令和6年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点は、50:50〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)ア
- 契約①が他人物賃貸借であること・相続開始前は賃借権を所有者Aに対抗できないこと6点
- AによるBの賃貸人たる地位・債務の相続承継と、所有者としての地位との併存(最大判昭49.9.4の考え方)8点
設問1(1)イ
- 下線部㋑を留置権(295条)の主張と捉え、被担保債権(415条1項・420条の賠償額の予定300万円)を特定すること5点
- 物と債権との牽連関係の検討(最判昭51.6.17を踏まえた牽連関係の否定)7点
設問1(2)ア
- 賃借物の一部使用収益不能による賃料の当然減額(611条1項)の要件充足とその割合5点
- 請求2の法的性質=不当利得返還請求(703条等・121条の2第1項)の構成と要件充足4点
設問1(2)イ
- 必要費償還請求権(608条1項)の構成、修繕費が必要費に当たること、修繕権(607条の2)の不成立6点
- 修繕権に基づかない修繕と必要費償還の可否・償還額の限度(20万円)6点
設問2
- 請求4の基本構造(所有権に基づく返還請求、取消しの遡及効によりHは無権利、Iは原則として所有権を取得できないこと)4点・簡潔に
- 離婚に伴う財産分与の意思表示への95条1項の適用、Gの錯誤が基礎事情の錯誤(95条1項2号)であること5点
- 基礎事情が法律行為の基礎とされていることの表示(95条2項)の意義と具体的あてはめ8点
- 錯誤に基づく意思表示であること(主観的因果関係)と錯誤の客観的重要性(95条1項柱書)5点
- 重過失と共通錯誤(95条3項2号)4点
- Iが95条4項の『第三者』に当たること(取消し前の第三者・新たな法律上の利害関係・善意無過失)6点
- 95条4項の第三者の保護要件としての登記(権利保護資格要件)の要否7点
- 95条4項により保護されるIと、表意者Gから丁土地を買い受けたFとの関係(所有権移転の構成と177条)8点
全体
- 論理的一貫性・構成の適切さ・問題相互の関係の把握6点
出題の趣旨(法務省公表)
1 設問1について
⑴ 設問1⑴は、他人物の賃貸借契約において、賃貸人が死亡して目的物の所有者が賃貸人
を単独で相続した事例に基づき、賃借人が、賃貸人の地位を相続した所有者に対し、占有
権原として賃借権を主張することの可否についての検討とともに、賃借人が留置権を行使
して賃借物の返還を拒むことの可否についての検討を求めるものである。
設問1⑵は、賃貸借の目的である建物に雨漏りが生じた事例に基づき、賃借物の一部の
使用収益が不能であることを理由とする賃料減額についての検討とともに、賃借人が修繕
権に基づかずに賃借建物の修繕工事を行い、通常の必要費を超える支出をした場合におけ
る必要費償還請求権の成否及び額についての検討を求めるものである。
⑵ 設問1⑴アでは、Cは、下線部㋐において契約①に基づく賃借権を主張しているものと
解される。
ア 最初に、Bの死亡により相続が開始する前には、契約①による賃借権は甲土地の占有
権原とならないことを、論じることが求められる。契約①は、Bが賃料の支払を受けて
A所有の甲土地をCに使用収益させる契約であって、他人物賃貸借に当たる。そのため、
Cは、Bに対して賃借権を主張することができても、甲土地の所有者Aに対しては、賃
借権を占有権原として主張することができない。
イ 次に、相続の開始によりAがBの賃貸借契約上の地位や債務を承継した場合にも、こ
の点に変わりがないかを、検討することが求められる。判例は、他人の権利の売主が死
亡し、その権利者において売主を相続した場合につき、権利者は、相続によって売主の
義務を承継しても、相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を有し、信義則に反
すると認められるような特別の事情がない限り、売主としての履行義務を拒否すること
ができるとする(最大判昭和49年9月4日民集28巻6号169頁)。本問について
も、当該判例で示された考え方を踏まえた検討が期待されている。
まず、Aが、相続により、Bのどのような地位・債務を承継したかを分析することが
