令和2年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
規制①
- 制約される権利の特定と職業の自由の意義・特性(22条1項)8点
- 規制の強度の分析(職業選択か職業遂行か・参入要件の性質)10点
- 立法目的の特定と積極目的・消極目的の区別(主目的と副次的目的)10点
- 審査基準の定立(判例の枠組みと立法裁量)12点
- 公衆浴場判例との類似性・バス事業の特殊性を踏まえた検討8点
- 手段審査のあてはめ(目的促進性・必要性・より緩やかな手段)12点
規制②
- 自家用車による移動の自由の憲法上の位置付け(22条1項か13条か)10点
- 権利の性質・制約の態様を踏まえた審査基準の定立10点
- 手段の必要性・合理性のあてはめ12点・簡潔に
- 合憲限定解釈ないし適用違憲の可能性への言及3点・簡潔に
全体
- 論理的構成・判例の活用・文章表現5点
出題の趣旨(法務省公表)
1.本年の問題は,職業の自由及び移動の自由に対する制約の可否を問うものである。
規制①は,生活路線バスを運行する乗合バス事業者にのみ高速路線バスの運行を認めるも
のであるため,専ら高速路線バスのみを運行してきた乗合バス事業者の職業の自由を制約す
ることになる。同時に,規制①は,生活路線バスへの新規参入について,既存の生活路線バ
スを運行する乗合バス事業者の経営の安定を害さない場合に限り,認めるものとしている。
また,規制②は,特定の渋滞区域について,域外からの自家用車の乗り入れを原則として
禁止するものであるため,当該区域の住民以外の者の移動の自由を制約することになる。
2.規制①については,規制の強度,規制の目的,生活路線バス事業の特徴等を踏まえて審査
基準を定立し,規制の憲法適合性について検討することが求められる。この点については,
薬事法事件判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)が参考になる。同
判決によれば,職業は,個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであるが,その一
方で,社会的相互関連性が大きいため,殊に精神的自由と比して公権力による規制の要請が
強い。職業活動には,種々の目的から立法府の合理的な裁量判断による種々の規制が加えら
れるため,規制措置の憲法適合性については,これを一律に論ずることはできないが,立法
裁量には事の性質上,自ずと広狭があるとされる。同判決は,一般に許可制は職業の自由に
対する強力な制限であるから,それが合憲とされるためには重要な公共の利益のために必要
かつ合理的な措置であることを要するとしている。また,許可制による規制が消極目的から
採られた場合には,許可制に比べて職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の
内容及び態様に対する規制によっては目的を十分に達成することができないと認められるこ
とを要するとされる。
規制①は,バス事業を一つの職業として見た場合,形式的には職業遂行の自由に対する制
約にとどまるとも解し得るが,専ら高速路線バスのみを運行してきた乗合バス事業者にとっ
ては,狭義の職業選択の自由に対する制約に等しいとも言える。取り分け,本問においては,
生活路線バスへの参入に対して申請者の能力や資質とは無関係の要件が設けられているた
め,新規参入が事実上,極めて困難であることにも注意しなければならない。
また,規制①の目的として,地域の公共交通の維持と,高齢者の運転ミスからの高齢者自
身及び第三者の身体・生命の保護が挙げられている。そのため,規制の主目的と副次的目的
の区別が可能であるかどうか,また,可能であるとした場合,どちらが主目的であるのかの
検討も求められよう(前掲薬事法事件判決参照)。その上で,主たる目的が地域の公共交通
の維持であると解する場合,積極目的であることを理由に,広い立法裁量を認めるべきであ
ると論じることも可能である(小売市場事件判決〔最大判昭和47年11月22日刑集26
巻9号586頁〕参照)。一方,学説においては,積極目的であるからといって審査基準を
極端に緩和すべきではなく,強力な制限については立法事実を踏まえた相応に厳しい審査が
求められるとする見解があり,また,判例にも,審査の枠組みの検討に当たって,当該規制
立法が,どこまで政策的裁量や専門技術的裁量を尊重すべき分野に属するのかを重視したと
思われるものがある(酒類販売免許制事件判決〔最判平成4年12月15日民集46巻9号
2829頁〕参照)。
さらに,規制①と公衆浴場の適正配置規制との類似性を見いだすこともできるであろう。
この観点からは,生活路線バスは自家用車を持たない住民にとって日常生活上必要不可欠な
移動手段であり,利用者の範囲が地域的に限定されていて企業としての弾力性に乏しいこと,
自家用車の普及に伴い経営が困難になっていること等を述べた上で,規制①は公衆浴場の距
離制限と同じく強力な制限であるが,既存の生活路線バス事業者の経営の安定を図ることに
より生活路線バス網を維持する上で,必要かつ合理的な範囲内の手段であると論じることも
できる(公衆浴場法事件判決〔最判平成元年3月7日判例時報1308号111頁〕参照)。
いずれの立場を採るにせよ,判例を踏まえつつ,自説と異なる立場を考慮した論述が求め
られる。
3.規制②は,特定区域の住民以外の者の自家用車による移動を制限するものであるが,まず
検討を要するのは,自家用車による自由な移動を,憲法上,どのように位置付けるかである。
この点,外国への一時旅行の事案であるが,国内における移動の自由が憲法第22条第1
項の居住・移転の自由の保障に含まれるとしていると解し得る判例がある(帆足計事件判決
〔最大判昭和33年9月10日民集12巻13号1969頁〕参照)。また,その意義とし
て,もともと居住・移転の自由は経済的自由に属すると解されてきたが,人身の自由ともつ
ながりを持ち,さらに他の人々との意見や情報の交流などを通じて人格の形成に役立つとい
う精神的自由の側面をも持つと指摘する見解がある(旅券発給拒否処分に関する最判昭和6
0年1月22日民集39巻1号1頁における伊藤正己裁判官の補足意見参照)。
これに対し,移動の自由は,憲法第22条第1項の「移転」に含まれるものではないとの
見解もあり得る(前掲帆足計事件判決における田中耕太郎,下飯坂潤夫両裁判官の補足意見
参照)。このような立場からは,移動の自由に対する制約は,一般的自由又は幸福追求権(憲
法第13条)の問題として検討されることになる。
規制②は,単なる通過や観光目的での乗り入れのほか,講演会や集会への参加を目的とし
た自家用車の乗り入れをも禁止する。移動の自由に精神的自由の側面があると解した場合,
規制自体は緩やかであっても,その憲法適合性は,相応に慎重に審査されることになろう。
住民の安全で円滑な移動を確保するという目的に重要性は認められるとしても,区域という
面ではなく,特定の道路への進入禁止によって立法目的が達成できないか,あるいは,混雑
の主たる原因が観光バスであるとすれば,自家用車のみを規制しても混雑緩和や狭隘な道路
における安全な通行にはつながらないのではないかなど,手段の必要性,合理性を検討する
ことが求められよう。また,規制②は合憲であるとした上で,集会等への参加にこれを適用
することを違憲とする立場もあり得る。
もとより,移動の自由は憲法第22条第1項により保障されるとしても,他の移動手段が
ある場合には,規制②による制約は軽微であり,その憲法適合性については緩やかな審査で
足りると考えることもできる。移動の自由を憲法第13条の一般的自由の問題だと解した場
合も同様である。これらの場合,自家用車による通行は,いつ,いかなる場所においても認
められるべきものではないことを前提に,目的及び手段に合理性が認められるかどうか,当
事者にとって過度の負担とならないかどうかを検討することになろう(未決拘禁者の喫煙禁
止に関する最大判昭和45年9月16日民集24巻10号1410頁も参照)。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和2年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
