平成30年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,40:35:25〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 種類債権の特定(民法401条2項)——「物の給付をするのに必要な行為の完了」の意義と取立債務における特定要件のあてはめ10点
- 双務契約上の両債務の牽連関係と危険負担(534条2項)の適用の可否——自説の立場設定と理由付け8点
- 「債務者の責めに帰することができない事由」の意義と履行補助者(C)の過失の帰責——善管注意義務違反の認定10点
- 弁済の提供・受領遅滞・受領義務違反の効果としての保管義務の軽減(又は対価危険の移転)7点
- 軽減された注意義務の内容の確定とあてはめ・結論(代金請求の可否)5点
設問2(1)
- 所有権に基づく妨害排除請求の相手方=現に妨害している者という枠組みの設定4点・簡潔に
- 所有権留保における留保所有権の内容と撤去義務の有無——理由付け(平成21年3月10日最判の理解を含む)11点
- 反対方向に働く事情への応接(契約による制約にすぎないこと、抵当権という選択肢の存在等)3点・簡潔に
設問2(2)
- 前提の確認と道路運送車両法5条1項の「第三者」の意義(民法177条と同趣旨)6点
- Eの第三者該当性の原則的判断4点
- 最判平成6年2月8日との比較による例外的保護(「第三者に準ずる者」)の可否と結論7点
設問3
- 遺言解釈の指針の提示2点・簡潔に
- FGに対する「相続させる」遺言の法的性質——遺産分割方法の指定/相続分の指定の有無8点
- Hに対する遺言の性質(廃除と特定遺贈)4点
- 金銭債務の共同相続の態様と承継割合(899条・902条・427条)6点
- FのGに対する請求の法律構成と金額5点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,民法の幅広い分野から,民法の基礎的な理解とともにその応用力を問うものであり,
当事者の主張を踏まえつつ法律問題の相互関係や当該事案の特殊性を論理的に分析して自説を
展開する能力が試されている。
設問1は,種類債務の特定と危険負担(民法第534条第2項),(狭義の)履行補助者の過
失,弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領義務違反の効果(債務者の目的物保管義務の軽減及
びその軽減後の義務の内容,対価危険の債権者への移転等)等といった債権法の複数の制度・
規定について,基本的な理解ができているか,その理解を具体的な事実関係に基づいて各制度
- 規定の相互の関連性を含めて適切に展開することができるかを問うものである。典型論点と
もいえるものばかりではあるものの,複数の論点の検討を要する問題を通して,事案に即して
論理を着実に展開する能力が試されている。
設問1の事実関係の下では,危険負担の適用があるか否かが問題となるが,その前提として,
種類債権の特定とその後の目的物の滅失が必要となる。そこで,民法第401条が定める「債
務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」たこととは,例えば,債務者が,給付の完了
のために債権者がする必要のあることを除き,自らすることができることを全てした状態をい
うところ,Bの債務は取立債務であることから,Bが目的物を分離して引渡準備を完了し,そ
の旨をAに通知することにより目的物の特定が認められることなどを述べた上で,設問1の事
実関係からこの特定が認められ,その特定した目的物が盗難により滅失したと認められること
を述べる必要がある。
目的物が特定後に滅失した場合の売主Bの売買代金請求権の帰趨については,①双務契約上
の相対立する二つの債務は互いに対価関係に立つため牽連関係が認められるとして,一方の債
務の消滅により当然に他方の債務も消滅することを前提としつつ,本件においては目的物が特
定していたとして民法第534条第2項の適用によりBの代金請求が認められ得るとする立
場,②同じ前提に立ちつつも,民法第534条第2項の適用を否定又は制限する立場などが考
えられる。これらのいずれの立場によっても構わないが,自己の採用した立場から一貫性のあ
る法律構成をすることが求められる。なお,①②と異なり,双務契約上の相対立する二つの債
務は互いに独立のものであり,一方の消滅により他方が当然に消滅することはないとする立場
もあり得るが,その場合には,特殊といってよい立場であるため,そのように解する理由を明
確に示すことが必要である。
上記の①の立場からは,以下の事柄について論ずることになる。
①の立場は,民法の規定の文理に素直なものであるといえるが,①の立場に対しては公平で
はないという批判が極めて有力であり,また,この立場をとることを明言する判例があるわけ
