上、提訴に消極的な当事者を被告として訴えを提起することと確認の利益
との関係を、本問の具体的状況に即して検討し解答することを求める問題である。
課題1では、固有必要的共同訴訟となるための要件につき、特に訴訟共同の必要が問題に
なることを指摘した上、それがどのような基準ないし事情に基づいて判断されるかを、前記
判例の判断枠組みを踏まえて論述することが期待される。この点、判例の一般的傾向として
は、訴訟物の実体法的性質、特に訴訟物を構成する管理処分権が共同的に帰属し、かつ行使
されるかという実体的観点を基礎としつつも、紛争解決の統一性や実効性、矛盾判断の回避
等の訴訟法的観点も一定の場合に考慮しているとされていることから、これを踏まえての検
討が期待される。そして、遺産確認の訴えが、当該財産が遺産分割対象の財産であることを
既判力をもって確定し、その後の遺産分割手続を円滑に進行させる機能を持つこと、共同相
続人全員の関与が必要となる遺産分割手続の前段階の手続であることから、遺産確認の訴え
についても共同相続人全員が当事者となることが必要かつ相当と考えられることなど、前記
訴訟法的観点を重視して訴訟共同の必要が肯定される点を指摘できるかがポイントになる。
課題2は、本件建物が遺産に属することについて争いがないXとBとの間で、遺産確認の
訴えを適法に提起することができるか(確認の利益、特に即時確定の利益を有するといえる
か)を問うものであり、固有必要的共同訴訟となる確認の訴えにおいて、提訴を拒否する一
部原告を被告として訴えを提起することができるとした問題文記載の判例(最判平成20年
7月17日民集62巻7号1994頁)の射程が問題になる。また、確認の利益が肯定でき
るという結論を導くための理論構成が問われており、Xの立場からの立論が求められている。
これについては、遺産確認の訴えのように合一確定の必要が強く認められる訴えにおいて、
一部当事者について、確認の利益が肯定できないことを理由に本案判決をしないとすること
は、その紛争解決機能を弱めるもので妥当ではない、確認の利益を否定することは、提訴を
拒否する者を被告とすることを認めて提訴を望む当事者の訴権の保護を図り、違法な権利関
係を本案判決によって是正しようとした意味が失われる、遺産確認の訴えの目的ないし存在
意義は、遺産帰属性の有無を既判力をもって確定させ、その後の遺産分割手続において遺産
帰属性についての蒸し返しを許さないとする点にあるが、このような目的等は、現在遺産帰
属性について争いのない当事者間でも等しく妥当する、確認の利益が要求されるのは、およ
そ権利又は法律関係とはいえない事象について訴えによる解決を求めることが妥当ではない
という点にあるところ、本問のような場合にはそのような事情はなく、むしろ権利又は法律
関係の確定が必要かつ有益な場合である、などといった理由から、確認の利益(即時確定の
利益)を肯定することが考えられる。いずれにしても、遺産確認の訴えの目的や固有必要的
共同訴訟となる根拠、前記問題文記載の判例の趣旨、あるいは確認の利益が要求される趣旨
などに遡って、説得的な根拠を示すことが期待される。
2 設問2について
設問2は、訴訟において重要な証拠になると考えられる売買契約書が一方当事者によって
廃棄された場合に、相手方当事者としてはどのような主張をすることができるかにつき、本
問におけるXらの立場からの検討を求めるものである。問題文にも示されているとおり、提
出義務のある文書を滅失させた場合に関する規定として民事訴訟法第224条第2項がある
が、本問では、より広く、同条などの規定の基礎にあると考えられるいわゆる証明妨害の法
理についての理解を問うものである。まず、課題①において、当事者の一方が相手方当事者
による証拠の収集・提出を不可能又は困難にするという証明妨害行為の意義を確認した上
で、課題②では、証明妨害の法理の趣旨について、学説上も比較的多数と思われる信義則説
によることを問題文で明示し、なぜ証明妨害行為が信義則に反すると評価できるのかを説明
するよう求めるとともに、信義則違反との評価を基礎付ける要素として一般的にどのような
ものが考えられるかを問い、課題③において、本問で示されている事実関係に即して、Yに
よる本件契約書の廃棄について信義則違反が認められるという結論を導くための当てはめを
行うことを求めている。
証明妨害法理の根拠を信義則に求める見解においても、証明妨害行為がいかなる意味で信
義則に反すると考えるのかについては、様々な考え方が存在するが、解答に当たっては、必
ずしも既存の学説について正確に記憶していることが求められるわけではなく、相手方当事
者に証明困難という不利益を課しつつ、その反面で自らは訴訟上有利な地位に立つという利
益を獲得するものである、という証明妨害行為の基本的な性格を適切に踏まえた上で、そう
した行為の客観的性格や行為者の主観的態様に照らし、当該行為に対して規範的に否定的な
評価が導かれる旨を論じることが期待される。例えば、妨害行為となることを知りながら、
