令和5年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は、40:60〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1小問1
- 会社法423条1項の責任要件の枠組み提示(取締役の任務懈怠、損害、因果関係、帰責事由)と本件への当てはめの出発点5点
- 甲社が一人会社であり、本件売買契約が唯一の株主Aの意向に沿うものであることの指摘と、善管注意義務・忠実義務の本質・内容の検討12点
- Aの反論(自らが唯一の株主であったことを理由とする任務懈怠の否定)とその当否8点
- 免除(会社法424条)の主張の検討(総株主の同意・黙示の意思表示)6点
- 間接取引(356条1項3号)該当性・任務懈怠の推定(423条3項)の位置付け3点・簡潔に
設問1小問2
- 会社法429条1項の責任の性質・要件(法定責任説、悪意重過失の対象、間接損害)7点
- 唯一の株主の意向に沿う行為でも任務懈怠が認められるか(債権者利益の考慮)と小問1との整合性12点
設問2小問1
- Iの原告適格(会社法106条本文・権利行使者の指定通知の欠缺と最判平成2年12月4日)8点
- 訴えの利益(最判昭和45年4月2日の原則と瑕疵の連鎖による特段の事情)10点
- 本案(最判平成27年2月19日:106条本文・ただし書の関係、議決権行使は管理行為で持分価格の過半数)10点
- 決議取消事由(831条1項1号)への該当性の特定と裁量棄却の検討5点
設問2小問2
- 小問2における訴えの利益(瑕疵の連鎖の有無・346条1項、351条1項)9点
全体
- 論理的構成・文章表現・設問間の整合性5点
出題の趣旨(法務省公表)
1 本問は、公開会社でない取締役会設置会社において、①唯一の株主であり、かつ、代表取
締役でもある者が代表取締役として行った行為について、その者の会社法第423条第1項
に基づく損害賠償責任及び会社法第429条第1項に基づく損害賠償責任の有無を検討する
こと(設問1)、②権利行使者の指定のない共有株式につき議決権が行使された株主総会決
議の効力を、当該株式を共有する者が当該株主総会決議の取消しの訴えを提起することの適
法性(原告適格及び訴えの利益の有無)とともに検討すること(設問2)を求めるものであ
る。いずれについても、会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、問題
点を適切に分析した上で、具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか否かを
問うものである。
2⑴ 設問1は、甲社の唯一の株主であり、かつ、代表取締役であるAが、甲社の代表取締役
として本件売買契約を締結したことについて、その法的責任の有無を問うものである。小
問1においては、その後に株主となったGが会社法第423条第1項に基づく損害賠償を
請求する責任追及等の訴えを提起した場合、小問2においては、債権者である乙社が会社
法第429条第1項に基づく損害賠償を請求する訴えを提起した場合において、Aの損害
賠償責任が認められるか否かを検討することが求められるものであるが、特に任務懈怠の
有無については、各小問を通じて整合的な検討をすることが望ましい。
⑵ 小問1においては、まず、本問の事実関係の下で、会社法第423条第1項の損害賠償
責任が認められるための要件に沿って検討することが求められる(なお、問題文に「会社
法第423条第1項に基づく損害賠償を請求する責任追及等の訴えを適法に提起した」と
記載されていることから、Gが責任追及等の訴えを提起するための訴訟要件について検討
する必要はない。)。
その中でも特に問題となるのが、任務懈怠の有無である。小問1においては、本件売買
契約を締結することは、甲社の唯一の株主の意向に沿ったものであるから、そのような場
合にも任務懈怠があるといってよいのかについて、取締役が負う善管注意義務又は忠実義
務の本質に触れつつ、検討することが求められる。これらの義務の内容について、株主の
経済的利益を最大化するという観点から考えるのであれば、小問1においては任務懈怠を
否定する方向に傾くことになろうが、これとは異なる考え方やこのような方向を修正すべ
き要素があると考えるのであれば、その点も含めて的確に論ずることが求められる。
さらに、小問1においては、Aの立場において考えられる反論及びその当否についての
検討も求められる。Aの立場からすると、上記のように、取締役が負う善管注意義務又は