でもない。そこで,民法第534条第2項の文言に素直な解釈であるという指摘をするだけで
なく,公平に反するという批判説にも応接した理由付けをすることが望ましい。
その上で,民法第534条が適用されるのは目的物の滅失が「債務者の責めに帰することが
できない事由」による場合であるため,設問1の事実関係の下で盗難による松茸の滅失がこれ
に当たるかを論ずべきことになる。その際には,「債務者の責めに帰することができない事由」
の意味をまず明らかにする必要がある。これについては,例えば,特定物の売主は目的物の善
良な管理者の注意をもって目的物を保管する義務を負うところ,その義務を尽くしたことが上
記事由に当たるとする考え方が考えられる。さらに,設問1では,Bは保管のために(狭義の)
履行補助者に当たる(【事実】3)Cを使用しているためCの主観的態様が信義則上Bの主観
的態様と同視されるとした上で,Cが近隣において盗難事件が頻発し警察が注意喚起している
との状況下でBの指示に従わずに簡易な錠による施錠しかせずに乙倉庫を離れたこと(【事実】
5及び8)は善管注意義務違反に当たると解されるため,目的物として特定した松茸の滅失は
Bの責めに帰することができない事由によるものということは基本的にできないことになる。
もっとも,松茸の盗難は,Bによる弁済の提供があった後,又はAによる受領遅滞中に若し
くはAの受領義務違反後に起きたことである。そこで,弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領
義務違反の効果としてBの保管義務の軽減が問題になる。これらのいずれの構成によっても構
わないが,その構成により保管義務が軽減される理由を明らかにし,設問1の事実関係の下で
保管義務の軽減が認められるかを論ずる必要がある。
そして,債務者は自己の財産に対するのと同一の注意をもって目的物を保管する義務を負う,
あるいは,債務者は故意又は重大な過失による目的物の滅失又は損傷の場合にのみ責任を負う
などと軽減された義務の内容を明らかにした上で,設問1の事実関係に即して,Cの行った簡
易な錠での施錠が「普段どおり」の施錠方法であったことを踏まえてその軽減された注意義務
に違反しないかどうかを論ずべきことになる。
次に,上記の②の立場をとる場合には,以下の事柄について論ずることになる。
まず,自説の立場から,民法第534条の適用を否定又は制限する理由を述べる必要があり,
その理由と整合的にどのような場合には適用が認められるのかを明らかにし,設問1の事実関
係の下では民法第534条が適用される場合に当たらないことを述べることが求められる。
もっとも,Bによる弁済の提供又はAの受領遅滞若しくは受領義務違反が認められることか
ら,その効果として対価危険の移転が認められ得る。そこで,その旨の指摘と設問1の事実関
係の下でこれが認められることを述べた上で,目的物の滅失がBの帰責事由によるものである
ときはそもそも危険負担の適用がないことを述べて,松茸の滅失がBの帰責事由によるものか
否かを検討すべきことになる。そして,ここでは,上記の①の立場と同様に,債務者に課され
た善管注意義務と債務者の責めに帰することができない事由との関係,弁済の提供等による善
管注意義務の軽減の有無などを検討すべきことになる。
設問2は,所有権に基づく妨害排除請求の相手方は現に妨害をしている者であることを前提
として,所有権留保売買契約の売主として留保所有権を有する者はこれに当たるか(小問1),
仮にこれに当たらないと判断すべきことを前提としたとしても,その者が妨害物となっている
自動車を以前所有しており,自己の意思に基づいて登録名義人となった者であって,その自動
車を譲渡した後も登録名義人にとどまっている場合は別に考えることができないのか(小問2)
を,それぞれ問うものである。
小問1では判例によっても承認されている所有権留保売買を題材に非典型担保物権の意義と
留保所有権の内容を,小問2では不動産と同様の法的規制に服する自動車についての権利の得
喪に係る対抗要件制度の意義という,基本的な問題に対する理解力を測ることを狙いとする。
また,小問1には最判平成21年3月10日民集第63巻3号385頁,小問2には最判平成
6年2月8日民集第48巻2号373頁という重要な関連判例があり,設問2は,日頃の学習
において重要判例について表層的でない理解を心掛けているかをみようとするものでもある。
小問1では,Eの請求が所有権に基づく請求であること,この請求の相手方は所有権の行使
を現に妨げている者であることを前提として,甲トラックの所有権留保売買における留保売主
Dは,甲トラックが丙土地上に放置されていることによってEの丙土地所有権の行使を妨げて
いることになり,したがって,甲トラックの撤去義務を負うかどうかが問われている。
まず,物の所有者は,その物が他人の土地上にある場合には,権原がなければ,通常,その
物の撤去の義務を負う。ところが,Dは,Aとの間で所有権留保売買契約をしたことにより,
