令和5年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 遺族年金の憲法25条上の位置付けと生存権の意義(中核部分との関係)9点
- 堀木訴訟判決を踏まえた立法裁量論と、裁量を狭めるXの立論12点
- 配偶者の年齢要件の25条適合性(目的・手段の検討とあてはめ)9点
- 年齢による区別と憲法14条1項(後段列挙事由該当性・年齢差別の特質)9点
- 夫55歳・妻40歳という性別による区別の14条1項適合性(審査基準)11点
- 性別による区別の目的・実質的平等との関係のあてはめ9点
- 旧受給者への受給資格要件の適用と制度後退禁止原則11点
- 老齢加算廃止判決を踏まえた期待的利益への考慮・経過措置の相当性9点
設問2
- 設問1の主張(25条関係)に対する反論と自説の展開7点
- 設問1の主張(14条1項関係)に対する反論と自説の展開7点
全体
- 論理的構成・判例の活用・文章表現7点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
1.本問は、架空の「新遺族年金法案骨子」(新制度案)を素材に、社会保障立法の憲法第2
5条、第14条第1項適合性を、訴訟をも念頭に置いて検討することを求めるものである。
設問1に対しては、A省の任期付公務員(法曹資格者)であるXの立場から、新制度案の憲
法適合性について、判例だけでなく学説をも踏まえて批判的に論じる必要がある。つまり、
Xとしては、生存権を具体化する立法について広い立法裁量を認める判例の立場よりも立法
裁量を狭め、より厳密な違憲審査をもたらすような主張をすることが期待されている。ただ
し、必ずしも「憲法違反である」という結論に至らなければならないわけではない。他方、
設問2では、設問1で述べられた新制度案に対する批判的な見解について、自己の立場から
その適否を論じることが求められている。設問1で述べられた見解とは異なり、社会保障立
法の制定、社会保障立法上の区別について広い立法裁量を認める立場から論じてもよいが、
その場合でも設問1で述べられた見解に対して十分な批判を加えた上で自説を論じることが
必要である。
本問は社会保障制度についての知識を問うものではなく、甲とXとの会話文(以下「会話
文」という。)の中で架空の新制度案の概要が説明され、また、関連する立法事実について
も示されている。さらに、新制度案において憲法適合性を検討すべき部分も会話文の中で具
体的に挙げられている。それゆえ、会話文と「新遺族年金法案骨子」から適切に必要な事実
や情報、論点を見いだし、生存権に関する判例・学説の理解を基に考察を加えることができ
るのかどうかが問われている。
会話文の中でXが指摘しているように、新制度案において憲法適合性を検討すべき部分と
しては、①死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が一定の年齢以上でなけれ
ば「遺族」として新遺族年金を受給できないとされていること、②新遺族年金の受給資格が
認められる年齢について夫と妻との間で大きな開きがあること、③現行の制度の下で遺族年
金の給付を受けている者が、新遺族年金の受給資格要件を満たしていない場合、受給資格を
喪失するとしていること、が挙げられる。
2.まず、新制度案が、死亡した被保険者の配偶者に対して遺族年金の受給に年齢要件を課し
ていることについては、配偶者の生存権を侵害し、憲法第25条に違反しないかが問題とな
ろう。しかし、最高裁判所は、堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1
235頁)において、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を
講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き
明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに
適しない事柄であるといわなければならない」として、生存権具体化立法について非常に広
い立法裁量を認めている。それに対して、Xの立場から、配偶者の年齢要件の憲法第25条
適合性についてより立ち入った違憲審査を導こうとするのであれば、遺族年金は文字どおり
「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を実現するためのものであって、生存権の中
核的な部分と関わる、といった説明が必要であろう。
さらに、配偶者の年齢要件は一定の年齢に達した者と達していない者との間で年齢により
差別をするものであって、憲法第14条第1項に違反すると論じることも考えられる。確か
に、堀木訴訟判決も、「憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給
者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をした…
…ときは、別に……憲法14条……違反の問題を生じうることは否定しえない」、としてい
るところである。しかし、堀木訴訟判決や同判決に依拠した学生無年金訴訟判決(最判平成
19年9月28日民集61巻6号2345頁)からして、生存権を実現するための法律にお
ける区別が憲法第14条第1項違反として争われる場合にも広い立法裁量を認めるのが最高
裁判所の立場である。果たして生存権具体化立法における区別が年齢差別であることを理由
