令和5年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 違法収集証拠に関する明文規定の不存在と、それでも証拠能力が無制限には認められない理由(背景的事情)6点
- 証拠能力を否定する法的根拠の提示6点
- 証拠能力の有無を判断する基準の定立7点
- 本件文書の証拠能力についてのあてはめ6点
設問2
- 前提の整理(訴訟外の相殺の再抗弁の適法性、審理の順序、法114条2項の既判力の範囲)6点
- 不利益変更禁止の原則(法304条)の意義と判断手法7点
- (ア) 甲債権が弁済により消滅したとの判断に至った場合の判決7点
- (イ) 甲・乙債権は消滅せず丙債権の存在が認められない場合の判決7点
- (ウ) 甲債権は消滅せず乙債権が弁済により消滅した場合の判決8点
設問3課題1
- 既判力のZへの拡張の否定(法115条)5点・簡潔に
- 法46条の効力(参加的効力)が参加人Zと相手方Xとの間には生じないこと7点
- 争点効又は法2条に基づく信義則上の拘束力の検討7点
- 反射効の検討4点・簡潔に
設問3課題2
- 法46条の条文構造と本問の構図とのミスマッチの指摘7点
- 参加的効力の根拠論からの結論と条文の文言との整合性7点
- 本件事案への当てはめ(46条各号の除外事由等)3点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
本問は、XがYに対し、貸金の返還を求める訴えを提起し(以下、この訴えの訴訟物の内容
をなす貸金債権を「甲債権」といい、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)、これ
に対し、Yが請求原因事実を認めた上で、主位的に弁済の抗弁を、予備的にXに対する売買代
金債権(以下「乙債権」という。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を主張したという
事案を素材としている。この事案について、①Yが不当な方法で収集した電子メールをプリン
トアウトしたもの(以下「本件文書」という。)の取調べを申し出た場合において、民事訴訟
におけるいわゆる違法収集証拠の証拠能力についての検討(設問1)、②本件訴訟において、
更にXが相続により取得したYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)によって乙債権
を相殺したという訴訟外の相殺の再抗弁を主張し、Xの請求を認容する判決に対してXのみが
控訴した場合において、不利益変更禁止の原則を踏まえた控訴審の審理・判断についての検討
(設問2)、③甲債権の保証人であるZが補助参加した本件訴訟についてXの請求を認容する
判決が確定した場合において、その後に提起されたXのZに対する保証債務履行請求訴訟及び
ZのYに対する求償請求訴訟における、上記確定判決に基づく効力ないし参加的効力について
の検討(設問3)をそれぞれ求めるものである。
設問1(a)は、民事訴訟において違法収集証拠の証拠能力が制限される場合があり得ること
を前提としつつ、証拠能力を否定する際の法的根拠を挙げて、証拠能力の有無をいかなる基準
により判断すべきかを問うものである。民事訴訟法(以下「法」という。)には、違法収集証
拠の証拠能力を制限した規定はないが、にもかかわらず違法収集証拠の証拠能力がなぜ無制限
には認められないかについては、裁判所が当事者等による証拠の違法な作成・収集を助長する
おそれ、公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を損なうおそれ等への配慮があることの指摘
が期待される。具体的な事例において違法収集証拠の証拠能力を制限する際の法的根拠及び判
断基準については、最高裁判所の判例がいまだ存在せず、様々な学説が提唱されている状況で
あるから、いかなる見解を採用したかによって評価に差を設けることはない。例えば、下級審
裁判例(東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁参照)による場合には、人格権の
保護を根拠としつつ、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて取得されたものかどうかを基
準とすることが考えられる。また、訴訟上の信義則(法第2条)を根拠とし、証拠収集の手段
や態様の違法性、被侵害利益の重大性、証拠の重要性、真実発見の要請等を総合的に考慮して
証拠能力の有無を判断する有力説による場合には、判断基準となり得る重要な要素を摘示しつ
つ、それらの総合考慮により判断すべきことを指摘する必要があろう。
設問1(b)は、設問の事実関係の下で、(a)において採用した判断基準に照らして本件文書の
