令和6年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:35:30])
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 任意的訴訟担当の意義(課題1)7点
- 明文なき任意的訴訟担当が許容される要件(課題1・最大判昭45.11.11)8点
- 授権の有無の当てはめ(課題2)5点
- 非潜脱要件の当てはめ(実体上の管理権の有無・判例との異同)8点
- 合理的必要性の当てはめと結論(判例との異同)7点
設問2
- 裁判上の自白の意義及び要件8点
- 本件陳述が先行自白に該当し得ることの指摘6点
- 第1回弁論準備手続期日の目的・実施方法の分析8点
- 自白不成立又は撤回可という立場の選択と理論構成13点
設問3
- 訴訟物の同一性・基準時・既判力の作用という前提の確認4点・簡潔に
- 既判力により基準時前の事由の主張が遮断される根拠10点
- 遮断の可否に関する理論構成と反対説への対応10点
- 本問の具体的事実関係への当てはめ6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は、XらがYに対し、建物賃貸借契約の終了(賃料不払による債務不履行解除)に基づ
く本件建物の明渡請求訴訟(本件訴え)を提起したという事案を素材として、①X1がいわゆ
る任意的訴訟担当(者)として本件訴えを提起することの可否(設問1)、②本件訴えの弁論
準備手続でYがした陳述が自白に該当するか、また、自白に該当するとしても撤回が可能か(設
問2)、③本件訴えにおいてXらの請求を棄却する判決が確定したのち、本件訴えの基準時前
に存在した別の事由(用法遵守義務違反)により、再度Yに対して賃貸借契約の終了(用法遵
守義務違反による債務不履行解除)に基づき本件建物の明渡しを求める訴えを提起した場合の
問題点(設問3)のそれぞれにつき検討を求めるものである。
1 設問1について
設問1の課題①は、任意的訴訟担当の意義を述べた上、訴訟担当が認められる前提要件と
して担当者に対する授権が必要であることを明らかにし、さらに、問題文記載の判例(最大
判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)から、それが明文なくして許容さ
れるための要件、すなわち弁護士代理原則(民事訴訟法第54条第1項)及び訴訟信託の禁
止の潜脱とならず(以下「非潜脱要件」という。)、かつ、訴訟担当を認める合理的必要が
あること(以下「合理的必要性」という。)を的確に示すことが期待される。なお、任意的
訴訟担当が許容される要件については学説上様々な見解があるが、ここではそれについて言
及することまでは求めていない。そして、課題②においては、問題文記載の具体的事実から
前記前提要件及び許容されるための要件充足の有無について検討していくことになるが、弁
護士代理原則の潜脱の有無については、前記判例の判示内容に照らし、どのような点が認め
られれば潜脱とならないのか、その要素(実体上の管理権の有無)に言及しつつ検討するこ
とが期待される。具体的には、前記判例が非潜脱要件を満たすとしたのは、当該業務執行組
合員が単なる訴訟代理権だけではなく実体上の管理権も併せ有していたという点を主な理由
としていることから、本問でもX1への授権により同じような事実関係が認められるかを検
討していくことになる。そして、合理的必要性の有無について、前記判例が、非潜脱要件を
満たす場合には特段の事情がない限り合理的必要性を欠くものとはいえないと判示している
ことを踏まえつつ、本問の具体的事情(例えば、X1が本件賃貸借契約についての賃貸人の
1人であること、X1単独の訴え提起による目的達成の可能性、問題文に現れているX2及
びX3の意向が合理的必要性を基礎付ける事情となり得るか、Xらが3名と比較的少数であ
ることから、任意的訴訟担当によらず、選定当事者制度の利用やXらが弁護士代理人に委任
することで足りるのではないか等々)から、前記判例との異同を踏まえつつ、合理的必要性
の有無について具体的に検討することが期待される。その他、前記判例においては、団体の
目的遂行のための業務上の必要性があったという点や、当該訴訟追行に係る権利が、業務執
行組合員を含む構成員共同の利益に関するものであったという点が、任意的訴訟担当の合理
的必要性を肯定する一つの根拠になったとの指摘もあることから、本問でもこれに類するよ
うな事情が認められるかにつき検討することも考えられる。
2 設問2について
設問2は、Yのした本件陳述がいわゆる先行自白に該当し得ることを前提に、これが裁判
上の自白に該当しない、あるいは裁判上の自白が成立したとしても撤回ができることにつき、
Yの立場からの検討を求めるものである。その際、本件陳述がされた第1回弁論準備手続期
日の目的、裁判上の自白の意義及び要件並びに撤回が認められる要件と関連付けながらの検
討が求められている。したがって、自白の効果一般や撤回が認められる要件一般について冗
長に検討している答案や、自白の対象事実に間接事実が含まれるかといった論点について、
本問との関連性を意識せずに漫然と検討している答案は評価されない。また、特に説得的根
拠もなく、料理教室開催の事実を信頼関係破壊に関する間接事実とした上、自白の対象にな
