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平成25年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説

平25司法 民事系科目第3問(民事訴訟法)民事訴訟法

問題

〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,2.5:2.5:2:3〕)

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。 【事例1】 Aは,甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,平成24年9月30日,土地甲1を Bに遺贈する旨の遺言(遺言①)をし,同年10月31日,土地甲2をCに遺贈し,遺言執行者 としてDを指定する旨の遺言(遺言②)をした。Aの夫は,既に亡くなっており,子Eがいるも ののAとは疎遠となっており,B及びCはいずれもAの友人である。Aは,同年12月1日,死 亡した。 遺言①の存在を知ったEは,平成25年1月10日,遺言①はAが意思能力を欠いた状態でさ れたものであり無効であると主張し,Bを被告として,遺言①が無効であることの確認を求める 訴えを提起した(訴訟Ⅰ)。 以下は,Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。 L1:遺言無効確認の訴えは,遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えで すが,確認の利益は認められるでしょうか。判例はありますか。 P1:はい。最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は, 三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案 において,次のように判示しています。 「本件記録によれば,Xら(原告・控訴人・上告人)は,訴外某が昭和35年9月30 日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,その請求原 因として述べるところは,右某は昭和37年2月21日死亡し,Xら及びY1からY5ま で(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,右某は昭和3 5年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,昭和37年4月2日 大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,右遺言は,右某がその全財産を共同相続人の 一人にのみ与えようとするものであつて,家族制度,家督相続制を廃止した憲法24条に 違背し,かつ,その一人が誰であるかは明らかでなく,権利関係が不明確であるから無効 である,というものである。これに対し,Y1を除くその余の被上告人らは,本訴の確認 の利益を争うとともに,本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であること が明らかであるから,本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は,遺言は過 去の法律行為であるから,その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,本 訴を却下し,右第一審判決に対してXらより控訴したが,原審も,右第一審判決とほぼ同 様の見解のもとに,本訴を不適法として却下すべき旨判断し,Xらの控訴を棄却したもの である。 よつて按ずるに,いわゆる遺言無効確認の訴は,遺言が無効であることを確認するとの 請求の趣旨のもとに提起されるから,形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが, 請求の趣旨がかかる形式をとつていても,遺言が有効であるとすれば,それから生ずべき 現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がか かる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,適法として許容されうるものと解 するのが相当である。けだし,右の如き場合には,請求の趣旨を,あえて遺言から生ずべ き現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,いかなる権利関係につき審理判 断するかについて明確さを欠くことはなく,また,判決において,端的に,当事者間の紛 争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて, 確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。 以上説示したところによれば,前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法と いうべきである。それゆえ,これと異なる見解のもとに,本訴を不適法として却下した原 審ならびに第一審の判断は,民訴法の解釈を誤るものであり,この点に関する論旨は理由 がある。したがつて,原判決は破棄を免れず,第一審判決を取り消し,さらに本案につい て審理させるため,本件を第一審に差し戻すのが相当である。」 L1:ありがとう。ただ,訴訟Ⅰの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるよ うに思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺 言①の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。 〔設問1〕 あなたが司法修習生P1であるとして,弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。 【事例1(続き)】 Cは,平成25年3月1日,土地甲2につき,遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権 移転登記手続の申請をし,同日,上記登記が経由された。 Eは,同年5月1日,遺言②はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主 張し,Dを被告として,上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟Ⅱ)。 以下は,Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。 L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。 P2:はい。遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,遺 言執行者がある場合に,相続人は相続財産についての処分権を失い,右処分権は遺言執行 者に帰属します(民法第1012条,第1013条)。また,最高裁判所の判決にも,「相 続人は遺言執行者を被告として,遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を 有することの確認を求める訴を提起することができるのである。」と述べるものがありま す(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁)。Eは その趣旨に従ったのだと思います。 L2:なるほど。ただ,本件でもそのように言うことができるでしょうか。私としては,本案 前の抗弁として,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がない と主張し,訴えの却下の判決を求めようと考えています。このような立場から立論してみ てください。 〔設問2〕 あなたが司法修習生P2であるとして,弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。 【事例2】 材木商Fは,土地乙をその所有者Jから賃借し,材木置場として利用していたところ,平成1 5年4月1日,死亡した。Fの相続人は,その子であるG及びHの2名であり,Fの妻I(G及 びHの母)はFより先に亡くなっている。 Gは,Fの死亡後,家業を継ぎ,土地乙を引き続き材木置場として利用している。 ところが,土地乙については,平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの 所有権移転登記がされている。 Gは,平成23年1月10日,Hを被告として,土地乙につきGが所有権を有することの確認 及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,Hは,土地乙の明渡しを求める 反訴を提起した。 この訴訟(以下「前訴」という。)