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令和7年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説

令7司法 民事系科目第3問(民事訴訟法)民事訴訟法

問題

〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:25:40])

次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和7年1月1日現 在において施行されている法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 1.Aは、令和5年3月30日に死亡し、Aの相続人は、Aの妻であるY、AとYとの間の子であ るX及びBの3名のみであった。Aが生前にYと居住していた建物(以下「本件建物」とい う。)については、令和2年1月24日、売買を原因とするCからYへの所有権の移転の登記が されていた。 2.Xは、令和5年5月に行われたAの遺産分割協議において、Yに対し、本件建物がAの遺産に 属する旨を主張したが、Yは、本件建物はYがCから買い受けたものであり、Aの遺産には属し ないと主張したため、遺産分割協議は成立しなかった。 3.Xは、本件建物がAの遺産に属することを確定させるため、Yを被告として、民事訴訟を提起 しようと考えた。 以下は、Xから相談を受けた弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。 L1:Xは、Yに対し、どのような訴えを提起すればよいでしょうか。 P:本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴えを提起すればよいと思います。 L1:なるほど。それでは、まず、遺産確認の訴えを提起する方法について検討してみましょう。 P:判例(最高裁判所平成元年3月28日第三小法廷判決・民集43巻3号167頁)によれば、 遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者となることを要する固有必要的共同訴訟とされて いますから、X及びYのみならず、Bも当事者とする訴えを提起する必要があります。 L1:そうですね。それでは、遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解される根拠を、上記判例 を踏まえつつ説明してください。これを「課題1」とします。 P:承知しました。 L1:次に、Xによれば、遺産確認の訴えを提起することにつき、Bは、「自分も本件建物がAの 遺産に属すると思っているが、現段階では、訴えを提起することには反対である。もう少しY と話合いをすべきである。」と言って譲らないということです。そのような場合でも、遺産確 認の訴えを提起できるでしょうか。 P:判例には、提訴しようとする当事者の訴権の保護などを根拠に、入会集団の構成員のうち提 訴に同調しない者を被告に加えて、固有必要的共同訴訟である入会権確認の訴えを提起するこ とが許されるとしたものがあります(最高裁判所平成20年7月17日第一小法廷判決・民集 62巻7号1994頁)。本件でも、Xは、Bを被告に加えて遺産確認の訴えを提起すればよ いと思います。 L1:そうですか。しかし、この判例は、ある土地が入会集団の入会地であることの確認を求める 訴えに関するもので、原告となった入会集団の構成員以外の構成員が、その土地は入会地では ないと主張して提訴に同調しなかったという事案のようです。このことからすると、本件のよ うにXとBとの間で本件建物がAの遺産に属することにつき争いがない場合でも、この判例と 同様にBを被告に加えて遺産確認の訴えを提起することに問題はありませんか。 P:はい・・・。確認の利益があるといえるかが問題になるように思います。 L1:そうですね。そこでPさん、XがBを被告に加えて本件建物につき遺産確認の訴えを提起し た場合に、その訴えには確認の利益があるという方向で検討してみてください。その際には、 確認の利益が認められるか否かを判断するための一般的な基準を示した上で、それを本件事例 に即して当てはめてください。これを「課題2」とします。 P:承知しました。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。 なお、以下に掲げる【事例(続き・その1)】及び【事例(続き・その2)】に記載されている事 実関係は考慮しなくてよい。 【事 例(続き・その1)】 4.Bは、Xの説得により、Xと共同原告となって遺産確認の訴えを提起することとした。そこで、 X及びB(以下「Xら」という。)から訴訟委任を受けたL1は、令和6年2月、Yを被告とし て、本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「本件訴 訟」という。)