らないとして済ませている答案も、本問が先行自白に関する問題であり、弁論準備手続の目
的等からの検討も求めている本問の題意から外れるものであり、同じく評価されない。
まず、裁判上の自白の意義につき、従来からの通説のように「当事者が、その訴訟の口頭
弁論又は弁論準備手続においてする、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」
と定義づけた場合、相互の事実認識の一致が要素になり、当事者の意思的要素は捨象される
ことになるので、本問のY陳述は、自己に不利益な事実を先行自白し、これが弁論準備手続
において援用されることによって自白となると考えられる。したがって、この説に立った場
合は、裁判上の自白に該当するという方向と親和性を有することになるが、先行自白の持つ
問題点(不意打ちの危険)などから、本問のような場合は相手方が主張する事実との一致が
認められないから自白に該当しない、とする立論も可能である。これに対し、裁判上の自白
を「相手方の主張する自己に不利益な事実を争わない旨の意思を表明する、弁論としての陳
述」と定義づけた場合、上記「争わない旨の意思を表明」とはどのようなものであるかを明
らかにした上、これがあったとはいえない、あるいは、不利益性についての認識があったと
はいえないとして自白の成立要件を欠く、と構成することが考えられる。
次に、本問では、以上のような自白の意義から検討するというアプローチだけではなく、
本件陳述がされた第1回弁論準備手続期日の目的や実施方法に着目して、自白該当性や撤回
可能性について検討するというアプローチも求められている。これにつき、一つの考え方と
して、同期日での発言内容について自白とは扱わない、あるいは撤回を容易に認めることに
つき、裁判所と当事者間において何らかの合意等があったと構成することが考えられる。例
えば、弁論準備手続の中でされた陳述にも自白が成立し得ると一般的に解されるとしても、
争点に関する当事者間の自由な議論を促進するという弁論準備手続の目的ないし趣旨、本件
での第1回弁論準備手続期日でのテーマ設定からすれば、争点整理手続中に自白がされても、
争点整理作業が完了するまでは、それを自白とは確定的に扱わない、あるいは自白と扱うと
しても、その撤回は柔軟に認められると解すべきところ、同期日での発言内容については自
白又は不利益な陳述として扱わない旨の事前の黙示的合意があったとすることが考えられ
る。あるいは、一般に自白の撤回は相手方の同意があれば許容されることの応用ないし延長
として、同期日において自白に該当する陳述がそれぞれからされたとしても、これを撤回自
由とすることについて事前に黙示的に同意ないし合意がされていた、といった構成をとるこ
とも考えられる。なお、自白の撤回が認められる場合として、自白が真実に反しかつ錯誤に
よる場合が挙げられるが、本問の場合にこれに該当すると構成するのは困難ではないかと思
われる。
以上のほか、自白が原則撤回できないとする根拠ないし趣旨から、本件陳述を撤回するこ
とはその趣旨に反しない、と構成することも考えられる。例えば、自白事実についてはいわ
ゆる不要証効が生じ(民事訴訟法第179条)、自白の相手方は当該事実について自白がさ
れれば、それにつき証明不要との期待ないし信頼を有するに至るところ、これを撤回するの
はかかる信頼を裏切るもので、禁反言(信義則)に抵触するという点から撤回が原則として
制限されると解される。本件陳述は、第1回弁論準備手続期日のテーマ(賃料不払解除に関
する信頼関係破壊の有無について、それを基礎付けあるいは阻害する具体的事実について自
由に討議する)に沿った形で主張されたものであること(法的には、賃料不払いに関する信
頼関係破壊の評価障害事実(自己に有利な事実)として陳述されたものであること)、これ
に対し、Xらによる先行自白との主張は、上記テーマとは反するものであり、援用を認める
ことは禁反言(信義則)の見地から問題であることからすれば、不要証との相手方の信頼は
そもそも働いておらず、これを撤回したとしても、自白の撤回を原則認めないとする趣旨に
は抵触しない、と構成することが考えられる(ただし、このようなアプローチを採用する場
合は、従来承認されてきた自白の撤回が認められる要件と乖離することになるので、その点
についての検討が求められよう。)。
これに対し、本問の第1回弁論準備手続期日では争点に対する自由な討議が予定されてい
たということから一足飛びに、同期日では自白はおよそ成立しない、あるいは撤回が自由で
あったという結論に至ってしまうのは理論的検討が不十分と評価される。これと同様に、本
問をいわゆる争点整理手続におけるノンコミットメントルール(確定的な定義はないが、争
点整理手続において当事者から口頭で述べられた事項については自白が成立せず、その発言
が後に不利益に援用されることはないという訴訟運営上のルールとされている。)の問題で
あるとして、かかるルールからすれば自白は成立しない、又は撤回は自由であると早急に結
論付けることも題意に沿ったものとはいえず、評価されない。本問は、ノンコミットメント
ルールそれ自体の知識を問うものではなく、弁論準備手続の趣旨や目的、弁論準備手続で相
手方の主張を認める陳述の持つ意味、本問での第1回弁論準備手続期日の目的等を的確に分
