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令和3年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説

令3司法 民事系科目第2問(商法)商法

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,和食器の製造・販売を業とする株式会社であり,取 締役会及び監査役を置いているが,会社法上の公開会社ではなく,平成28年3月31日現在, 資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万 円であった。甲社の取締役は,Aほか3名であり,Aが代表取締役を務めている。 甲社の和食器は,伝統美の中に現代的なテイストを取り入れる点が評価され,人気が高まって いたが,甲社は,厳格な品質管理体制を有し,信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅 持していた。 2.高級食器の販売を業とする乙株式会社(取締役会を設置しておらず,株主はBのみである。以 下「乙社」という。)の代表取締役Bは,Aに対し,甲社の和食器を販売させてほしいと再三申 し入れていたが,断られていた。 3.Aは,平成28年5月頃,Bに対し,「私個人でレストランを開業するので,下見に同行して ほしい。」と頼んだ。Aは,同行したBに対し,「レストランでは甲社の和食器を利用するので, 気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか。」と持ち掛けるとともに,「こ の計画の実現には5000万円資金が足りない。」と漏らした。Bは,これを機に甲社との取引 関係を深めようと思い,前記1の事項を含む甲社の財務状況の概要をAに確認した上で,乙社と してAに5000万円を融資することとし,Aに対し,「我が社にお任せください。ただ,個人 に事業上の融資をした実績がないので,甲社の連帯保証を付けてください。」と述べたところ, Aは,「分かった。」と答えた。Bは,後日,Aに対し,「連帯保証についての甲社の取締役会 の議事録の写しをもらえれば,すぐに融資できます。」と述べた。 4.このレストラン業は,Aが甲社の事業として提案したところ,採算がとれる見通しがないこと を理由に他の取締役らに反対されたものであった。このような経緯から,Aは,甲社が連帯保証 することについて,他の取締役らの賛成を得ることはできないと考え,取締役会の議事録の写し ではなく,甲社代表取締役A名義でAの乙社に対する債務を連帯保証することについて取締役会 の承認がある旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これをBに交付することと した。 5.Aは,平成28年5月25日,Bに対し,「社内規定により,取締役会の議事録は金融機関以 外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述 べて,本件確認書を交付した。しかし,Aの言う社内規定は存在しなかった。Bは,Aが知名度 の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし,甲社の和食器を取り扱うことによ る利益が期待できる一方で,自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを 強く求めれば,Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え,これ以上の確認をせず, 乙社内で必要な手続を経た。 6.Aは,平成28年6月1日,乙社から5000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約(利息 は,年1%として1年ごとに後払いとするものとされ,最後の利息と元本の返済期日は,平成3 1年(令和元年)9月30日とされた。)を締結するとともに,甲社取締役会の承認を受けない まま,甲社を代表して,書面により,乙社との間でAの乙社に対する前記金銭消費貸借契約に基 づく債務を連帯して保証する旨の合意をした(以下「本件連帯保証契約」という。)。なお,A から甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。 7.Aは,乙社に対し,1年目の利息は支払ったものの,その後の支払を怠り,返済期日に元本の 返済もしなかった。