平成30年 司法試験 論文式 刑事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 問題の所在の特定(刑訴法197条1項ただし書・強制処分法定主義)と強制処分/任意処分の区別基準の提示9点
- 下線部①の強制処分該当性(被制約利益の特定と『意思の制圧』の検討)10点
- 下線部①の任意捜査としての許容性(比例原則に基づく必要性・緊急性・相当性の具体的検討)12点
- 下線部②の適法性(被制約利益・場所の性質を踏まえた強制処分該当性の検討)12点
設問2
- 伝聞法則(刑訴法320条1項)の趣旨と伝聞・非伝聞の区別基準7点・簡潔に
- 本件メモの伝聞証拠該当性(立証趣旨を踏まえた検討)8点
- 本件メモの伝聞例外(刑訴法321条1項3号)の要件の意義と当てはめ13点
- 本件領収書について複数の立証上の使用方法を想定すること4点・簡潔に
- 伝聞証拠として用いる場合(刑訴法322条1項)の検討9点
- 非伝聞証拠として用いる場合の推認過程の説明9点
全体
- 論理的構成・文章表現(法解釈から当てはめ・結論への筋道、具体的事実の摘示と意味付け)7点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は動産の消費者売買とその動産の物権変動をめぐる事案を素材として,国際私法と国際民事
手続法に関する基本的理解とその応用力を問う出題である。
〔設問1〕は,消費者契約に関する訴えの国際裁判管轄権とその準拠法の決定について問うもの
である。
小問1は前記訴えに関する国際裁判管轄権についての問題である。
まず,民事訴訟法(以下「民訴法」という。)第3条の2による管轄権の有無について触れるこ
とが求められる。これは最も原則的な管轄原因を定める規定だからである。同第1項に定める被告
の住所は日本にはないので同条による管轄権はない。
次に,民訴法第3条の4第1項の適用が問題となる。同条の趣旨について説明した上,Xの「消
費者」該当性とYの「事業者」該当性について検討すべきである。いずれも肯定されるので同条同
項に該当することが肯定される。
さらに,民訴法第3条の9について検討することが求められる。問題文でYの日本との関係の薄
さを特に詳しく記しているのは,そのような意味を含んでいる。本条は極めて限定的に適用すべき
であるとの説もあり,そのような立場を採ることも当然認められるが,その場合でも,本条に全く
触れないのでは解答者が本条についてどのような立場を採るのかがわからない。まず,民訴法第3
条の9の趣旨について,又は,これを限定的に運用すべきか否か(一般的に論じても,特に民訴法
第3条の4第1項の場合について論じてもよい。)について論じることが望ましい。次に本件にお
ける「応訴による被告の負担」と「証拠の所在地」について具体的に検討した上で結論を出すこと
が求められる。
小問2は,本件売買契約の準拠法の決定について判断を求めている。
まず,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第7条による指定があるかどうかに
ついて触れなければならない。明示の合意はなく,また,「特定の国の法の条文への言及もなく,
特定の国の法に特有な法律用語も使われて」おらず,その他黙示の意思を推定させる事情もないの
で,黙示の合意も存在しないと解されよう。
次に通則法第11条の適用が問題となる。まず,同条の趣旨を説明した上,本件売買契約の「消
費者契約」該当性について記述すべきである。それは肯定されるので,次に同条第6項第1号本文
又は同項第2号本文の適用が問題となる。同項全体又は同項第1号本文若しくは同項第2号本文の
趣旨について説明した上,同項第1号本文又は同項第2号本文への当てはめを行うことが求められ
る。
同項第1号本文又は同項第2号本文に該当するので,通則法第11条は適用されず,原則に戻っ
て通則法第8条によることとなる。同条第2項の趣旨について述べた上で同項への当てはめを行う
ことを要する。そして,同項が同条第1項の最密接関係地法の推定規定であることを説明すること,
または,本件では推定は覆されないことの指摘が求められる。
〔設問2〕は,当事者間における物権の得喪に関する準拠法の指定とその当てはめを問うも
のである。
まず,Yは,本件売買契約を成立させながら,本件絵画について所有権が移転していないこ
とを主張しているから,Yがなお本件絵画の所有権の帰属主体であるのか,あるいはその所有
権はいずれかの準拠法の規定によりXに移転済みであるのかが問題となる。
通説的な理解に従えば,物権の得喪に関する通則法第13条第2項の適用によって,本件絵
画の所有権の移転に関する準拠法の有無を明らかにした上で,その適用により本件絵画の所有
権はXに移転済みであるのか否かを判断しなければならない。
通則法第13条第2項は,同条第1項と異なり,単純に目的物の所在地法を準拠法とするの
ではなく,物権の得喪に関する準拠法を「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物
の所在地法」として,ある特定の時点のものとしている(不変更主義)から,その適用に当た
っては,この点を考慮することが求められる。すなわち,Yは,口頭弁論終結時(現時点)に
おける本件絵画の所有権の帰属主体であることを主張しているが,そうであるからといって直
ちに目的物(本件絵画)の現時点の所在地法がいずれの法であるかを探求するのではなく,問
題とされる物権の得喪の「原因となる事実」に着目し,それが「完成した当時」がいつである
のかを検討する必要がある。Yは,本件絵画の引渡しがなされていないことを理由として,本
件絵画の所有権確認の訴えを提起しているから,まずはYの主張の前提である甲国法が通則法
第13条第2項により本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かが問われること
になる。