において,Gは,土地乙は,Gの父Fからその生前に贈与 を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,Hは,Jから土地乙を買い受けたの はGではなく,Hの父Fであり,その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。 前訴の裁判所は,審理の結果,土地乙をJから買い受けたのは,GではなくFであると認めら れるが,HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,それ以上, 何らの釈明を求めることなく,Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し, 同判決は,そのまま確定した。 ところが,その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,Gは,平 成25年3月15日,Hに対し,土地乙がFの遺産であることを前提として,相続により取得し た土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。 この訴訟(以下「後訴」という。)において,Hは,前訴の本訴請求についての判決により, 土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相 続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。 以下は,後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話 である。 P3:前訴判決の認定によれば,土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応 じた共有持分権を有していることになるので,前訴において,Gの請求はその限度で認容 されるべきであったのではないでしょうか。 L3:確かにそのような疑問は湧きますね。そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権 に基づく請求をしているのに,共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容として できるかについては議論がありますが,両者は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の 一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてくだ さい。 P3:分かりました。 L3:それから,今の点とは別に,Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の 請求原因が何であるか確認する必要がありますね。その上で,主張のレベルにおいて,裁 判所は,請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができ るかということが問題になりそうです。検討してみてください。 〔設問3〕 ⑴ 相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。本件の事実関係に即 して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。)。 ⑵ 前訴における当事者の主張を前提とすると,裁判所は,適切に釈明権を行使したならば,上 記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,検討しなさい。 【事例2(続き)】 以下は,数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。 L3:さて,我々としては,前に検討してもらった諸点を踏まえて,Hの上記主張に対し,G の法律上の反論を考えることになりますが,見通しはどうですか。 P3:法律論としてまとめきれていないのですが,前訴ではHの反訴請求も棄却されているに もかかわらず,後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというH の態度には問題があるような気がします。既判力によっては妨げられない訴えを信義則に 基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8 号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147 頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。 例えば,平成10年判決は,次のように述べています。いわゆる明示の一部請求の訴訟 物は,その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。 「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らない ことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するも のではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部につ いて審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事 者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるとき は債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁 平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号135 5頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に 満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却 するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されて いる場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,こ のように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しない か又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであっ て,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほ かならない。したがって,右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは, 実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決 によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に 二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量 的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限 り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」 L3:そうですね。既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,その範囲で後訴において作用 するのが原則ですが,あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように, 判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟 物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。 このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効 の拡張)が認められるのであれば,信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い 範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。遮断効の縮小に関して は,色々な考え方があり得ますが,本件では,平成10年判決を参考にして立論すること にしましょう。言うまでもなく,信義則は一般条項ですから,これを持ち出す場合には, どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,十分検討する必要 があります。困難な課題ではありますが,Hの上記主張に対し,Gの立場から考えられる 法律上の主張を立論してみてください。 〔設問4〕 あなたが司法修習生P3であるとして,弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1