忠実義務の内容について、株主の経済的利益を最大化するという観点から考えるべきであ
ることを前提に、自らが唯一の株主であったことを理由に任務懈怠がなかったと主張する
ことが考えられるため、この点について的確に論ずることが求められる。また、それ以外
にも、Aとしては、自らが唯一の株主であったことから、免除(会社法第424条)があ
ったと主張することも考えられることから、その点についても検討することが望ましい。
その場合には、問題文からは免除に関する明示的な意思表示があったとはいえず、また、
Gが責任追及等の訴えを提起していることに鑑み、AがGに対して甲社の株式を譲渡する
前に免除に関する黙示の意思表示があったといえるか否かという観点から検討することが
できると、なお望ましい。
ところで、小問1において、利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第
3号)の該当性を検討する場合であっても、それが肯定されることによって任務懈怠が推
定されるにすぎないことから(会社法第423条第3項)、Aの立場において考えられる
反論及びその当否として、上記の各点について検討することが求められることになる(任
務懈怠責任の有無を検討するに当たって重要なのは上記の各点について検討することであ
り、間接取引の該当性を検討する場合であっても、そのことを踏まえて論ずることが求め
られる。)。なお、問題文に「甲社においては、本件売買契約の締結に先立ち、取締役会の
決議等の会社法所定の手続が行われた」と記載されていることから、手続的な規制につい
て検討する必要はない。
⑶ 次に、小問2であるが、小問2においても、まず、本問の事実関係の下で、会社法第4
29条第1項の損害賠償責任が認められるための要件に沿って検討することが求められ
る。
ここでも、特に問題となる点は、小問1と同様である。会社法第429条第1項に基づ
く損害賠償責任の性質については、諸説があるが、判例(最判昭和44年11月26日民
集23巻11号2150頁参照)によれば、株式会社に対する任務懈怠についての悪意又
は重過失の有無が問われることとなる。その上で、小問2においては、本件売買契約を締
結したことが甲社の唯一の株主の意向に沿ったものではあるものの、それによって経営に
悪影響が生じ、債務の弁済にも支障を来す程度に財務状態が悪化したことなどの小問1の
事実関係とは異なる点に留意して検討することになる。小問1の事実関係とは異なる点を
重視すると、任務懈怠を肯定する方向に傾くことになろうが、その場合には、取締役が負
う善管注意義務又は忠実義務の内容について株主の経済的利益を最大化するという観点か
ら考えるべきであるという考え方によっているのであれば、そのこととの整合性をどのよ
うに考えるのかという点にも配慮しながら論ずるのが望ましい。
⑷ どのような考え方によるにせよ、各小問を検討するに当たり、整合性に意識しながら検
討することが望ましい。例えば、小問1において任務懈怠を否定し、小問2において任務
懈怠を肯定するのであれば、結論を異にする理由を意識しながら検討することが望ましい。
実務においては、各小問のように、一人会社においてその唯一の株主自身が取締役として
行った行為や唯一の株主の事実上の同意の下で行われた行為に係る任務懈怠の有無が問題
となることは多く、参考となる下級審の裁判例も見られるところであり、より実務的な観
点から、事例解析能力、論理的思考力、会社法に関する基本的な理解並びに法令の解釈及
び適用の能力等を試そうとするものである。
3⑴ 設問2は、共有株式につき、権利行使者の指定もなく、共有者間で何一つ合意がされて
いない状況において、共有者の一人によって株主総会で議決権が行使された結果、取締役
を選任する旨の決議がされた場合に、その決議の効力について、他の共有者がその決議の
取消しの訴えを提起することの適法性とともに検討することを求めるものである。具体的
には、問題文に指摘されているところに従い、株主総会決議の取消しの訴えを提起するこ
との適法性として原告適格及び訴えの利益の有無を検討するとともに、株主総会決議の取
消しの訴えに係る請求が認められるか否かについて検討することになる。
⑵ まず、原告適格(小問1)については、権利行使者としての指定を受けてその旨を株式
会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないという判例(最
判平成2年12月4日民集44巻9号1165頁参照)の考え方を踏まえつつ、検討する
