平成30年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
総論(設定の理解)
- 立法過程での助言という設定に即した論述姿勢・問題となる条項と権利の特定8点
条例案の内容理解
- 規制図書類(第7条)の内容把握と刑法175条のわいせつ表現との区別6点
知る自由
- 知る自由の憲法上の位置づけと青少年・18歳以上の者それぞれについての制約の有無8点
- 明確性の原則(第7条の文言の曖昧性)9点
- 規制対象の過度の広汎性6点
- 二つの規制目的の検討(青少年の健全育成/一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにすること)10点
- 違憲審査基準の設定(内容規制/内容中立規制、表現の価値、受け手が青少年であること)9点
- 各規制と目的の対応関係に即した当てはめ(青少年・18歳以上)9点
営業の自由
- 営業の自由の憲法上の保障と制約の特定・審査基準の設定9点
- 第8条第1項(日用品等販売店舗での販売禁止)の合憲性7点
- 第8条第2項(学校から200メートル以内のゾーニング規制)の合憲性7点
- 第8条第4項(隔壁等による隔離陳列義務)・第8条第3項(青少年への販売禁止)の合憲性6点
その他
- 刑罰法規(第15条・第16条)の明確性3点・簡潔に
全体
- 論理的構成・文章表現・形式面3点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
全国都道府県では,青少年の健全育成を目的とした図書類の販売等に関する規制が行われ
ている。本問は,そのような目的にとどまらず,一般市民がむやみに羞恥心等を覚えるよう
な卑わいな画像等に触れることがないようにして性風俗にかかる善良な市民の価値観を尊重
するという観点も併せ,健全で文化的な環境を保持するという目的のために種々の規制を行
う架空の条例案について,その合憲性の検討を求めるものである。従来は,訴訟の場面を想
定し,当事者の主張等において憲法論を展開することを求める出題が通例であったが,実務
的には,必ずしも訴訟の場面に限られず,法令を立案する段階においても法律家としての知
見が必要であることから,そのような場面で憲法論をどのように活用,展開するかを問う出
題とした。
法律家としての助言を求められているため,具体的な条例の文言を指摘しつつ,当該規定
で合憲といえるかどうかを答えることが不可欠であり,違憲であるとする場合に,条例案の
どの部分がどのような憲法上の規定との関係で問題なのかを具体的に指摘することが期待さ
れる。
本条例の検討に際しては,問題文の最後の甲の発言にあるとおり,図書類を購入する立場
と販売等をする店舗の立場から憲法上の権利を検討することが必要であり,前者については,
憲法第21条の表現の自由に含まれる「知る自由」を,後者については,憲法第22条の職
業選択の自由に含まれる「営業の自由」の観点から検討する必要がある。
憲法第21条に関しては,まず,知る自由が,憲法第21条第1項により保障されること
に言及した上で,購入や貸与を受けることを制限される青少年について,その自由の制約に
なるかどうかを論じることとなろう。制約になるとした場合,まず,明確性の原則との関係
で,規制図書類の定義が適切かどうか,「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」
「殊更に性的感情を刺激する」との文言が曖昧,不明確でないかどうかの検討が必要となる。
一般に,明確性の原則は,不明確な法文が表現者の表現行為に対して萎縮効果を持つことを
問題にするものであるが,本問における条例による規制においては,表現物の流通過程に位
置する販売者を萎縮させ,それに伴って青少年の知る自由を制約することになるのではない
かという観点から,明確性の原則を論ずることが考えられる。さらに,明確性の原則に反し
ないとしても,かかる制約の合憲性判断について,いかなる審査基準によって審査すること
が妥当かどうかを論じる必要がある。その際,内容規制と考えるのか,それとも内容中立規
制と考えるのかという観点から議論することも考えられるし,規制対象となる図書類が性的
な表現を含むものであることから,その表現の価値を考慮するかどうか,あるいは,情報の
受け手が青少年であることの考慮が働くかどうか(岐阜県青少年保護育成条例事件補足意見)
といった観点を意識した議論をすることが考えられよう。その上で,本件規制図書類の範囲
が過度に広汎ではないかという点を含め規制の必要性,合理性を検討する必要がある。また,
審査基準の設定又は当てはめにおいて,後述するように,本条例の目的についての検討,す
なわち,青少年の健全育成の目的や,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないように
するという目的が,憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意
識した議論をすることが考えられよう。
