令和2年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,40:25:35〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 契約不適合責任(民法562条)の前提確認――乙建物の品質の契約不適合5点
- 代金減額請求権(563条)の要件・効果の検討と本問へのあてはめ8点
- 代金減額請求権のCに対する対抗可否(468条1項の『譲渡人に対して生じた事由』)7点
- 追完に代わる損害賠償請求権の発生(415条)5点
- 相殺のCへの対抗(469条2項の解釈)9点
設問2(1)
- 213条による隣地通行権の成立と袋地譲渡後の存続8点
- 通行権の範囲――a部分とc部分(自動車通行)の検討9点
設問2(2)
- ㋑Bの発言の分析(地役権設定契約の性質と解除制度の理解)6点
- ㋒Dの発言の分析と解除の可否についての自説9点
設問3
- 請求の性質とGによるEの単独相続4点・簡潔に
- 日常家事に関する法律行為(761条)該当性7点
- 110条の趣旨類推適用による相手方保護と正当の理由の判断9点
- 無権代理と第三者による本人相続――Gの追認拒絶の可否と結論7点
- 同時履行の抗弁と残代金の提供2点・簡潔に
全体
- 論理的構成・設問の指示への対応・表現5点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,民法の幅広い分野から,民法の基礎的な理解とともにその応用力をも問うものであ
り,当事者の主張を踏まえつつ複数の法律問題の相互関係を適切に理解したり,事案の特殊性
を論理的に分析して自説を展開する能力が試されている。
設問1は,令和2年4月1日に施行された民法(債権関係)の改正法(平成29年法律第4
9号。以下「改正法」という。)を踏まえ,契約不適合責任,債務不履行,相殺,債権譲渡等
といった民法債権編の複数の制度・規定について,基本的な理解ができているか,その理解を
具体的事例における救済手段の検討を通じて適切に展開することができるかを問うものであ
る。
設問1の事実関係の下では,契約不適合責任(民法第562条)が問題となるところ,問題
文において,買主Bが乙建物に引き続き居住することを前提に,代金支払額をなるべく少なく
するために,契約①に基づきどのような主張をすることができるかという趣旨であることが明
示されているのであるから,契約不適合責任に基づく二つの救済手段,すなわち,代金減額請
求権の行使,及び追完に代わる損害賠償請求権と売買代金債権との相殺による減額の可否を検
討すれば足り,居住が不可能になる解除や,契約に基づくものではない不法行為等について言
及する必要はない。
前提として,売主Aが契約不適合責任を負うことを確認する必要があるが,契約不適合責任
が認められるかについては,契約当事者が特に合意した内容及び取引上の社会通念に照らして
判断されることを示しつつ,乙建物の品質(防音性能)には契約不適合があると述べる必要が
ある。設問1では,AB間において,乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることが
合意の内容とされ,代金額が定められたこと(【事実】1),乙建物は合意された防音性能を備
えていないこと(【事実】5)などからすると契約不適合があると評価することが求められる。
代金減額請求権の発生については,原則として追完の催告を行った上で,催告で定められた
相当期間経過後も追完がないことが必要であることに加え,契約不適合につき買主に帰責事由
がある場合は行使することができないことを述べた上で,設問1の事実関係から,これらの要
件が認められることを述べる必要がある。その際,代金減額の効果が発生するためには代金減
額請求の意思表示が必要であることも述べる必要があり,代金減額請求権の行使により「不適
合に応じた」減額の効果が生じることも併せて指摘することが望ましい。
Bが代金減額請求権を行使するに当たり,売買代金債権の譲受人Cに対抗することができる
かについては,Cへの債権譲渡につき債務者対抗要件が具備されていることを指摘した上で,
その具備前に民法第468条第1項の「譲渡人に対して生じた事由」が存在したといえるかが
問題となることを指摘する必要がある。「譲渡人に対して生じた事由」の意義については,㋐
広く抗弁事由の主たる発生原因ないし法的基礎の存在をもって足りると解することができる立
場,㋑抗弁それ自体の存在を必要とする立場などが考えられ,いずれの立場によっても構わな