相手方当事者に不利益な判断をもたらし、妨害者が利益を得ようとすることは、一種の禁反
言として許容されない、と説明することや、当事者には信義則上一定の協力義務が課されて
いる旨を論じた上で、証明妨害行為はこれに違反すると説明することなどが考えられよう。
信義則違反という評価を基礎付ける一般的な要素としては、こうした根拠に結び付けた形で、
相手方当事者に証明困難という不利益を発生させるという客観的な側面と、行為者の認識又
は認識可能性という主観的な側面を指摘できるかがポイントとなる。
課題③の当てはめにおいても、課題②において述べた一般論と対応させながら、証明困難
という結果が現に生じているという客観的側面と、行為者であるYが、その後の訴訟におい
てAによる建物所有権の取得の有無が争われる可能性や、その場合に本件契約書が重要な証
拠となることを十分に認識できたという主観的側面に関する評価を導き得る事実関係を、説
得的に摘示できているかどうかがポイントとなる。前者の客観的側面に関しては、本件契約
書がCA間の本件建物の売買契約締結の事実を立証するための重要な証拠(処分証書)であ
るという事情や、証人となる可能性があったA及びCが死亡し、Cが保管していた売買契約
書が焼失していることから代替証拠が乏しいという事情などに触れることが考えられ、後者
の主観的側面に関しては、本件廃棄行為がYも参加した遺産分割協議で本件建物の遺産帰属
性という争点が顕在化した後にされているという事情や、Cは、Yから売買契約書の存否に
ついて聞かれた際に、Cが所持していた売買契約書は焼失した旨をYに告げたと話しており、
Yとしては本件契約書が唯一の有力な証拠であるという事情を認識していたと考えられるこ
となどを述べていくことになろう。また、これらの事情から、Yには本件契約書を保存すべ
き義務があったなどと論じることも考えられよう。
3 設問3について
設問3は、弁論主義の第一原則(主張原則)及び法的観点指摘義務の意義・適用について、
基本的な理解を具体的事例を通じて問うものである。
課題①では、不意打ち防止と弁論主義の関係を問う前提として、主張原則の内容、主要事
実及び抗弁の意義、その具体的事例への当てはめといった基本的事項について、正確な理解
を解答することが求められる。
なお、本問では、黙示的意思表示の要件事実については、いわゆる主要事実説を前提とし、
AY間贈与の事実は、所有権喪失の抗弁の主要事実となること、弁論主義の適用が主要事実
に限定されるべきか否かについては検討の必要がないことを前提とした。参考判例として、
最判昭和55年2月7日民集34巻2号123頁が挙げられる。
課題②では、本件各事実についてYに対して釈明権が行使されたものの、Yが明示的にそ
れらの事実主張をしない旨の意思表示をした場合に、本件各事実に基づいて贈与の事実を認
定することは、不意打ちには当たらないものの、弁論主義の意義との関係では問題があるこ
とを、弁論主義の根拠論に遡って検討することが求められる。
弁論主義の根拠論として複数の議論があるが、比較的多数とみられる本質説ないし私的自
治説からは、実体法上の私的自治原則の訴訟手続への反映と見ることから、判決の基礎とな
るべき事実の提出について当事者の権限が及ぶべきこと、求釈明による不意打ち防止は、当
事者が真意に基づく攻撃防御を尽くすための機能的(手段的)役割と位置付けられることを
論ずることになる。不意打ち防止の要請は、弁論権の実質的保障に係る要請であること、仮
に本問でQが述べたような帰結を認めてしまうと、求釈明さえ行えば、当事者からの主張が
なくとも裁判所は証拠から事実を認定できることになり、職権探知主義との境界が曖昧にな
ることも指摘できよう。
課題③は、課題②と異なり、本件各事実について当事者から主張がなされた場合であって
も、裁判所は、死因贈与という法的構成について当事者に指摘すべき義務を有するかを問う
ものである。
法的構成についての判断は、原則として裁判所の権限に属するが、法的構成と事実主張・
立証は深く結びついており、判決における不意打ち防止の要請は事実のみならず法的観点(法
的構成)にも及ぶべきとするならば、審理過程において、当事者の弁論権を実質的に保障す
るために、裁判所は法的観点(法的構成)についても指摘する義務を負うこと、その理論構
成として、釈明権行使による不意打ち防止や弁論権の実質的保障の機能を法的構成まで拡充
する必要性等を論ずることが求められる。参考判例として、最判平成22年10月14日集
民235号1頁が挙げられる。
具体的事例への当てはめにおいては、弁論準備手続終結時に主たる争点の限定とこれに基
づく証拠調べが行われていること、いずれの当事者も死因贈与を念頭においた攻撃防御の機
会を得ておらず、期待可能性もなかったこと等の指摘が求められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和7年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
