令和6年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は、60:40〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1小問1
- 監査役による違法行為差止め(会社法385条1項)の条文摘示と文言の検討10点
- 385条1項の適用又は類推適用の可否についての実質的考察と弁護士としての回答9点
- 仮の地位を定める仮処分等の代替手段への言及3点・簡潔に
設問1小問2
- 決議取消しの訴えの枠組み・取消事由の条文特定3点・簡潔に
- 会社法120条1項の文言(主体「株式会社」・「当該株式会社又はその子会社の計算において」)の検討8点
- 120条1項の趣旨論に基づく適用・類推適用の可否8点
- 「著しく不公正」(831条1項1号)の判断基準の定立6点
- 「著しく不公正」の具体的あてはめ(事実の評価)6点
- 831条1項3号の主張の検討・裁量棄却の適切な処理3点・簡潔に
設問2
- 株式併合の効力を争う会社法上の手段の枠組み10点
- 831条1項3号による決議取消しの訴え(特別利害関係人の議決権行使・原告適格)8点
- 830条2項による決議無効確認の訴えと法令違反の根拠6点
- 「著しく不当な決議」又は法令違反の判断基準の定立(非公開会社における少数株主の締出し)8点
- 本問事実関係の多面的評価と結論6点
全体
- 論理的構成・条文の引用の正確さ・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
1 設問1は、会社法上の公開会社である取締役会設置会社において、少数株主が裁判所の許
可を得て取締役の解任等を目的とする株主総会を招集するに当たり、議決権行使書面及び株
主総会参考書類のほかに、自らが提案する議案に賛成した株主には商品券を贈呈する旨の書
面を株主に交付した場合に生じ得る会社法上の問題についての検討を求めるものである。小
問1は、株主総会の開催に法令違反があると考えた監査役が株主総会の開催前に採ることが
できる会社法上の手段の有無の検討を、小問2は、株主総会を招集した少数株主が提案した
議案に反対した他の株主がこれを可決した株主総会決議の取消しの訴えを提起した場合にお
いて、当該他の株主の立場において考えられる主張及びその主張の当否の検討を、それぞれ
求めるものである。
設問2は、会社法上の公開会社でない取締役会設置会社において、特定の株主を締め出す
ために行われた株式併合について、当該特定の株主がその効力を争うために採ることができ
る会社法上の手段に関し、その立場において考えられる主張及びその当否の検討を求めるも
のである。
2 設問1について
⑴ 小問1について
小問1においては、Dが監査役として少数株主により行われた違法行為の差止めを請求
するための会社法上の手段の有無が問われている(なお、小問1においては、少数株主の
行為の違法性の有無自体について論ずることは求められていない。)。監査役による違法
行為の差止めについては会社法第385条第1項に規定されているが、同項は、取締役の
行為を対象としていることから、少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する場合
にそのまま直接適用することは難しい。まずは、その点を指摘した上で、同項の適用又は
類推適用の可否を検討することが必要となる。この点については、例えば、少数株主は、
株式会社のために株主総会を招集する権限を付与されているのであって個人の利益のため
にその権限を付与されているわけではないという意味において取締役に準ずる立場にあ
り、取締役と同様、適法に株主総会を招集する義務を負っていると考えられることに加え、
同項の適用又は類推適用を認めなければ、適法性を監査するという監査役の任務を全うす
ることができないことなどを指摘して、同項の適用又は類推適用を肯定するということも
考えられるであろう。これに対し、少数株主と取締役とでは立場が異なることや少数株主
による違法な株主総会の招集を差し止められないことになってもやむを得ないことなどを
指摘して、同項の適用又は類推適用を否定することも考えられるであろうが、いずれにし
ても、少数株主に株主総会を招集する権限が付与されていることや、少数株主による違法
な株主総会の招集を監査役が差し止めることの必要性などについて、広く考慮した上で、
Dから相談を受けた弁護士としての回答を検討することが求められる。
なお、そのほかにも、別の被保全権利の存在を指摘して仮の地位を定める仮処分命令(民
事保全法第23条第2項)の申立てをするということも考えられないではない。例えば、
