平成29年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,15:55:30])
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 弁論主義(主張原則)の妥当とその根拠・対象5点
- 主要事実の意義と代理の主要事実の特定4点
- 本件事案への当てはめ(判例・不意打ち防止・釈明)3点
設問2(1)
- 申立拘束原則(246条)と本件の訴訟物の提示10点
- Xの申立て——訴えの予備的追加的変更(143条)12点
- Yの主張の位置付け(否認/自白の整理)10点
- 同時履行の抗弁権(権利抗弁)の主張の必要性8点
設問2(2)
- 220万円との引換給付判決の可否(申立拘束原則の観点)7点
- 180万円との引換給付判決の可否(X主張額より有利な場合)7点
- 弁論主義の観点からの検討(220万円・180万円という金額の主張の不存在)4点
設問3
- 既判力の客観的範囲(114条1項)と前訴・後訴の訴訟物の異同10点
- 引換給付の旨が主文に掲げられることの趣旨6点
- 既判力以外の拘束力(信義則等)による遮断の可否と具体的当てはめ8点
全体
- 論理的構成・事案に即した記述・表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,Xが贈与契約に基づき本件絵画の引渡しを求めたのに対し,Yがその取引は時価相
当額を代金額とする売買契約であってその額は300万円であると主張したという紛争を基本
的な題材として,①当事者が代理人による契約締結の事実を主張していない中で,証拠上その
事実の心証が得られた場合において,その事実を判決の基礎にすることができるか(設問1),
②裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするためには,当事者
からどのような申立てや主張がされる必要があるか(設問2⑴),また,そのような申立てや
主張がされたという前提の下で,220万円又は180万円との引換給付判決をすることがで
きるか(設問2⑵),③引換給付判決のうち反対給付に係る部分の裁判所の判断が後訴に対し
て何らかの拘束力を有するか(設問3)に関して,検討することを求めるものである。
まず,設問1では,民事訴訟において,裁判の基礎となる資料の収集を当事者の責任とする
原則(いわゆる弁論主義)が妥当し,その一環として,裁判所は当事者が主張しない事実を判
決の基礎にしてはならないとの原則(いわゆる主張原則)が妥当すること,一般的に,主張原
則の対象となる事実は少なくとも主要事実を含むと解されていることを前提に,代理の主要事
実は何かを明らかにした上で,代理人による契約締結の事実を認定することの可否を検討する
ことが求められる。また,この点については,判例(最判昭和33年7月8日民集12巻11
号1740頁)もあるところ,本件において,Aの証人尋問がされ,AがYの代理人として契
約を締結した旨を述べたにもかかわらず,当事者はこれを問題にしなかったという事情の下で,
主張原則との関係をどのように評価するかの検討も必要である。設問1は,弁論主義に関する
ごく基礎的な理解を問う問題である。
設問2⑴では,裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするた
めに当事者からどのような申立てや主張がされる必要があるかを検討する前提として,裁判所
は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないという申立拘束原則(民
事訴訟法第246条)を指摘した上で,問題文に記載されたとおり,本件の訴訟物の捉え方を
示すことが求められる。そこでは,①いわゆる旧訴訟物理論に立ち,売買に基づく引渡請求権
と贈与に基づく引渡請求権とは訴訟物が異なるとする立場,②同じく旧訴訟物理論に立ちつつ
も,債権的請求である以上両者は訴訟物として同一であるとする立場,③いわゆる新訴訟物理
論に立ち,売買と贈与とで原因が異なっても同一の目的物の給付を求めるのであるから,訴訟
物は同一であるとする立場など,種々の立場が考えられるが,どのような立場でも,論理的に
筋が通った答案が展開されていれば同様に評価した。
本件において,Xは,「仮にこの取引が売買であり,本件絵画の時価相当額が代金額である
としても,その額は200万円にすぎない。」と主張しており,その法的な意味合いを明確に
すべきところ,旧訴訟物理論のうち,債権的契約につき契約ごとに異なる訴訟物を構成すると
の立場からは,裁判所が上記の引換給付判決をするためには,Xから,予備的請求として,売
買契約に基づく本件絵画の引渡請求を追加的に併合する訴えの変更(民事訴訟法第143条)
の申立てがされることが必要となる。その際,同時履行の抗弁はYから主張することを要する
