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平成25年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説

平25司法 民事系科目第1問(民法)民法

問題

〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 Ⅰ 【事実】 1.甲土地は,平成22年5月当時,Aが所有しており,Aを所有権登記名義人とする登記がさ れていた。また,乙土地は,その頃,Bが所有しており,Bを所有権登記名義人とする登記が されていた。 2.Bは,医療機器の製造と販売を主たる事業としていたが,事業用の建物を賃貸して収益を得 たいとも考えていた。Bは,事業用の建物を所有するのには甲土地が立地として適しているの に対し乙土地が必ずしも適さないことから,乙土地を売却処分して甲土地を取得したいと考え, Aとの間で甲土地の売買について交渉を試みた。この交渉において,Bは,Aに対し,代金を 支払うための資金を乙土地の売却処分により調達する予定であることを説明し,Aは,その事 情に理解を示すとともに,代金債務の担保として適当な連帯保証人を立てることを求めた。 3.この交渉の結果として,A及びBは,平成22年6月11日,代金を6000万円として甲 土地をAがBに売る旨の契約を締結した。この契約においては,代金のうち1500万円は同 月中にBがAに支払うこと,残代金4500万円の支払の期限は平成22年8月10日とする こと並びに代金の全部が支払われた後に甲土地についての所有権の移転の登記及び甲土地の引 渡しをするものとすることが約された。 4.また,保証人を立てることについて,Bは,Aに対し,Bの友人であるCを連帯保証人とす ることを提案した。Bは,このことについてCの了解を得ていなかったが,Bと長く交友関係 があったCに事情を説明すれば,甲土地を入手するためにCが協力をしてくれるものと想定し ていた。 Aは,Bの提案を了承し,【事実】3の売買契約が締結された平成22年6月11日,A及 びBは,Cがその売買契約に係る代金債務の連帯保証人になる旨の書面を作成した。その書面 は,2通作成され,それらの内容は同じものである。すなわち,そこには,【事実】3の売買 契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨が記され,A及びBが署名し, Bの署名には,BがCの代理人である旨が示されていた。A及びBは,この書面をそれぞれ1 通ずつ持ち帰ることとした。Bは,この書面を作成する際,Cが連帯保証人になることについ て,Cから代理権を授与されてはいないが,Cの追認を速やかに得たい,とAに説明した。 5.Bは,平成22年6月15日,Cと会い,Cに対し,【事実】4の連帯保証の書面を示し, その書面に記されているとおり,【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてC が連帯して保証する旨の契約をしたこと,及び連帯保証人になることについてのCの追認を後 日に得たいとAに告げたことを説明した。その上で,Bは,Cに対し,Cを連帯保証人にする 旨の契約をしたことを認めて欲しい,と要請した。Cは,これを承諾して,その席からAに電 話をし,連帯保証人になることに異存はない旨を告げた。 6.【事実】3の売買契約の代金のうち1500万円は,平成22年6月25日,BがAに支払 った。しかし,残代金の支払のためにBが進めた乙土地の売却処分は実現しないまま,やがて 平成22年8月10日が到来した。そこで,Aは,同月18日,Bに対し残代金4500万円 を速やかに支払うよう求めるとともに,Cに対し同じ額の支払を求めた。 これに対し,Cは,AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,その効力を生じないから Aの求めに応ずるつもりがないことを告げた。 〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として,次の問いに答えなさい。 Aが,Cに対し,保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるかを検討 し,また,その主張に含まれる問題点を踏まえてその当否を論じなさい。 Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から16までの経緯があった。 【事実】 7.その後,Bは,乙土地の売却について目途がついたことから,Aと話し合い,Aとの間にお いて,【事実】3の売買契約の残代金を支払う期限を平成22年12月15日とすることに合 意した。Bは,乙土地の売却処分によって得た資金を用い,平成22年12月10日,残代金 をAに支払った。同日,甲土地はAからBへ引き渡され,また,同月18日,甲土地について AからBへ売買を原因とする所有権の移転の登記がされた。 8.