そこで,乙社は,令和元年10月頃,甲社に対し,本件連帯保証契約に基づ く保証債務の履行を請求したが,これにより,本件連帯保証契約の存在を甲社の他の取締役らが 知ることとなった。 〔設問1〕 乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むために甲社の立場 において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。 8.甲社の設立当時の株主名簿上の株主及びその保有株式数は,Aの父親であるCが10万株,A の祖母でありCの母親でもあるDが20万株,甲社の仕入先であり創業資金を出資した丙株式会 社(以下「丙社」という。)が10万株であった。甲社では,平成24年6月開催の定時株主総 会の決議を経て新たに10万株(以下「本件株式」という。)が発行され,本件株式の株主名簿 上の株主はAであった。なお,甲社は,株券発行会社でも種類株式発行会社でもない。 9.本件株式が発行された経緯は,次のとおりであった。すなわち,Aは,平成24年3月頃,甲 社の代表取締役であったCの要請に従い,家業である甲社を継ぐため,大学卒業後に就職した会 社を辞めて実家に戻ることとした。Cは,実家に戻ったAに対し,次の株主総会でAを甲社の取 締役に就任させる予定である旨を伝え,「いずれ社長になる身として,従業員や取引先の手前, 多少の株を持っておく必要がある。金のことは心配しなくていい。」と述べたが,それ以上のや り取りはされなかった。そして,前記8の定時株主総会において,Aを取締役に選任するととも に,本件株式をAに発行する旨の決議がされたが,本件株式の発行に必要な事務手続は,Cの指 示に基づいて,甲社の総務部が進め,株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印もAが 甲社に預けていた印章を用いて総務部が行った。また,払込金額である2000万円は,全てC の貯金によって賄われた。 10.本件株式に係る剰余金配当は,C名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれ ており,これらの剰余金配当についてはCの所得としてCのみが確定申告をしていた。A及びC 宛ての株主総会の招集通知等は,Cの指示により,いずれも甲社の総務部に留め置かれ,本件株 式に係る株主総会の議決権についても,甲社の総務部が,C名義の株式に係る議決権と併せて, 会社提案に賛成するものとして事務処理がされた。Cは,平成27年6月に取締役を退任し,以 後は,Aが代表取締役の地位にあったが,前記のような事務処理は継続された。 11.Cは,令和元年10月頃,本件連帯保証契約の件を耳にし,甲社の将来を憂慮するようになり, Aに対し,「君は,しばらく代表取締役を降りたほうがよい。次の定時株主総会で私が再び取締 役に戻り,代表取締役として甲社の経営を仕切り直すから,そのように株主総会の準備を進めな さい。」と伝えたが,Aは,これに応じなかった。そこで,Cは,Aに対し,本件株式の株主の 地位はCに帰属するものであると主張したが,Aは,本件株式の株主の地位はAに帰属すると主 張して譲らなかった。 〔設問2〕 CがAに対して本件株式に係る株主の地位の確認を求める訴えを提起した場合に,C の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。 12.AとCは,令和元年12月頃,①AがCに対して一定額の解決金を支払うこと,②本件株式は Aに帰属することを確認することを内容とする和解契約を締結したが,甲社の経営をめぐる意見 の対立は続いていた。この和解契約により,甲社の株主構成は,Aが10万株,Cが10万株, Dが20万株,丙社が10万株となった。 13.甲社においては,令和2年6月,Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件を議 題とし(他の取締役の任期は満了していない。),Aを取締役に選任することを議案(以下「本 件選任議案」という。)とする定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を招集すること が取締役会において決定され,必要事項が記載された書面にて各株主に通知された。なお,甲社 の定款には「株主は,当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として,そ の議決権を行使することができる。」旨の定めがある。 14.丙社(公開会社である取締役会設置会社であり,多数の株主が存在する。)の内規においては, 総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使は,総務担当の代表 取締役専務に委ねられていた。