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令和4年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説

令4司法 民事系科目第2問(商法)商法

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:35:30〕)

次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、平成10年(1998年)4月に設立され、首都圏 においてドラッグストアを営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社である。また、乙 株式会社(以下「乙社」という。)は、医薬品、化粧品及び日用品等の企画、製造及び販売の業 務を営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社である。 2.甲社と乙社の間に資本関係はなく、下記3のとおり、甲社の取締役のうち1名が乙社出身であ るほかは、役員の兼任等の人的関係もない。乙社は、甲社から甲社が経営する店舗で販売する商 品の製造の委託を受けており、その売上が乙社の売上総利益の約50パーセントを占めている。 乙社が製造する商品には「乙」の名称が入った登録商標Pが使用されている。 3.甲社では、設立以来、A、Aの親族及び乙社出身者を中心に取締役会が構成され、令和3年 (2021年)4月の時点では、Aが代表取締役、B(Aの弟)、C(Aの長女)、D(乙社出 身者)及びE(Aの親族でも乙社出身者でもない)が取締役を務めていた。 甲社の取締役の任期については、その定款において、当初、選任後2年以内に終了する事業年 度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされていたところ、平成22年(2 010年)6月に開催した定時株主総会において、その期間を選任後10年以内に終了する事業 年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと変更された。もっとも、乙社出身 の取締役については、上記定款変更の前後を問わず、選任から4年で退任するのが慣例となって いた。 甲社の発行済株式総数は10万株であり、Aが4万株、B及びCがそれぞれ2万株を保有し、 残りを甲社の従業員複数で保有している。 4.Dは、大学を卒業してから35年間にわたって乙社で勤務し、57歳になった平成30年(2 018年)3月、Aから甲社の取締役になるように誘われた。その際、Aは、Dに対し、乙社出 身の取締役は従前より4年ごとに交代していることを説明した。Dは、乙社の就業規則に定年が 60歳と定められていたことから、Aに対し、「61歳まで甲社の取締役を務めた方がより長く 安定した収入が得られるので、引き受けます。」と述べ、Aの誘いに応じた。Dは、同年5月3 1日に乙社を退職し、同年6月20日に開催された甲社の定時株主総会において、取締役に選任 された。Dの前任の乙社出身の取締役は、選任から4年が経過した上記定時株主総会の日に辞任 した。 Dは、甲社の常勤取締役として、甲社から役員報酬として月40万円の支払を受けていた。ま た、Dには他の収入はなかった。 5.Aは、令和2年(2020年)3月、Dに対し、「次の株主総会で取締役の選任から2年にな る。そろそろ折り返し地点なので、乙社出身の後任者を探してほしい。」と述べたところ、Dは、 「定款に定められた任期を満了するまで取締役を務めたいので、まだ後任者を探すつもりはな い。」と答えた。 その頃、Aは、東北地方にも新規店舗を設けて甲社の事業の拡大を図ろうとしていた。東北地 方への進出は、Aの先代が果たせなかったものであり、B及びC(以下、A、B及びCを総称し て「Aら」という。)も達成すべきものであると考えていた。これに対し、Dは、丙株式会社と の競争に伴う値下げによって2年連続営業損失を計上していることを理由に事業の拡大には反対 であり、Aらとの間で意見が対立していた。 6.Aは、令和2年(2020年)4月、他の取締役らに対し、「取締役の任期を1年に短縮する ことで、信任を得る機会を多くし、取締役の業務に緊張感を持たせたいから、次の定時株主総会 でその旨の定款変更を行いたい。」と提案した。Dは、東北地方への進出に反対したことから、 自分を追い出すためにするものではないかと疑って上記提案に反対した。