権利抗弁であるため,Xの予備的請求として「200万円の支払を受けるのと引換えに本件絵
画の引渡しを求める」旨の限定を付す必要はなく,単純に,売買契約に基づき本件絵画の引渡
しを求めることとなることに留意すべきである。他方,新訴訟物理論の立場,あるいは旧訴訟
物理論のうち,贈与によっても売買によっても債権的請求として訴訟物は変わらないとする立
場からは,Xの申立てとしては,訴状における本件絵画の引渡請求で十分であり,贈与又は売
買の主張は攻撃方法の位置付けとなるため,この申立てに対して,売買を理由に200万円と
引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をすることは,申立拘束原則には抵触しないものと考
えられる。
次に,Yは,「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」と主張し
ているところ,その主張の位置付けについては,訴訟物の捉え方によって多少説明は異なるこ
とになるが,①主位的な請求原因又は主張(贈与)と②予備的な請求原因又は主張(売買)を
構成する各事実との関係で,それぞれ否認か自白かを整理するとともに,裁判所が上記の引換
給付判決をするためには,上記②に対して,Yから権利抗弁である同時履行の抗弁権の主張が
明確にされる必要があることを指摘することが求められる。
設問2⑵では,設問2⑴で必要とされた各当事者の申立てや主張がされたという前提の下で,
220万円又は180万円との引換給付判決をすることの可否が問われているが,220万円
はXが主張する時価相当額(200万円)とYが主張する時価相当額(300万円)との間に
あるのに対し,180万円はその間にはない(Xの主張額より更にXに有利である。)という
違いに着目しつつ,申立拘束原則と弁論主義の双方の観点から検討することが求められる。申
立拘束原則は,原告の意思の尊重と権利主張の権限及び責任のほか,被告の敗訴リスクの上限
を画するという意義を有するところ,本件では,請求の趣旨としては単純に本件絵画の引渡し
を求めるものであり,上記の引換給付判決も基本的にはXの合理的意思に反しないものと考え
られるが,他方,Yの敗訴リスクの関係では,時価相当額が220万円又は180万円のいず
れと判断されるかにより評価が分かれる可能性があることなどを踏まえ,事案に即して論ずる
必要がある。また,弁論主義に関しては,220万円や180万円という金額自体は両当事者
とも主張していないが,本件では本件絵画の時価相当額を代金額とすることにつき主張が一致
しており,時価相当額の評価が分かれているにすぎないことや,220万円や180万円とい
う金額は,Xの主張額(200万円)とかけ離れた額ともいい難いこと等を踏まえて論ずるこ
とが期待される。
設問3では,確定判決は主文に包含するものに限り既判力を有すること(民事訴訟法第11
4条第1項)を指摘した上で,同項所定の「主文に包含するもの」とは一般的に訴訟物と理解
されていることや,設問2⑴における前訴の訴訟物の捉え方を前提にして,後訴の訴訟物(旧
訴訟物理論では,本件絵画の売買契約に基づくYのXに対する200万円の代金請求権)との
関係で前訴判決の既判力が及ぶか否かを論ずることが求められる。
この点について,引換給付の旨は前訴判決の主文に掲げられてはいるが,その趣旨は,双務
契約における牽連性を強制執行との関係においても保障するため,債権者が反対給付又はその
提供をしたことを証明したときに限り強制執行を開始することができること(民事執行法第3
1条第1項)を主文において明らかにする点にあり,主文に掲げられていることからストレー
トに既判力又はこれに準ずる効力等の拘束力が導かれるというわけではないことに留意する必
要がある。
また,本問では,既判力などの制度的効力を否定する場合には,既判力以外の理由,例えば
信義則などにより,Xが本件絵画の売買契約の成否及びその代金額を後訴で争えなくなるか否
かについて検討することも求められる。具体的には,前訴においてXは予備的に売買契約の成
立を主張していること,前訴で認定された200万円という代金額は,予備的ではあるものの
X自身の主張額であること,売買契約の存否及びその代金額は引換給付判決をするために不可
欠の判断対象であること,他方で,Yとしては,自らがXに対して200万円の売買代金請求
権を有することにつき既判力のある判断を得たければ,前訴において反訴を提起することがで
きたことなどの事情をどのように評価するかが一つのポイントとなろう。また,信義則の適用
に際しては,前訴が本人訴訟であり第一審で判決が確定していることや,後訴に至った事情な
どを評価する必要の有無も,検討対象となろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成29年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