丙社の甲社への売上げが丙社の総売上げに占める割合は0.3% 程度であり,丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の総資産に占める割合は0.1%程度で あった。本件株主総会の招集通知には,例年と同様,本件株主総会における議決権の行使その他 一切の事項について甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状用紙が同封されていた。そこで, 丙社の総務担当の代表取締役専務であるEは,例年と同様,前記包括委任状用紙に必要事項を記 載し,甲社に送った。 15.前記14の丙社の内規を知らないCは,この機会にAを甲社の経営から排除しようと考え,丙社 の営業担当の代表取締役副社長であり,大学の同窓生であるFに相談し,本件株主総会において, Cを取締役に選任する旨の修正動議を提出してこれに賛成することを示し合わせた。Fは,Eが いつものように包括委任状を提出していることを知りながら,本件株主総会に出席することをC に約束した。 16.Dは,甲社の定時株主総会に毎年出席していたが,AとCがもめていることを知り,一方にの み肩入れすることを避けるため,弁護士G(甲社の株主ではない。)に代わりに出席してもらう こととし,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項についてGに委任する旨の委任 状を作成し,Gに交付した。 17.FとGは,本件株主総会の当日,受付担当者に対し,議場への入場を求めたところ,受付担当 者は,株主名簿の記載,Fの名刺及び前記16のDのGに対する委任状を確認し,FとGを議場へ 案内した。その後,A及びCが議場に入り,Aが議事を進めようとしたところ,Cは,「Aは, 本件連帯保証契約について説明を果たす立場にもあるから,私が議長を務める。」との動議を提 出した。Aは,本件連帯保証契約の件もあることから,ひとまず父親の顔を立てようと考え,動 議に賛成し,ほかに異論もなく,Cが議長となった。 18.議長となったCは,「Gには出席資格がない。」と述べるとともに,「Fには丙社代表者とし ての出席を認めます。」と述べた。これらに対し,AとGが異論を唱えたが,Cが取り合わなか ったため,Gは,仕方なく退場した。Cが議事を進めると,Fは,本件選任議案に対する修正動 議として,Cを取締役に選任する旨の議案(以下「本件修正議案」という。)を提出した。これ を受けて,Cは,「取締役1名の選任が議題となっているので,候補者ごとに採決をするのでは なく,取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決を することとしたい。」と提案したところ,誰も異論を唱えなかった。そこで,Cがあらかじめ用 意した投票用紙と投票箱により投票が実施された。 各株主の議決権の行使状況は,次のとおりであった。すなわち,Aは,Aの議決権についてA を取締役に選任すべき旨の投票をするとともに,丙社の代理人として丙社の議決権についてAを 取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Aによる投票」欄参照。)。Cは,Cの議決権に ついてCを取締役に選任すべき旨の投票をした。Gは,退場したため,Dの代理人としてDの議 決権について投票することはできなかった。Fは,丙社の代表取締役副社長として丙社の議決権 についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Fによる投票」欄参照。)。 株主の氏名又は名称 A C D 丙社 議決権の数(万個) 10 10 20 10 取締役として選任すべき A C Aによる投票 Fによる投票 者として記載した氏名 A C 19.投票用紙の集計後,Cは,丙社の議決権の行使については,Fによる投票が有効であり,Aに よる投票が無効であることを前提に,Cが取締役として選任された旨を宣言して(以下「本件決 議」という。),本件株主総会を閉会した。 20.Fが,丙社の代表者として,本件株主総会に出席した上で本件修正議案を提出して議決権を行 使したことは,独断によるものであった。また,AもCも,前記14の内規の存在を知らなかった。 〔設問3〕 Aは,令和2年7月,本件株式の株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起し たいと考えているが,本件決議の効力を争うためにAの立場において考えられる主張及びその主 張の当否について,論じなさい。

