平成25年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 保証債務の履行請求のための要件の網羅的摘示(主債務の成立・内容、保証契約の締結、書面性、主債務の履行期到来・不履行、連帯保証であること等)7点
- 無権代理と追認(116条)による効果帰属5点・簡潔に
- 446条2項の立法趣旨の把握と、要式性充足の判断基準の定立9点
- 無権代理人Bの作成した書面が446条2項の要件を満たすかの当てはめ10点
設問2
- BのFに対する請求の法律構成=賃借物保管義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)の指摘7点
- 債務不履行の要件(債務の不履行・損害の発生・因果関係)の摘示と当てはめ8点
- Hが履行補助者(履行代行者)に当たることの指摘7点
- 履行補助者責任の基礎付けと本問への適用(Fの帰責事由の有無)・Fの反論14点
- その他の法律構成(不法行為・事務管理・不当利得)への適切な言及2点・簡潔に
設問3
- Gの必要費償還請求権(608条1項)の成立9点
- 【参考】判例の射程の検討(判旨の前提となる事案の特徴の抽出と本問との比較)11点
- Gの具体的主張の構成と結論(相殺の要件充足/同時履行の抗弁/賃料不発生等)5点
全体
- 論理的構成・事実の分析・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,Aから甲土地を買うこととしたBが,その代金債務について,Cを代理してCを保
証人とする契約を締結し,また,買い受けた甲土地の上に築造した丙建物について,その建設
資金の貸主であるDのために抵当権を設定するとともに,丙建物の各部分をF及びGに賃貸し
たという事例に関して,民法上の問題についての基礎的な理解に加え,その応用を問う問題で
ある。制度の趣旨を踏まえ妥当と認められる解決を説明する能力,当事者間に生じた事態につ
いて法律関係の正確な理解に基づき分析する能力及び事案の解決において参考となる判例の趣
旨を理解して事案との比較検討を的確に行う能力などが試される。
まず,設問1は,無権代理人が保証契約を締結し,それが後に追認された場合の保証契約の
効力を検討する問題であり,保証契約の成立要件についての基礎的知識,特に書面の作成が必
要であること(民法第446条第2項),及びこの要件に関連して従来は必ずしも十分に議論
されていなかった問題について,自らの見解を説得的に展開する能力を問うものである。
設問1では,「保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるか」が問
われているから,主債務の成立の指摘を含め,保証債務の履行を請求することができるための
要件を網羅して掲げる必要がある。
その上で,考察を要する問題点としては,第一に,契約締結時(平成22年6月11日)に
はBに代理権がなかったことをどのように考えるべきであるか,第二に,無権代理人Bが作成
した契約書が民法第446条第2項の要件を満たすのか,という点が挙げられる。もっとも,
前者の問題は,同月15日にCはBから説明を受けた上で承諾したのであるから,追認があっ
たものと評価することができる(同法第116条)。したがって,後者の問題が,本問の中心
的な論点となる。
本問の事実関係において,書面の作成という保証契約の要式性を充足するとみるかどうか,
については,両様の考え方が成立可能であると考えられる。同法第446条第2項の規定の趣
旨は,保証契約の内容を明確に確認し,また,保証意思が外部的に明らかになることを通じて
保証をするに当たっての慎重さを要請するものである,というような説明がされてきた。無権
代理人が作成した書面でも本人の追認があったことにより要式性の要件を充足することになる
か,という問題を考察するに当たっても,このような立法趣旨の説明が参考となる。ただし,
これのみから直ちに結論を導くことには,やや論理的に無理があり,より説得力のある論述に
するためには,有権代理の場合に書面性の要件を充足するのはどのような場合かといった点を
含め,更に深く立法趣旨を検討することが望ましい。考え方としては,保証をすることやその
契約内容が書面により明確に確認される契機を重視するものと,保証人が主体的に書面を作成
することを重視するもの等が想定される。前者は,本問における書面性を肯定する見解に,後
者であれば否定する見解に,それぞれ結び付きやすいと思われるが,いずれにしても,立法趣
旨について深く検討して理解した上で,本問での事実関係を検討することが求められる。
設問2は,賃借物が破損した場合において,その破損が生じた原因が,賃借人Fからその内
装工事の発注を受けたHにある事例を題材として,次の三つの点について,債務不履行責任に
関する基本的な理解を問うものである。
第一は,この事例において,賃貸人Bがその修繕に要した費用に相当する金銭の支払を賃借