しかし、甲社の取締役 会は、D以外の取締役らの賛成により、同年の定時株主総会において、①定款変更を議題とし、 取締役の任期を選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終 結の時までとする旨の議案を提出すること、②取締役の選任を議題とし、A、B、C、D及びE を取締役に選任する旨の議案を提出することを決めた。なお、A、B、C及びEは、いずれも平 成22年(2010年)の定時株主総会において取締役に選任されていた。 7.甲社の定時株主総会は、令和2年(2020年)6月25日に開催され、計算書類の承認等の ほか、上記6①の定款変更議案及び上記6②のうちA、B、C及びEを取締役に選任する旨の議 案がAらの賛成により可決されたが、上記6②のうちDを取締役に選任する旨の議案は、Aらの 反対により否決された。 〔設問1〕 Dは、一連の経緯により甲社の取締役の地位を失ったことは実質的な解任であって不 当であり、甲社に対して会社法上の損害賠償責任を追及しようと考えている。Dの立場において 考えられる法律構成及び損害に関する主張並びにそれらの当否について、論じなさい。なお、上 記6及び7の定時株主総会の招集の手続及び議事は、適法であったものとする。 8.乙社は、令和2年(2020年)に入ってから業績が悪化するようになった。同年1月末日の 時点では資産1億円、負債5000万円、資本金2000万円であったところ、現預金の流出が 続くなどして、令和3年(2021年)10月1日の時点では、資産6000万円、負債400 0万円、資本金2000万円となった。 9.乙社は、令和2年(2020年)6月までに株式会社丁銀行(以下「丁銀行」という。)から 複数回にわたって融資を受けており、令和3年(2021年)6月末日の弁済期日を経過した同 年10月1日の時点で合計3000万円の残債務があった。 10.乙社の代表取締役Fは、業績の悪い事業を譲渡しようと考え、令和3年(2021年)9月頃 から、関西地方でスーパーマーケットを営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社であ る戊株式会社(以下「戊社」という。)と交渉を始めた。乙社及び戊社は、同年10月1日、必 要な手続を経た上で、乙社が戊社に日用品製造販売事業を譲渡する旨の契約を締結した(以下、 この事業譲渡を「本件事業譲渡」といい、この契約を「本件事業譲渡契約」という。)。 11.本件事業譲渡契約においては、乙社の日用品製造販売事業の資産と負債(日用品製造販売事業 に従事する従業員との間の雇用契約を含む。)が対象とされ、その対価は4000万円とされた。 また、戊社の代表取締役Gは、本件事業譲渡契約を締結するに当たり、上記8及び9の事実をF から知らされていた。 12.戊社は、本件事業譲渡の約3年後、下記14の問題点が発覚したことにより、その事業年度の決 算において、乙社から譲り受けた日用品製造販売事業の資産について多額の評価損を計上すると ともに、多額の負債を計上した。 13.本件事業譲渡契約が締結された経緯の詳細は、下記14から17までのとおりであった。 14.会社やその事業の買収を行う場合には、買収の対象となる会社又は事業の業績、資産、財務状 態及び法律上の問題点等の調査(以下「デュー・ディリジェンス」という。)を行うことが実務 上広く行われている。しかし、戊社は、本件事業譲渡の際に、乙社の日用品製造販売事業につい てデュー・ディリジェンスを実施しなかった。もし、デュー・ディリジェンスを行っていれば、 乙社の日用品製造販売事業の在庫の価値が落ちていること、その製品に知的財産権上の問題があ ること等の問題点を発見することができ、本件事業譲渡契約を締結しなかったか、仮に締結して いたとしても、その対価は1000万円以下となるはずであった。 15.戊社の取締役でそのメインバンク出身であるHは、本件事業譲渡について検討されていること を知ってから、乙社とも取引のあった出身銀行の知人に乙社のことを尋ねたところ、「日用品製 造販売事業はうまくいっているとはいえず、在庫の価値が下落している可能性がある上に、知的 財産権等の管理もいい加減であるから気を付けた方がよい。」との回答を得た。そこで、Hは、 知人の弁護士に確認したところ、「事業の買収を行う場合には常にデュー・ディリジェンスが必 要とまではいえないものの、そうした事情がある場合は行った方がよい。」との回答を得た。そ のため、Hは、戊社の代表取締役Gに対し、上記の回答内容を伝えた上で、本件事業譲渡には慎 重になるべきであり、デュー・ディリジェンスを行うべき旨を指摘した。 16.Hの指摘にもかかわらず、デュー・ディリジェンスが行われなかったのは、次の事情による。 