いが,請負契約に基づく残報酬債権が第三者に譲渡されて対抗要件が備えられた後に,請負人
の仕事完成義務の不履行が生じ,これに基づき注文者が請負契約を解除した場合に関する最判
昭和42年10月27日民集21巻8号2161頁を踏まえた検討が求められる。
㋐の立場による場合には,請負契約における仕事完成債務の不履行を理由とする注文者によ
る解除の場面のみならず,同一の双務契約において売主が債務不履行に陥った場合における買
主の救済手段である代金減額請求にも同様に適用可能な解釈準則として,民法第468条第1
項の「事由」が抗弁事由の主な発生原因である契約の存在で足りるとする一般的な考え方を基
礎としているものと考えることになると思われる。そして,上記最高裁判決もこれに沿うもの
として位置付けることが可能であるとして,代金減額請求権の発生という抗弁事由の発生原因
又は法的基礎に当たる契約①の存在をもって,同項の「事由」に当たることなどを論ずべきこ
とになる。
㋑の立場による場合には,例えば,代金減額請求が不適合物の給付を履行と認容した上で新
たに契約規範を再設定(契約改訂)する側面も有しているという特殊性に鑑み,抗弁の発生原
因として,売買契約の存在に加えて引渡しをも必要とするなどと考えることになるが,併せて,
代金減額請求と解除との異質性を指摘するなど,上記最高裁判決の射程が及ばないと考えるべ
き根拠を説得的に展開する必要がある。
追完に代わる損害賠償債権と売買代金債権との相殺による実質的な減額については,その前
提として,Bが追完に代わる損害賠償債権を有していることが必要であるが,その根拠規定に
ついては民法第415条第1項に基づく立場と同条第2項の適用又は類推適用に基づく立場が
あると考えられる。いずれの立場によっても構わないが,自己の採用した立場から一貫性のあ
る法律構成をすることが必要であるほか,後者の立場では,同項各号のいずれに該当するかを
検討する必要がある。また,併せて,乙建物の防音性能が特に優れていることが保証されてい
ること(【事実】1)や,Aは近隣トラブルから目的物に防音性能の不備があることを認識す
ることができたこと(【事実】4)などの問題文に表された事情に照らして,Aに債務者の責
めに帰することができない事由が認められるとはいえないことを指摘する必要もある。
BがAに対する損害賠償債権を自働債権,売買代金債権を受働債権とする相殺をCに対抗す
ることができるかについては,改正法において新設された民法第469条(債権の譲渡におけ
る相殺権)に照らして判断されることになる。自働債権である追完に代わる損害賠償債権の取
得時は不適合物の引渡時(令和2年9月25日)であるものと解されることを前提にすると(最
判昭和54年3月20日判例時報927号186頁),これは受働債権に係る債権譲渡の対抗
要件が具備された時点(令和2年7月30日)以後であることから,同条第2項の適用の可否
が問題となる。本件においては自働債権と受働債権がともに同一の売買契約に基づいていると
いう意味での関連性を有することから,条文上の根拠については同項第1号とする立場と同項
第2号とする立場があると考えられる。
民法第469条第2項第1号を根拠とする立場については,「前の原因」が存在するといえ
るための基準についての解釈を示す必要があり,例えば,自働債権の主たる発生原因が対抗要
件具備時前に備わっていれば足りるとすることなどが考えられる。このような考え方に立つ場
合には,更に契約債権に関しては当該契約の存在をもって足りるのか,それとも契約の存在に
加えて相殺の合理的期待を基礎付ける具体的事情,例えば,自働債権と受働債権との間に(同
一契約に基づく)関連性が認められることなどの付加的事情の存在も必要となるのかについて
も検討することが望ましい。
民法第469条第2項第2号を根拠とする立場については,同条の条文構造自体からは同項
第2号が自働債権の取得時のみならずその発生原因の成立時までもが受働債権に係る債権譲渡
の対抗要件具備後である場合を想定したものであると考えられることから,同条第1項及び同
条第2項第1号との関係性をどう見るかといった諸点に言及し,踏み込んで論証することが望
ましい。
設問2は,公道に至るための他の土地の通行権(以下「隣地通行権」という。)の成立要件
及び効果に関する基本的知識及び理解を問うとともに,有償の地役権設定契約の解除の可否を
地役権設定契約の構造及び解除制度の意義から導き出す論理的思考力を問うものである。
小問⑴では,まず,【事実】8から,一筆の土地を分割して譲渡したことによって甲土地が