そこで,Bは,甲土地上に建物を建設するため,銀行であるD及び建設業を営む株式会社で あるEと折衝を始めた。 まず,建設資金の融資をBから要請されたDは,平成23年1月頃,甲土地及びその上に建 設される建物について第1順位の抵当権の設定を受けることを条件として,Bに対し,建物の 建設資金として8000万円を融資する旨の意向を示した。 また,B及びEは,平成23年2月28日,Eが甲土地の上に建物を建設し,これに対する 報酬としてBがEに1億3000万円を支払う旨の請負契約を締結した。 9.【事実】8の請負契約に基づき,Eは,甲土地上に建物を建設し,平成23年8月31日, Bに対し,この建物(以下「丙建物」という。)を引き渡した。同日,DはBに8000万円 を貸し渡し,Bは,Bが別に用意した5000万円を加え,請負の報酬として1億3000万 円をEに支払った。 10.また,DによるBへの金銭の貸渡しに係る消費貸借の返済条件は,毎月78万円の元利均等 払で期間は10年とされた。また,この貸金の返済について2回の債務不履行がある場合には Bは期限の利益を失い,返済されていない額の全部を直ちにDに返済することも約された。 そして,B及びDは,この消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,平成23年8月31 日,甲土地について抵当権を設定する旨の契約を締結した。これに基づき,同日,甲土地につ いて,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた。この抵当権に優先する担保権の登 記はされていない。 丙建物は,平成23年9月14日,Bを登記名義人とする所有権の保存の登記がされた。同 日,B及びDは,上記の消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,丙建物について抵当権を 設定する旨の契約を締結し,これに基づき,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされ た。この抵当権に優先する担保権の登記はされていない。 11.Bは,Fとの間において,平成23年10月1日,丙建物の1階部分について,コーヒーシ ョップとして使用することを目的とし,賃料を月額40万円として,これをFに賃貸する旨の 契約を締結した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとする ことが約された。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Fに対し丙建物の1階部分を引き渡 した。 12.Bは,Gとの間において,平成23年11月1日,丙建物の2階部分について,学習塾とし て使用することを目的とし,賃料を月額30万円として,これをGに賃貸する旨の契約を締結 した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとすることが約さ れた。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Gに対し丙建物の2階部分を引き渡した。 13.Fは,【事実】11の賃貸借契約の締結に当たり,丙建物の1階部分の内装について,飲食店 の内装工事を専門とし,内装業を営むHに相談し,Bから丙建物の設計図を取り寄せるなどし て,Hと共に内装の仕様及び施工方法を検討した。その上で,Fは,その検討結果の概要をB に説明し,それに従いHに内装工事を行わせることについてBの承諾を得た。これを受けて, Fは,平成23年10月3日,Hに内装工事を発注し,同月25日に工事が完了した。そこで, Fは,平成23年11月1日,丙建物の1階部分において,営業を始めた。 14.平成24年2月末頃,丙建物の1階部分で雨漏りが発生するようになった。 15.Fから雨漏りを防ぐ措置を求められたBは,Eに調査を依頼した。この調査の結果,【事実】 13の工事の際にHが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが雨漏りの原因であることが 明らかとなった。 16.Bは,このままでは丙建物の維持に支障が生じると考え,Eに【事実】15の亀裂の修繕を発 注し,その修繕の工事は,平成24年3月20日に完了した。そこで,Bは,それに対する報 酬として100万円をEに支払った。このBがEに支払った報酬の額は,【事実】15の亀裂の 修繕に要する工事の対価として,適正なものである。 〔設問2〕 【事実】1から16までを前提として,Bは,【事実】16においてEに支払った報酬に 相当する金銭の支払をFに対し求めるために,どのような主張をすることが考えられるか。また, それに対し,Fは,どのような主張をすることが考えられるか。それぞれの主張の根拠を説明し, いずれの主張が認められるかを検討しなさい。 Ⅲ 【事実】1から16までに加え,以下の【事実】17及び18の経緯があった。 【事実】 17.その後,Bは,医療機器の製造販売の事業に失敗して,資金が不足するようになり,Dに対 する平成24年6月分及び7月分の貸金の返済について遅滞が生じた。