令和3年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 甲社が履行を拒むために考えられる主張の抽出(①間接取引・②多額の借財/重要な業務執行の二本立て)4点
- 間接取引該当性と承認機関(会社法356条1項3号・365条1項)4点・簡潔に
- 取締役会の承認を欠く間接取引の効力(最判昭43.12.25=相対的無効説)の正確な理解7点
- 多額の借財(362条4項2号)又は重要な業務執行(同項柱書)該当性の判断基準とあてはめ8点
- 取締役会決議を欠く代表取締役の行為の効力(最判昭40.9.22)5点
- 乙社の主観面の検討(悪意の対象と過失・重過失のあてはめ)5点
設問2
- 本件株式の引受契約の当事者が誰かという問題の所在の把握と形式説・実質説の選択・理由付け10点
- 本問の事実の摘示と評価によるCの主張の当否の判断10点
- 判断の基準時(引受時の意思)と事後の事情の位置付け4点・簡潔に
設問3
- 取消事由の構成(831条1項1号・決議の方法の法令違反)と二つの主張の提示5点
- 議決権の代理行使の原則(310条1項)と代理人資格を株主に限る定款規定の有効性(最判昭43.11.1)7点
- 本件定款規定の適用範囲とGの議決権行使拒否の当否(弁護士であること・非公開会社であることの評価)9点
- Fの議決権行使の可否(代表権の内部的制限・349条4項5項、甲社の善意、集団的権利行使・代表権濫用)10点
- Fの議決権行使とEから委任を受けたAの議決権行使の優劣3点・簡潔に
- 他の株主に係る瑕疵の主張適格と裁量棄却(831条2項)4点・簡潔に
全体
- 論理的構成・事実の評価能力・文章表現5点
出題の趣旨(法務省公表)
1 本問は,公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)において,①代表取締
役が当該株式会社を代表して当該代表取締役が個人として負う債務を連帯して保証する旨の
合意をした場合に,当該株式会社がその連帯保証債務の履行を拒絶するために考えられる法
的な主張としてどのようなものがあり,そのような主張が認められるのかを問うとともに(設
問1),②誰が株主であるかが争われている場合に,具体的な事実関係の下でどのように株
主を認定すべきか(設問2),③議決権の行使を委任することができる代理人を株主に限る
旨の定款の規定がある場合に株主ではない弁護士が代理人として議決権を行使することの可
否や,株主である株式会社の代表取締役がその内部的制限に反して当該株式会社を代表して
議決権を行使することの可否といった株主総会における議決権行使の在り方(設問3)を問
うものである。いずれについても,会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前
提に,問題点を適切に分析した上で,具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができ
るか否かを問うものである。
2⑴ 設問1においては,甲社としては,①Aが甲社の代表取締役として締結した本件連帯保
証契約は,利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第3号)に該当し,取
締役会設置会社である甲社においてはその取締役会の承認が必要であった(同法第365
条第1項)のに,取締役会の承認を得ていないので無効(甲社に効果不帰属)である,②
本件連帯保証契約は,多額の借財(同法第362条第4項第2号)又は重要な業務執行(同
項柱書)に該当し,取締役会設置会社である甲社においてはその取締役会によって決定さ
れなければならなかったのに,取締役会によって決定されていないので無効(甲社に効果
不帰属)であるなどと主張して,本件連帯保証契約に基づく債務の履行を拒絶することが
考えられる。なお,甲社としては,上記①及び②のいずれかの主張が認められれば,上記
債務の履行を拒絶することができることになる。
⑵ 甲社の上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,本件連帯保証契約が間接取引に該当
するものであるにもかかわらず,甲社の取締役会の承認がないことを指摘した上で,取締
役会の承認がない間接取引の効力について,判例(最判昭和43年12月25日民集22
巻13号3511頁)を踏まえて検討することが求められる。
⑶ 続いて,甲社の上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,甲社の財務状況や本
件連帯保証契約に係る主債務の額等の本問の事実関係に照らし,多額の借財又は重要な業
