平成23年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:3:3〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)
- 703条の不当利得返還請求の要件定立と、いわゆる転用物訴権の問題状況の把握6点
- Bの受益の捉え方と具体的数額の提示6点
- Cの損失とBの受益との因果関係(Aの無資力)5点
- 法律上の原因の有無—AB間賃貸借契約を全体として見た対価関係の有無とBの反論5点
設問1(2)
- 詐害行為取消権による構成の選択(被保全債権・無資力・被告)4点
- 詐害行為の対象の特定と詐害性の検討(敷金返還請求権の放棄の法的意味)7点
- 424条のその他の要件と請求額(取消しの範囲)3点・簡潔に
設問2
- 将来債権売買の売主Fが負う債務の特定とその根拠9点
- 予想される反論(売主の義務は債権を帰属させることにとどまる)を踏まえた検討と不履行事実の摘示5点
- 解除の法的根拠の選択(543条または541条)と各要件の充足の検討10点
- 解除の効果としての代金相当額(2000万円)の返還3点・簡潔に
設問3(1)
- A・Fに対する工作物責任(717条1項)—要件の意義とあてはめ、占有者と所有者の関係12点
- Dに対する709条に基づく請求—請負人の第三者に対する注意義務6点
設問3(2)
- 身体的素因による減額の可否(722条2項の類推)9点
全体
- 論理的一貫性・事実の摘示と法的評価・文章表現10点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,不動産賃貸業を営むAが賃借している建物とその敷地について複数の取引が行われ
た後,Aが事実上倒産した状態となり,その頃その建物のエレベーター内で人が転倒し骨折す
るという事故が生じた事例に関して,民法上の問題についての基礎的な理解とともに,その応
用を問う問題である。具体的な事実を法的な観点から評価し構成する能力,具体的な事実関係
に即して民法上の問題を考察する能力及び論理的に一貫した論述をする能力などを試すもので
ある。
設問1は,小問(1)において,不当利得制度とその要件についての理解及び法的構成能力
と,具体的な事案において存在する諸事実を各々の要件に結び付けて意味付ける能力を試すと
ともに,小問(2)において,敷金返還請求権を放棄する合意の意味を踏まえて,敷金返還請
求権を放棄することの詐害行為性についての検討を求めることにより,責任財産保全制度に関
する基本的理解を応用することのできる問題発見能力及び法的思考力を試すものである。
小問(1)では,民法第703条が定める不当利得の返還を請求するに当たり,何を主張し
立証しなければならないかを明らかにし,それらを【事実】の中から適切に指摘することがで
きるかどうかが問われている。その際,Bの受益については,請負契約により甲建物に対して
Cが行った労務提供に相当する支出をBがしないでおくことができたことであると捉える考え
方とともに,甲建物をFに売却したことによりBが得た代金額に占める本件請負工事による増
加額相当額であると捉える考え方などが成り立つ。受益をどのように捉えるかを明らかにし,
具体的な数額を示すことが求められる。Cの損失については,Cの労務提供に相当する損失で
あり,したがって,甲建物の内装工事に伴う工事代金5000万円のうち残代金2500万円
をCが回収できていないことである。Bの受益とCの損失との間の因果関係については,Cの
内装工事によりBの受ける利益は,本来,CA間の請負契約に基づくものであるため,請負代
金債務の債務者であるAの財産に由来するものであるが,Aの無資力によりAに対する請負代
金債権の全部又は一部が無価値であるときは,その限度においてBの受けた利益はCの労務に
由来することとなる。Bの受益が法律上の原因を欠くことについては,AB間の賃貸借契約を
全体として見たときに,Bが対価関係なしに当該利益を受けたときに限られる。賃貸借の期間
中にBがAから得られる賃料総額が相場よりも7200万円少ないことなどの事情に基づいた
判断が求められる。
小問(2)では,Aが無資力である点に着目し,CがFに対してAの責任財産を保全するた
めに,CのAに対する2500万円の請負残代金債権を被保全債権とし,Aの法律行為の中か
ら詐害行為に該当するものを取り出し,受益者Fを被告として詐害行為取消権(民法第424
条)を行使することができるかが問われている。何を詐害行為と考えるかについては,まず,
FA間で賃貸借契約を合意解除する際にAがした敷金返還請求権の放棄は,敷金返還債務の免
除であると捉える考え方が成り立つ。このとき,民法第424条が定めるそのほかの要件を満
たせば,CはAのこの債務免除を取り消すことができる。これとは別に,FA間での賃貸借契
約を合意解除する以前にAの賃料不払いという債務不履行があったことに着目し,Aがした敷
金返還請求権の放棄は,FがAに対して有する本来の賃貸借期間の終了時までの賃料相当額を
得べかりし利益とした損害賠償請求権に対する充当であると捉える考え方も成り立つ。このと