証拠能力の有無を判断することを求めるものである。証拠収集の手段や態様の違法性等の各要
素に該当する具体的な事実の検討は、(a)において採用した判断基準と整合的でない限り、評
価されない。例えば、前掲下級審裁判例によるときは、人格権侵害ないし違法性との関係で、
証拠収集の手段・態様の違法性、被侵害利益の重大性を検討し、その結果、人格権侵害ないし
違法性が肯定される場合でも、他の要素(証拠の重要性、真実発見の要請)に鑑み、違法性が
阻却される余地があるかどうかを検討することが考えられる。他方、訴訟上の信義則を根拠と
した総合考慮による場合には、上記の各要素に該当する事実を設問の事実関係から抽出した上
で、個別にあてはめを行い、総合考慮の結果として、結論を導くことが期待される。
設問2は、相殺の抗弁に対するいわゆる再相殺について、訴訟上の相殺の再抗弁は不適法で
あるが、訴訟外の相殺の意思表示の主張は適法と解されること(最判平成10年4月30日民
集52巻3号930頁参照)を前提として、第1審で訴訟外の再相殺の主張が認められて請求
認容判決がされた事案において、Xのみが控訴した場合の控訴審の審理判断の在り方について、
具体的な事実関係を基に論じさせるものであり、民事訴訟の基本的な理解を踏まえた論理的思
考力及び論述力を問うものである。
(ア)では、控訴裁判所の心証に従えば、原判決を取り消し、請求を棄却する旨の判決をする
ことが想定されるところ、この判決が不利益変更禁止の原則(法第304条)に違反するかに
ついて、同原則の趣旨を踏まえ、控訴裁判所の判決が確定した場合と原判決が確定した場合の
既判力の比較により検討することが求められる。甲債権の弁済による消滅を理由とする請求棄
却判決は、Xにとり不利益変更に当たると解されるから、控訴裁判所は、控訴を棄却する旨を
主文とする判決をするにとどめるべきことになろう。
(イ)においても、控訴裁判所は、原判決を取り消し、請求を棄却する旨の判決をすることが
想定される。ここでも不利益変更禁止原則の適用を検討する必要があるが、具体的な事実関係
の下で、相殺の判断に係る既判力(法第114条第2項)の検討を含めるべきことを論じた上
で、請求棄却判決がXにとって不利益変更に当たることを指摘することが期待される。
(ウ)では、控訴裁判所も請求認容判決をすることが想定されるものの、乙債権の弁済による
消滅により、訴訟外の相殺の主張につき判断が不要となる点を指摘し、原判決の理由中でされ
ていた丙債権による相殺に係る判断が控訴裁判所の判決ではなされないことの帰結について検
討することが求められる。訴訟外の相殺の主張の判断に法第114条第2項の適用を認める通
説では、丙債権に係る判断につき既判力の範囲に変更が生ずることから、控訴裁判所は、原判
決を取り消し、Xの請求を認容する旨を主文とする判決をすべきことになろう。
設問3の課題1では、甲債権を認めて、XのYに対する請求を認容する旨の判決が確定した
後、XがYの補助参加人であったZに対して甲債権に係る保証債務の履行を請求したという場
合において、XY間の確定判決が、XのZに対する保証債務履行請求訴訟において何らかの拘
束力を及ぼすかを問うものである。確定判決の拘束力としては様々なものを想定し得ることか
ら、それらを広く取り上げた上で、それぞれの拘束力について十分に検討をすることが期待さ
れる。一例を挙げるならば、通説の立場から、Zは、法第115条により既判力の拡張を受け
る者ではないこと、法第46条の効力は、参加人と被参加人との間の敗訴責任の共同分担とい
う根拠から認められる特別な効力であって、参加人と相手方との間に生ずることは想定されな
いことを論じた上で、さらに、争点効又は法第2条に基づく信義則上の拘束力の作用を認め得
るか、を論ずることが考えられる。
設問3の課題2は、XのYに対する請求認容判決の確定後、保証債務を履行したZがYに対
して求償請求訴訟を提起した場合に、XのYに対する請求認容判決に係る法第46条の効力を
Zが援用し得るか、という点を問うものである。補助参加人による被参加人に対する同条の効
力の援用が、同条の根拠から正当化し得るか、という点を、同条自体は、被参加人から補助参
加人に対して同条の効力を援用する場合を想定していることを踏まえて論ずることが期待され
る。例えば、法第46条の根拠を敗訴責任の共同分担と捉える立場からは、補助参加人から被
参加人に対して同条の効力を援用することは認められてしかるべきであると論ずることが考え
られるが、このように論ずる場合には、同条が被参加人から補助参加人への援用を想定してい
ることとの整合性をどうつけるかについても一定の説明が求められよう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和5年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