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1

  • 甲社が履行を拒むために考えられる主張の抽出(①間接取引・②多額の借財/重要な業務執行の二本立て)4点
  • 間接取引該当性と承認機関(会社法356条1項3号・365条1項)4点・簡潔に
  • 取締役会の承認を欠く間接取引の効力(最判昭43.12.25=相対的無効説)の正確な理解7点
  • 多額の借財(362条4項2号)又は重要な業務執行(同項柱書)該当性の判断基準とあてはめ8点
  • 取締役会決議を欠く代表取締役の行為の効力(最判昭40.9.22)5点
  • 乙社の主観面の検討(悪意の対象と過失・重過失のあてはめ)5点

設問2

  • 本件株式の引受契約の当事者が誰かという問題の所在の把握と形式説・実質説の選択・理由付け10点
  • 本問の事実の摘示と評価によるCの主張の当否の判断10点
  • 判断の基準時(引受時の意思)と事後の事情の位置付け4点・簡潔に

設問3

  • 取消事由の構成(831条1項1号・決議の方法の法令違反)と二つの主張の提示5点
  • 議決権の代理行使の原則(310条1項)と代理人資格を株主に限る定款規定の有効性(最判昭43.11.1)7点
  • 本件定款規定の適用範囲とGの議決権行使拒否の当否(弁護士であること・非公開会社であることの評価)9点
  • Fの議決権行使の可否(代表権の内部的制限・349条4項5項、甲社の善意、集団的権利行使・代表権濫用)10点
  • Fの議決権行使とEから委任を受けたAの議決権行使の優劣3点・簡潔に
  • 他の株主に係る瑕疵の主張適格と裁量棄却(831条2項)4点・簡潔に

全体

  • 論理的構成・事実の評価能力・文章表現5点

出題の趣旨(法務省公表)