  • 確認の対象は現在の権利・法律関係でなければならないという原則とその根拠5点
  • 昭和47年最判の理解(例外が認められる理由と事案の特殊性)9点
  • 本件事案への当てはめ(判例の射程が及ばないこと・確認の利益を欠く結論)10点

設問2

  • 遺言執行者の実体法上・訴訟法上の地位8点
  • 本件における遺言執行の内容と執行の終了8点
  • 管理処分権の受遺者への帰属と被告適格の所在(結論)8点

設問3(1)

  • 相続による特定財産取得の請求原因事実の具体的摘示9点

設問3(2)

  • 各請求原因事実についての当事者の主張の有無の検討5点
  • 主張共通の原則と判決の基礎とすることの可否5点・簡潔に

設問4

  • 既判力による遮断という原則の確認6点
  • Gの主張が紛争の蒸し返しと評価できないこと9点
  • Hの態度が信義則に反すること(具体的事情による基礎付け)9点
  • 結論(遮断効の訴訟物より狭い範囲への縮小)4点・簡潔に

全体

  • 論理的構成・表現(設問への正面からの応答、順序立てた自分の言葉での論述)5点

出題の趣旨(法務省公表)

本問は,二つの相続紛争事案を基に,確認の利益(設問1),当事者適格(設問2),弁論主
義(設問3)及び判決の効力(設問4)について検討することを求めている。問題文には,事
実関係のほか,関係する判例や考え方の方向性等が示されており,受験者にはこれらの情報を
踏まえた上でその先の考察を行うことが期待されている。
〔設問1〕は,遺言無効の確認を求める訴えである訴訟Ⅰについて,訴えが確認の利益を欠
き不適法であるとする立場からの立論を行うこと,換言すれば,本件には最高裁判所昭和47
年2月15日第三小法廷判決・民集26巻1号30頁の判例の射程が及ばず,本件で遺言無効
の確認を求めることは確認対象の選択において適切でないと論じることを求めている。
一般に,現在の権利又は法律関係の存否ではなく,その前提に過ぎない過去の事実や法律関
係の存否を問題とすることは,多くの場合迂遠であるし,その後の法律関係の変動が考慮され
ず,現在の紛争の解決に役立つとも限らないことから,過去の法律関係の存否の確認を求める
訴えには,原則として確認の利益がないとされている(売買契約の無効の確認を求める訴えに
つき最高裁判所昭和41年4月12日第三小法廷判決・民集20巻4号560頁)。【原則及び
その根拠】
昭和47年最判によれば,遺言が無効であることの確認を求める訴えは適法として許容され
る場合があるとされているけれども,同最判の事案は,多数の不動産等を含む全財産を一人の
相続人に遺贈するというものであり,そのような場合に個々の財産について原告の共有持分権
に引き直してその確認を求めるとすれば,特定の財産を漏らしたりする危険もある。そのよう
なことを想定すると,遺言が複数の財産を対象とするような事案においては,対象財産全てに
共通する遺言という基本的法律行為の無効を既判力により確定する方が,より直接的かつ抜本
的な紛争解決につながるものといえる。【昭和47年最判の理解】
これに対し,訴訟Ⅰで問題とされている遺言①の対象財産は,土地甲1だけであり,遺言①
の無効の確認を求めることによって多数の紛争を一挙に解決できるという関係にない。Eとし
ても,Bを被告として現在の法律関係である土地甲1の所有権の確認を求める訴えを提起でき
れば紛争の解決として十分である。昭和47年最判は本件とは事案を異にし,本件にその判例
の趣旨は及ばない。【本件事案への当てはめ】
昭和47年最判についてはより広く遺言無効の訴えを許容したものという理解もあり得る
が,設問の趣旨に沿って訴訟Ⅰが確認の利益を欠くというためには,以上のように立論するこ
とになろう。
過去の法律関係の存否の確認を求める訴えが許されないという原則の根拠に関し,設問に対
する解答を超えて確認の利益の一般論(対象選択の適否,手段としての適否等)を論じても,
特に評価の対象とはしない。昭和47年最判との関係では,なぜ上記原則の例外が認められる
のか,その理由を説明することが必要である。本件事案への当てはめに関しては,昭和47年
最判の事案と本件の事案とが区別できること,換言すれば,二つの事案の相違とその意味する
ことを理解し,答案に表現できていることが必要であるが,重要なのは対象財産の個数であり,
相続人の人数の多寡や受遺者が相続人であるか否かがポイントになっているわけではない。
