平成29年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 妊娠・出産の自由の憲法上の位置付け(憲法13条の自己決定権)と制約の特定6点
- 外国人の人権享有主体性・権利性質説とマクリーン事件判決(在留制度の枠内論)への対応8点
- 審査基準の設定とその理由付け(立法裁量の限界)5点
- 妊娠等禁止規定の目的・手段に関する原告側のあてはめ5点
- 収容に関する原告側主張(実体的権利と手続的権利の区別・令状等なき収容の違憲)6点
設問2
- 妊娠等の自由の制約についての国の反論の構成8点
- 私見:権利保障の範囲・在留制度の枠内論の評価と審査枠組みの確定10点
- 私見:目的審査(定住を認めない趣旨の徹底という目的の特定と評価)6点
- 私見:手段審査(妊娠等の禁止・強制出国と目的との関連性の具体的検討)8点
- 収容の実体面:収容の必要性要件の要否(国の反論と私見)7点
- 収容の手続面:憲法33条等の行政手続への適用関係と判断枠組みの設定10点
- 収容の手続面:特労法18条・19条所定の手続の具体的評価9点
全体
- 法令違憲としての構成・国家賠償訴訟の位置付け5点・簡潔に
- 論理的構成・文章表現7点
出題の趣旨(法務省公表)
今年度は,いわゆる外国人非熟練労働者の入国・在留を認める架空立法を素材に,外国人の
人権保障に関するいくつかの問題を問うこととした。基本判例や学説に関する適切な理解や初
見の条文の正確な読解を前提に,具体的な事案に即して的確な憲法論を展開することができる
かどうかが問われる。
本問での主な論点は,問題文にもヒントがあるように,①妊娠・出産(以下「妊娠等」とい
う。)を滞在の際の禁止事項とし,違反があった場合には強制出国させることが,自己決定権
(憲法第13条)の侵害ではないか,②令状等なくして収容を認めることが人身の自由や適正
な手続的処遇を受ける権利(根拠条文は立場によるが,憲法第13条,第31条,第33条等。)
を侵害するのではないか,ということである。
①の自己決定権の侵害については,まず,自己決定権が憲法上保障されるか,そして,その
自己決定権に妊娠等の自由が含まれるかということが問題となる。さらに,妊娠等の自由が自
己決定権に含まれるとしても,本問のBが外国人であることから,別途の考慮が必要となる。
この点については,マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号122
3頁)及びそこで示された権利性質説が直ちに想起されることだろう。そして,権利性質説か
らすれば,妊娠等に関わる自己決定権は外国人にも保障されるということになろう。しかし,
注意すべきは,同判決が,外国人に対する人権保障は「外国人在留制度のわく内で与えられて
いるにすぎない」として,人権として保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情
として考慮されることはあり得るとしていることである。外国人の出入国及び在留に関わる問
題に関しては,単純な権利性質説に基づく議論では不十分である。
B代理人甲としては,マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,本件のような場
合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。様々な立論があり得る
だろうが,飽くまで一例ということで示すとすれば,まず,妊娠等が本人の人生にとって極め
て重要な選択であり,また,人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,新制
度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。),自己決定権
の中でも特に尊重されなければならないこと,また,本件が,再入国と同視される在留期間の
更新拒否ではなく,強制出国の事例であってマクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘
して,立法裁量には限界があるとして中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)に
よるべきだという主張をすることなどが考えられる。その上で,例えば,規制目的は定住を促
す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹
底することであり,これは,滞在期間を限定し,永住や帰化を認めないという直接的な措置と
比べて周辺的であり,重要な立法目的とまでは言えないこと,仮に目的が重要だとしても,妊
娠等が全て定住につながるとは限らず,合理性に欠けることなどを指摘することが考えられる。
本問では,違憲の主張をする場合,その瑕疵は特労法そのものに求められるべきであり,問
題文にも,「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,国
家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。」とされているのであるから,法令違憲を検討すべき