を提起した。 5.L1は、本件訴訟に係る訴えの提起に先立ち、Cから事情を聴取したところ、Cは、本件建物 につき、令和2年1月24日にCがAに代金700万円で売却したもので、Yはその買主ではな いこと、AとCは、同日、売買契約書を2通作成し、その際に、契約当事者としてそれぞれ署名 押印し、1通ずつ保管したこと、Cが保管していた売買契約書は、同年3月に焼失してしまった こと、Cが令和5年5月頃、Yから同契約書の存否について聞かれた際に、同契約書が焼失した 旨、Yに答えたことなどを話した。 6.Xらは、本件訴訟の口頭弁論の期日において、請求原因として、本件建物はCが令和2年1月 24日に所有していたこと、Aが同日、本件建物を代金700万円でCから買い受けたこと、そ の後、Aが死亡し、その相続人は、Aの妻であるY、AとYとの間の子であるXらであること、 Yは本件建物が遺産に属することを争っていること(以下、これらの事実を「本件請求原因事 実」という。)を主張した。また、Xらは、請求原因に関連する事実として、上記売買の際、A とCは、売買契約書を2通作成し、それぞれ署名押印し、1通ずつ保管したこと、Yを本件建物 の所有権の登記名義人にしたのは便宜上のものにすぎないことなどを主張した。 7.これに対し、Yは、弁護士L2を訴訟代理人に選任した上で、口頭弁論の期日において、本件 建物をCが令和2年1月24日に所有していたことは認めるが、同日に本件建物をCから買い受 けたのはAではなくYであると主張して、AC間の本件建物の売買契約締結の事実を争った。 8.本件訴訟は、令和6年4月、弁論準備手続に付されたが、L1は、その弁論準備手続の期日に おいて、AがCから本件建物を買い受けたことを証明するため、L2に対し、本件建物内に保管 されていると思われるAC間の本件建物の売買契約書(以下「本件契約書」という。)の存否を 尋ねたところ、L2は、「そのような契約書はもともと存在しないとYから聞いており、仮にそ のような契約書があったとしても、Yはそれを提出する義務を負わない。」と述べた。また、同 期日に出頭していたYは、「Aの死亡後の令和5年夏頃に、本件建物内のAの身の回りの物を廃 棄処分した。」と発言した。 9.そこで、L1は、本件契約書は既に廃棄されている可能性があると考え、Cに本件訴訟で証人 になってもらうべく連絡を取ろうとしたところ、Cは令和6年3月に死亡していたことが判明し た。 以下は、L1とPとの会話である。 P:Cからの聴取結果によれば、本件契約書をAが保管していたことはほぼ確実であると思われ ます。それにもかかわらず、Yがそのような契約書はもともと存在しないと主張するのは不自 然、不合理であると言わざるを得ません。 L1:弁論準備手続の期日でのYの発言からすると、Yは、本件契約書を廃棄している可能性が高 いと思われます。そこで、Yが令和5年夏頃にAが保管していた本件契約書を廃棄していた場 合に、Xらとして、どのような主張をすることが考えられるでしょうか。 P:民事訴訟法第224条第2項に基づく主張が考えられます。その要件について、まず、本件 契約書についてYに提出義務があると思います。また、弁論準備手続の期日でのYの発言から すると、「Yが、Xらによる証拠申出を妨げる目的で、本件契約書を廃棄して滅失させた」と いうことができそうです。 L1:そうですね。ただ、仮に、民事訴訟法第224条第2項の要件を満たしているとしても、そ の効果は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることが「できる」(同条第1 項)ことにとどまります。そこで、裁判所に本件契約書の記載に関するXらの主張を真実であ ると認めてもらえるように、更に主張を補強してみましょう。まず、民事訴訟法第224条第 2項により、当事者がある証拠を保存せずに廃棄してしまった場合に、当該文書の記載に関す る相手方の主張を真実と認めることができることとされているのは、なぜでしょうか。その趣 旨を説明してください。 P:はい。民事訴訟法第224条第2項は、証明妨害の法理を具体化したものであると理解され ていますから、証明妨害の法理の趣旨が問題になります。その趣旨については、学説上様々な 見解があり、どれも説得力がありますが、私は、訴訟当事者間の信義則(同法第2条)に反す るという点に根拠を求めるのが妥当であると考えます。 L1:分かりました。それでは、そのような観点から検討してみましょう。まず、①証明妨害とは どのような行為を指すのかを簡潔に示した上で、②証明妨害がなぜ「訴訟当事者間の信義則に 反する」と評価できるのかを踏まえながら、そのような評価を基礎付ける要素として一般的に どのような点が挙げられるかを示してください。その上で、③Yが令和5年夏頃にAが保管し ていた本件契約書を廃棄していたことを前提に、本件において信義則違反という評価を基礎付 ける具体的事実を、【事例】及び【事例(続き・その1)】の事実関係に即して示し、信義則 違反が認められるとする主張をまとめてください。