すなわち、甲社は、戊社の総株主の議決権の60パーセントを有する親会社であり、戊社の取締 役5名のうちG及びIの2名は、かつて甲社の従業員であった。甲社の代表取締役Aは、戊社の 代表取締役Gに対し、「乙社の日用品製造販売事業が立ちゆかなくなると甲社の事業に大きな影 響が及ぶため、本件事業譲渡を迅速に進めてほしい。これが実現しなければ、GとIの取締役の 再任はない。」と述べた。その後に行われた本件事業譲渡の交渉において、Aの意向を知ってい た乙社の代表取締役Fは、Gに対し、「乙社の主要ブランドを譲渡するのであるから、相応の対 価とすべきである。1か月程度で交渉がまとまらないのであれば別の譲渡先を探すか、最悪の場 合には乙社の法的整理も検討するつもりである。」と述べた。これらのやり取りを踏まえ、Gは、 上記15の事実の下でもデュー・ディリジェンスを省略して交渉に当たるのもやむを得ないと判断 し、Fの主張を受け入れて上記11の内容で本件事業譲渡契約を締結した。 17.戊社の取締役会は、令和3年(2021年)10月1日に開催されたところ、Hは、その必要 性が見いだせない上にデュー・ディリジェンスを行っていないことを理由に反対する旨の意見を 表明した。他の取締役から説明を求められたGは、「乙社の日用品製造販売事業を救わないと、 甲社の主力商品の1つが欠けることになり、甲社を中心とした我がグループに大きな不利益が及 ぶ。戊社の売上総利益の約50パーセントは甲社との取引に由来するものであるため、単純に乙 社の日用品製造販売事業だけを見て本件事業譲渡に反対するのは適切ではない。」と説明した。 その後、戊社の取締役5名のうち甲社出身のGとIは自ら退席し、残りの3名の取締役によって 審議が行われ、Hを除く2名の取締役の賛成により、本件事業譲渡契約を締結することが決定さ れた。 〔設問2〕 戊社の少数株主であるJは、株主代表訴訟を提起して、Gに対し、本件事業譲渡契約を締 結する旨の判断をして実行したという一連の経緯について、会社法上の損害賠償責任を追及しようと 考えている。Jの立場において考えられる主張(損害に関する主張を含む。)及びその当否について、 論じなさい。なお、株主代表訴訟は、適法に提起されたものとする。 下記18以下においては、上記11から17までの事実は存在せず、上記10のとおり、必要な手続を経て本 件事業譲渡契約が締結されたことを前提として、〔設問3〕に答えなさい。 18.本件事業譲渡契約においては、乙社の日用品製造販売事業の業績が低下していたことから、その資 産(日用品製造販売事業に従事する従業員との間の雇用契約を含む。)が対象とされ、負債は対象と されなかった。また、本件事業譲渡契約が締結された令和3年(2021年)10月1日の時点での 乙社の日用品製造販売事業の資産の簿価は4000万円であったが、戊社が「専門家を交えた調査の 結果によれば簿価どおりの資産価値がない可能性がある。」と主張し、乙社も早く現金を手にしたい と考えていたことから、本件事業譲渡契約の対価は、2000万円とされた。 19.また、乙社及び戊社は、本件事業譲渡契約において、乙社が戊社に対して登録商標Pの使用を認め ることに合意した。これは、乙社が使用してきた登録商標Pとこれに含まれる「乙」が日用品のブラ ンドとして確立し、消費者には登録商標Pが乙社を示すものと受け取られており、業績が悪くなった とはいえ顧客誘引力が残っているからであった。 なお、乙社は、登録商標Pを使用した商品を製造して卸売を行うだけであり、これまでに消費者等 に直接販売したことはなかった。また、戊社は、関西地方でスーパーマーケットを営んでおり、これ までに乙社の商品を扱ったことはなく、その商号や経営する店舗の名称に「乙」の文字や登録商標P に含まれる文字と共通するものを使用したことはなかった。 20.戊社は、本件事業譲渡の完了後、経営するスーパーマーケットの店舗内において、登録商標Pを描 写した看板を複数の入口に掲げて、登録商標Pを使用した日用品を販売した。また、戊社は、自社の ウェブサイトにおいて、「Pが新たに生まれ変わり、当店で扱うことになりました。」との宣伝を掲 載し、そこには登録商標Pも掲載されていた。戊社が扱っている登録商標Pが使用された日用品のう ち6割程度は、従来、乙社が登録商標Pを使用して販売していたものと同じ商品であった。 21.乙社の業績は、その後も改善しないことから、丁銀行に上記9の残債務を弁済することができなく なった。そこで、乙社は、令和4年(2022年)5月、丁銀行に対し、その旨を通知した。 〔設問3〕 丁銀行が戊社に対して乙社の残債務の弁済を請求できるかについて、論じなさい。