監査役の少数株主に対する妨害排除請求権や株主総会決議の取消しの訴えを本案とする仮
の地位を定める仮処分命令を求めることなどを検討することが考えられるであろうが、前
者であれば、そのような権利が存在することを説得的に論ずることが求められるし、後者
であれば、仮処分が認められてしまうと本案の対象となる株主総会決議が存在しないこと
となり、そのような方法が許容されるのかも含めて説得的に論ずることが求められること
となる。
⑵ 小問2について
小問2においては、本件決議1について株主総会決議の取消しの訴えを提起したEの立
場において考えられる主張をどのように構成するのかが問われている。具体的には、本件
臨時株主総会1を招集した少数株主である乙社が自らの提案する議案に賛成した株主には
商品券を贈呈する旨の本件書面を株主に交付したことなどを踏まえ、本件決議1が会社法
第831条第1項各号に掲げる場合のいずれに該当するのかを明示して、株主総会決議取
消事由の有無を検討することが求められる。
まず、Eとしては、乙社の行為が「株主の権利の行使に関し、財産上の利益を供与」す
るものに該当し(会社法第120条第1項)、株主総会の招集の手続又は決議の方法が法
令に違反するものであった(会社法第831条第1項第1号)と主張することが考えられ
る。もっとも、会社法第120条第1項は、「株式会社」による「当該株式会社又はその
子会社の計算においてする」利益供与を禁止しており、少数株主が自らの負担によって行
う行為を直接の対象とはしていない。まずは、そのことを指摘した上で、少数株主の行為
に同項を適用又は類推適用することの可否を検討することが必要となる。この点について
は、例えば、同項は、会社財産の浪費を防止するものであり、株主によって意思決定がさ
れるべき株式会社が株主の議決権の行使に影響を与えることを禁ずるものであると考える
のであれば、少数株主が、自らの負担によって商品券を贈与することにより、他の株主の
議決権の行使に影響を与えることには問題はないということとなり、同項の適用又は類推
適用を否定することになろう。これに対し、同項は、株式会社の公正な運営を確保するも
のであると考えるのであれば、株式会社による利益供与だけでなく株主総会を招集する少
数株主による利益供与も株式会社の公正な運営を害し得ること、また、そのような問題は
当該株式会社等の計算においてされたものであるか否かを問わずに生じ得ることなどを指
摘し、同項の適用又は類推適用を肯定することもあり得る。
次に、Eとしては、前記の点に加えて、株主総会の招集の手続又は決議の方法が「著し
く不公正」であった(会社法第831条第1項第1号)と主張することが考えられる。こ
の点については、株主による議決権の行使が株主として株式会社から受ける経済的な利益
とは異なる要因によって左右されるような状況で行われた株主総会決議が「著しく不公正」
であったといい得ることを指摘した上で、本問の事実関係の下で具体的な検討をすること
が考えられる。前者については、前記のような状況で行われた株主総会決議が「著しく不
公正」であったといい得る理論的な根拠を自分なりに考察することが求められる。また、
後者については、例えば、乙社が提案する議案に賛成した株主にのみ商品券が贈呈される
こと、乙社には当該議案を可決させることに強い利害関係があると認められること、例年
の定時株主総会における結果との比較から乙社による商品券の贈呈が株主の議決権の行使
に影響を与えた可能性が高いことなどを指摘した上で、「著しく不公正」であったといえ
るとすることも考えられるであろうし、商品券の額が少額であること、乙社が提案する議
案に反対する議決権の行使をすることが殊更妨害されたわけではないこと、甲社の業績悪
化や筆頭株主である乙社との間で対立が生じているという点で例年とは状況が異なり、例
年の定時株主総会における結果との比較は重要ではないことなどを指摘した上で、「著し
く不公正」であったとまではいえないとすることも考えられるであろう。また、そもそも、
株主総会を招集する少数株主であっても、株式会社ではない以上、自らの資金で他の株主
の議決権の行使に影響を与えることとなったとしても「著しく不公正」とはいえないとの
考え方を採用し、その理論的な根拠を自分なりに考察するということも考えられるであろ
う。なお、株主総会の招集の手続又は決議の方法が「著しく不公正」な場合には、決議へ
の影響の有無にかかわらず、裁量棄却の対象にはならない(会社法第831条第2項参照)。
3 設問2について
⑴ 設問2は、発行済株式の総数の3分の1に相当する200株を保有する丙社から再建の
ための支援を受けていた甲社が、再建のめどがついてきた頃から丙社との間で見解の相違