袋地となったのであるから,残余地である丙土地を目的とする隣地通行権が成立すること(民
法第213条)を示す必要がある。その際,この規律は,隣地通行権の負担は袋地の発生を生
じさせた残余地の所有者が負うべきであり,それ以外の囲繞地に負担を負わせるべきではない
との考え方に基づくことを説明することが望ましい。
次に,甲土地の所有権は,袋地となった後にAからBに移転していることから,このことが
民法第213条によって発生した隣地通行権の存続に影響するかについて検討することが必要
である。分割によって生じた袋地がその後に第三者に譲渡された場合でも,隣地通行権は残余
地自体に課された物的負担であるとして,隣地通行権は存続するという立場(最判平成2年1
1月20日民集44巻8号1037頁)と民法第213条は袋地を発生させた当事者間のみに
適用されるから隣地通行権は消滅するとの立場があり,いずれの立場によっても構わないが,
後者の立場に立つのであれば,判例を批判した上で論じる必要がある。
さらに,丙土地のうち隣地通行権が成立する土地の範囲も問題となるが,隣地通行権に関す
る通行の場所及び通行の方法は,通行権を有する者のために必要であり,かつ,隣地のために
損害が最も少ないものを選ばなければならないこと(民法第211条第1項)を説明する必要
がある。本件では,【事実】9によれば,a部分については,丙土地の端であって甲土地の利
用に対する影響も少なく,甲土地から徒歩で公道に出るために必要最小限の部分であるといえ
ることを指摘しつつ,隣地通行権が成立するとする必要がある。
c部分のうちa部分を除くb部分についても隣地通行権が成立するかについては,当該隣地
通行権が自動車による通行を内容とするか否かによる。その成否については,判例によれば,
自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,通行権が認められることによる不利益
等の諸般の事情を考慮して判断されるとされており(最判平成18年3月16日民集60巻3
号735頁),これをそのまま引用することまでは要求されないが,判断基準として,判例の
示す考慮要素などを指摘する必要がある(もちろん,全てを挙げる必要はない。)。小問⑴では,
Dから甲土地を譲り受けたA及び,その後に甲土地を取得したBも,もともと徒歩で公道に出
ていたこと(【事実】8及び9)から,徒歩で公道に出るという内容で甲土地と丙土地との利
用の調整ができていたと考えられること,甲土地は駅から徒歩圏内にあることなどを指摘しつ
つ,Dに対し丙土地のb部分を排他的に利用できない不利益を課してまで自家用車による通行
を認める必要はないなどと論述することが考えられる。
なお,a部分の隣地通行権は,法定地役権であるから,法定の要件が満たされている限り隣
地通行権は存続し,a部分を目的とする約定地役権の成立又はその消滅により影響を受けるこ
とはない旨が述べられていることが望ましい。
小問⑵では,下線部㋑のBの発言及び下線部㋒のDの発言が,有償の地役権設定契約の性質
及び解除の制度趣旨について,それぞれどのような理解に基づくか,並びに有償の地役権設定
契約の性質を踏まえると契約②によってB・D間にどのような債権債務関係が生じるかを説明
した上で,これらの発言のどちらの理解が正当であるかを検討することが必要である。いずれ
の発言を正当としても構わないが,それぞれの発言が依拠する理解と整合的に一方の正当性を
説明することが求められている。
まず,下線部㋑のBの発言は,地役権設定者は地役権設定契約によって債務を負わないこと
を前提に,Dは契約②によって債務を負わないから,契約②は解除することができないとする
ものである。債務不履行を理由とする解除制度の目的は,不履行をしている債務者の債権者を
「契約の拘束力からの解放」を認めることにあるところ,この発言は,「契約の拘束力からの
解放」とは債権者の負う債務から債権者を解放するためにあるとの立場を前提とし,解除は債
権者も債務を負う双務契約にのみ適用されると解する。Dは契約②によって債務を負わないか
ら,契約②を解除することができないことになる。
これに対し,下線部㋒のDの発言は,解除制度は,債権者をその債務に限らず広く契約の拘
束力から解放するとの理解に基づく。このような考え方によれば,債権者は,当該契約の効力
を消滅させる法的利益がある場合には,当該契約によって債務を負っていなくても,契約を解
除することができることになる。また,下線部㋒のDの発言は,予備的に,そもそも,契約②
によってDは債務を負っていたから解除制度が適用されると主張するものである。