必要である。Bは、契約①に基づき、他人物の賃貸人として、Cに対し、甲土地の所有
者Aからその賃貸権限を取得し、賃貸権限に基づいて甲土地を使用収益させる債務を負
う(民法第601条、第559条による第561条準用)ところ、Aは、このようなB
の地位・債務を相続により承継した(民法第896条)。
次に問われるのは、Aの所有者としての地位との関係である。相続開始後も、Aにお
いては、甲土地の所有者としての地位と(Bから承継した)賃貸人としての地位が、融
合することなく併存する。また、相続開始前、Aは、甲土地の所有者として、Bに賃貸
権限を与えるか否かを自由に決することができたところ、相続開始後も、Aは、所有者
としての地位において、Bから承継した債務の履行(甲土地の使用収益を賃貸権限に基
づくものとすること)を拒むことができると解される。相続という偶然の事由によって
Aが前記の自由を奪われるべき理由はなく、また、Aの拒否によってCが不測の損害を
受けることもないからである。
結論として、相続の開始後も、Cは、契約①による賃借権を甲土地の占有権原として
主張することができない。
⑶ 設問1⑴イでは、Cは、下線部㋑において300万円の損害賠償債権を被担保債権とす
る留置権(民法第295条)を主張しているものと考えられる。
ア まず、被担保債権については、AがCに甲土地の明渡しを請求したことにより、Aが
Bから承継した賃貸人としての債務が履行不能になったこと、契約①には賠償額の予定
(民法第420条)があること、したがって、Cは、Aに対して、債務不履行による損
害賠償(民法第415条第1項)として300万円の被担保債権を有することを、述べ
ることが求められる。
イ 次に、物と債権との牽連関係の要件については、その重要性に応じた丁寧な検討が求
められる。判例は、他人の物の売買における買主は、所有者の目的物返還請求に対し、
所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権を被担保債権とする留置
権を主張することは許されないとし、物と債権との牽連関係を否定する(最判昭和51
年6月17日民集30巻6号616頁)。本問についても、当該判例を踏まえた検討が
期待されている。
他人物の賃貸借における賃借人が、賃借物の所有者から返還請求を受けた場合に、賃
貸人の債務の履行不能による損害賠償債権については、物と債権の牽連関係を否定すべ
きものと考えられる。例えば、前記の判例(前掲・最判昭和51年6月17日)を参照
すれば、他人物の賃貸人は、自らの債務が履行不能となっても、目的物の返還を賃借人
に請求し得る関係になく、そのため、賃借人が目的物の返還を拒絶することによって損
害賠償債務の履行を間接に強制するという関係が生じないことをもって、牽連関係を否
定する論拠となし得る。また、仮に牽連関係が肯定されるとすれば、賃貸権限のない第
三者が目的物を賃貸した行為によって当該目的物の上に留置権が成立することになり、
目的物の所有者の地位と衝突してしまう。
なお、設例では、相続により賃貸人Bと所有者Aの地位が同一人に帰した後における
留置権の成否が問われている。しかし、相続の開始という事情は、Aにおいて所有者と
しての地位と賃貸人としての地位が併存するものと解する限り、留置権の成否(物と債
権の牽連関係の存否)には影響しない。
⑷ 設問1⑵アでは、Dは、丙室の使用収益の不能により令和4年9月分の賃料債権が当然
減額されたことを理由に、既に支払った同月分の賃料の一部について不当利得返還を請求
しているものと考えられる。
まず、賃借物の一部の使用収益の不能による賃料減額(民法第611条第1項)の成否
についての検討が必要である。Dは、Aから賃借した乙建物のうちの丙室につき、令和4
年9月11日から同月30日までの20日間、雨漏りのために使用収益することができな
かった。したがって、令和4年9月分の賃料は、民法第611条第1項により、丙室が乙
建物の使用収益に占める割合及び使用収益を妨げられた日数に応じて当然に減額されるこ
とになる。
続いて、不当利得返還請求権の成立を論じることが求められる。令和4年9月分の賃料
につき、Aは、賃料債権が当然減額されるにもかかわらず全額の支払を受けているのであ
るから、不当利得(給付利得)が成立する。したがって、Dは、Aに対し、減額分に対応