次に,18歳以上の者との関係では,知る自由の制約になるかどうかをまず検討する必要
があろう。規制図書類の購入がおよそできなくなるわけではなく,購入方法の限定はごく一
部に過ぎないから知る自由の制約とまでは言えないと評価するのか,情報の受領方法に制限
が加わる以上,知る自由の制約ととらえるのかの両論が考えられる。知る自由の制約ととら
えると,青少年における検討と同様に,明確性に関する検討が必要となり,審査基準の設定
についても,青少年の場合と同様の点(青少年であることを考慮するかどうかを除く。)を
踏まえた審査基準の設定が考えられる。18歳以上の者は,購入場所が限定されるにとどま
るため,青少年とは異なる審査基準を設定することも考えられるし,そうでない場合でも,
審査基準への当てはめにおいては,購入が全面的に制約される青少年とは異なり,個々の規
制の合理性を検討する必要があろう。その際,本条例の目的が,青少年の健全育成のみなら
ず,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという点にあることについて,
青少年の場合と同様,憲法上の権利の制約の目的としてふさわしいのかどうかについても言
及することが考えられる。例えば,条例の目的は,結局のところ,卑わいな画像等を見たく
ない人を保護するということになるが,見たくないものに触れさせないこと一般が法的保護
に値するとは言えないという議論や,目的が漠然としたもので抽象的にすぎるといった指摘
をして,その目的としての価値が大きくないと評価する方向で議論をすることも考えられよ
う。他方,性的な羞恥心や卑わいなものを見たくない人の不快感は,現に一般に共有されて
いる感情である以上,十分に法的保護に値するといったことから,制約目的としての価値を
見出す議論をすることもできるであろう。
青少年及び18歳以上の者のいずれにおいても,目的と規制の対応関係を意識する必要が
ある。例えば,学校から200メートル以内における販売等の規制(いわゆるゾーニング)
については,青少年の健全育成と結びつくものであり,日用品販売店での販売規制と隔壁等
の義務付けは,青少年の健全育成と一般市民をむやみに卑わいな画像等に触れさせないとい
う観点の両面を趣旨としていることなどを意識した論述が求められる。
憲法第22条に関しては,営業の自由が憲法上の権利であること,本件規制が営業の自由
の制約に該当することに言及した上で,営業の自由の制約としてどのような審査基準が妥当
であるかを議論することが考えられる。青少年の健全育成という目的と一般市民がむやみに
卑わいな画像等に触れないようにするという目的をどのようにとらえ,制約される権利の性
質,制約の程度等との関係で,どのような審査基準を設定するかの議論をする必要がある。
その際,小売市場許可制判決や薬事法判決等の既存の営業の自由に関わる判決との対比をす
ることや,積極目的,消極目的等の規制目的の区別に基づいて審査基準を立てるべきかを議
論することが考えられよう。その上で,当該審査基準に基づいて,日用品等販売店舗での販
売禁止の合憲性,学校から200メートル以内における販売等の禁止の合憲性,隔離販売規
制の合憲性,青少年への販売規制の合憲性について検討することとなる。他方,制約の程度
等の審査基準設定に与える影響を重視するとすれば,各規制ごとに審査基準を設定すべきこ
とになろう。営業の自由との関係でも,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないよう
にするという目的について,目的としての妥当性を検討することが考えられるが,知る自由
との関係で議論したのと同様として扱っても差し支えない。もっとも,その目的の妥当性判
断に当たって,制約される権利との関係で,異なる考慮がなされ得るとの立場からは,知る
自由の場合と異なる議論をすることもあり得る。なお,規制対象となる規制図書類の範囲が
過度に広汎であるかどうかは,憲法第22条の営業の自由との関係でも問題となるが,知る
自由において検討するのとは必ずしも同じ問題状況ではないことを踏まえる必要がある。ま
た,規制の合理性の検討に際しては,意図せず一般市民が卑わいな画像等に触れないように
するという観点からすると,隔壁等による隔離販売の規制のみで足りるのではないかという
方向で議論することもできるし,他方,営業の自由の性格に鑑み,様々な制約を合憲とする
方向で議論することもできると考えられる。このほか,表現物の流通過程における書店とい
う位置づけに鑑み,通常の営業主体よりもその販売等の自由は保護されるべきであるという
議論もなし得る。
事業者にとっては違反すれば罰則も設けられていることから,刑罰法規としての明確性を
指摘することも考えられる。刑罰法規の明確性は,表現の自由の制約において求められる明
確性の原則とは趣旨を異にするため,別の論述が必要であろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成30年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