そこで,Dは,抵当権 に基づく物上代位によって貸金の回収を図ることを考え,差し当たり丙建物の2階部分の賃料 について,丙建物を目的とする【事実】10の抵当権に基づく物上代位による貸金の回収を始め ることとした。また,丙建物の1階部分の賃料については,【事実】16の修繕費用をめぐる問 題が解決してから,同様の手順を採ることを考えた。 そこで,Dは,平成24年9月18日,抵当権に基づく物上代位権の行使として,BがGに 対して有する賃料債権のうち,平成24年9月25日以降に弁済期が到来する同年10月分か ら平成25年9月分までについて差押えの申立てをした。この差押えに係る差押命令は,平成 24年9月21日,B及びGに送達された。 18.この送達がされる前の平成24年9月初旬,大型で強い台風が襲い,丙建物の2階部分は, 暴風のため窓が損傷し,外気が吹き込む状態となった。そのままでは丙建物の2階部分で児童 や生徒に対し授業をすることにも支障が生ずるため,Gは,すぐにこの状況をBに知らせよう としたが,Bの所在を把握することができなかった。 Gは,やむなくEに連絡を取って相談をし,E及びGは,平成24年9月8日,Eが丙建物 の2階部分の修繕をし,それに対する報酬としてGがEに対し30万円を支払うことを約した。 この報酬の額は,修繕に要する工事の対価として,適正なものである。翌9日にEがこの修繕 を完了したことから,同日,Gは,Eに対し30万円を支払った。 〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として,次の問いに答えなさい。 平成24年12月7日,Dは,同年10月分から同年12月分までの賃料(それぞれ同年9月 25日,同年10月25日及び同年11月25日に弁済期が到来したもの)の合計額である90 万円の支払をGに対して求めたが,Gは,【事実】18の報酬の相当額である30万円を差し引き, 60万円のみを支払うと主張した。これに対して,Dは,「まず,Gが,報酬の相当額を支払う ようBに対し請求する権利を有することについて,説明して欲しい。また,仮にそのような権利 があるとしても,判例によれば,それと賃料債権を相殺することをもって,Dに対抗することは できないから,GはDに対して90万円全額の支払義務を負うはずである。」と反論した。Dが 依拠する判例とは,下記に【参考】として示すものである。 このDの反論を踏まえた上で,Gがどのような主張をしたらよいか,理由を付して説明しなさ い。 【参考】 最高裁判所第三小法廷平成13年3月13日判決・最高裁判所民事判例集55巻2号363頁 〔事案の概要〕 PがQに対して負う貸金債務を担保するため,Pが所有する建物について根抵当権が設定され,そ の登記がされた後,当該建物の1階部分について,Pを賃貸人とし,第三者Rを賃借人とする賃貸借 契約が締結され,3150万円の保証金がRからPに預託された。 その後,P及びRは,当該建物の1階部分について,それまでの賃貸借契約をいったん解約し,改 めて賃料を月額33万円とする賃貸借契約を締結し,その際,保証金を330万円に減額した。その 結果,Pは,Rに対し差額の2820万円の返還債務を負った。しかし,この返還債務をPが履行す ることができなかったため,PがRに対して負う保証金返還債務の一部については,以後3年間,R がPに対して負う賃料債務と,賃料支払期日ごとに対当額で相殺することがPR間で合意された。 さらにその後,Qは,上記の根抵当権に基づく物上代位権の行使として,PがRに対して有する賃 料債権のうち,差押命令送達時以降900万円に満つるまでのものを差し押さえ,差押命令がP及び Rに送達された。 そして,Qは,Rに対し,5か月分の賃料の支払を求めて訴えを提起したが,これに対して,Rは, Pとの相殺合意に基づく相殺を主張して争った。 第1審及び第2審では,いずれもQが勝訴し,Rの上告を受けた最高裁判所は,次のとおり判示し て上告を棄却する判決を言い渡した。 〔判旨〕 「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権 設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者 に対抗することはできないと解するのが相当である。けだし,物上代位権の行使としての差押えのさ れる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後に おいては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権 の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当 権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺すること に対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理 由はないというべきであるからである。」