する賃料の返還を請求することができる。
⑸ 設問1⑵イでは、Dは、必要費償還請求権(民法第608条第1項)に基づき、本件工
事のために支出した報酬額30万円の償還を請求しているものと考えられる。
ア 本件工事は、雨漏りの修繕工事であるから、その報酬の支払は必要費の支出に該当す
る。もっとも、本件工事はAに無断でされたから、当該事情が何らかの意味を持ち得る
かの検討が必要となる。本件工事には「急迫の事情」がなく、また、Aに対する事前の
「通知」もないため、本件工事はDの修繕権(民法第607条の2)に基づくものとは
言えない。しかし、民法第607条の2の規定は、同法第608条1項と接続されてお
らず、また、同条の趣旨は、専ら、賃借人による賃借物の修繕を賃貸人に対する債務不
履行・不法行為でなくするところにある。したがって、修繕権に基づかない修繕である
場合にも、そのことを理由に、必要費償還請求権が排除され、または償還額が制限され
ることにはならない。
イ また、本件では、Dが支出した費用が相当な報酬額よりも多額であるため、その全額
の償還請求を認めてよいかも検討しなければならない。通常の額を超える部分は「賃貸
人の負担に属する必要費」に当たらないと解されるので、Dの必要費償還請求権は、相
当な報酬額20万円を限度とするという結論に至る。
ウ 民法第607条の2の趣旨については、上記アに述べた理解のほか、賃貸人が自ら修
繕する利益の保護にあるとする理解も成り立つ。この立場からは、賃借人が修繕権に基
づかないで修繕を行った場合には、賃借人の必要費償還請求権は賃貸人が自ら修繕を行
ったと仮定した場合の支出額を限度とするものと解される。
2 設問2について
設問2は、不動産の所有権の取得をめぐる争いを素材として、基礎事情の錯誤(動機の錯
誤、事実の錯誤ともいう。以下同じ。)による離婚に伴う財産分与の意思表示の取消しの可
否や、錯誤による意思表示の取消しと第三者の保護といった基本的な問題について正確な理
解をすることができているかどうかを問うとともに、錯誤による意思表示の取消し前の第三
者が保護を受けるための要件としての登記の要否、その第三者と表意者から物権の取得をす
る原因を有する者との関係といった応用的な問題について相応の対処をすることができるか
どうかを問い、あわせて、問題相互の関係を適切に把握する能力や具体的事実を法的な観点
から適切に評価する能力等を確かめようとするものである。
⑴ 請求4は、Iが所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使するものであ
る。したがって、請求4が認められるためには、Iが丁土地の所有者である必要がある。
もっとも、Gは、錯誤により丁土地の所有権移転原因である契約③の意思表示を取り消す
(民法第95条第1項)こととしている(【事実】15)。このことが認められれば、契約
③は、それにより遡って無効となる(民法第121条)。無権利者Hからの取得者Iは、
原則として、丁土地の所有権を取得することができない。
そこで、Gの錯誤による契約③の意思表示の取消しが認められるかどうかが問題となる。
この問題に関連する判例として、最判平成元年9月14日家月41巻11号75頁がある。
ア 離婚に伴う財産分与を内容とする契約③の意思表示も、売買契約の意思表示等と同じ
ように、民法第95条第1項の規定の適用を受ける。
イ 本問では、Gは、離婚に伴う財産分与として丁土地をHに譲渡することを内容とする
契約③の意思表示を、これに対応する意思をもってしている。そのため、Gの錯誤は、
民法第95条第1項第1号の定める錯誤に当たらない。
もっとも、Gは、真実に反して、Gに課税がされないと認識していた(【事実】13及
び15)。さらに、Gは、財産及び収入の状況が悪かった(【事実】12)一方で、実際に
Gに課税される額は、300万円程度であった(【事実】15)。このことを踏まえれば、
民法第95条第1項第2号の「表意者が法律行為の基礎とした事情」の意義については
解釈の余地があるものの、いずれにせよ、Gの錯誤は、同号の定める錯誤、つまり基礎
事情の錯誤に当たるものと考えられる。
ウ では、Gは、錯誤による契約③の意思表示の取消しをすることができるのか。
(ア) 基礎事情の錯誤による意思表示の取消しは、「その事情が法律行為の基礎とされて
