令和2年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は,60:40〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- Bが提起すべき訴えの特定(新株発行無効の訴え・会社法828条1項2号)と提訴期間、株主総会決議取消しの訴えとの関係8点
- 本件決議2の招集手続の法令違反(299条2項2号・4項、298条1項、会社法施行規則63条7号ホ)と831条1項1号7点
- 全員出席総会による瑕疵の治癒の可否(最判昭和60年12月20日)8点
- 本件株式発行が有利発行(199条3項、201条1項参照)に該当すること4点・簡潔に
- 有利発行を必要とする理由の説明(199条3項)の欠缺・虚偽説明と決議方法の法令違反/著しい不公正(831条1項1号)9点
- 本件決議2の取消事由が本件株式発行の無効原因となるか(最判平成24年4月24日、最判昭和46年7月16日、最判平成9年1月28日)13点
- 本件決議1(定款変更)の取消事由と、定款の定めのない種類の株式の発行が無効原因となるか8点
設問2(1)
- 本件株式併合によるPの議決権割合の縮減と少数株主権の制約6点
- 優先配当額の総額の半減等の経済的不利益6点
設問2(2)
- 反対株主の株式買取請求(116条1項3号イ、同条2項)9点
- 株式の併合の差止請求(182条の3)と差止事由(法令違反)の構成10点
- 本件決議3の取消しの訴え(831条1項3号)の提起とその意義7点
全体
- 論理的構成・論述のバランス・文章表現5点
出題の趣旨(法務省公表)
1 本問は,①公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)が募集株式の発行等
をする場合にどのような手続が要求されるか,それらの手続に瑕疵があることが当該募集株
式の発行等の効力にどのような影響を及ぼすか,及び募集株式の発行等の無効をどのような
訴えにより主張すべきかについての理解等を問う(設問1)とともに,②会社が特定の種類
の株式のみを対象として株式の併合をしようとする場合に,当該種類株式の株主とその他の
種類株式の株主がどのような利害状況に置かれるのか,及び不利益を受けるおそれのある種
類株式の株主の事前の法的救済方法としてどのようなものが考えられるかの理解等を問う
(設問2)ものである。いずれの点についても,会社法上の重要な規定・制度及び重要な判
例に関する基礎的な理解を有していることを前提に,それを本問の事案に適切に応用するこ
とができるか否かが試されている。
2⑴ 設問1においては,Bは,①議決権のある剰余金配当優先株式(本件優先株式)の発行
(本件株式発行)を行う旨の議案(本件議案2)に関する甲社の定時株主総会(本件定時
総会)の決議(本件決議2)には,取消事由があり,非公開会社において,募集事項を決
定する株主総会の決議に取消事由があることは,本件株式発行の無効原因に該当すると主
張すること,及び②本件優先株式の内容等の所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案
(本件議案1)に関する本件定時総会の決議(本件決議1)には,取消事由があるため,
本件株式発行は定款の定めのない種類の株式の発行となり,これは本件株式発行の無効原
因に該当すると主張することが考えられる。
⑵ そして,令和2年5月14日の時点では,本件株式発行の効力が生じているため,Bは,
例えば,新株発行の無効の訴え(会社法第828条第1項第2号)を提起し,本件株式発
行の無効原因として,上記⑴①及び②のとおり主張することが考えられる。
これらのことを論述する際には,本問においては,⒜新株発行の無効の訴えの提訴期間
(非公開会社にあっては,株式の発行の効力が生じた日から1年以内。会社法第828条
第1項第2号)が経過していないこと,さらに,⒝株式の発行の無効原因として,株主総
会の決議の取消事由を主張する場合には,当該決議の取消しの訴えの提訴期間内(株主総
会の決議の日から3か月内。同法第831条第1項柱書き前段)に,新株発行の無効の訴
えを提訴しなければならないとする立場に立つときは,その提訴期間も経過していないこ
とにも言及することが求められる。
⑶ Bの上記⑴①の主張の当否を論ずるに当たっては,本問において,甲社は取締役会設置
会社であるから,株主総会の招集通知には,株主総会の日時及び場所のみならず,株主総
会の目的である事項及び払込金額が募集株式の引受人に特に有利な金額である場合(いわ
ゆる有利発行の場合)における募集株式を引き受ける者の募集に係る議案の概要を記載し
なければならなかったにもかかわらず(会社法第299条第2項第2号,第4項,第29
8条第1項,会社法施行規則第63条第7号ホ),本件定時総会の招集通知(本件招集通