しかし,本件絵画は,甲国法により所有権の移転に必要とされている引渡しが未了であるか
ら,甲国法によっては,本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」はまだ完成していない
ことになる。すなわち,甲国法によると,本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成
した当時」は未到来であるから,甲国法は,通則法第13条第2項の要件を充たさず,よって
本件絵画の所有権の移転に関する準拠法とはならない。このように,通則法第13条第2項は,
ある法が物権の得喪に関する準拠法になるか否かを決定するために,その法によって物権の得
喪の原因となる事実が完成したといえるかどうかについての検討を求めるという構造を有して
いる。したがって,甲国法を準拠法とした上で本件絵画の所有権がXからYに移転していない
という帰結を導くのではなく,通則法第13条第2項のこのような構造を理解した上で,甲国
法がそもそも本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはならないという結論に至る論理過程
を示すことが期待されている。
次に,本件絵画の所有権の移転に関する準拠法は他に存在しないか否かを検討することが求
められる。しかるところ,本件絵画は,所有権確認の訴えの口頭弁論終結時において,公海上
を航行中の船舶に積載されているから,その目的物所在地には法が存在しない。そこで,この
ような移動中の物についていかなる取扱いをするかが問われることになる。
移動中の物については,その仕向地法を目的物所在地法とする理解が一般的であるが,〔設
問2〕においては,その根拠を説明した上で,通則法第13条第2項に基づき,仕向地法であ
る日本法(民法第176条)によって本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成した
当時」がいつなのかを検討し,それによって日本法がその「当時の目的物所在地法」として本
件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かについて判断することが求められる。
そして,民法第176条が適用されるのは,早くても本件絵画が移動中の物になってからで
あり,X及びYは,それ以後,同条の定める所有権の移転に関する意思表示をしていないと考
えると,本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」は存在しないから,日本法は,通則法
第13条第2項の要件を充たさず,したがって本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはな
らないことになる。そうすると,本件絵画についてYからXへの所有権の移転を認める準拠法
は存在しないことになり,Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
他方,民法第176条は,物権の移転に関する当事者の意思表示がどの時点でされたかを問
題にしていないと考えると,本件売買契約は,本件絵画が甲国に所在する時点で有効に成立し
ていたから,本件絵画が移動中の物となったか,又は遅くとも積載された船舶が甲国の領海か
ら公海上に達し,仕向地法である日本法が適用されるようになった時点で,本件絵画の所有権
の移転の「原因となる事実」は完成したと評価することも可能である。そうすると,日本法は,
通則法第13条第2項にいう「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」
として本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるから,民法第176条が適用され,本件
絵画の所有権はYからXに移転済みであるとしてYの請求は棄却されるという帰結が導かれ
る。
これらの考え方は,民法第176条の解釈とも関係し得るが,解答者は,自らの見解を説得
的に論述した上で,いずれかの結論に至ることが期待されている(以上は物権の準拠実質法に
よるとの立場を前提としたものであるが,その他,これは国際私法の解釈問題であるとの立場
もあり,その立場によってもよい。)。
以上の通説的な理解とは異なり,国際私法上債権行為と物権行為を区別する必要はないとし
て,法律行為の当事者間では,物権の得喪の問題も通則法第7条以下の法律行為の準拠法によ
るべきであるとする説もある。この説に立つ場合,上記の通則法第13条第2項により準拠法
を指定する説からの考えられる批判に配慮しながら自説の根拠を示した上で,通則法第7条以
下の適用により準拠法を指定することになる。XY間の本件売買契約は有効に成立しているか
ら,X及びYが本件売買契約に関して準拠法を選択したか否か,準拠法の選択がないとするな
らば,通則法第8条以下で最密接関連地法を指定することになるが,〔設問2〕では甲国に常
居所を有しているYが特徴的な給付を行うこととされていることを的確に示すことが求められ
よう。その上で,甲国法を準拠法として当てはめを行うと,本件絵画については所有権がYか
らXに移転していないということになり,Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
以上のとおり,〔設問2〕では,問題文の条件を踏まえて,物権の得喪に関する通則法第1
3条第2項の構造を理解していることを示し,あるいは物権の得喪の問題であっても通則法第
7条以下が適用されることを説得的に示した上で,Yの請求の成否を明確に論じることを要す
る。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成30年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
