令和3年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
規制①
- 匿名表現の自由の憲法上の保障(21条1項)と集団行進の自由の位置付け10点
- 規制①による制約の態様の分析(内容中立性・間接的付随的規制・萎縮効果)9点
- 合憲性の判断枠組みの定立と理由付け7点
- 目的・手段のあてはめ(広汎性、「正当な理由」の運用、より制限的でない手段)10点
- 参考判例への言及と事案の異同4点・簡潔に
規制②
- 制約される権利の多角的・複眼的特定(結社の自由/表現の自由/プライバシーの権利、団体と構成員)12点
- 制約の態様の具体的分析(公開情報であること/萎縮効果/継続的・網羅的収集)10点
- 規制②の合憲性判断枠組みの設定7点
- 立法目的の検討(活動把握+団体の活動の萎縮という狙い)6点
- 団体指定要件(過去5年・10%基準・構成員の範囲・期間)の合理性9点
- 報告義務の必要性・合理性のあてはめ(対象範囲・頻度・情報提供・より制限的でない手段)9点
全体
- 論述の構成・バランス・反対立場への言及・表現7点
出題の趣旨(法務省公表)
1.本問は,匿名表現の自由の制約(規制①),結社の自由,団体とその構成員の表現の自由・
プライバシーの権利の制約(規制②)の可否を問うものである。
規制①は,集団行進(集団示威運動を含む)における公共の安全を害する行為の抑止を目
的に,行進参加者が覆面や仮面等で顔を隠し容貌の確認を困難にする行為を禁止するもので
ある。単に,集団行進への参加の態様の制約にとどまらず,匿名での表現の制約という問題
を含むことに留意する必要がある。
規制②は,公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,そのような行為を助長する
団体の活動を把握し,集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするという目的のもと,
集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観察対
象として指定するとともに,当該団体がその活動のために利用している機関紙,ウェブサイ
ト,SNSのアカウント等について,報告を義務付けるものである。また,上記の目的に加
えて,団体の活動を観察対象とすることで,団体の表現活動を抑止しようという狙いもうか
がえる。かかる措置は,結社の自由,団体の表現活動・プライバシーの制約に加えて,その
構成員の表現活動・プライバシーをも制約するものとなっている。
2.規制①については,匿名で表現を行うことがどこまで憲法第21条で保障されるのかを踏
まえておく必要がある。匿名表現の自由は,基本書などでは必ずしも正面から論じられてい
ない。しかし,憲法第21条第1項は,特に限定を付することなく幅広い表現行為を保障し
ており,本問で問題となる表現行為についても,顕名であるか匿名であるかを問わず,保障
されているとみることができよう。表現の匿名性は,発信者情報開示の仕組みなどに関連し
て,インターネット上の表現をめぐり議論となっている点でもあり,その意義や問題を意識
して立論することは十分に可能であろう。表現者が特定されない匿名での表現には,弱い立
場の者であっても,社会的圧力にさらされやすい表現行為を萎縮せずに行い得るといったメ
リットがあり,表現の自由として保護する価値は高いと言える。他方で,顕名であれば行わ
ないような,他者の権利を侵害する行為や違法行為などがなされるおそれもある。以上のよ
うな問題の所在が把握できていれば,匿名表現という言葉を使っていなくとも差し支えない。
匿名表現を正面から扱った最高裁判所の判例はないが,報道関係者の取材源の秘匿について,
情報提供者の匿名性に配慮した判断を行っている決定(最決平成18年10月3日民集60
巻8号2647頁)がある。
規制①では,集団行進における匿名表現の規制が問題となっている。集団行進の自由は,
「動く集会」とみれば「集会の自由」の内容として,あるいは「その他一切の表現の自由」
の一つとして,位置付けることができる。集団行進の規制については,公安条例による集団
示威運動の規制をめぐる判決(新潟県公安条例事件,最大判昭和29年11月24日刑集8
巻11号1866頁)や,市民会館の利用拒否をめぐり「明らかな差し迫った危険の発生が
具体的に予見される」ことが必要だとした判決(泉佐野市民会館事件,最判平成7年3月7
日民集49巻3号687頁)などが想起されよう。
規制①は,集団行進について不許可としたり条件を付したりするものではない。また,顔
を隠す行為自体には,特定のメッセージは込められていないとされており,その限りでは,
表現内容に着目した規制が問題になるわけではない。集団行進への参加の態様の規制であり,
ひとまずは,内容中立的な規制とみることができよう。ただし,匿名での集団行進への参加
が禁止されており,上記の匿名表現の意義を考えれば,社会的圧力にさらされやすい表現行
為に対して強い萎縮効果を及ぼす規制となっている。それだけに,規制①の憲法適合性の判
断に当たっては,匿名表現の意義を踏まえた慎重な検討が必要となる。
全国の大規模なデモで暴力行為が頻発し,現実に身体や財産が侵害される事態が生じてい
ることからすると,上記の立法目的は重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうと言え
よう。
一方,この目的を達成するために採られる措置は,暴力行為が発生する蓋然性などを考慮
せず,暴力行為を行っている者や行うおそれが高い者だけでなく,平穏に集団行進に参加し
ている者に対してまで一律に顔を隠す行為を禁止している。かなり広範囲な規制であり,ま
た,その萎縮効果も無視できない。「正当な理由」がある場合には顔を隠すことが許される
が,その運用のいかんでは,過剰な規制ともなり得る。
これに対して,表現内容に着目した規制ではなく集団行進への参加の一態様を規制するに