務執行に当たるか否かを検討することが求められる。本問の事実関係からすると,これら
に当たると判断することが一般的であると考えられることから,更に進んで,甲社の取締
役会によって決定されていないことを指摘した上で,その場合の効力について,判例(最
判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)を踏まえて検討することになる。
⑷ 上記①及び②の主張のいずれにおいても,判例の立場に立って検討する場合には,本件
連帯保証契約の相手方である乙社の主観面の検討が必要となる。まずは,本件連帯保証契
約を締結することが間接取引に該当することや,多額の借財又は重要な業務執行に該当す
ることについての乙社の認識を検討することになるが,前者については,本件連帯保証契
約の内容からして乙社の悪意が認められるのが自然であろうし,後者についても,甲社の
財務状況の概要を確認したという本問の事実関係からすると,乙社の悪意が認められるの
が自然であろう。その上で,取締役会の決議がないことについて,自らが立てた規範に沿
って,過失又は重過失の有無を中心に検討することになる。その際には,取引をめぐるこ
れまでの経緯や本件連帯保証契約に関するやりとりに関する事実関係を丁寧に拾い,それ
らに対する評価を加えながら検討することが求められる。例えば,甲社との取引を望む小
さな事業会社である乙社の代表取締役としては,本件確認書が交付されたにもかかわらず
取締役会の議事録の写しを強く求めることは困難であったことなどを指摘して,過失又は
重過失がないと評価することも考えられよう。
3⑴ 設問2においては,Cとしては,名義上の引受人ではなく,実質上の引受人が株主にな
るという考え方を前提に,本件株式について,引受けの申込みなど引受契約の締結に至る
までCの主導で行われてきたこと,Cの貯金から払い込まれたこと,その発行に至る経緯
及び本件株式に係る権利を行使してきたのはCであることなどの本問の事実関係を指摘し
て,自らが実質上の引受人であって本件株式の株主であると認定されるべきであるなどと
主張することが考えられる。
⑵ Cの上記主張の当否を検討するに当たっては,まず,本問のような場合に誰を株主と認
定するのかについての考え方を検討する必要がある。すなわち,株式の申込みや引受けに
際して名義に現れた者が株主であると考えるのか(いわゆる形式説),名義が誰であるか
にかかわらず,一般私法上の法律行為の場合と同じく,実質上の引受人が株主となると考
えるのか(いわゆる実質説),といった考え方の対立がある中で,どのような考え方に立
脚するのかを検討する必要がある。
実質説に立つ場合には,本問の事実関係を拾いつつ,それらを適切に評価して結論を導
く必要がある。本問では様々な事実関係があるが,払込金額がCの貯金によって賄われた
こと,「従業員や取引先の手前,多少の株式を持っておく必要がある」や「金のことは心
配しなくていい」といったCの発言,甲社の株主総会においてAを引受人とする決議がさ
れたこと,本件株式の引受けに係る書面に記載された名義はAであったこと,Aが甲社の
役員に就任した経緯,Cが本件株式に係る権利を行使してきたことなどの各事実について,
単に事実を列挙するだけでなく,それぞれについての評価を加えた上で結論を導くことが
求められる。例えば,「金のことは心配しなくていい」というCの発言については,Aに
対して払込金額に相当する金銭を贈与する趣旨であったという方向で評価することもでき
るし,本件株式の実質的な引受人はCであって名義のみAとしたにすぎないという方向で
評価することもでき,いずれの方向であっても,自分なりに事実に対する評価を加えて結
論を導き出すことが求められる。さらに,本件株式を引き受けた時点における実質的な引
受けの意思が問題となることに意識した上で,その後の事情については当時の意思を推認
させるものであるなどの評価を加えながら検討するといったように,より実務的な観点か
らの考察が加えられていると,なお望ましい。
他方で,形式説に立つ場合には,判例(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2
448頁)が実質説を採用していると評価されていることを踏まえ,より説得的な論述が
望まれる。例えば,その根拠として,集団的関係における画一的な取扱いの必要性や,非
公開会社においては名義に現れない実質上の引受人を株主とすることによって閉鎖性を維
持することができなくなることを指摘したり,事実関係として,本件株式の引受けの申込
みをする際に提出すべき書面(会社法第203条第2項)の名義がAであることや,甲社
の株主総会において本件株式をAに発行する旨の決議がされたことを指摘したりすること
