令和6年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
規制①
- 憲法22条1項の保障内容の確定(狭義の職業選択の自由と職業遂行の自由)と、犬猫販売行為の包摂6点
- 規制①が狭義の職業選択の自由の制限か職業遂行の自由の制限かの性質決定と、制限の程度の見極め12点
- 薬事法事件の判断枠組みの正確な摘示と、規制目的二分論が使えないことの指摘11点
- 主観的制限と客観的制限の区別と、審査密度への反映7点
- 骨子第2の1(犬猫飼養施設要件)の具体的審査7点
- 骨子第2の2(需給均衡要件)の具体的審査7点
- 骨子第2の3(犬猫シェルター収容能力要件)の具体的審査8点
規制②
- 営利的表現の自由の保障根拠と権利の性質・22条1項との関係9点
- 審査基準の定立(灸の適応症広告事件と学説)10点
- 目的審査(規制目的の特定とパターナリスティックな性格、真実の表現の規制)7点
- 手段審査(代替手段・過度広汎性の検討)8点
全体
- 論理的構成・判例の活用と文章表現8点
出題の趣旨(法務省公表)
1.本問は、架空の法律(原案)を素材に、職業選択の自由及び営利表現の自由の制約の憲法
適合性について問うものである。いずれも憲法上の権利が争点となる訴訟及びその学習にお
いて大きなウェイトを占める権利であり、これらの権利の制約をめぐっては参考となり得る
多くの事例が存在する。本問では、直接には、訴訟ではなく立法過程において憲法上の疑義
を払拭し、より憲法適合的な法案とするための憲法論を展開することが求められているが、
設問文で指示されているように「参照に値する事例」に言及する必要があり、それを踏まえ
て立論すべきである。
2.規制①は、飼い主や販売業者等による犬猫の遺棄や、犬猫シェルターへのやむを得ない理
由のない持込みの増加への懸念に対応するために、人と動物の共生する社会の実現という目
的で、犬又は猫の販売業について、免許制を導入するものである。憲法第22条第1項の保
障する職業選択の自由には狭義の職業選択の自由と職業遂行の自由とが含まれる(薬事法事
件(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁))と解されるところ、規制①は
犬猫の販売業に免許制を導入するものであって、狭義の職業選択の自由の制限に該当すると
言えそうである。しかし、規制対象は犬又は猫に限定されているため、職業=「動物の販売」
と捉えれば職業遂行の自由の制限と見ることも可能である。
職業の自由に対する規制措置は多種多様な形をとることから、過去の裁判例では、規制の
目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検
討し、比較考量した上で慎重に決定される必要があり、その検討を行うのは第一次的には立
法府の権限と責務であるため、立法府の判断が合理的な裁量の範囲にとどまる限り、立法政
策上の問題としてその判断を尊重すべきとし、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法
等の性質と内容に照らして、これを決定すべきとしてきた。かつては規制目的に着目して審
査基準を使い分ける規制目的二分論が有力であったが、本件法案の規制目的は消極目的でも
積極目的でもないことから、規制目的のみに着目して審査基準を設定することはできない。
その上で、規制①を狭義の職業選択の自由そのものに制約を課すものと見る場合、薬事法
事件で示された、狭義の職業選択の自由の規制は「職業の自由に対する強力な制限であるか
ら、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合
理的な措置であることを要」するとの枠組みを踏まえることがまずは求められる。薬事法事
件では、さらに、消極的・警察的措置であることを挙げて「よりゆるやかな制限・・・・・・によ
つては・・・・・・目的を十分に達成することができないと認められることを要する」との基準が
示されたが、規制①は先述のように消極目的規制や積極目的規制の枠に分類できないもので
あり、規制目的二分論の論理をそのまま用いることはできない。具体的に権利制限の重大性
や規制の性質等に照らした判断が必要となる。
また、職業選択の自由の制約は、職業を行う条件として一定の個人的な資質や能力を要求
する場合(主観的制限)と、当該職業を行おうとする者の個人的な資質や能力には関わらな
い基準による場合(客観的制限)とに大別できる。学説には、後者は前者以上の審査密度の
下で正当化されるべきであると唱えるものがある。本件法案骨子の第2のうち、1の要件は
主観的制限に当たるものであり、この学説の考え方によれば、審査密度は相対的に低いもの
で足りる。当該要件は、既存業者にとって、施設の改修・変更が必要となることから、その
負担次第では廃業も選択肢に入るものであり、重い権利制限を伴う規制といい得るものの、