すぎない,顔を隠さなくてもメッセージは十分に伝達可能であり,集団行進において匿名で
の表現行為を保障する必要性は高くない,といった点を強調した議論を行うことも考えられ
る。いわゆるデモ隊暴徒化論(東京都公安条例事件,最大判昭和35年7月20日刑集14
巻9号1243頁)などを援用し,規制①の必要性を根拠付けることもできる。
3.規制②では,団体の指定の要件,報告義務を課すこと、さらには観察処分それ自体の合憲
性が問題となるが,それらは一体をなしているから,適切な判断枠組みを設定する前提とし
て,規制②全体からどのような憲法上の権利の制約が生じているかを,まずは検討すること
になろう。制約される権利としては,結社の自由,表現の自由,プライバシーの権利が考え
られる。これら3つの権利の制約を論じる際には,いくつかの構成があり得る。例えば,規
制対象となるのは表現活動を行っている団体であるから,表現活動の制約を結社の自由の制
約として論じ,それと関連付けて,あるいはそれとは独立に,団体のプライバシーの権利の
制約を論じることが可能である。あるいは,結社の自由それ自体の制約ではなく,団体の表
現の自由・プライバシーの権利の制約を論ずることもあり得る。さらに,観察処分を受ける
こと自体が,団体の表現の自由・プライバシーの権利の制約には解消されない団体の活動の
制約を含むとみるならば,結社の自由の制約を,他の2つの権利の制約とは別に検討するこ
とになろう。
結社の自由の制約が問題となる立法としては,破壊活動防止法や,無差別大量殺人行為を
行った団体を対象としたいわゆる団体規制法がある。後者は,規制②と同様の観察処分につ
いて定めており,下級審ではあるが,同法の合憲性をめぐる裁判例(東京地判平成13年6
月13日判時1755号3頁)が本問でも参考となる。ただし,本問の法律案の骨子との違
いには留意する必要がある。本問で規制対象となっている団体の危険性は,団体規制法が対
象とする団体と比べると,決して高いとは言えない。規制の仕組みも異なっている。
報告義務の対象となるのは,誰もが閲覧可能な表現に係るものである。しかし,団体の名
義が直接用いられていない場合には,報告によって,団体の構成員が特定されたり、あるい
はその可能性が高まったりすることになる。また,観察処分を受け報告義務を課されること
が,萎縮効果を生じさせ,団体による表現活動の抑制につながる可能性もある。なお,個人
が利用しているウェブサイトやSNSのアカウントも,団体の活動に用いられている場合に
は報告の対象となるので,構成員の表現の自由やプライバシーの権利を制約する側面もある。
ウェブサイト,SNS等には,団体の主張や構成員の思想信条など,個人の内面に関わる
情報が含まれ得る。公権力によるこれらの情報の収集は,団体及びその構成員双方のプライ
バシーの権利の制約となり得る。プライバシーの意義や保護範囲をめぐっては,前科照会事
件(最判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁),指紋押捺訴訟(最判平成7年1
2月15日刑集49巻10号842頁),住基ネット訴訟(最判平成20年3月6日民集6
2巻3号665頁)などの判決を参考として,立論することが期待される。
本問の法律案の骨子は,誰もが閲覧可能な表現に関して報告義務を課するにとどまり,団
体規制法にある立入検査や構成員氏名等の報告義務は含んでおらず,規制態様は必ずしも強
くないとみることもできる。また,団体規制法と同様に,団体の政治的主張などではなく,
専ら公共の安全に対する団体の危険性に着目した規制である。一方で,誰もが閲覧可能なウ
ェブサイトやSNS等が対象とはいえ,観察処分を受け,報告義務を課されることで,上記
のように,団体や構成員の表現活動に対し無視できない影響が生じ得る。また,個人の内面
に関わる情報が収集され,団体及び構成員の活動が把握され得る。
上記のような問題となる権利の重要性,制約の態様などを考慮して,規制②の憲法適合性
を判断する適切な判断枠組みを設定する必要がある。
規制②の目的は,公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,そのような行為を助
長する団体の活動を把握し,集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするというもの
であり,規制①と同様に,重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうものと言えよう。
目的達成の手段としては,まず,団体の指定の要件が問題となる。規制②では,過去5年
間に公共の安全を害する行為で処罰された者の比率という客観的な指標を基準として,実際
に問題を起こしている団体が規制対象となるような仕組みが採られている。規制対象が一定
の危険性がある団体のみに絞り込まれているとみることもできる。しかし,ここで問題とな
る団体は,組織の外延が曖昧であり,構成員の把握は決して容易ではない。規制目的を達成
する手段としての実効性には疑問も残る。また,過去5年間の行為を問題としていること,
処分期間が最長で1年に及ぶことから,現在は危険性が低い団体が指定対象となる可能性が
ある。
報告義務の対象となるのは,誰もが閲覧可能な機関紙,ウェブサイト,SNS等の情報に
とどまる。とはいえ,団体の活動に用いられている媒体について幅広く,また1か月ごとの
報告が義務付けられており,団体や構成員のプライバシーに係る情報が,継続的かつ網羅的
に収集され,把握されているという点には留意する必要がある。継続的・網羅的な情報収集
の問題をめぐっては,GPS捜査に関する判決(最大判平成29年3月15日刑集71巻3
号13頁)が参考となろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和3年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
