平成24年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)
- Fの主張の法的構成(B所有→AB売買による所有権移転→A死亡によるFの単独相続)の明示4点
- Cの死亡によるD・Eの共同相続と遺産共有(898条)・遺産分割未了の指摘8点
- B(Dの単独相続人)の取得する持分権とAの取得範囲、Fの主張が失当であるとの結論8点
- 94条2項類推適用に深入りしないこと(検討範囲の的確な限定)2点・簡潔に
設問1(2)
- 162条1項「他人の物」要件と自己の物の時効取得の可否7点
- 所有の意思(自主占有)の要件と自主占有権原としての意義7点
- 186条1項による所有の意思の推定と、下線事実の訴訟上の位置付け(否認事実)7点
設問2
- 寄託契約書第4条・第6条が現存数量不足の場合にそのままでは適用できないことの指摘10点
- 補充的契約解釈等による債権的返還請求権の構成、又は物権的返還請求権の構成9点
- 共有者の一方への引渡しが他の共有者の権利を害しないかという問題の発見と解決7点
設問3
- 「山菜おこわ」寄託契約の成立(657条)と無償受寄者の注意義務(659条)7点
- 保管義務違反=債務不履行(415条)の認定4点
- 損害賠償請求の可否を検討するための考察の視点の提示とその理由付け7点
- 【事実】6・11・12・14・16を踏まえた慎重な当てはめと結論7点
全体
- 論理的一貫性・構成の明快さ・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,料亭を営むための店舗を建設する適地を探していたAが,Bから甲土地を買い受け
た後,その料亭の経営を継いだAの子であるFが,その製造した食品の一部を有償で,また他
の一部は無償で寄託したが,それらの一部が盗難に遭ったという事例に関して,民法上の問題
についての基礎的な理解とともに,その応用を問う問題である。具体的な事実を踏まえ,実体
的な法律関係を理解して論述する能力,当事者間に成立した契約の内容を理解して妥当と認め
られる法律的帰結を導く能力及び具体的な事実を法的な観点から分析して評価する能力などを
試すものである。
まず,設問1は,Fが甲土地の所有権を売買契約により取得した場合と,20年の取得時効
により取得した場合について,Fの主張が依拠する民法の実体法規範とそれを支える実体法の
考え方を正しく理解していること,そして,この理解を各小問で問われている内容に即して規
範適用の要件,要件事実及び効果へと結び付けることができているかどうかを問うものである。
言い換えれば,設問1では,要件事実とその主張立証責任について平板に述べただけでは足り
ず,要件事実理解の前提となる民法の実体法理論について丁寧な分析と検討をし,これを踏ま
えて要件・効果面へと展開することが求められる。したがって,設問1は,要件事実の理解の
みを問うものではなく,実体法の理解を前提とする要件事実の理解を試すものである。
小問(1)において,Fの主張は,①Bが甲土地の所有者であったことを前提として,②A
B間の売買契約により,甲土地の所有権がBからAへと移転したこと,そして,③Aの取得し
た所有権が,A死亡による単独相続により,Aの相続人であるFに移転したことを基礎とした
ものである。本問事案で,Bの売却した甲土地は,Bが単独相続したDの相続したCの所有で
あったところ,Cの死亡により,甲土地につき,DとEによる共同相続が開始し,それぞれの
法定相続分での遺産共有状態が生じている(民法第898条)。この遺産共有状態を解消し,
甲土地をDの単独所有とするためには,このことを内容とする遺産分割がされなければならな
い(民法第906条以下)。ところが,DとEは,Cの遺産につき分割の協議をしておらず,
遺産分割がされていない。そのため,Dは,甲土地につき,自己の法定相続分による持分権を
有しているにすぎない。なお,このことは,Eについても,同様である。
そこで,Dを単独相続したBは,甲土地につき,Dの相続分に対応する持分権しか取得せず,
Bから甲土地を売買により取得したAも,Dの相続分に対応する持分権しか取得しない。なお,
そもそもAB間での甲土地の売買契約の下で,Aは,Dの甲土地持分権すら取得しないとの考
え方もあり得る。したがって,いずれにしても,Fの主張は,失当である。なお,小問(1)
は,民法第94条第2項の類推適用についての検討を求める問いではない。
小問(2)は,民法第162条第1項の定める20年の取得時効を前提として,「AとBは,
平成2年(1990年)11月15日,甲土地を代金3600万円でBがAに売却することで
合意した」との事実が持つ法律上の意義を問うものである。ここでも,前述したように,民法
の規範とそれを支える法理としての実体法理論についての分析及び検討をすることが求めら
れ,これを基礎として上記事実の持つ意味についての解答が求められる。具体的には,①Aが
甲土地をBとの売買契約により取得したことは,民法第162条第1項の「他人の物」の要件
をめぐり,自己の物についても時効取得が可能であることに関して問題となること,②甲土地
をAがBとの売買契約により取得したことは,所有の意思の要件,つまり自主占有の要件にお
いても問題となること,③後者にあっては,甲土地をAが売買契約により取得したことは,A
の占有が所有の意思のある占有であることを基礎付ける事実(自主占有権原)となること,④