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1

  • 保証債務の履行請求のための要件の網羅的摘示(主債務の成立・内容、保証契約の締結、書面性、主債務の履行期到来・不履行、連帯保証であること等)7点
  • 無権代理と追認(116条)による効果帰属5点・簡潔に
  • 446条2項の立法趣旨の把握と、要式性充足の判断基準の定立9点
  • 無権代理人Bの作成した書面が446条2項の要件を満たすかの当てはめ10点

設問2

  • BのFに対する請求の法律構成=賃借物保管義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)の指摘7点
  • 債務不履行の要件(債務の不履行・損害の発生・因果関係)の摘示と当てはめ8点
  • Hが履行補助者(履行代行者)に当たることの指摘7点
  • 履行補助者責任の基礎付けと本問への適用(Fの帰責事由の有無)・Fの反論14点
  • その他の法律構成(不法行為・事務管理・不当利得)への適切な言及2点・簡潔に

設問3

  • Gの必要費償還請求権(608条1項)の成立9点
  • 【参考】判例の射程の検討(判旨の前提となる事案の特徴の抽出と本問との比較)11点
  • Gの具体的主張の構成と結論(相殺の要件充足/同時履行の抗弁/賃料不発生等)5点

全体

  • 論理的構成・事実の分析・文章表現6点

出題の趣旨(法務省公表)