以上①から③までを「課題」とします。 P:承知しました。 〔設問2〕 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下 に掲げる【事例(続き・その2)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。 【事 例(続き・その2)】 10.裁判所は、本件訴訟の弁論準備手続を終結するに当たり、Xら及びYとの間で、本件訴訟にお ける争点はXらが主張するAC間の本件建物の売買契約の成否であると確認し、その後の口頭弁 論の期日において、弁論準備手続の結果が陳述された後に、証拠調べが実施された。 11.その結果、裁判所は、本件建物をCが令和2年1月24日に所有していたこと、同日にAがC から本件建物を買い受けたこと、便宜上Yを本件建物の所有権の登記名義人としたことが認めら れ、同日にYがCから本件建物を買い受けたとは認められないとの心証に至った。他方で、裁判 所は、①Yは、Aの生前に、Aと共に本件建物を利用して行う家業に長年従事していたこと、② Aは、Y及びXらに対し、Yが自分を支えてくれていたことに深く感謝しており、自分が死んだ ら本件建物はYのものになる旨をしばしば話していたこと、③Yもそれに対して異を唱えず聞い ていたことも、それぞれ認められるとの心証を得ており、これら①、②及び③の各事実(以下 「本件各事実」という。)からすれば、遅くともAが死亡した令和5年3月30日までに、Aと Yは、AがYに本件建物を死因贈与することを黙示的に合意していたと認定することができると 考えるに至った。(ア)しかし、本件各事実については、XらもYも主張していなかった。 以下は、本件訴訟の担当裁判官Jと司法修習生Qとの会話である。 J:本件訴訟の進行として、裁判所が、口頭弁論を終結し、本件各事実を認定して、Xらの請求 を棄却する旨の判決をすることに問題はありますか。 Q:弁論主義との関係で問題があると考えられます。 J:そうですね。それでは、この点について検討してみましょう。まずは、弁論主義といっても その内容にはいくつかの点が含まれますから、そのうちどの点が本件訴訟で問題になるかを明 らかにしてください。次に、本件各事実は、いわゆる黙示の意思表示を基礎付ける事実であり、 これは実務的には主要事実に該当すると解するのが一般的ですから、本件各事実が本件請求原 因事実(【事例(続き・その1)】6.)に対する抗弁になることを、主要事実及び抗弁の意 義を明らかにした上で述べてください。これらを「課題①」とします。なお、「課題①」につ いて、弁論主義の適用が主要事実に限定されるか否かを検討する必要はありません。 Q:承知しました。(イ)ところで、J裁判官は、証拠調べ実施後の口頭弁論の期日で、L2に対 し、「証拠調べの結果からすれば、AとYとの間で本件建物につきA死亡を原因とする黙示の 死因贈与契約が成立する可能性があると考えられますが、本件各事実について主張するつもり はありませんか。」と質問していました。これに対し、L2は、「本件建物の所有権移転登記 の登記原因がCからYへの売買となっていることから、そのような主張をする予定はない。」 と述べていました。このようなやり取りがあった場合には、裁判所がAからYへの黙示の死因 贈与契約の成立を認定することは、不意打ちにならず、弁論主義に反しない、ということはで きないでしょうか。 J:私はそのようには考えませんが、弁論主義の本質に関わる良い質問ですね。そこでQさん、 当事者に対する不意打ちにならないとしても弁論主義に反するとすれば、それはなぜかについ て、民事訴訟において弁論主義が採られる根拠に言及しつつ、明らかにしてください。これを 「課題②」とします。 Q:承知しました。 J:それともう一つ、下線部分(ア)及び(イ)とは異なり、本件各事実が、口頭弁論における当事 者の主張に含まれていたと仮定しましょう。この場合においては、AがYに本件建物を死因贈 与することをAとYとの間で黙示的に合意していたと判断しても弁論主義には反しないでしょ う。しかし、裁判所が、そのような判断をするに当たっては、当事者に対して、AのYへの黙 示の死因贈与契約という法的構成が採られる可能性があることを明らかにした上で、それを踏 まえた主張立証を検討するよう促すべきであるとも考えられます。そこで、上記仮定の下での 本件訴訟の手続経過や争点の所在を踏まえつつ、裁判所が当事者に上記検討を促すべきである とする立論をしてみてください。その際には、その根拠と理論構成についても明らかにしてく ださい。これを「課題③」とします。 Q:承知しました。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Qであるとして、Jから与えられた課題①、課題②及び課題③について答え なさい。