知)には,株主総会の日時及び場所のみを記載していたため,本件決議2には,株主総会
の招集の手続の法令違反という株主総会の決議の取消事由があること(同法第831条第
1項第1号)を指摘した上で,いわゆる全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否
かについて,判例(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)等も踏まえ,
検討することが求められる。
また,有利発行の場合には,取締役は株主総会の決議に際して有利発行を必要とする理
由を説明しなければならず(会社法第199条第3項),それを欠くことは,株主総会の
決議の方法の法令違反という取消事由(同法第831条第1項第1号)に該当するところ,
本問において,甲社の取締役Cは,本件決議2に際し,2億円の資金調達が急務であり,
そのためには,事実上,本件株式発行以外に選択肢がないことを説明する一方で,2万円
という払込金額が公正な払込金額である旨の虚偽の説明をしており,株主Bは本件株式発
行が有利発行であることを認識することができていないため,果たして取締役Cは有利発
行を必要とする理由を説明したものと評価することができるか,あるいは仮にそのような
評価が可能であるとした場合であっても,株主の議決権行使に重要な影響を及ぼす事項に
ついて虚偽の説明をして,本件決議2を成立させているため,決議方法の著しい不公正と
いう取消事由(同号)が認められないかといった点について,検討することが求められる。
さらに,本件決議2に取消事由が認められると解する場合には,例えば,「非公開会社
については,その性質上,会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益〔支
配的利益〕の保護を重視し,その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救
済するというのが会社法の趣旨と解されるのであり,非公開会社において,株主総会の特
別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行
手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は上記株式発行の無効原因になる」とする判例
(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁。なお,公開会社については「株
式会社の代表取締役が新株を発行した場合には,右新株が,株主総会の特別決議を経るこ
となく,株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても,
その瑕疵は,新株発行無効の原因とはならない」とする最判昭和46年7月16日集民1
03号407頁を参照。非公開会社については最判昭和46年7月16日の射程は及ばな
いと解される。)を踏まえ,本問のように,募集事項を決定する株主総会の決議を経てい
る場合であっても,本件決議2に上記のような取消事由があると解するときは,既存株主
の意思に反してその支配的利益が害されているといえるか否かについて,事案に即して検
討した上で,本件株式発行に無効原因が認められると解すべきか否かを論ずることが求め
られる。加えて,Bには,有利発行である本件株式発行を差し止める機会が実質的に与え
られなかったことも考慮して,本件株式発行に無効原因があると認められるか否かを論じ
ることも考えられる(最判平成9年1月28日民集51巻1号71頁を参照)。
⑷ Bの上記⑴②の主張の当否を論ずるに当たっても,上記⑶と同様に,本件決議1には,
株主総会の目的である事項及び定款の変更に係る議案の概要の記載がないという株主総会
の招集の手続の法令違反があり,そのことが株主総会の決議の取消事由に該当すること(会
社法第831条第1項第1号)を指摘した上で,いわゆる全員出席総会による瑕疵の治癒
が認められるか否かについて,判例(前掲最判昭和60年12月20日)等も踏まえ,検
討することが求められる。
そして,本件決議1に取消事由が認められると解する場合には,本件株式発行が定款の
定めのない種類の株式の発行に該当し,これが本件新株発行の無効原因に該当すると認め
られるか否かについて,検討することが求められる。
3 設問2⑴においては,本件優先株式のみを対象とする株式の併合(本件株式併合)の効力
の発生によって,本件優先株式の株主であるPは,その保有する本件優先株式の数が半減す
るため,①株主総会における議決権の割合が大幅に縮減することになること,②優先配当額
の総額も半減することになることなどについて,説明することが求められる。その際には,