小問⑵では,下線部㋑及び下線部㋒のそれぞれの発言につき,地役権設定契約の性質を分析
した上で,契約②によってDが債務を負うか,契約②によってDが債務を負わないとすれば,
債務を負わないDが契約②を解除することができるかどうかを,解除制度の趣旨と結び付けて
説明することが求められる。
まず,有償の地役権設定契約の性質をどのように理解するかについては,大別して,契約②
が全体として地役権設定契約であると解する考え方と,契約②は地役権設定契約と毎年2万円
の支払に関する特約からなるとする考え方に分けることができる。
契約②は全体として地役権設定契約であると解する考え方においても,考え方は分かれ得る
ところ,例えば,有償の地役権設定契約から生じる債権債務関係については,承役地の所有者
は地役権設定契約により地役権を設定する債務を負うと解する立場があり得る。この立場によ
れば,契約②において,Dによる地役権設定債務と,Bによる地役権設定の対価の支払債務と
が対価的牽連関係に立つといえる。
次に,契約②は地役権設定契約と毎年2万円の支払に関する特約からなるとする考え方にお
いても,考え方は分かれ得る。例えば,地役権設定契約を物権契約であると理解する立場によ
れば,物権契約から債権債務関係は生じないから,BとDは,地役権設定契約とは別に債権契
約としてBがDに毎年2万円を支払う特約をしたものと整理することになる。このような考え
方によれば,地役権設定契約とは別個のものである対価に関する特約の不履行を理由として,
地役権設定契約(契約②)を解除することができるかが問題となり,両者の関係をどのように
理解するかによって,解除を肯定する考え方,否定する考え方のいずれも考えられる。なお,
地役権設定契約を物権契約ではないと理解したとしても,地役権には無償のものもあることか
ら,地役権設定の対価の合意は地役権設定契約の本質的要素ではないことを理由に,契約②は
地役権設定契約と対価に関する特約の二つからなると考えることもできるであろう。
小問⑵においては,上記のような考え方の分岐について詳細に説明することまでは求められ
ておらず,飽くまでも,与えられた題材から問題文に示された問題意識に留意しつつ,自説を
展開することが求められている。
設問3は,夫婦の一方による他方の特有財産の売却の効力を問うものである。夫婦の日常家
事の連帯債務(民法第761条)の構造やそれをめぐる議論を正確に理解し展開することがで
きるかを確認し,併せて無権代理の基本的な法律関係及び相続についての基本的な事項の理解
を確認するものである。同条の解釈に関する基本的な判例として,最判昭和44年12月18
日民集23巻12号2476頁がある。
まず,設問3の事実関係の下では,買主BのGに対する登記請求は,EB間の売買契約に基
づく売主Eの登記移転義務(民法第560条)の履行請求であるので,その前提として,Eの
姉Gが相続によりEの地位を承継していることを説明する必要がある。【事実】16によれば,
Eには子,直系尊属,G以外の兄弟姉妹がなく,妻Fは相続を放棄しているから,Gが単独で
Eを相続したことが認められる(民法第889条第1項第2号)。なお,Gは預金を解約して
その払戻しを受けていること(【事実】19)を指摘しつつ,法定単純承認があったと認めら
れること(民法第921条第1号)を示すことが望ましい。
次に,妻Fは,夫Eから丁土地の売却の権限を与えられていないにもかかわらず,Eの特有
財産である丁土地について,Bとの間で売買契約を締結しているところ,このようなFの行為
が,夫婦の日常家事に関する法律行為といえるのであれば,Eも売買契約に基づく登記移転
義務(民法第560条)を負うので,丁土地の売買がEF夫婦の日常家事に関する法律行為と
いえるかを検討する必要がある。
日常家事に関する法律行為の意義については,個々の夫婦がそれぞれ共同の生活を営む上に
おいて通常必要な法律行為をいうことを示した上で,その具体的範囲については,個々の夫婦
の共同生活を基本としてその内部的事情や個別的な目的とともに,当該法律行為の種類,性質
等も考慮して客観的に判断されるべきことを,理由とともに示す必要がある(前掲昭和44年
12月18日最高裁判決参照)。
【事実】16によれば,売買代金の一部を他方配偶者の医療費に充てる目的があったとはい
え,Eの姉Gの事業の資金を用立てるものでもあったこと,そもそも他方配偶者の特有財産の
処分であること,不動産の取引であって非日常的な,高額の取引であることという事情が認め
られるから,このことを指摘しつつ,日常家事債務の範囲外と評価されるとする必要がある(前
掲昭和44年12月18日最高裁判決参照)。