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1

  • 固有必要的共同訴訟の意義と、課題1で問題となるのが「訴訟共同の必要」であることの指摘6点
  • 訴訟共同の必要の判断基準(実体法的観点+訴訟法的観点)8点
  • 遺産確認の訴えについて訴訟共同の必要が認められる具体的根拠(平成元年判例の趣旨)9点
  • 確認の利益が認められるか否かの一般的基準の提示4点・簡潔に
  • XB間に争いがない場合でも即時確定の利益を肯定する理論構成(平成20年判例の射程)6点

設問2

  • 証明妨害の意義(課題①)3点・簡潔に
  • 証明妨害が訴訟当事者間の信義則(民訴法2条)に反すると評価できる理由(課題②前半)7点
  • 信義則違反の評価を基礎付ける一般的要素(課題②後半)5点
  • 当てはめ・客観的側面(課題③)5点
  • 当てはめ・主観的側面および保存義務(課題③)4点

設問3

  • 本件で問題となる弁論主義の内容(第一原則=主張原則)の特定5点
  • 主要事実および抗弁の意義6点
  • 本件各事実が本件請求原因事実に対する抗弁となることの当てはめ7点
  • 課題②:不意打ちがなくとも弁論主義に反する理由(弁論主義の根拠論)10点
  • 課題③:法的観点指摘義務の根拠と理論構成6点
  • 課題③:本件手続経過・争点に即した当てはめ4点

全体

  • 論理的構成・文章表現5点

出題の趣旨(法務省公表)