Pの議決権割合がどれほど縮減することになるかを具体的に算定した上で,Pは,本件株式
併合の効力の発生前には有していた一定の少数株主権も行使することができなくなることに
言及したり,本件優先株式には累積条項が付されていることなどに鑑みると,優先配当額の
総額の縮減によってPが受ける不利益は比較的大きいと考えられることに言及したりするな
ど,より深い分析を示すことができていれば,なお望ましい。
4 設問2⑵においては,Pは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,会社法上の手段とし
て,①反対株主の株式買取請求をすること(会社法第116条第1項第3号イ),②本件株
式併合について,差止請求をすること(同法第182条の3),③本件優先株式のみを2株
につき1株の割合で併合すること等について定める議案(本件議案3)に関する甲社の臨時
株主総会(本件臨時総会)の決議(本件決議3)について,株主総会の決議の取消しの訴え
を提起することなどが考えられる。
⑴ Pは,種類株主総会の決議を要しない旨の会社法第322条第2項の定めがある本件に
おいては,反対株主の株式買取請求をすることができる。Pが反対株主の株式買取請求を
することについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及び本問におけるその他の事実関
係を踏まえ,反対株主の株式買取請求の要件が満たされているか否か,例えば,本件優先
株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるか否か(同法第116条第1項第3号柱書き)や,
「反対株主」に該当するか否か(同条第2項)などにも言及することが求められる。
⑵ Pが株式の併合の差止請求をすることについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及
び本問におけるその他の事実関係を踏まえ,取り分け差止事由が認められるか否かについ
て検討することが求められる。
この点に関する解釈としては様々なものがあり得るところであり,例えば,①甲社が本
件優先株式を発行する前に発行していた株式(本件普通株式)の株主は本件株式併合によ
って他の株主と共通しない特別の利益を得るため,株主総会の決議について特別の利害関
係を有する者に該当し,かつ,本件株式併合は専ら本件優先株式の株主の優先配当権を実
質的に縮減することを目的とするため,本件決議3は著しく不当な決議に該当することか
ら,本件決議3には,取消事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められ,こ
れが(瑕疵のない株主総会の決議による決定を求める)同法第180条第2項に違反し,
差止事由である法令違反(同法第182条の3)が認められるといった解釈が考えられる。
また,②優先株主の優先配当権の実質的な縮減を目的とする不当な株式併合であって権利
濫用の法令違反があるとして,差止事由である法令違反が認められるという解釈も考えら
れる。さらに,③取締役の善管注意義務を定める一般的な規定(同法第330条,民法第
644条)も会社法第182条の3にいう「法令」に含まれるとする理解を前提に,取締
役は善管注意義務の一内容として株主間の不当な利益移転を生じさせないようにする義務
を負うところ,本問では,このような義務の違反があるため,差止事由である法令違反が
認められるとする解釈も考えられる。なお,④①から③までのように本件決議3に取消事
由があるとしても,実際に本件決議3が取り消されない限りは,差止事由である法令違反
があるとは認められないとする解釈も考えられる。
⑶ Pが本件決議3の取消しの訴えの提起をすることについて論ずるに当たっては,仮に本
件決議3が取り消された場合には,これによって本件株式併合も無効となると解されるた
め,本件決議3の取消しの訴えの提起をすることは,本件株式併合の効力が発生した後に,
本件株式併合の無効を主張する前提となることに言及するなど,まずは,本件株式併合の
効力の発生前の時点で,本件決議3の取消しの訴えを提起することの意義を明らかにする
ことが望ましい。
その上で,本問における事実関係を踏まえ,本件決議3に取消事由が認められるか否か,
例えば,上記⑵における①から③までの解釈と同様の解釈により,本件決議3には,取消
事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められるか否かなどについて検討する
ことが求められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和2年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