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1

  • 会社法339条2項を出発点とすること/「解任」そのものがされていないことの指摘と、直接適用不可を前提とする類推適用(又は「解任」の拡張解釈による適用)の提示7点
  • 任期短縮の定款変更がされた場合の在任取締役の任期(Dの任期がいつ満了したか)への言及3点・簡潔に
  • 339条1項・2項の趣旨を踏まえた類推適用(適用)の基礎と、何を「実質的な解任」と評価するか(対象の特定)8点
  • 「正当な理由」の意義(最判昭和57年1月21日等)と本問事実への当てはめ9点
  • 損害に関するDの主張とその当否(変更前定款の任期満了までの報酬相当額/慣例の4年)と、類推適用対象との整合8点

設問2

  • 会社法423条1項の要件に沿った検討枠組みの設定3点・簡潔に
  • 経営判断原則の妥当性と利益相反関係(構造的利益相反+Gの個別的利益相反)を踏まえた義務違反の判断基準の提示12点
  • デュー・ディリジェンスを行う必要性の程度と義務違反の有無の具体的検討12点
  • 義務違反の内容と整合する損害(及び因果関係)の主張8点

設問3

  • 会社法22条1項の適用検討と、商号そのものの続用がないことの指摘→類推適用の問題設定6点
  • 22条1項の趣旨の正確な理解、商号と商標の異同、類推適用の可否とその要件の定立10点
  • 本問事実の当てはめ(登録商標Pの意味・戊社の使用態様・丁銀行の立場)と債務引受の外観の評価10点
  • その他の法律構成(会社法23条の2第1項の詐害事業譲渡、23条1項の債務引受広告)への言及4点・簡潔に

出題の趣旨(法務省公表)