人Fに求めるためにまず考えられるのは,賃借人Fが賃貸借契約によって負担する賃借物の保
管義務の違反,つまり債務不履行を理由とする損害賠償請求(同法第415条)という構成で
あり,そのためには,賃借人がその賃貸借契約上の保管義務に違反し,それにより賠償される
べき損害が発生したこと(損害の発生と因果関係)が必要となることが正確に理解されている
かどうかである。
第二は,以上の要件を満たすときでも,同法第415条によると,賃借人に責めに帰すべき
事由がないときは,賃借人は損害賠償責任を免れること,そしてそこでは,Hが賃借人Fの負
う保管義務の履行補助者に当たることから,本問では履行補助者責任が問題になることが正確
に理解されているかどうかである。例えば,伝統的通説によると,履行補助者には,真の意味
での履行補助者と履行代行者があるとされ,本問のHはFとは独立の事業者であることから,
後者の履行代行者に相当する。その他の見解では,このような区別はしないものの,履行代行
者に相当するものも含めて,履行補助者責任が問題とされている。
第三は,このように履行補助者責任が問題になるとして,賃借人Fが損害賠償責任を免れる
ことができないとすれば,それはなぜであり,責任を免れることができるとすれば,それはな
ぜであるかを的確に説明し,その当否を論じることができるかどうかである。
例えば,伝統的通説によると,履行代行者については,①明文上履行代行者を使用すること
ができないのに使用した場合,②明文上積極的に履行代行者の使用が許される場合,③いずれ
でもなく,給付の性質上履行代行者を使用しても差し支えない場合が区別され,債務者が責任
を負うための要件もそれに応じて区別される。これによると,本問では,FがHとともに内装
の仕様及び施工方法につき検討した結果についてBが承諾をしていることが②に当たるかどう
かが特に問題となる。もっとも,学説では,このような分類に対して強い批判があり,履行補
助者責任を「他人の行為に対する責任」として使用者責任の対比で基礎付けを図る見解のほか,
履行補助者責任を契約不履行責任の一般的な枠組みの中に位置付け,その基礎付けを図ろうと
する見解も有力に主張されている。本問では,いずれの見解によるとしても,その論旨が説得
的に展開されているかどうかが重要であり,それに即して本問に含まれる事実を適切に評価し,
それぞれの主張を基礎付けることが求められる。
なお,賃借人Fに対する請求の根拠としては,ほかに,不法行為に基づく損害賠償請求,事
務管理による費用償還請求,不当利得返還請求等も考えられるが,本問の具体的事案の内容に
照らせば,少なくとも第一次的には債務不履行責任を検討すべきであり,必ずしもこれ以外の
法律構成の検討まで求められているわけではない。
設問3は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権として賃料債権と
の相殺の意思表示をした賃借人と抵当権の物上代位権に基づき当該賃料債権を差し押さえた抵
当権者の優劣について判断した【参考】判例を提示して,本問の具体的事案の下でも【参考】
判例にのっとった結論を導くことが相当かどうかを問うものであり,これによって法的思考力
や事案に即した分析力を試すことを意図した問題である。また,この点を検討する前提として,
必要費償還請求権の成立要件についての理解とその当てはめを的確に行うことが求められてい
る。
判例法理の射程について議論をする際には,単に【参考】判例と本問とでは事案が異なるか
ら,Dの依拠する判例法理が本問には適用されない,とするのみでは十分でない。【参考】判
例の事案におけるどのような特徴が判旨の示すルールの前提となっているのかを論理的に明ら
かにし,その特徴がどのように変化すれば,ルールがどのように変化するのかを明らかにしな
ければならない。その上で,本問の事案においては,どのようなルールが適用されることの結
果として,Gの主張に沿う結論となるものであるか,を示す必要がある。
また,判例法理の射程を問題とせずに【参考】判例の示したルールそのものを批判する場合
であっても,十分な理由付けを示し,説得的な論述をしなければならない。そして,あるべき
ルールを明らかにし,その適用の結果も示す必要がある。
なお,Gのすべき主張について問われているのであるから,仮にDの反論が完全に適切なも
のであると解答者が考えたとしても,あり得べきGの主張を考察しなければならない。また,
賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することができるか,という問題もあるが,
「30万円を差し引いて支払う」というGの主張を基礎付けることが求められているのである
から,その問題自体を論じる必要はない。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成25年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