き,一部の債権者への偏頗弁済は,どのような場合に詐害行為となるかという観点からの適切
な検討が求められる。
設問2は,将来債権売買契約を売買の目的である債権の不発生を理由に解除しようとすると
き,その前提として,売主はどのような義務を負うかについて分析する能力を問うとともに,
その売主の義務の不履行について適切な事実を摘示し反論にも注意しながら考察する能力及び
解除の要件の充足を吟味するに当たって適切に問題点を取り上げ検討する能力を問うものであ
る。
売主がどのような義務を負うかについては,主たる給付義務として,債権が発生した状態で
買主に帰属している状態を生じさせる義務を問題とする考え方のほかに,付随義務として,売
買した将来債権の価値を維持する義務を問題とする考え方がある。前者の考え方に立つときは,
売買の目的である債権が発生しない可能性があるという将来債権売買契約の特性をどのように
評価するかについての検討が求められ,後者の考え方に立つときは,将来債権売買の売主が売
買の目的である債権が発生するかどうかを左右することができる地位にある場合,売主が負う
将来債権の価値を維持する義務が何を根拠に認められるかについての検討が求められる。また,
いずれの考え方に立つときも,売主の義務は買主に将来債権を帰属させることであるにとどま
るとする反論が考えられ,その反論を踏まえた検討が求められる。
次に,本件債権売買契約の解除については,民法第543条を根拠として検討すべきである
とする考え方とともに,同法第541条を根拠として検討すべきであるとする考え方がある。
例えば,Fは債権が発生した状態で買主に帰属している状態を生じさせる義務を負うとし,民
法第543条に基づく解除について検討するときは,Fが負うその債務が履行不能となってい
ること及びFの帰責事由の検討が求められ,また,Fは売買した将来債権の価値を維持する義
務を負うとし,同条に基づく解除について検討するときは,Fが負うその債務(付随義務)が
履行不能となっていること,その付随義務違反が解除に値する程度に重大であること及びFの
帰責事由についての検討が求められる。同様に,Fが,債権が発生した状態で買主に帰属して
いる状態を生じさせる義務を負うと考える場合であっても,売買した将来債権の価値を維持す
る義務を負うと考える場合であっても,民法第541条に基づく解除について検討することは
可能である。
設問3は,エレベーター設備の更新工事の請負人の行為及びそれを原因とするエレベーター
の揺れに基づく身体侵害の不法行為において,被害者が損害賠償を請求する相手方として検討
すべき者が複数ある事例について,そのそれぞれに対する請求の論拠をそれに対する反論も踏
まえて論じること(小問(1)),及び,被害者の身体的素因により被害者の損害が発生又は拡
大した場合における賠償額の調整の在り方を事例に則して検討すること(小問(2))を求め
る問題である。
小問(1)では,Hが損害賠償を請求することのできる相手方として,まず,エレベーター
が設置されている建物甲の事故発生時の直接占有者であるAとともに,その間接占有者であり
所有者であるFを考えることができる(民法第717条第1項)。ここでは,工作物責任が成
立するための要件である土地の工作物及び設置又は保存の瑕疵について,それぞれの意味を明
らかにすることとともに,建物甲のエレベーターが土地の工作物に当たるかどうか及び必要と
されているボルトが十分に締められていなかったことが設置又は保存の瑕疵に当たるかどうか
の検討が求められる。あわせて,工作物責任を負うこととなり得るAとFとの関係を,工作物
責任の法的な性質と,占有者が損害を防止するのに必要な注意をしたときは,占有者の損害賠
償責任の成立は阻却され,所有者がその損害賠償責任を負うこと(同項ただし書)を踏まえな
がら検討することが求められる。このほかに,Hが損害賠償を請求することができる相手方と
して,エレベーター設備の更新工事をしたDを考えることができる(民法第709条)。注文
者との間で締結された請負契約に基づいてエレベーター設備の更新工事をした請負人であるD
は,注文者以外の第三者の安全に対して,どのような注意義務を負うか,また,その注意義務
違反があるかどうかについての検討が求められている。
小問(2)では,被害者の身体的な素因で,被害者の損害の発生又は拡大の原因となったも
のがある場合,賠償額の減額をすべきかどうか,そのとき,身体的な素因が疾患といえるもの
であるか,そうではなく疾患にまで至らない身体的特徴であるかによって異なることとすべき
かどうかについての理解を基礎に,Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積をどのように捉えるべ
きかが問われている。一方では過失相殺(民法第722条第2項)の趣旨を考え,他方では【事
実】から法律上意味のある事実をくみ取って法的に評価した上で,賠償額を減額することの可
否について,一貫した法的思考を示すことが求められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成23年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