ことが求められる。判例のように、原則として原告適格が認められないとした上で、特段
の事情の有無を検討することも考えられるし、判例とは異なる考え方に立って検討するこ
とも考えられるが、いずれにしても、権利行使者の指定がないことによって原告適格の有
無が問題となることを理解していることが求められる。
⑶ 次に、訴えの利益(小問1及び小問2)についてであるが、小問1と小問2を通じて、
株主総会決議につきいわゆる瑕疵の連鎖がある場合にどのように考えるのかという点につ
いての理解を問うものである。まず、株主総会決議の取消しの訴えは、形成の訴えであり、
原告適格が認められる者は訴えの利益を有するのが通常であるものの、その後の事情の変
化によって訴えの利益を欠くことがあり得るところ、取締役を選任する株主総会決議の取
消し訴えの係属中に、その決議に基づいて選任された取締役が全て任期満了によって退任
し、その後の株主総会決議によって新たな取締役が選任されたときは、特段の事情のない
限り、訴えの利益を欠くに至るという判例(最判昭和45年4月2日民集24巻4号22
3頁参照)の考え方を前提とすると、本件決議1に基づいて選任された取締役は、本件株
主総会2の終結時に任期満了によって退任することになるため、本件訴えについては、特
段の事情のない限り、訴えの利益を欠くことになると考えられるところである。
これを踏まえ、小問1及び小問2の事実関係を下に、更に具体的に検討することが求め
られる。小問1においては、本件決議1が取り消されると、本件決議1に基づいて選任さ
れた取締役によって構成される取締役会による代表取締役の選定も遡って無効になるた
め、本件株主総会2はその招集手続に瑕疵があることとなり、本件決議1の瑕疵が連鎖す
るものといえることから、この点を適切に評価し、訴えの利益を欠くことになるのか否か
を検討することになろう(この点については、最判令和2年9月3日民集74巻6号15
57頁を参考にすることが考えられる。)。これに対し、小問2においては、本件決議1が
B、C及びDを取締役に再任するものであったことからすると、本件決議1が取り消され
ても、B、C又はDは、会社法第346条第1項又は第351条第1項の規定により取締
役又は代表取締役としての権利義務を有することになるなどの事情を適切に評価し(例え
ば、本件株主総会2の招集手続に瑕疵があることにはならず、本件決議1の瑕疵が連鎖す
るものとはいえないなど)、訴えの利益を欠くことになるのか否かを検討することになろ
う。
⑷ 最後に、株主総会決議取消しの訴えに係る請求が認められるか否か(小問1)であるが、
この点については、共有株式について会社法第106条本文の規定に基づく権利行使者の
指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利
の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の
同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではないという判例(最判平成27年
2月19日民集69巻1号25頁参照)の考え方を踏まえつつ、検討することが求められ
る。さらに、同判例は、共有株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって
直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、
株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる
としていることから、判例と同様の考え方による場合には、本件準共有株式につき、Hと
Iとの間で何一つ合意がされていない以上、Hによる議決権の行使は適法ではなかったこ
とになるものと考えられる。それ以外にも、Hによる議決権の行使を保存行為とする考え
方や、そもそも判例とは異なる考え方に立って検討することも考えられるが、いずれにし
ても、会社法第106条本文及び同条ただし書の関係及び内容についての正しい理解と適
切な解釈論を示すことが求められる。その上で、決議取消事由(会社法第831条第1項
第1号)の該当性を検討することになる(定足数に満たないことになる、又は議決権の取
扱いに違法があるなど)。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和5年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