〔設問2〕は,所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えである訴訟Ⅱについて,被告と
された遺言執行者Dが被告適格を欠き,訴えは不適法であるとする立場からの立論を行うこと,
換言すれば,遺言執行者が遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することを定め
た民法の規定や,相続人が遺言執行者を被告として遺言の無効を主張し,相続財産について自
己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができる旨述べる最高裁判決がある
にもかかわらず,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格が認められ
ないことを,その根拠と共に論じることを求めている。
遺言執行者が相続財産について有する管理処分権,ひいては法定訴訟担当として認められる
その当事者適格も,遺言執行という任務に由来するものであるが,訴訟Ⅱで問題とされている
遺言②の対象財産は土地甲2のみであり,遺言②に基づく遺言執行の内容も同土地の所有権移
転登記を行うことに尽きる。ところが,登記が受遺者Cに移転した以上,この遺言②の執行は
終了しており,遺贈目的物の管理処分権も遺言執行者ではなく受遺者Cに帰属することからす
れば,所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えは,登記名義人であり本来の登記義務者で
ある受遺者Cを被告として提起すべきである。
遺言執行者Dが被告適格を欠くというためには,このように立論することになろう。
相続財産に関する訴訟において遺言執行者に被告適格が認められることの根拠に関しては,
遺言執行者の実体法上の地位(問題文に書かれている内容)を再確認し,法定訴訟担当である
ことなど遺言執行者の訴訟法上の地位に言及すべきであるが,設問に対する解答を超えて「そ
もそも当事者適格とは‥」といった当事者適格の一般論を論じても特に評価の対象とはしない。
本件事案への当てはめに関しては,登記の移転により遺言の執行が終了したこと及び遺贈目的
物の管理処分権が受遺者に帰属していることの二点を指摘すべきであり,仮に遺言執行者が当
事者適格をもち続けることとなれば,遺言執行者がいつまでも相続紛争から解放されないこと
になって不都合であるといった指摘があれば評価できる。
〔設問3〕及び〔設問4〕は,相続人であるG及びHのうち,Gが相続財産である土地乙を
占有し,Hが同土地の登記名義を有しているという事実関係において,GがHに対し売買によ
る土地乙の取得を請求原因として所有権移転登記手続を求める訴え等を提起し,HがGに対し
同土地の明渡しを求める反訴を提起した(前訴)ところ,本訴請求及び反訴請求をいずれも棄
却する判決がされて確定し,その後,GがHに対し今度は相続を請求原因として土地乙の共有
持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した(後訴)という事案を基に,
後訴においてHがした主張,すなわち『前訴の本訴請求についての判決により,土地乙はGの
所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相続による共
有持分の取得を主張することもできない』との主張にGの立場から反論することを求めている。
弁護士L3と司法修習生P3との会話にもあるとおり,前訴判決の認定によれば土地乙はFの
遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応じた共有持分権を有していることになるが,単
独所有権と共有持分権は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の一部として共有持分権の限
度で請求を認容することは可能であるという理解を前提とする。
〔設問3〕は,まず議論の前提を整理するものである。
小問1では,相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因を本件の事実関
係に即して摘示することが求められている。請求原因事実その他の主要事実とは,法律要件に
該当する具体的な事実をいい,抽象的な摘示,例えば,金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請