いることが表示されていたとき」(以下「基礎事情の表示の要件」という。)に限り、
これをすることができる(民法第95条第2項)。平成29年法律第44号による改
正前の民法の下での動機の錯誤に関する判例(最判平成28年1月12日民集70巻
1号1頁等)の理解の仕方については、争いがあった。
基礎事情の表示の要件については、さまざまな考え方が示されている。例えば、基
礎事情の錯誤による不利益は、本来は表意者が負担すべきであるという観点を基礎に
据えつつ、同要件を満たすためには、表意者が動機となった事情を相手方に一方的に
表示しただけでは足りず、その事情がなければその内容の意思表示の効力は否定され
ることについて相手方の了解があったことが必要であるとする見解がある。本問では、
実際にGに課税される額は、300万円程度であったこと(【事実】15)を踏まえつ
つ、GがHに対し、Gの財産及び収入の状況が悪いことを伝えた(【事実】12)上で、
Hに課税されることを気遣う発言をした(【事実】13)こと、これに対し、HがHに
課税されるとの理解の下で「私に課税される税金は、何とかするから大丈夫。」と応
じたこと(【事実】13)を考慮すれば、前記の意味でのHの了解まで黙示的にあった
ものと評価することができる。
解答に当たっては、首尾一貫した論述をしていれば、どの考え方を採ってもよい。
本問においては、いずれにせよ、基礎事情の表示の要件を満たすものと考えられる。
(イ) 本問では、①Gは、Gに課税がされるのであれば契約③の意思表示をしなかった(【事
実】15)ため、「錯誤に基づ」(民法第95条第1項柱書)いて意思表示がされたこ
との要件(主観的因果関係)を満たす。また、②Gは、財産及び収入の状況が悪かっ
た(【事実】12)一方で、実際にGに課税される額は、300万円程度であった(【事
実】15)ことを考慮すれば、その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照
らして重要なものである」(同柱書)ことの要件(客観的重要性)を満たすものと考
えられる。
これらの要件について、基礎事情の表示の要件(前記(ア))を踏まえた検討がされ
ているものについては、高い評価が与えられる。例えば、前記(ア)で示した考え方に
よれば、両要件は、実際には重なるところがあるようにみえるため、両要件の関係に
ついて検討を行うことが望まれる。
エ 本問では、GとHとの双方が、Gに課税がされないとの同一の錯誤に陥っていたもの
と考えられる(【事実】13及び15)。したがって、Gの錯誤がGの重大な過失によるも
のであったかどうかにかかわらず、Gは、錯誤により契約③の意思表示を取り消すこと
ができる(民法第95条第3項第2号)。
⑵ 本問では、Gが錯誤による契約③の意思表示の取消しをしたことによって、Iは、丁土
地の所有権を取得することができないのが原則である(前記⑴)。もっとも、Gは、民法
第95条第4項の規定により、その取消しをIに対抗することができないのではないか。
ア 民法第95条第4項の規定は、㋐取消しの遡及効(民法第121条)によって害され
る第三者、つまり取消し前の第三者についてしか適用されない(詐欺による意思表示の
取消しに関する大判昭和17年9月30日民集21巻911頁を参照)。また、同項の
「第三者」とは、㋑錯誤の当事者及びその包括承継人以外の者であって、錯誤による意
思表示によって生じた法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至ったも
のをいう(詐欺による意思表示の取消しに関する最判昭和49年9月26日民集28巻
6号1213頁を参照)。さらに、同項の「第三者」は、㋒錯誤による意思表示である
ことについて、善意無過失でなければならない。
本問において、Iは、㋐取消し前に(【事実】14及び15)、㋑Hから丁土地の所有権
を取得する原因を有するに至っていた(【事実】13)。また、Iは、㋒契約③の意思表
示がGの錯誤によるものであることについて、善意無過失であった(【事実】15)。
イ もっとも、本問では、Iは、丁土地について、HからIへの所有権移転登記を備えて
いない(【事実】14及び16)。そこで、民法第95条第4項の「第三者」は、明文には
ないものの、同項の規定により保護を受けるための要件としての登記、つまり権利保護