本問は、Aの相続人であるXが、本件建物がAの遺産であることの確認を求める訴えを提起
したいという事案を題材として、①遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解される根拠及び
共同相続人のうち本件建物が遺産であることを争わない者をも被告として訴えを提起すること
について確認の利益があるといえることについての検討(設問1)、②共同相続人の一人が遺
産確認訴訟において重要な証拠となる売買契約書を廃棄していた場合に、そのことが証明妨害
に当たり、訴訟当事者間の信義則に反すると評価できるという主張が認められるための立論(設
問2)、③本件建物をAがCから買い受けたかどうかが主要な争点となっている場合に、Aが
買い受けたが、その後AからYに黙示の贈与があったという認定をすることにつき、黙示の贈
与の主張がなかったときに弁論主義に反するといえる理由及び黙示の贈与の主張があったとし
ても裁判所がそのような法的観点(法律構成)を採用することを指摘する義務を負うという立
論(設問3)のそれぞれにつき検討を求めるものである。
1 設問1について
いわゆる遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟と解されている根拠について、問題文記載
の判例(最判平成元年3月28日民集43巻3号167頁)において示されている根拠を踏
まえつつ解答した上、提訴に消極的な当事者を被告として訴えを提起することと確認の利益
との関係を、本問の具体的状況に即して検討し解答することを求める問題である。
課題1では、固有必要的共同訴訟となるための要件につき、特に訴訟共同の必要が問題に
なることを指摘した上、それがどのような基準ないし事情に基づいて判断されるかを、前記
判例の判断枠組みを踏まえて論述することが期待される。この点、判例の一般的傾向として
は、訴訟物の実体法的性質、特に訴訟物を構成する管理処分権が共同的に帰属し、かつ行使
されるかという実体的観点を基礎としつつも、紛争解決の統一性や実効性、矛盾判断の回避
等の訴訟法的観点も一定の場合に考慮しているとされていることから、これを踏まえての検
討が期待される。そして、遺産確認の訴えが、当該財産が遺産分割対象の財産であることを
既判力をもって確定し、その後の遺産分割手続を円滑に進行させる機能を持つこと、共同相
続人全員の関与が必要となる遺産分割手続の前段階の手続であることから、遺産確認の訴え
についても共同相続人全員が当事者となることが必要かつ相当と考えられることなど、前記
訴訟法的観点を重視して訴訟共同の必要が肯定される点を指摘できるかがポイントになる。
課題2は、本件建物が遺産に属することについて争いがないXとBとの間で、遺産確認の
訴えを適法に提起することができるか(確認の利益、特に即時確定の利益を有するといえる
か)を問うものであり、固有必要的共同訴訟となる確認の訴えにおいて、提訴を拒否する一
部原告を被告として訴えを提起することができるとした問題文記載の判例(最判平成20年
7月17日民集62巻7号1994頁)の射程が問題になる。また、確認の利益が肯定でき
るという結論を導くための理論構成が問われており、Xの立場からの立論が求められている。
これについては、遺産確認の訴えのように合一確定の必要が強く認められる訴えにおいて、
一部当事者について、確認の利益が肯定できないことを理由に本案判決をしないとすること
は、その紛争解決機能を弱めるもので妥当ではない、確認の利益を否定することは、提訴を
拒否する者を被告とすることを認めて提訴を望む当事者の訴権の保護を図り、違法な権利関
係を本案判決によって是正しようとした意味が失われる、遺産確認の訴えの目的ないし存在
意義は、遺産帰属性の有無を既判力をもって確定させ、その後の遺産分割手続において遺産
帰属性についての蒸し返しを許さないとする点にあるが、このような目的等は、現在遺産帰
属性について争いのない当事者間でも等しく妥当する、確認の利益が要求されるのは、およ
そ権利又は法律関係とはいえない事象について訴えによる解決を求めることが妥当ではない
という点にあるところ、本問のような場合にはそのような事情はなく、むしろ権利又は法律
関係の確定が必要かつ有益な場合である、などといった理由から、確認の利益(即時確定の
利益)を肯定することが考えられる。いずれにしても、遺産確認の訴えの目的や固有必要的
共同訴訟となる根拠、前記問題文記載の判例の趣旨、あるいは確認の利益が要求される趣旨
などに遡って、説得的な根拠を示すことが期待される。
2 設問2について
設問2は、訴訟において重要な証拠になると考えられる売買契約書が一方当事者によって
廃棄された場合に、相手方当事者としてはどのような主張をすることができるかにつき、本
問におけるXらの立場からの検討を求めるものである。問題文にも示されているとおり、提
出義務のある文書を滅失させた場合に関する規定として民事訴訟法第224条第2項がある
が、本問では、より広く、同条などの規定の基礎にあると考えられるいわゆる証明妨害の法
理についての理解を問うものである。まず、課題①において、当事者の一方が相手方当事者
による証拠の収集・提出を不可能又は困難にするという証明妨害行為の意義を確認した上
で、課題②では、証明妨害の法理の趣旨について、学説上も比較的多数と思われる信義則説
によることを問題文で明示し、なぜ証明妨害行為が信義則に反すると評価できるのかを説明
するよう求めるとともに、信義則違反との評価を基礎付ける要素として一般的にどのような
ものが考えられるかを問い、課題③において、本問で示されている事実関係に即して、Yに
よる本件契約書の廃棄について信義則違反が認められるという結論を導くための当てはめを
行うことを求めている。
証明妨害法理の根拠を信義則に求める見解においても、証明妨害行為がいかなる意味で信