通常の所有権を有する者ではなく,債権担保の目的で所有権を有するにすぎない。そこで,こ
のような立場にあるDが所有者一般と同様に扱われるのか否かを論ずべきことになる。
Dが甲トラックの撤去義務を負うか否かについての結論はいずれでも構わないが,その結論
を導く理由についての法的な構成力が問われている。その理由に関しては,例えば,次のよう
な事情を考慮することが考えられる。
すなわち,①AD間の契約において,被担保債権の不履行があるまでは,甲トラックの占有
- 処分権能を有するのはAであり,Dはこれを有しないとされており,Dは,甲トラックの交
換価値しか把握していないとみることができることである。これによると,Dは,形式的には
甲トラックの所有者であるが,実質的には抵当権者と変わりがないとみることができ,抵当権
者であれば抵当目的物による妨害排除請求の相手方にはならないと考えられる。
他方で,②上記①のようなDの地位は,AD間の契約によって創設されたものであることで
ある。したがって,Dの甲トラックの占有・処分権能は,Aとの契約によりAとの関係で制約
されているにすぎないとみる余地がある。実際にも,例えば甲トラックを不法占有する者があ
る場合,その者との関係では,Dは所有権に基づく返還請求をすることができるとされる可能
性がある。
このほか,③Dは,甲トラックに抵当権(自動車抵当権)を設定することもできたのにあえ
て所有権留保という担保手段を選んだものであって,所有者と同様に扱われることはDの選択
の結果であるにすぎないといえることなどを指摘することが考えられる。
なお,前掲平成21年3月10日最高裁判決は所有権留保という社会的に重要な非典型担保
の基本的内容の一部を明らかにするものであることから,法律実務家となることを志す者が知
っているべき判決であるということができるが,単に同判決があることや,その内容を指摘し
ても十分な解答にはならず,理由付けの内容が問われるものである。
小問2では,下線部㋐のDの発言が正当と認められるという前提で解答することが求められ
ている。これは,甲トラックの通常の所有権を有していたDが,Aとの所有権留保売買契約に
より甲トラックの所有権を実質的に喪失したことを前提として,設問2を考えるべきことを意
味するから,まずこの点を押さえる必要がある。
そして,登録自動車の所有権の喪失はその登録をしなければ「第三者」に対抗することがで
きない(道路運送車両法第5条第1項)ことが問題文に示されていることを踏まえつつ,設問
2の事実関係の下で,Eは,その「第三者」に該当し,又は「第三者に準ずる者」として扱わ
れるのかを,論ずべきことになる。
道路運送車両法第5条第1項は,民法第177条と同趣旨の規定であることから,「第三者」
とは,登録の不存在を主張する正当な利益を有する者をいい,隠れた物権変動により第三者が
害されることを防ぐという同条の趣旨から,当該物件につき登録名義人との間で法律上の利害
関係を有するに至ったことが,第三者性を基礎付ける「正当な利益」に当たると解される。
これによると,Eは,第三者には基本的に該当しないこととなる。Eが甲トラックにつき有
する利害関係は,甲トラックの所有者が判明しなければ丙土地の所有権に対する妨害を排除す
ることができないという不利益を被ることであり,Eは,甲トラックにつき,権利を取得すべ
き地位にあるなど何らかの法律上の利害関係を有するわけではないからである。
もっとも,判例(前掲平成6年2月8日最高裁判決)上,土地所有権の行使が建物の存在に
よって妨害されている場合において,登記に関わりなく建物の実質的所有者をもって妨害排除
の義務者を決するとすれば,土地所有者はその探求の困難を強いられるなどの不合理を生ずる
おそれがあることから,その建物の所有権を譲渡により喪失したが自ら得た登記名義をなお保
持する者は,土地所有者との関係については建物についての物権変動における対抗関係にも似
た関係にあるとした上で,土地所有者の請求により建物を収去し土地を明け渡す義務があると
されている。登録自動車については不動産と同様の法的扱いがされることが多いことから,D
についても同様の立論が可能であるかどうかが問題になる。
この問題についても,結論はいずれでも構わないが,その結論を導く理由についての法的な
構成力が問われている。
検討の筋道としては,前掲平成6年2月8日最高裁判決が地上建物による土地所有権の妨害
の場合に土地所有者を例外的に保護していることから,その例外的保護の理由を明らかにして,
それとの比較をすることが考えられるが,これに限られるものではなく,次に述べるような必
要な考慮要素に触れられていることが必要である。
地上建物による土地所有権の妨害の場合に土地所有者の例外的保護が認められる理由として
は,①建物の存立は,敷地の全面的・固定的占有を当然に伴うため,土地所有者は土地の占有