に、合理的な区別と言えるか否かについて裁判所による厳密な検討が必要であると説得的に
主張できるかどうかが、問題となる。
3.それに対して、新制度案で、被保険者の妻が40歳以上であれば遺族年金を受給できるの
に対して、夫は55歳以上でなければ遺族年金を受給できないとされているのは、性別によ
る不合理な差別であり憲法第14条第1項に違反するのではないか、という点も問題となる。
もっとも、最高裁判所は、地方公務員災害補償法が死亡した職員の夫について一定の年齢に
達していることを遺族補償年金受給の要件としていることが、憲法第14条第1項に違反し
ないとしている(最判平成29年3月21日判時2341号65頁)。ただし、そこでは、
妻以外の遺族と妻との区別の問題として扱っており、性別による区別の問題として捉えられ
てはいなかった。そこで、本問の新制度案のように性別による区別として理解される場合、
社会保障立法上の区別についての広い立法裁量を認める立場が妥当するかどうか検討する必
要があろう。Xとしては、憲法第14条第1項後段は歴史的な経験を踏まえて不当な差別事
由を掲げたものであるので、性別といった憲法第14条第1項後段列挙事由による区別がな
されている場合には、厳格な違憲審査基準あるいは厳格な合理性の基準による違憲審査がな
されるべきであるなどと主張することが考えられる。あるいは、「健康で文化的な最低限度
の生活」に関わるものである遺族年金受給について、性別という憲法第14条第1項後段列
挙事由によって区別をするものであることを理由に違憲審査の厳格度を高める主張をするこ
ともあり得る。
もっとも、不当な性差別として念頭に置かれてきたのは女性を不利に扱う女性差別であっ
たのに対して、新制度案は男性を女性に比較して不利に扱うものであるという点をどう考え
るかが問題となる。会話文では、男女の就労状況、収入の実情に大きな格差があることがデ
ータによって裏付けられており、新制度案における夫と妻の年齢要件の相違はそうした格差
を踏まえてのものであるとされている。そこで、こうした女性の優遇が実質的平等実現のた
めの区別であり、厳密な違憲審査がなされる「性差別」には当たらないと解すべきなのか、
あるいは、実質的平等を実現するという名目での女性優遇が、男女の役割についてのステレ
オ・タイプの発想に基づくものであり、現状を固定化させてしまうものであると批判的に捉
えるべきなのか、どちらの立場をとるのかが問われることになる。
4.これまで遺族年金の受給権が認められてきた者に対して、新遺族年金の受給資格要件を遡
及的に適用し、受給資格要件を満たさない場合には受給資格を喪失させることは、憲法第2
5条に違反しないのかも問題となろう。これについては、Xとしては、生存権を具体化する
法律が制定された後に、当該法律を改廃して法律上の受給権をなくしたり、縮減したりする
場合には、法律を制定して受給権を生み出す場合よりも立法裁量が狭まり、合理的な理由が
求められるという、いわゆる「制度後退禁止原則」に依拠することが考えられる。この場合
には、法律によって抽象的な権利である生存権が具体的な権利とされているからであるとか、
生存権の自由権的な側面の侵害に当たるからであるとか、制度後退禁止原則が認められる理
由が論じられていなければならない。他方、最高裁判所が、生活保護基準における老齢加算
廃止について、厚生労働大臣は「被保護者の……期待的利益についても可及的に配慮するた
め、その廃止の具体的な方法等について、激変緩和措置の要否などを含め、……専門技術的
かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである」、としていることも参
考になろう(最判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)。つまり、この判示を
参考にして、国会には新遺族年金制度の創設について立法裁量が認められるが、これまで遺
族年金を受給してきた者の期待的利益を考慮に入れてその裁量を行使しなければならず、裁
判所は、国会が新遺族年金制度の創設に当たりそうした期待的利益に適切な考慮を払ったか
審査すべきである、と論じることも考えられる。
さらに、新遺族年金の受給資格要件を満たさない遺族年金受給者の受給資格を喪失させる
ことが憲法第25条に違反しないとしても、せめて受給資格喪失者に対して経過措置をとる
べきでないか、また、従前の年金の受給を認める期間が5年間でよいのか、3年目から受給
額を半減させることは不当でないか、問題となろう。また、上記老齢加算廃止についての判
決が「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は、……老齢加算の廃止に際し激変緩和
等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当
であるとした同大臣の判断に、被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量
権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定
に違反し、違法となるものというべきである」、としていることも参考になろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和5年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