析し、それを自白の要件又は撤回要件にどのように説得的に結び付けられているかがポイン
トになる。
3 設問3について
設問3は、本件訴えの基準時前の事由である用法遵守義務違反を理由とする解除による建
物賃貸借契約の終了に基づき、後訴において建物明渡を求めることができるかが問われてい
る。そして、解答に当たっては、本件訴えと後訴の訴訟物が同一であること、本件訴えの確
定判決の既判力により、基準時前の用法遵守義務違反の主張が遮断されることが前提とされ
ている。また、本問に関しては、いわゆる「前訴基準時後における形成権行使の可否」とい
う論点との関係で検討することも考えられるが、問題文中の会話においてこのアプローチは
採らないことが明らかになっていることに留意が必要である。以上を前提に、課題①におい
て、既判力の遮断効(消極的作用)の根拠論を述べ、課題②において、課題①を踏まえなが
ら、後訴の可否に関する理論構成を、反対の立場を踏まえて論じていくことが求められてい
る。
まず、既判力の基準時が口頭弁論終結時であることを根拠とともに簡潔に説明し、その上
で、既判力の作用からの理論的説明として、遮断効(消極的作用)については、後訴の裁
判所に対する拘束力(積極的作用)を前提として認められるものであること、基準時前に存
在した事実については、後訴での蒸返し防止(勝訴者の紛争解決に対する合理的期待の保護、
法的安定性の確保等)の観点から後訴で主張することはできないといった制度的効力を挙げ
た上、さらに実質的根拠(正当化の根拠)として、前訴において十分な主張立証の機会が与
えられていたにもかかわらず、これを行使しなかった場合は後訴においてかかる主張が遮断
されてもやむを得ない、といった点を述べていくことが期待される。
そして、その上で、遮断を否定するアプローチとして、遮断効につき、前記のとおり法的
安定性の確保や勝訴者の地位の安定といった制度的効力を基礎としつつも、前訴において十
分に主張立証の機会が与えられていたにもかかわらず、これを行使しなかったことに対する
自己責任の観点からすれば、前訴における主張立証がおよそ期待できなかった事実について
は前訴確定判決の既判力による遮断効は生じないと解する説(期待可能性説)を挙げること
が期待される。この説に対しては、前記既判力の制度的効力からすると、このような主張を
認めるのは慎重な態度が要請される、再審事由に関する民事訴訟法第338条第1項第5号
からすれば、刑事罰が科されるような他人の行為によった場合であっても既判力が作用する
とされているのであり、単なる期待可能性の欠如をもって既判力が作用しないとすることは
再審と既判力の作用との境界をあいまいにするものであって不当である、あるいは、期待可
能性の有無について後訴裁判所が審理判断することになり、後訴の審理負担が不当に重くな
る懸念がある、といった批判がされているところである。期待可能性説に立つ場合は、これ
らの批判を示しつつ、自己の立場を説得的に展開し、判断基準を定立することが期待される
(その上で、本問への当てはめにおいて、期待可能性があったとすることも考えられる。)。
これに対し、遮断効の根拠につき、前記制度的効力の点を重視する立場に立った場合は、前
記期待可能性説に対する批判を加えつつ、前訴の基準時前に生じていた事由であれば例外な
く遮断するという方向で検討することが考えられるが、その場合には、問題文の具体的事実
関係から遮断するのが相当とされる根拠を丁寧に示していくことが期待される。
なお、遮断効を否定する立場に立つ場合、既判力による遮断効の正当化根拠を手続保障と
自己責任であるとしか指摘せず、本問の事実関係からは用法遵守義務違反の事実について手
続保障がされたとはいえないから遮断されないと解すべき、といった程度の大雑把な検討に
終始している答案は、既判力の遮断効に関する説明が不十分と評価されるだけでなく、遮断
効に例外を認める理論構成や根拠を適切かつ十分に検討したものとは評価できない(「手続
保障及び自己責任の観点から本問では特段の事情がある」といった程度の記述にとどまって
いる答案も同様である。)。また、前記したとおり、本問においては、いわゆる「基準時後
の形成権行使の可否」という点からのアプローチは明示的に排除している。したがって、こ
のようなアプローチをとったと思われる答案、例えば、「解除権は前訴確定判決の判断に内
在付着する瑕疵である(ない)から」といった点から遮断の可否を論じている答案や、反対
説についてこのような趣旨で言及しているとみられる答案については、問題文の指示を無視
したものとして評価されない。また、期待可能性説以外のアプローチ、例えば、釈明義務違
反や法的観点指摘義務違反に基づいて既判力が縮小するという構成も考えられなくはない
が、前訴である本件訴えの手続経過からは、かかる釈明義務違反や法的観点指摘義務違反を
基礎付けるような事実関係は見当たらないので、これを採用するのは難しいと思われる。そ
の他、判決理由中の判断の拘束力(信義則等)を検討している答案は、既判力が作用すると
いう本問の前提に反するので、当然のことながら評価されない。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和6年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