という土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態が継続することが挙げられる。他
方で,登録自動車による土地所有権の妨害は,全面的なものでも,固定的なものでもなく,土
地所有者は,その妨害により土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとま
で評価することはできないともいえる。
また,②一般に,民法第177条の第三者とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
をいうなどとされ,第三者とされるためには,当該物権変動の主張が認められると当該不動産
に関する権利を失い,又は負担を免れることができなくなることが必要であるところ,本件で
は,土地所有者は,登記を移転していない前建物所有者による建物の所有権喪失の主張が認め
られると,建物所有権の隠れた移転によりその建物所有権の負担(土地所有権を妨害された状
態が継続するという負担)を実質的に免れることができない地位にあるとみることができると
もいえる。他方で,土地所有者は土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になる
とまで評価することはできないと反論をすればこの指摘は当たらないし,そもそも違法な状態
に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではないということもでき
る。
さらに,③建物を譲渡した元所有者は,その建物を所有する旨の登記を自らしたのであれば,
その名義の移転をすることも当然にできたはずであり,登記懈怠の責めを問われても仕方がな
いことを指摘することができる。他方で,所有権留保売買は,被担保債権の弁済まで登記又は
登録を売主名義のままにしておくことが当然の前提であり,そのことも含めて判例上承認され
ていることから,売主に登記懈怠の責めを負わせることは適当ではないともいえると考えられ
る。
このほか,建物の撤去とは,通常,建物の取壊しであることから,その費用を負担しさえす
れば誰でもすることができるため,建物所有権を有しない登記名義人に負わせることも可能で
あるが,自動車については,前登録名義人は真の所有者の所在が判明するまで自動車を保管し
続けなければならないという負担を負い続けることになりかねず,その金銭負担も重いものと
なる可能性があるという事情も指摘することができる。
以上を踏まえれば,Eを「第三者」に準ずる者と認めて例外的に保護することは適当ではな
いと理解することに相当の理由があると考えられるが,上記のとおりいずれの結論でも許容さ
れる。
解答に当たっては,以上に例示した事情の全部を挙げることが求められるものではなく,根
幹的と思われる理由を挙げて結論を正当化することで十分である。もっとも,結論を正当化す
る際には,その結論を根拠づける方向に働く事情を挙げるだけでなく,反対の結論を根拠付け
る方向に働く事情も考慮し,それに応接することが望ましい。
設問3は,遺言による財産の処分によって,共同相続人への債務の承継が影響を受けるか否
かを問うことを通じて,相続法に関する基本的な知識に基づく事案の分析力や解釈論の展開力
を試すものである。
設問3については,①被相続人Cを共同相続したCの子FGに対し法定相続分とは異なる割
合で特定の財産をそれぞれ「相続させる」遺言,及び,Cから廃除(民法第892条)された
子Hに対し特定の財産を「与える」遺言について,遺言の解釈によってその法的性質(とりわ
け,「相続させる」遺言が相続分の指定を伴うものであるか)を明らかにした上で,②Cが残
したBに対する借入金債務がFGにどのように承継されるか,さらに,この債務を全額支払っ
たFがGに対し幾らの金額の支払を請求することができるかについて,検討することが求めら
れる。
まず,Cの遺言(以下「本件遺言」という。)の解釈に当たっては,どのような指針に基づ
いて解釈すべきか,例えば,「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,……遺言
者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものである」(最判平成3年4月19日民
集第45巻4号477頁参照)などと必要に応じて簡潔に言及することが求められる。
その上で,FGに対する「相続させる」遺言に関しては,判例が,特定の遺産を特定の相続
人に「相続させる」遺言は,①相続人に対し,特定の財産を単独で相続させようとする趣旨に
解するのが合理的な意思解釈であって,特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではないとし,
②かかる「相続させる」趣旨の遺言は,特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継さ