がみられるようになったことなどから、丙社との間の資本関係を断つために本件株式併合
とそれに続く本件株式分割及び募集株式の第三者割当てを計画したという事例において、
締め出される丙社の立場から、本件株式併合の効力を争うために採ることができる会社法
上の手段に関し、その立場において考えられる主張及びその主張の当否の検討を求めるも
のである。
⑵ まず、株式併合の効力を争うための会社法上の手段については、会社の組織に関する行
為の無効の訴え(会社法第828条)の対象となっていないことから、このような訴えを
提起するのではなく、株式併合をするための株主総会決議(会社法第180条第2項)の
効力を否定することにより、株式併合が無効となることを主張することが考えられる。そ
して、株主総会決議の効力を否定するための会社法上の手段としては、①特別の利害関係
を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとして、株主総会
決議の取消しの訴えを提起すること(会社法第831条第1項第3号)、②決議の内容が法
令に違反することを理由として株主総会決議の無効の確認の訴えを提起すること(会社法
第830条第2項)等が考えられる(なお、①の場合には、丙社が本件決議2の取消しに
よって株主となる者に該当すること(会社法第831条第1項後段)についても言及する
ことができると、なお望ましい。)。会社の組織に関する行為の無効の訴えに関する会社法
第828条の規定を類推適用するということも考えられるであろう。いずれにしても、株
式併合に関する会社法の規定を正しく理解した上で、その効力を争うための会社法上の手
段を検討することが求められる。
⑶ 次に、前記の各手段のうち、前記⑵①の手段による場合であれば、A又はCが特別の利
害関係を有する者であることや「著しく不当な決議」がされたといえるか否かが問題とな
るし、前記⑵②の手段による場合であれば、「決議の内容が法令に違反する」といえるか否
かが問題となる。まず、どのような場合に「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令
に違反する」といえるのかについて、自分なりの基準を立てる必要があり、なぜそのよう
な基準を採用するのかについても、理論的な根拠を自分なりに考察する必要がある。また、
「決議の内容が法令に違反する」といえるか否かを検討する場合においては、法令違反の
根拠についても触れる必要があり、この点については、例えば、いわゆる株主平等原則に
違反すること(会社法第109条第1項)、権利の濫用に該当すること(民法第1条第3項)
などを指摘することが考えられるであろう。
その上で、本問の事実関係全体(例えば、丙社の案もAらの案も、甲社の企業価値との
関係では、客観的にいずれか一方が他方よりも優れているとは言い難く、見解の分かれる
問題であったことや、本件株式併合により1株に満たない端数となる株式の買取価格が公
正な価格と認められるものであったことなど)について、多面的に、かつ、適切に評価す
るなどして、「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令に違反する」といえるか否かに
ついての結論を示す必要がある。
本問は、会社法に明文の規定がない問題を素材に思考力を問うものであり、本件株式併
合の効力を否定する方向、肯定する方向のいずれであっても構わない。例えば、会社法上
の公開会社でない株式会社においては、少数株主の有する利益は当該株式の金銭的価値に
尽きず、それを保護する必要があるから、株式併合には正当な事業目的が要求されるとい
う一般論を採りつつ、本問の事実関係の下では、正当な事業目的を欠くため本件株式併合
の効力を否定する方向で検討することも、正当な事業目的が認められるため本件株式併合
の効力を肯定する方向で検討することも考えられるであろう。また、会社法上、株式併合
の目的は制限されていないことなどから、特定の少数株主を締め出すために行われた株式
併合も許容されるとして、本件株式併合の効力を肯定することも考えられるであろうが、
いずれの立場であっても、説得的に論ずることが求められる。なお、本問では、本件株式
併合の効力を争う丙社の立場において考えられる主張及びその主張の当否を検討すること
が求められるものであることから、最終的に本件株式併合の効力を肯定するとしても、そ
れを否定する立場からの立論とその当否について検討する姿勢が求められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和6年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