本問は,Aから甲土地を買うこととしたBが,その代金債務について,Cを代理してCを保
証人とする契約を締結し,また,買い受けた甲土地の上に築造した丙建物について,その建設
資金の貸主であるDのために抵当権を設定するとともに,丙建物の各部分をF及びGに賃貸し
たという事例に関して,民法上の問題についての基礎的な理解に加え,その応用を問う問題で
ある。制度の趣旨を踏まえ妥当と認められる解決を説明する能力,当事者間に生じた事態につ
いて法律関係の正確な理解に基づき分析する能力及び事案の解決において参考となる判例の趣
旨を理解して事案との比較検討を的確に行う能力などが試される。
まず,設問1は,無権代理人が保証契約を締結し,それが後に追認された場合の保証契約の
効力を検討する問題であり,保証契約の成立要件についての基礎的知識,特に書面の作成が必
要であること(民法第446条第2項),及びこの要件に関連して従来は必ずしも十分に議論
されていなかった問題について,自らの見解を説得的に展開する能力を問うものである。
設問1では,「保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるか」が問
われているから,主債務の成立の指摘を含め,保証債務の履行を請求することができるための
要件を網羅して掲げる必要がある。
その上で,考察を要する問題点としては,第一に,契約締結時(平成22年6月11日)に
はBに代理権がなかったことをどのように考えるべきであるか,第二に,無権代理人Bが作成
した契約書が民法第446条第2項の要件を満たすのか,という点が挙げられる。もっとも,
前者の問題は,同月15日にCはBから説明を受けた上で承諾したのであるから,追認があっ
たものと評価することができる(同法第116条)。したがって,後者の問題が,本問の中心
的な論点となる。
本問の事実関係において,書面の作成という保証契約の要式性を充足するとみるかどうか,
については,両様の考え方が成立可能であると考えられる。同法第446条第2項の規定の趣
旨は,保証契約の内容を明確に確認し,また,保証意思が外部的に明らかになることを通じて
保証をするに当たっての慎重さを要請するものである,というような説明がされてきた。無権
代理人が作成した書面でも本人の追認があったことにより要式性の要件を充足することになる
か,という問題を考察するに当たっても,このような立法趣旨の説明が参考となる。ただし,
これのみから直ちに結論を導くことには,やや論理的に無理があり,より説得力のある論述に
するためには,有権代理の場合に書面性の要件を充足するのはどのような場合かといった点を
含め,更に深く立法趣旨を検討することが望ましい。考え方としては,保証をすることやその
契約内容が書面により明確に確認される契機を重視するものと,保証人が主体的に書面を作成
することを重視するもの等が想定される。前者は,本問における書面性を肯定する見解に,後
者であれば否定する見解に,それぞれ結び付きやすいと思われるが,いずれにしても,立法趣
旨について深く検討して理解した上で,本問での事実関係を検討することが求められる。
設問2は,賃借物が破損した場合において,その破損が生じた原因が,賃借人Fからその内
装工事の発注を受けたHにある事例を題材として,次の三つの点について,債務不履行責任に
関する基本的な理解を問うものである。
第一は,この事例において,賃貸人Bがその修繕に要した費用に相当する金銭の支払を賃借
人Fに求めるためにまず考えられるのは,賃借人Fが賃貸借契約によって負担する賃借物の保
管義務の違反,つまり債務不履行を理由とする損害賠償請求(同法第415条)という構成で
あり,そのためには,賃借人がその賃貸借契約上の保管義務に違反し,それにより賠償される
べき損害が発生したこと(損害の発生と因果関係)が必要となることが正確に理解されている
かどうかである。
第二は,以上の要件を満たすときでも,同法第415条によると,賃借人に責めに帰すべき
事由がないときは,賃借人は損害賠償責任を免れること,そしてそこでは,Hが賃借人Fの負
う保管義務の履行補助者に当たることから,本問では履行補助者責任が問題になることが正確
に理解されているかどうかである。例えば,伝統的通説によると,履行補助者には,真の意味
での履行補助者と履行代行者があるとされ,本問のHはFとは独立の事業者であることから,
後者の履行代行者に相当する。その他の見解では,このような区別はしないものの,履行代行
者に相当するものも含めて,履行補助者責任が問題とされている。
第三は,このように履行補助者責任が問題になるとして,賃借人Fが損害賠償責任を免れる
ことができないとすれば,それはなぜであり,責任を免れることができるとすれば,それはな
ぜであるかを的確に説明し,その当否を論じることができるかどうかである。
例えば,伝統的通説によると,履行代行者については,①明文上履行代行者を使用すること
ができないのに使用した場合,②明文上積極的に履行代行者の使用が許される場合,③いずれ
でもなく,給付の性質上履行代行者を使用しても差し支えない場合が区別され,債務者が責任
を負うための要件もそれに応じて区別される。これによると,本問では,FがHとともに内装
の仕様及び施工方法につき検討した結果についてBが承諾をしていることが②に当たるかどう
かが特に問題となる。もっとも,学説では,このような分類に対して強い批判があり,履行補
助者責任を「他人の行為に対する責任」として使用者責任の対比で基礎付けを図る見解のほか,
履行補助者責任を契約不履行責任の一般的な枠組みの中に位置付け,その基礎付けを図ろうと
する見解も有力に主張されている。本問では,いずれの見解によるとしても,その論旨が説得
的に展開されているかどうかが重要であり,それに即して本問に含まれる事実を適切に評価し,
それぞれの主張を基礎付けることが求められる。
なお,賃借人Fに対する請求の根拠としては,ほかに,不法行為に基づく損害賠償請求,事
務管理による費用償還請求,不当利得返還請求等も考えられるが,本問の具体的事案の内容に
照らせば,少なくとも第一次的には債務不履行責任を検討すべきであり,必ずしもこれ以外の
法律構成の検討まで求められているわけではない。
設問3は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権として賃料債権と
の相殺の意思表示をした賃借人と抵当権の物上代位権に基づき当該賃料債権を差し押さえた抵
当権者の優劣について判断した【参考】判例を提示して,本問の具体的事案の下でも【参考】
判例にのっとった結論を導くことが相当かどうかを問うものであり,これによって法的思考力
や事案に即した分析力を試すことを意図した問題である。また,この点を検討する前提として,
必要費償還請求権の成立要件についての理解とその当てはめを的確に行うことが求められてい
る。
判例法理の射程について議論をする際には,単に【参考】判例と本問とでは事案が異なるか
ら,Dの依拠する判例法理が本問には適用されない,とするのみでは十分でない。【参考】判
例の事案におけるどのような特徴が判旨の示すルールの前提となっているのかを論理的に明ら
かにし,その特徴がどのように変化すれば,ルールがどのように変化するのかを明らかにしな
ければならない。その上で,本問の事案においては,どのようなルールが適用されることの結
果として,Gの主張に沿う結論となるものであるか,を示す必要がある。
また,判例法理の射程を問題とせずに【参考】判例の示したルールそのものを批判する場合
であっても,十分な理由付けを示し,説得的な論述をしなければならない。そして,あるべき
ルールを明らかにし,その適用の結果も示す必要がある。
なお,Gのすべき主張について問われているのであるから,仮にDの反論が完全に適切なも
のであると解答者が考えたとしても,あり得べきGの主張を考察しなければならない。また,
賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することができるか,という問題もあるが,
「30万円を差し引いて支払う」というGの主張を基礎付けることが求められているのである
から,その問題自体を論じる必要はない。

参考答案と AI 採点

第1 設問1 一 Aが主張すべき事実 保証債務の履行請求が認められるためには、保証債務の付従性から主債務が存在し、かつ有効な保証契約が成立していることが必要である。したがってAは、…

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