諸外国や専門家の意見を踏まえて設定されており、犬猫の適正な取扱いとの関連性があるこ
とから、いずれも適合性・必要性を認めることは難しくない。
これに対し、本件法案骨子の第2のうち、2及び3の要件は、需給均衡のため、ないし犬
猫シェルターの安定的運営のために設けられた客観的制限による規制であり、前記学説によ
ればその正当化はより厳密な審査の下でなされる必要がある。また、薬事法事件が前記のよ
うに厳密な手段審査を行ったことを距離制限が客観的制限であることと結び付けて理解する
見方もあり、その立場からすれば、本件法案骨子の第2のうち、2及び3の要件も同様の基
準で審査されるべきと主張することが可能である。
これに対し、規制①を職業遂行の自由の制約と捉える場合には、合憲性の推定はより強く
働く。しかし、本件の立法事実によれば、規制対象となる犬又は猫は、ペットとして飼養さ
れている動物の約半数を占めている。そのため、職業遂行の自由の制約であっても、制限の
程度が甚だしいとして審査密度を上げるべきとの主張をなすことが考えられる。この点、薬
事法施行規則による医薬品インターネット販売規制に係る事件(最判平成25年1月11日
民集67巻1号1頁)及び「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関す
る法律」による要指導医薬品の対面販売規制に係る事件(最判令和3年3月18日民集75
巻3号552頁)が参考になるだろう。前者は施行規則が委任の範囲を逸脱した違法なもの
であると認定した判決であるが、その前提として、当該施行規則により新たにインターネッ
トを通じた郵便等販売が禁止された医薬品が広範に及ぶことから、規制が「郵便等販売をそ
の事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約する」としたのに対して、後者は、
要指導医薬品の市場規模が1%に満たない僅かなものであることなどから「職業活動の内容
及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより、その制限の程度が大きいとい
うこともできない」と断じている。
さらに、審査基準を設定した上での具体的検討に際しては、客観的制限といった特定の要
素のみで結論を導出することなく、当該事例での制約の程度や権利の内容等を総合して審査
することが求められよう。本件法案骨子の第2の3は、本件法案骨子の第2の2と異なり、
犬猫の販売業には直接関係のない要件である。その審査に際して、いわゆるLRAの審査等
の規制手段としての必要性を問題にして結論を出すだけではなく、問題視されている社会的
状況と規制の不存在との間に合理的な因果関係があるといえるのかについて、設定した審査
基準の審査密度に応じて論じることにより論証を補強することも考えられよう。これについ
ても薬事法事件において、薬局開設の自由化により生じると主張された不良薬品の供給の危
険性について、その因果関係が合理的に裏付けられるかについて検討されていたことが参考
になる。
3.規制②は、犬猫の販売業における広告へのイラスト、写真及び動画の使用の禁止である。
規制②は典型的な営利広告の自由の規制である。規制②は、販売物の販売方法に関する規制
とみれば憲法第22条第1項との適合性が問題となるが、広告を一種の表現とみれば、又は、
販売場における写真等の掲出に着目すれば、表現の自由に対する規制と捉えることも可能で
ある。
表現の自由は、一般には、いわゆる二重の基準論によってその規制の合憲性は厳格に審査
しなければならないとされるが、営利表現の場合には、自己統治の価値との関連性が希薄で
あることや萎縮効果に乏しいこと、裁判所の審査能力の点から必ずしも厳格な審査を要求す
るものではないとする見解もある。先例としては、あん摩師等法による灸の適応症広告事件
(最大判昭和36年2月15日刑集15巻2号347頁)が挙げられるが、ここでは誇大広
告等による弊害を未然に防止するためにやむを得ない措置であるとして精緻な審査基準を示
すことなく合憲の結論が導かれている。これに対し学説は、合法的活動に対する真実で誤解
を生まない表現の場合には、主張される規制利益が実質的で、規制がその利益を直接促進し
ており、その利益を達成するために必要以上に広汎でないこと、という基準で審査すべきと
するものが有力である。
灸の適応症広告事件は、広告掲載事項をごく限定したものであり、規制②の広告規制と共
通点を持つが、同事件で規制目的とされた誇大広告等による弊害の防止は、実際に販売する
犬又は猫の写真を含めて広告への掲載を禁止する規制②の規制目的とは異なる。そのため、
真実の表現についての規制がどこまで正当化されるかを慎重に検討する必要がある。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和6年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