所有の意思についての主張立証責任は民法第186条第1項によりEの側にあること,したが
って,小問(2)に掲げられた事実は,Eが主張立証責任を負う所有の意思に関する事実(他
主占有権原又は他主占有事情)につき,当該事実の存在を否認する事実として位置付けられる
ことを理解することができているかどうかを問うものである。
なお,①については,法文で「他人の物」となっている以上,Aが売買によってBの有して
いた甲土地持分権を取得したという構成を採る場合には,①の点に関する民法法理をその理由
とともに示すことは必須である。なお,AB間での甲土地売買契約により「甲土地の所有権」
をAが取得することが意図されているものの,「甲土地の持分権」をAが取得することは意図
されていないと考えることも可能である。このように考える場合において,Aは,甲土地につ
いて何らの物権的権利も取得しない。その結果として,甲土地は,民法第162条第1項にい
う「他人の物」に当たることとなる。
設問2は,契約書を正しく読み取った上で,契約条項をそのままの形で適用するのでは解決
が困難である問題について,契約解釈などを通じて,十分な理由付けと論理一貫性の下に,適
切な解決を導くことのできる能力を問うものである。
まず,添付の寄託契約書の第4条と第6条が,寄託されている物の数量が寄託された数量に
不足する場合には,そのままの形では適用することができない可能性があることが指摘される
べきである。そして,その上で,補充的契約解釈などを行うことによって,妥当な内容の債権
的な返還請求権を導き出し,又は契約では規律されていない場面であることを前提に物権的な
返還請求権を考えることになる。
前者の債権的な返還請求権によるときは,なぜそのような契約解釈が可能であるかを丁寧に
論じる必要がある。このときは,契約書の各条項の文言のほか,当該契約が全体としてどのよ
うな目的と理念を有するものであるかを考察するべきである。後者の物権的な返還請求権によ
るときは,寄託物の共有状態を正しく把握し,共有持分権者の権利はいかなるものであるかを
丁寧に論じる必要がある。また,契約解釈は共有状態の理解によって影響を受け,他方,共有
状態の理解も寄託契約によって定まるといったように,両請求権が相互に影響を及ぼすことも
踏まえることも必要である。
そして,共有者の一方に引き渡されることは,他の共有者の権利を害しないかという問題を
発見し,そのことにつき,一定の解決を示すことも必要である。
設問3は,無償の寄託契約において,受寄者に債務不履行があったために受寄物が盗難に遭
い,その結果,寄託者が第三者との間における将来の取引に向けた交渉を打ち切られたという
事例について,債務不履行に基づく損害賠償の要件を明確にし,【事実】に照らして要件との
関係で検討すべき視点を提示した上で,受寄者が寄託者に対し損害賠償を請求することができ
るか否かの検討を求めるものである。
まず,FH間において,「山菜おこわ」を保管する旨の合意に基づき,丙建物に「山菜おこ
わ」500ケースが運び込まれることにより寄託契約が成立したこと(民法第657条),H
は,無償受寄者として「自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務」
(民法第659条)を負うこと,Hは,丙建物の施錠を忘れるという注意義務違反を犯した結
果,丙建物に何者かの侵入を許したことを指摘した上で,Hには寄託契約上の保管義務違反と
いう債務不履行(民法第415条)が認められることを明らかにする必要がある。なお,Hの
注意義務の基準を検討するに際し,同じ丙建物内での「和風だし」の有償寄託契約が先行して
いることに着目し,Hは,「山菜おこわ」の寄託契約においても「善良な管理者の注意」義務
(民法第400条)を負うと分析することも考えられる。
次に,Fが「Q百貨店の全店舗で『山菜おこわ』を取り扱ってもらえなくなったことについ
ての損害賠償」を請求することができるかを検討するに当たっては,一方において損害賠償の
要件を念頭に置き,他方において【事実】から読み取ることのできる法律上意味のある事情を
汲みながら,考察のための視点を提示することが求められる。その際は,Fには賠償されるべ
き損害が発生しているといえるか,Hの債務不履行とFが被った損害との間に因果関係がある
といえるか,Fの損害は民法第416条第2項に定める特別損害として賠償の範囲に含まれる
かなどの着眼点のうち,一つ又は複数のものが提示され得るが,いずれのアプローチを採る場
合であっても,問題の所在を適切に指摘し,【事実】との関連を意識しつつ考察の視点として
取り上げることの意義を明らかにすることが肝要である。
その上で,提示された視点に【事実】を当てはめて,「損害の賠償を請求することができる
か」という問いに答える形で結論を示す必要がある。【事実】の中には,とりわけ6,11,12,14,16
が結論を導くために重要な法律上の意味を持ち,解答者が着眼すべき諸事情が含まれている。
解答に当たっては,これら諸事情の一部のみに焦点を当てたり,判例法理を形式的に当てはめ
たりするのでなく,【事実】に現れた諸事情に広く目を配り,慎重な考察を経た上で結論を示
すことが求められている。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成24年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