求権の請求原因事実を「返還約束」と「金銭の授受」であると解答するようではいけない。本
問では,①『Fは平成15年4月1日死亡』,②『GはFの子』,③『Jは土地乙をもと所有』,及
び④『JF売買』を摘示すべきであるが,上記③④の代わりに『Fは①の当時土地乙所有』と
書いた答案にも同じ評価をする。
小問2では,小問1で整理した請求原因ごとに各事実が当事者から主張されているか否かを
検討することが求められている。具体的にみると,上記①,②及び③については,「父Fから」
「その生前に」などのGの主張から読み取ることができるのに対し,上記④については,Gは
これと矛盾する「JG売買」を主張し,かえってHが④を主張していることから,このように
請求原因の一部でありながら原告であるGが主張していない事実を判決の基礎とすることがで
きるか否かということが問題となる。
弁論主義は,裁判所と当事者との間の役割分担を問題とするものであるから,主要事実の主
張はいずれの当事者からされてもよく,ある主要事実が既に当事者によって主張されていると
きは,それがたまたま主張責任を負っていない当事者によって主張されていても,裁判所は,
この事実を斟酌でき(主張共通の原則),そうすると,上記④についても判決の基礎とするこ
とができる。
なお,上記③④に代えて『Fは①の当時土地乙所有』を請求原因として挙げた場合は,この
点はGもHも主張していないため,これ自体について主張共通の問題にはならないが,『Fは
①の当時土地乙所有』を基礎付ける上記③④のうち④について上記に述べた通り主張共通問題
を生じることになる。
このように必要な請求原因事実の主張に欠けるところはないと理解すると,弁論主義の本来
の趣旨からは,設問の場面において裁判所の釈明は不可欠なものでないことになるが,それが
裁判所の心証の所在を敗訴の可能性のある当事者(この場面で言えばH)に対して明らかにし,
注意を喚起するためのものであるなどの説明があれば評価できる。
〔設問4〕は,既判力による遮断効の範囲が縮小するという理論構成をし,Gの立場からH
の主張に反論することを求めている。遮断効の範囲の縮小に関しては色々な考え方があり得る
ものの,本問では,問題文において示唆されているとおり,明示的一部請求の事案において,
既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例と関連付けて論じること
が求められている。
前訴でGの所有権確認請求の全部棄却が確定した以上,Gが乙土地について共有持分権を有
するとの主張は既判力により遮断されるのが原則である。【原則の確認】
しかし,前訴でHは,反訴請求原因事実としてJF売買・FH贈与を主張し,裁判所が前者
を認め後者を否定した以上,前訴判決には乙土地がFの遺産であるとの裁判所の判断が示され
ており,設問3で検討したように,本来Gの本訴請求は相続分に応じた共有持分の限度で一部
認容されるべきであったことを考えれば,後訴において,Fからの相続による乙土地の共有持
分権の取得をGが主張することが紛争の蒸し返しであるとは評価できない。【Gの主張の評価】
かえって,後訴においてHが,前訴裁判所の上記判断を前提としてFの死亡によりその子G
が共有持分権を取得したとするGの主張を,Gの所有権確認請求を全部棄却した内容的に不当
な判決の既判力を持ち出して争うことは,上記判断が前訴におけるHの自己責任に基づく訴訟
追行の結果であることに照らすと,信義則違反である。【Hの信義則違反】
そうすると,Gの所有権確認請求を全部棄却した確定判決の既判力は,後訴におけるGの上
記主張を遮断しない限度で,訴訟物の枠よりも縮小される。【結論】
いずれにせよ,Hの信義則違反に何らかの形で引き寄せて論じることが必要であり,また,
信義則という一般条項を用いるからには,どのような事情がいかなる理由により信義則の適用
を基礎付けるのかを具体的に論じなければならない。

参考答案と AI 採点

第1 〔設問1〕について 1 確認の訴えにおける確認の利益と対象選択の適否 確認の訴えは、給付の訴えと異なり対象が無限定となり得るから、紛争の抜本的解決にとって有効適切な場合にのみ…

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出典:法務省「平成25年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。