日常家事債務の範囲外であるとしても,次に,表見代理により相手方が保護されないかにつ
いて検討する必要がある。この点について,相手方においてその範囲内であると信じるにつき
正当の理由があるときには,民法第110条の趣旨を類推適用して,相手方が保護されるとす
る立場(前掲昭和44年12月18日最高裁判決参照)による場合は,民法第761条の基礎
に連帯責任の前提として夫婦の相互の代理権があり,同条はそのような代理権を定めるもので
あることを明らかにする必要がある。また,そのような法定代理権を基礎として民法第110
条を適用することができるかについて,夫婦の財産的独立を損なうおそれがあることから,直
接適用ではなく,趣旨を類推適用することが相当であるという考え方を説明し,正当な理由に
おける信頼の対象が,当該法律行為が日常家事の範囲に属することであって,相手方に代理権
があることではないことを明らかにする必要がある。
【事実】17によれば,仮にBの信頼は夫婦の日常家事の範囲内であるという点の信頼を含
むものであったとしても,正当の理由を基礎付けるに当たっては,例えば,委任状等を提示し
ているという点については,Fの代理権の存在についての信頼の一事情となるのが通常である
が,日常家事の範囲についての信頼の一事情となるかは問題であり,Eの特有財産である不動
産の処分について,Bの信頼に正当の理由はないと評価することが求められる。
以上と異なり,民法第110条を直接適用する立場,民法第761条の代理権を否定する立
場などもあり得る。いずれの立場によっても構わないが,これらの立場による場合には,前掲
昭和44年12月18日最高裁判決を批判した上で,日常家事の範囲の捉え方,民法第761
条が代理権を定めるものかどうか,第三者保護をどのような手法で,またどのような範囲で図
るのが適切かに関し,判例と異なる立場を採ることについて説得的に論じる必要がある。
設問3では,無権代理についての基本的な法律関係の理解も問われている。すなわち,Fの
行為は無権代理であって,Eの追認がない限り,Eに対して効力を生じないが(民法第113
条第1項),Eは生前に追認せずに死亡し,Eの相続人はGのみであり,GがBの請求を拒絶
したのは,この追認を拒絶するものと考えられるから,このような追認拒絶の可否が問題とな
る。
本人は追認・追認拒絶について何ら態度決定をしていなかった場合,相続人はその地位を承
継し,この選択権を有する。無権代理と相続については,一連の判例があるが,設問3は,無
権代理人の本人相続ではなく,第三者の本人相続であるから,これらの判例が問題とする場面
とは事案を異にする。一般には,第三者である相続人は,追認・追認拒絶の選択権があり,追
認を拒絶すれば,当該売買契約は本人に効果帰属しないことが確定するから,相手方Bは本人
たる地位にあるGに対して,売買契約の履行を求めることはできない。
しかし,設問3においては,Gは,FとBとの間の売買契約締結に立会い,その場でFは丁
土地の売却についてEの親族(G)の了解を得ていることを告げている(【事実】17)。その
背後では,Gは,当該売買契約に関して事前にFから相談を受けて,売却に問題はない旨を述
べた上,売買代金の一部をGの事業の資金に利用させてくれるよう申し入れており(【事実】
15),実際にも,代金の一部がFからGに交付されている(【事実】18)。このような事情
を勘案すれば,後に,GがEの相続人の立場で,追認を拒絶することは,信義則に反すると評
価する余地があり(民法第1条第2項),この点についての検討が求められる。
追認拒絶が許されるか否かについては,肯定,否定のいずれの立場によっても構わないが,
追認拒絶が許されないとする立場による場合には,さらに,追認拒絶を選択することが許され
ないことにより,なぜ,追認がされたのと同様の効果が生じると考えることが可能であるかも
説明する必要がある。他方で,追認拒絶が許されるとする立場による場合には,上記の諸事情
にもかかわらず,そのように判断される根拠を丁寧に説得的に論じる必要がある。
なお,Bの登記請求に関しては,残代金の支払について同時履行の抗弁(民法第533条)
が問題となることから,改めて残代金の提供が必要であることを指摘した上で,本件ではBが
残金の支払を提供して請求していること(【事実】21)にも言及することが望ましい。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和2年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