せることを遺言で定める点で,正に民法第908条にいう「遺産の分割の方法を定めた遺言」
であるとしている。したがって,この判例の立場を前提とすれば,共同相続人FGに対し,1
200万円・600万円の定期預金をそれぞれ「相続させる」遺言は,「遺産分割方法の指定」
と意思解釈するのが合理的であることになる。なお,共同相続された定期預金について,遺産
分割の対象となる旨の判例が最近出されている(最判平成29年4月6日集民第255号12
9頁。最大判平成28年12月19日民集第70巻8号2121頁参照)が,本問においては
その旨の言及を特に求めるものではない。
そして,「遺産分割方法の指定」については,法定相続分よりも多い割合で分割の指定がさ
れたり,各共同相続人に対し法定相続分とは異なる割合で分割の指定がされた場合には,特段
の事情がない限り,「相続分の指定」(民法第902条)を伴うものと解釈するのが一般的であ
る。このような形で法定相続分とは異なる割合による遺産分割の指定がされたことは,債務の
承継割合を法定相続分から変更する意思がないことが明らかであるなどの特段の事情がない限
り(最判平成21年3月24日民集第63巻3号427頁参照),その分割された割合で「相
続分の指定」がされて,債務もその割合で承継させる趣旨に意思解釈するのが合理的であると
考える立場であり,このような立場を取るならば,共同相続人FGに対し法定相続分とは異な
る割合で1200万円・600万の定期預金をそれぞれ「相続させる」とする本件遺言は,「相
続分の指定」を伴うものと解釈することになる。
上記の立場に対し,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言を「特定遺贈」と解釈
する学説も少なくない。このような説に立って論ずるに当たっては,上記の「相続分の指定を
伴う遺産分割方法の指定」と解する立場に対する批判を踏まえた議論を展開し,例えば,「遺
産分割方法の指定」は,本来は,現物分割・換価分割などの遺産全体の分割方法の指針を定め
るものであって,特定の財産の処分は特定遺贈によることが民法の予定するところであること
を指摘することが考えられる。
このほか,上記の各立場も踏まえつつ,本件遺言は,飽くまでも個別の積極財産を処分した
に過ぎない点などを考慮して,遺言者には債務の承継割合までを変更する意思はなく,法定相
続分の割合で承継すると解釈することも,解答として許容されるものと考えられる。
次に,Hに対する遺言については,Hは廃除(民法第892条)により相続資格を失ってい
たこと,したがって,200万円の定期預金を「与える」遺言は,相続人以外の者に対する遺
言による特定の財産の処分であるから,特定遺贈と解釈されることを述べることが求められる。
本件遺言において廃除の意思に変わりがないとCがしていることに照らして,廃除の取消し(民
法第894条第2項)の趣旨を含むものではなく,相続資格を失ったままであることに言及す
ることが望ましい。
以上を前提に,Cの残した金銭債務が共同相続人FGにどのように承継されるかについては,
次のように考えられる。
まず,共同相続人は,法定相続分に応じて相続人の権利義務を承継するのが原則であるが(民
法第899条),指定相続分(民法第902条)がある場合は指定相続分に応じて承継する。
FGへの「相続させる」遺言において複数の立場があり得るが「相続分の指定を伴う遺産分割
方法の指定」であると解する場合には,指定相続分(2:1)により,それ以外の立場による
場合には法定相続分(1:1)により債務を承継することになる。
次に承継の態様が問題となるが,CはBに対し300万円の金銭債務(可分債務)を負って
いたことから,判例(大決昭和5年12月4日民集第9巻1118頁)の立場を前提とすれば,
民法第427条により,共同相続人FG間では上記の割合に応じた分割債務として承継するこ
とになる。
そして,Fは,Gが単独で負う債務までBに弁済している。これは,債務者の意思に反する
もの(民法第474条第2項)とはいえないので,FはGに対し,事務管理等を理由として,
指定相続分で承継したとする場合には100万円の支払を,法定相続分で承継したとする場合
には150万円の支払を,それぞれ請求することができるものと考えられる。
他方で,金銭債務(可分債務)の共同相続について,不可分債務又は合有債務と解する学説
も有力であり,分割債務説を批判しつつ,これらの学説に立った検討を加えることも考えられ
る。この場合には,内部的負担部分は,法定相続分又は指定相続分に応じて定められ(民法第
899条参照),その負担部分を超える額についてFはGに求償することができるものと考え
られる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成30年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