である。仮に適用違憲に言及するとしても簡潔なものにとどめるべきであろう。
これに対して国の主張としては,妊娠等の自由が憲法上保障されるとしても,出入国や国内
での滞在は国家主権に属する事項であって,妊娠等を理由に強制出国処分とすることについて
は極めて広範な裁量が認められること,子供が日本で生まれ育つことにより,日本の社会保障
制度や保育・教育及び医療サービス等の負担となる可能性があり,また,親である外国人も含
め,定住の希望を持つようになる蓋然性があること,新制度は労働力確保のためであり,妊娠
等によって相当期間に渡って就労が不可能になるから禁止事項として合理性があること(特労
法第15条第6号が1月以上就労しないことを禁止事項としていることも参照。),妊娠等禁止
の条件は事前に周知され,誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく合憲であるとい
った点を指摘することが考えられよう。
②の収容に関しては,人身の自由という実体的な権利の問題と,収容が令状等なくして行わ
れることなどに関わる手続的な権利の問題とがある。前者については,特労法第18条第1項
によれば違反行為に該当すると疑うに足りる相当な理由があることが収容の要件となっている
ところ,例えば刑事訴訟法の逮捕に関する要件(刑事訴訟法第199条)についての議論を参
照し,収容の必要性も要件とすべきであるという主張が考えられる。これに対して,収容は違
反行為該当性の調査のためだけではなく,その後の迅速な強制出国処分に備えて身柄を確保す
る必要性にも基づいているのであるから,嫌疑さえあれば常に必要性はあるといえるといった
反論が想定できる。
手続的な権利については,憲法第33条の逮捕令状主義との関係が問題となるが,本問の収
容手続は行政手続であるから,これらの規定の直接適用はできず,準用・類推適用あるいは他
の規定(憲法第13条,第31条)の適用によって憲法的な保障が及ぶかどうかの検討が求め
られる。行政手続としての身体の拘束の際の手続的保障について判断した判例は見当たらない
ため,憲法第35条と行政手続との関係が問題となった川崎民商事件判決(最大判昭和47年
11月22日刑集26巻9号554頁)や,憲法第31条と行政手続との関係について判断し
た成田新法事件判決(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)を参考に,判断枠組
みを設定することが必要となる。このほか,憲法第34条の抑留拘禁要件との関係で,特労法
第18条ないし第19条所定の手続の性質を検討する視点もあり得よう。
甲の主張としては,例えば,人身の自由に対する重大な制約である身柄の拘束については原
則として,裁判官による令状,あるいは少なくとも,行政官であっても第三者的な立場の者に
よる事前審査が必要であるが審査官はそうした立場の者ではないとした上で,例外を認める特
段の事由のないことを指摘することとなる。甲の立場からは,例えば,令状等を要することが
原則だとしても緊急逮捕(刑事訴訟法第210条)のように事後に直ちに令状等を求める制度
もあり得るから迅速性の要請は充足できること,禁止事項該当性が明らかであることと手続的
保障の必要性とは別問題であること,事後的に収容理由が告知されたり弁解が聴取されても,
それと事前手続の必要性とは別問題であること,さらに,同じく事後的に裁判所の審査が受け
られるといっても,短期間に出国させられてしまう以上実効性に欠けること,などを指摘する
ことが考えられる。
これに対して,国は,出入国や滞在については国家主権に属する事項であって外国人の権利
保障の程度が下がること,刑事責任追及に結び付くものではないこと,手続の迅速性(緩やか
な要件で入国を認める以上,受け入れた外国人に問題がある場合には迅速に出国させることに
より我が国の秩序を守り国民の安心を得る必要があること)の要請があること,退去強制事由
該当性が明らかであること,収容後直ちに収容理由の告知・弁解の聴取がなされ,警備官とは
別の立場である審査官による審査もあること,更に裁判所への出訴も可能であること,などを
主張することができるだろう。
出入国管理及び難民認定法による現実の外国人出入国管理制度においては,主任審査官が発
付する収容令書によって退去強制事由に該当する容疑のある者を収容することができるとされ
ている(同法第39条)。これと本問の新制度とは別個のものであり,解答に当たって現実の
制度への言及やそれとの比較を行うことは求められていないが,必要な範囲でそれに言及する
ことがあったとしてももちろん構わない。
なお,本問では国家賠償請求訴訟が提起されているが,憲法上の主張の検討が求められてい
るのであるから,国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそれを前提にした具体的検討を中心に
据えるのは適当ではないだろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成29年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