義則に反すると考えるのかについては、様々な考え方が存在するが、解答に当たっては、必
ずしも既存の学説について正確に記憶していることが求められるわけではなく、相手方当事
者に証明困難という不利益を課しつつ、その反面で自らは訴訟上有利な地位に立つという利
益を獲得するものである、という証明妨害行為の基本的な性格を適切に踏まえた上で、そう
した行為の客観的性格や行為者の主観的態様に照らし、当該行為に対して規範的に否定的な
評価が導かれる旨を論じることが期待される。例えば、妨害行為となることを知りながら、
相手方当事者に不利益な判断をもたらし、妨害者が利益を得ようとすることは、一種の禁反
言として許容されない、と説明することや、当事者には信義則上一定の協力義務が課されて
いる旨を論じた上で、証明妨害行為はこれに違反すると説明することなどが考えられよう。
信義則違反という評価を基礎付ける一般的な要素としては、こうした根拠に結び付けた形で、
相手方当事者に証明困難という不利益を発生させるという客観的な側面と、行為者の認識又
は認識可能性という主観的な側面を指摘できるかがポイントとなる。
課題③の当てはめにおいても、課題②において述べた一般論と対応させながら、証明困難
という結果が現に生じているという客観的側面と、行為者であるYが、その後の訴訟におい
てAによる建物所有権の取得の有無が争われる可能性や、その場合に本件契約書が重要な証
拠となることを十分に認識できたという主観的側面に関する評価を導き得る事実関係を、説
得的に摘示できているかどうかがポイントとなる。前者の客観的側面に関しては、本件契約
書がCA間の本件建物の売買契約締結の事実を立証するための重要な証拠(処分証書)であ
るという事情や、証人となる可能性があったA及びCが死亡し、Cが保管していた売買契約
書が焼失していることから代替証拠が乏しいという事情などに触れることが考えられ、後者
の主観的側面に関しては、本件廃棄行為がYも参加した遺産分割協議で本件建物の遺産帰属
性という争点が顕在化した後にされているという事情や、Cは、Yから売買契約書の存否に
ついて聞かれた際に、Cが所持していた売買契約書は焼失した旨をYに告げたと話しており、
Yとしては本件契約書が唯一の有力な証拠であるという事情を認識していたと考えられるこ
となどを述べていくことになろう。また、これらの事情から、Yには本件契約書を保存すべ
き義務があったなどと論じることも考えられよう。
3 設問3について
設問3は、弁論主義の第一原則(主張原則)及び法的観点指摘義務の意義・適用について、
基本的な理解を具体的事例を通じて問うものである。
課題①では、不意打ち防止と弁論主義の関係を問う前提として、主張原則の内容、主要事
実及び抗弁の意義、その具体的事例への当てはめといった基本的事項について、正確な理解
を解答することが求められる。
なお、本問では、黙示的意思表示の要件事実については、いわゆる主要事実説を前提とし、
AY間贈与の事実は、所有権喪失の抗弁の主要事実となること、弁論主義の適用が主要事実
に限定されるべきか否かについては検討の必要がないことを前提とした。参考判例として、
最判昭和55年2月7日民集34巻2号123頁が挙げられる。
課題②では、本件各事実についてYに対して釈明権が行使されたものの、Yが明示的にそ
れらの事実主張をしない旨の意思表示をした場合に、本件各事実に基づいて贈与の事実を認
定することは、不意打ちには当たらないものの、弁論主義の意義との関係では問題があるこ
とを、弁論主義の根拠論に遡って検討することが求められる。
弁論主義の根拠論として複数の議論があるが、比較的多数とみられる本質説ないし私的自
治説からは、実体法上の私的自治原則の訴訟手続への反映と見ることから、判決の基礎とな
るべき事実の提出について当事者の権限が及ぶべきこと、求釈明による不意打ち防止は、当
事者が真意に基づく攻撃防御を尽くすための機能的(手段的)役割と位置付けられることを
論ずることになる。不意打ち防止の要請は、弁論権の実質的保障に係る要請であること、仮
に本問でQが述べたような帰結を認めてしまうと、求釈明さえ行えば、当事者からの主張が
なくとも裁判所は証拠から事実を認定できることになり、職権探知主義との境界が曖昧にな
ることも指摘できよう。
課題③は、課題②と異なり、本件各事実について当事者から主張がなされた場合であって
も、裁判所は、死因贈与という法的構成について当事者に指摘すべき義務を有するかを問う
ものである。
法的構成についての判断は、原則として裁判所の権限に属するが、法的構成と事実主張・
立証は深く結びついており、判決における不意打ち防止の要請は事実のみならず法的観点(法
的構成)にも及ぶべきとするならば、審理過程において、当事者の弁論権を実質的に保障す
るために、裁判所は法的観点(法的構成)についても指摘する義務を負うこと、その理論構
成として、釈明権行使による不意打ち防止や弁論権の実質的保障の機能を法的構成まで拡充
する必要性等を論ずることが求められる。参考判例として、最判平成22年10月14日集
民235号1頁が挙げられる。
具体的事例への当てはめにおいては、弁論準備手続終結時に主たる争点の限定とこれに基
づく証拠調べが行われていること、いずれの当事者も死因贈与を念頭においた攻撃防御の機
会を得ておらず、期待可能性もなかったこと等の指摘が求められる。

参考答案と AI 採点

第1 設問1(課題1・課題2) 1 課題1(固有必要的共同訴訟と解される根拠) ⑴ 固有必要的共同訴訟とは、数人が共同してのみ当事者適格を有し、全員が共同して訴え又は訴えられなけれ…

この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。

答案を書いて AI 採点する

出典:法務省「令和7年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。