1 本問は,公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)において,①代表取締
役が当該株式会社を代表して当該代表取締役が個人として負う債務を連帯して保証する旨の
合意をした場合に,当該株式会社がその連帯保証債務の履行を拒絶するために考えられる法
的な主張としてどのようなものがあり,そのような主張が認められるのかを問うとともに(設
問1),②誰が株主であるかが争われている場合に,具体的な事実関係の下でどのように株
主を認定すべきか(設問2),③議決権の行使を委任することができる代理人を株主に限る
旨の定款の規定がある場合に株主ではない弁護士が代理人として議決権を行使することの可
否や,株主である株式会社の代表取締役がその内部的制限に反して当該株式会社を代表して
議決権を行使することの可否といった株主総会における議決権行使の在り方(設問3)を問
うものである。いずれについても,会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前
提に,問題点を適切に分析した上で,具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができ
るか否かを問うものである。
2⑴ 設問1においては,甲社としては,①Aが甲社の代表取締役として締結した本件連帯保
証契約は,利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第3号)に該当し,取
締役会設置会社である甲社においてはその取締役会の承認が必要であった(同法第365
条第1項)のに,取締役会の承認を得ていないので無効(甲社に効果不帰属)である,②
本件連帯保証契約は,多額の借財(同法第362条第4項第2号)又は重要な業務執行(同
項柱書)に該当し,取締役会設置会社である甲社においてはその取締役会によって決定さ
れなければならなかったのに,取締役会によって決定されていないので無効(甲社に効果
不帰属)であるなどと主張して,本件連帯保証契約に基づく債務の履行を拒絶することが
考えられる。なお,甲社としては,上記①及び②のいずれかの主張が認められれば,上記
債務の履行を拒絶することができることになる。
⑵ 甲社の上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,本件連帯保証契約が間接取引に該当
するものであるにもかかわらず,甲社の取締役会の承認がないことを指摘した上で,取締
役会の承認がない間接取引の効力について,判例(最判昭和43年12月25日民集22
巻13号3511頁)を踏まえて検討することが求められる。
⑶ 続いて,甲社の上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,甲社の財務状況や本
件連帯保証契約に係る主債務の額等の本問の事実関係に照らし,多額の借財又は重要な業
務執行に当たるか否かを検討することが求められる。本問の事実関係からすると,これら
に当たると判断することが一般的であると考えられることから,更に進んで,甲社の取締
役会によって決定されていないことを指摘した上で,その場合の効力について,判例(最
判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)を踏まえて検討することになる。
⑷ 上記①及び②の主張のいずれにおいても,判例の立場に立って検討する場合には,本件
連帯保証契約の相手方である乙社の主観面の検討が必要となる。まずは,本件連帯保証契
約を締結することが間接取引に該当することや,多額の借財又は重要な業務執行に該当す
ることについての乙社の認識を検討することになるが,前者については,本件連帯保証契
約の内容からして乙社の悪意が認められるのが自然であろうし,後者についても,甲社の
財務状況の概要を確認したという本問の事実関係からすると,乙社の悪意が認められるの
が自然であろう。その上で,取締役会の決議がないことについて,自らが立てた規範に沿
って,過失又は重過失の有無を中心に検討することになる。その際には,取引をめぐるこ
れまでの経緯や本件連帯保証契約に関するやりとりに関する事実関係を丁寧に拾い,それ
らに対する評価を加えながら検討することが求められる。例えば,甲社との取引を望む小
さな事業会社である乙社の代表取締役としては,本件確認書が交付されたにもかかわらず
取締役会の議事録の写しを強く求めることは困難であったことなどを指摘して,過失又は
重過失がないと評価することも考えられよう。
3⑴ 設問2においては,Cとしては,名義上の引受人ではなく,実質上の引受人が株主にな
るという考え方を前提に,本件株式について,引受けの申込みなど引受契約の締結に至る
までCの主導で行われてきたこと,Cの貯金から払い込まれたこと,その発行に至る経緯
及び本件株式に係る権利を行使してきたのはCであることなどの本問の事実関係を指摘し
て,自らが実質上の引受人であって本件株式の株主であると認定されるべきであるなどと
主張することが考えられる。
⑵ Cの上記主張の当否を検討するに当たっては,まず,本問のような場合に誰を株主と認
定するのかについての考え方を検討する必要がある。すなわち,株式の申込みや引受けに
際して名義に現れた者が株主であると考えるのか(いわゆる形式説),名義が誰であるか
にかかわらず,一般私法上の法律行為の場合と同じく,実質上の引受人が株主となると考
えるのか(いわゆる実質説),といった考え方の対立がある中で,どのような考え方に立
脚するのかを検討する必要がある。
実質説に立つ場合には,本問の事実関係を拾いつつ,それらを適切に評価して結論を導
く必要がある。本問では様々な事実関係があるが,払込金額がCの貯金によって賄われた
こと,「従業員や取引先の手前,多少の株式を持っておく必要がある」や「金のことは心
配しなくていい」といったCの発言,甲社の株主総会においてAを引受人とする決議がさ
れたこと,本件株式の引受けに係る書面に記載された名義はAであったこと,Aが甲社の
役員に就任した経緯,Cが本件株式に係る権利を行使してきたことなどの各事実について,
単に事実を列挙するだけでなく,それぞれについての評価を加えた上で結論を導くことが