資格要件としての登記を備える必要があるかどうかが問題となる。
(ア) 詐欺による意思表示の取消しに関する前掲最判昭和49年9月26日は、平成29
年法律第44号による改正前の民法第96条第3項の規定について、同項の「第三者」
を「対抗要件を備えた者に限定しなければならない理由は、見出し難い。」としてい
た。もっとも、この判例が扱った事案は、特殊なものであったため、この判例が権利
保護資格要件としての登記を不要としたものであると理解すべきかどうかについて
は、争いがある。
(イ) 錯誤による意思表示の取消しについては、まだ議論が十分にされていない。解答に
当たっては、首尾一貫した論述をしていれば、不要説を採っても、必要説を採っても
よい。たとえば、錯誤に陥った表意者のほうが欺罔された表意者よりも帰責性が大き
い点を考慮するならば、民法第96条第3項の「第三者」について不要説を採るとき
はもちろん、必要説を採るときであっても、民法第95条第4項の「第三者」につい
ては、不要説を採ることが考えられる。他方で、前記の点を考慮したとしても、この
点は取消しの要件のレベルで考慮されていると捉えるならば、民法第96条第3項の
「第三者」について必要説を採るときは、民法第95条第4項の「第三者」について
も必要説を採ることが考えられる。
(ウ) 本問では、請求4の相手方は、表意者であるGではない。そのため、表意者との関
係において対抗要件としての登記を備えるべきであるかどうかという問題は、本問で
は論ずる必要がない。
⑶ 民法第95条第4項の「第三者」について不要説を採るときは、Iは、同項の「第三者」
としての保護を受ける。本問では、丁土地についてGからHへの所有権移転登記がされて
いる(【事実】13及び16)。この場合において、請求4が認められるのか。
ア この問題については、(1)Iが民法第95条第4項の「第三者」としての保護を受け
るときは、錯誤による意思表示の取消しをIに対抗することができなくなる結果、丁土
地の所有権は、G→H→Iと移転すると捉える見解と、(2)この場合であっても、Gと
Hとの間で締結された契約③が有効になるわけではないとして、丁土地の所有権は、G
→Iと直接に移転すると捉える見解とが考えられる。(1)のうち、(1-1)Hが登記を備え
たことによって丁土地の所有権を確定的に取得するため、Fは、Gから丁土地の所有権
を取得することができず、無権利になると理解するならば、請求4は、認められる。こ
れに対し、(1)のうち、(1-2)H自身が登記を備えたことによって丁土地の所有権を確定
的に取得したとFに主張することができない以上、IもそのことをFに主張することが
できないと理解するか、又は(2)を採るならば、Iは、登記を備えなければ、丁土地の
所有権を取得したことを民法第177条の「第三者」であるFに対抗することができな
い。そのため、請求4は、同条の「第三者」であるFが、登記を備えるまで丁土地の所
有権を取得したことを認めないと主張したときは、認められない。
(1-1)を採るときは、その根拠として、所有権の登記名義人でないGとの間で契約⑤
を締結したFは、保護に値しないことを指摘することが考えられる。他方で、(1-2)又
は(2)を採るときは、その根拠として、契約③はGにより取り消されている以上、Fが
保護に値しないとはいえないことや、(1-1)によれば、Gから丁土地を買おうとする者
が現れなくなり、不動産の流通が著しく阻害されることを指摘することが考えられる。
イ 前記アは、民法第94条第2項の「第三者」の解釈を参考として、考え方の方向性を
示したものである。同項の規定に関する最判昭和42年10月31日民集21巻8号2
232頁は、(2)に準ずる見解を採るものであるとされることがある。解答にあたって
は、首尾一貫した論述をしていれば、どの考え方を採ってもよい。また、無効の対抗不
能と取消しの対抗不能との違いを意識した上で、民法第94条第2項の解釈と民法第9
5条第4項の解釈との関係を検討しているものは、その検討が説得的なものであれば、
高い評価が与えられる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和6年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