により,説得的な論述を展開することが望ましい。
4⑴ 設問3においては,Aとしては,①他の株主1名を代理人としてその議決権を行使する
ことができる旨の定款の規定(以下「本件定款規定」という。)に基づいてDの代理人で
ある弁護士Gによる議決権の行使が認められなかったこと,②丙社の内規に従って包括委
任状が提出されていたにもかかわらず,内規によって権限が制限されているFによる議決
権の行使が認められ,包括委任状に基づくAの議決権行使が認められなかったことが,そ
れぞれ決議の方法が法令に違反する場合(会社法第831条第1項第1号)に該当すると
主張することが考えられる。なお,上記①及び②のいずれについても,株主総会決議取消
しの訴えを提起したAではないD又は丙社の議決権の行使に関する事由であることから,
株主総会決議取消しの訴えにおいて他の株主に係る事由を主張できることが前提となる
し,仮に法令違反が肯定されるとすれば,「決議に影響を及ぼさないもの」(同条第2項)
には当たらず,裁量棄却はされないものと考えられることから,これらの点についても言
及されていることが望ましい。また,Aとしては,上記①及び②のいずれかが認められれ
ば,本件決議の取消しが認められることになる。
⑵ Aの上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,株主は,代理人によってその議決権を
行使することができるものとされていること(会社法第310条第1項)を前提に,他の
株主1名を代理人としてその議決権を行使することができるという本件定款規定の有効性
及び適用範囲について,判例(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁等)
を踏まえて検討することが求められる。その際には,Dの代理人であるGが弁護士である
こと,甲社が非公開会社であることなどの本問の事実関係を踏まえ,これらの事実関係が
どのように影響するのかについての考察を加えながら検討することが求められる。例えば,
Gが弁護士であるという点については,一般的には本件定款規定のような議決権の行使に
係る代理人資格の制限は有効ではあるものの,弁護士であるGが代理人とされている本問
においては適用されるべきではないといった指摘をすることが考えられる一方,職種によ
り株主総会のかく乱のおそれを個別に判断すれば,円滑な総会運営を阻害し,恣意的な判
断を招くおそれがあることを理由に,弁護士であるGにも本件定款規定は適用されるとす
る立場に立つことも考えられる。また,甲社が非公開会社であるという点については,そ
れゆえに株主ではない第三者の株主総会への参加を排除する必要があるということもでき
る一方で,本問のように株主間で対立がある場合には代理人を株主に限ることによって株
主権の代理行使の機会を実質的に奪うことになりかねないということもできるところであ
る。いずれにしても,これらの事実関係が,本件定款規定の有効性や適用範囲にどのよう
に影響するのかを具体的に考察することが望まれる。
⑶ 続いて,Aの上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,丙社の内規によれば,
甲社の株式の議決権行使については他の代表取締役であるEに委ねられることとなるが,
Fも,「副社長」ではあるものの,丙社の代表取締役であって,丙社の業務に関する一切
の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しており(会社法第349条第4項),上記内
規は,代表取締役であるFのこのような権限を内部的に制限するものであって善意の第三
者に対抗することができないということ(同条第5項)を指摘する必要がある。その上で,
上記内規による代表権の制限が第三者である甲社との関係で問題となることを前提に,本
問の事実関係を踏まえて,甲社の主観面を検討した上で結論を導くことが求められる。そ
の際には,議決権行使という集団的権利行使の場面であること,他方で,甲社が株主数の
少ない閉鎖的な非公開会社であることなどの事情がどのように影響するのかについても検
討することができれば,なお望ましい。なお,本問の事実関係からすると,Fによる議決
権の行使は,Fがその代表権を濫用したとみる余地もあり得ることから,上記の点に加え
て,そのような観点から検討を加えることも考えられるところである。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和3年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