求められる。例えば,「金のことは心配しなくていい」というCの発言については,Aに
対して払込金額に相当する金銭を贈与する趣旨であったという方向で評価することもでき
るし,本件株式の実質的な引受人はCであって名義のみAとしたにすぎないという方向で
評価することもでき,いずれの方向であっても,自分なりに事実に対する評価を加えて結
論を導き出すことが求められる。さらに,本件株式を引き受けた時点における実質的な引
受けの意思が問題となることに意識した上で,その後の事情については当時の意思を推認
させるものであるなどの評価を加えながら検討するといったように,より実務的な観点か
らの考察が加えられていると,なお望ましい。
他方で,形式説に立つ場合には,判例(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2
448頁)が実質説を採用していると評価されていることを踏まえ,より説得的な論述が
望まれる。例えば,その根拠として,集団的関係における画一的な取扱いの必要性や,非
公開会社においては名義に現れない実質上の引受人を株主とすることによって閉鎖性を維
持することができなくなることを指摘したり,事実関係として,本件株式の引受けの申込
みをする際に提出すべき書面(会社法第203条第2項)の名義がAであることや,甲社
の株主総会において本件株式をAに発行する旨の決議がされたことを指摘したりすること
により,説得的な論述を展開することが望ましい。
4⑴ 設問3においては,Aとしては,①他の株主1名を代理人としてその議決権を行使する
ことができる旨の定款の規定(以下「本件定款規定」という。)に基づいてDの代理人で
ある弁護士Gによる議決権の行使が認められなかったこと,②丙社の内規に従って包括委
任状が提出されていたにもかかわらず,内規によって権限が制限されているFによる議決
権の行使が認められ,包括委任状に基づくAの議決権行使が認められなかったことが,そ
れぞれ決議の方法が法令に違反する場合(会社法第831条第1項第1号)に該当すると
主張することが考えられる。なお,上記①及び②のいずれについても,株主総会決議取消
しの訴えを提起したAではないD又は丙社の議決権の行使に関する事由であることから,
株主総会決議取消しの訴えにおいて他の株主に係る事由を主張できることが前提となる
し,仮に法令違反が肯定されるとすれば,「決議に影響を及ぼさないもの」(同条第2項)
には当たらず,裁量棄却はされないものと考えられることから,これらの点についても言
及されていることが望ましい。また,Aとしては,上記①及び②のいずれかが認められれ
ば,本件決議の取消しが認められることになる。
⑵ Aの上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,株主は,代理人によってその議決権を
行使することができるものとされていること(会社法第310条第1項)を前提に,他の
株主1名を代理人としてその議決権を行使することができるという本件定款規定の有効性
及び適用範囲について,判例(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁等)
を踏まえて検討することが求められる。その際には,Dの代理人であるGが弁護士である
こと,甲社が非公開会社であることなどの本問の事実関係を踏まえ,これらの事実関係が
どのように影響するのかについての考察を加えながら検討することが求められる。例えば,
Gが弁護士であるという点については,一般的には本件定款規定のような議決権の行使に
係る代理人資格の制限は有効ではあるものの,弁護士であるGが代理人とされている本問
においては適用されるべきではないといった指摘をすることが考えられる一方,職種によ
り株主総会のかく乱のおそれを個別に判断すれば,円滑な総会運営を阻害し,恣意的な判
断を招くおそれがあることを理由に,弁護士であるGにも本件定款規定は適用されるとす
る立場に立つことも考えられる。また,甲社が非公開会社であるという点については,そ
れゆえに株主ではない第三者の株主総会への参加を排除する必要があるということもでき
る一方で,本問のように株主間で対立がある場合には代理人を株主に限ることによって株
主権の代理行使の機会を実質的に奪うことになりかねないということもできるところであ
る。いずれにしても,これらの事実関係が,本件定款規定の有効性や適用範囲にどのよう
に影響するのかを具体的に考察することが望まれる。
⑶ 続いて,Aの上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,丙社の内規によれば,
甲社の株式の議決権行使については他の代表取締役であるEに委ねられることとなるが,
Fも,「副社長」ではあるものの,丙社の代表取締役であって,丙社の業務に関する一切
の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しており(会社法第349条第4項),上記内
規は,代表取締役であるFのこのような権限を内部的に制限するものであって善意の第三
者に対抗することができないということ(同条第5項)を指摘する必要がある。その上で,
上記内規による代表権の制限が第三者である甲社との関係で問題となることを前提に,本
問の事実関係を踏まえて,甲社の主観面を検討した上で結論を導くことが求められる。そ
の際には,議決権行使という集団的権利行使の場面であること,他方で,甲社が株主数の
少ない閉鎖的な非公開会社であることなどの事情がどのように影響するのかについても検
討することができれば,なお望ましい。なお,本問の事実関係からすると,Fによる議決
権の行使は,Fがその代表権を濫用したとみる余地もあり得ることから,上記の点に加え
て,そのような観点から検討を加えることも考えられるところである。

参考答案と AI 採点

第1 設問1 1 主張①——利益相反取引(間接取引)の規制違反 (1) 本件連帯保証契約は、取締役Aの乙社に対する債務を甲社が保証するものであり、会社法356条1項3号の間接取引に…

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出典:法務省「令和3年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。