1 本問は、公開会社でない株式会社において、①取締役の任期を短縮する定款変更がされ
るとともに取締役選任議案が否決されたという一連の経緯によって取締役の地位を失った
者が会社に対して損害賠償請求をすることの可否(設問1)、②親会社の圧力の下でいわゆ
るデュー・ディリジェンスを行うことなく事業を譲り受けたことに関する取締役の任務懈
怠責任(設問2)、③事業を譲渡した会社(譲渡会社)の商号の一部が含まれている商標を
使用した場合における事業を譲り受けた会社(譲受会社)の責任(設問3)を問うもので
ある。いずれについても、会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、
問題点を適切に分析した上で、具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか
否かを問うものである。
2⑴ 設問1においては、Dが甲社の取締役の地位を失ったことが実質的な解任であると考
えていることを踏まえると、Dとしては、まず、甲社に対して会社法第339条第2項
の規定に基づいて損害賠償請求をすることが考えられる。本問では、取締役の任期を短
縮する定款変更がされるとともに取締役選任議案が否決されたにすぎず、Dが解任され
たわけではないことから、そのことを指摘した上で、同項の規定の類推適用又は適用を
することができるか否かを検討することになる。なお、そのような検討をする前提とし
て、取締役の任期を短縮する定款変更が行われた場合における在任中の取締役の任期に
ついて言及することができると、なお望ましい(例えば、取締役の任期を短縮する定款
変更が行われた場合には、定款変更の効力が発生した時点において在任している取締役
の任期も短縮されると解され、本問のDは、短縮後の任期が既に経過しているので、定
款変更がされた時点で取締役の任期が満了したことになるなどと言及することが考えら
れる。)。
⑵ 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用を検討する場合には、同項の趣旨
を踏まえつつ、類推適用の基礎は何であるか、何をもって実質的な解任であると評価す
るかを意識した検討をする必要がある。すなわち、取締役の任期を短縮する定款変更を
したことを対象とする、取締役選任議案を否決したことを対象とする、その双方を対象
とするといった様々な考え方があり得るが、いずれの考え方によるにせよ、どのような
行為についての正当な理由の有無が問題になるのか、損害としてどのような主張をする
ことができるのかといった問題にも関連することから、類推適用又は適用の対象とそれ
以外の部分についても一貫した論述が求められる。
⑶ 正当な理由の有無については、判例(最判昭和57年1月21日集民第135号77
頁参照)等を踏まえ、取締役でもあり、株主でもあるAらとの間で経営方針をめぐって
意見が対立していたなどの本問における事実関係を適切に分析した上で論じることが求
められる。なお、正当な理由の有無を検討するに当たっては、会社法第339条第2項
の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても意識して検討することが
できると望ましい。例えば、取締役の任期を短縮する定款変更をしたことに対して同項
の規定を類推適用又は適用すべきであるという考え方による場合には、「信任を得る機会
を多くし、取締役の業務に緊張感を持たせたい」という定款変更議案の理由の本事案に
おける当否についても検討をすることなどが考えられる。
⑷ 損害については、Dの立場から考えられる主張とその当否を検討することが求められ
ているのであるから、Dが変更前の定款に定められた任期を満了するまで取締役を務め
たいと考えていたことを踏まえると、まずは変更前の定款に定められた任期が満了する
までの期間の報酬相当額に関する主張とその当否を検討し、それが認められないとする
場合には、慣例となっていた4年の任期が満了するまでの期間の報酬相当額が認められ
るか否かを検討することなどが考えられる。そして、その当否を検討するに当たっては、
会社法第339条第2項の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても
意識して検討する必要がある。例えば、取締役の任期を短縮する定款変更をしたことで
はなく、取締役選任議案を否決したことに対して同項の規定を類推適用又は適用すべき
であるという考え方による場合には、変更後の任期以上の期間の報酬相当額を損害とし
て主張することは困難となるはずであるが、そのような理論的な関係も踏まえた検討を
することが求められる。
⑸ 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用以外の法律構成もあり得るところ
ではあるが、いずれにしても、会社に対する損害賠償請求の可否が問われていることを
踏まえた上で、本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求められる。なお、
設問1では、定時株主総会の招集の手続及び議事は適法であったものとされていること
から、これに反する法律構成(例えば、株主総会の招集の手続等が法令等に違反するこ
とを理由とする株主総会決議の取消しを前提として報酬相当額の損害賠償請求をするこ
となど)を採用しても評価はされない点に留意する必要がある。
3⑴ 設問2においては、事業譲渡の譲受会社である戊社の少数株主であるJとしては、その
代表取締役Gが親会社である甲社の代表取締役Aの圧力の下でデュー・ディリジェンス
を行うことなく高値で事業を譲り受けたことについての任務懈怠責任を問うことが考え
られるところであり、会社法第423条第1項が定める要件に沿って検討することが求
められる。
⑵ まず、Gの義務違反の有無については、①通常であれば、いわゆる経営判断原則が妥
当し得るところ、甲社が戊社の親会社であるという関係に着目し、以下に述べるような
利益相反関係が存在することを指摘した上で、Gの善管注意義務又は忠実義務違反の有
無を判断する基準を提示し、②本問の事実関係の下でデュー・ディリジェンスを行う必
要性がどの程度あったかなどを踏まえて検討することが求められる。
①の検討においては、甲社が戊社の総株主の議決権の60パーセントを有する親会社
であり、本件事業譲渡が、親会社である甲社の利益にはなるものの、戊社の利益にはな
らないおそれがあるとともに、戊社には、親会社である甲社だけではなくJをはじめと
する少数株主が存在することから、構造的な利益相反が生じる可能性があることを考慮
するとともに、Gは、親会社である甲社の代表取締役Aから取締役として再任されない
可能性があることを示され、甲社の利益のために戊社にとって不利な事業譲渡を進める
ように圧力をかけられており、具体的な利益相反が生じていたことを考慮した上で、ど
のように義務違反を判断するのかについて検討することが求められる。
また、②の検討においては、戊社の取締役であるHが銀行や弁護士に確認して、デュ
ー・ディリジェンスを行う必要性が高いことを認識し、このことをGに指摘していたと
いう経緯等に言及した上で、本件事業譲渡契約を締結するに当たってはデュー・ディリ
ジェンスを行う必要性が高いことを指摘しつつ、Gとしても、甲社の利益のみを考えて
いたわけではなく戊社を含む甲社を中心としたグループ全体の利益を考えていたこと、
戊社にとって甲社は重要な取引先であることなども踏まえた上で、それでもデュー・デ
ィリジェンスを行わずに本件事業譲渡契約を締結したことが善管注意義務又は忠実義務
に違反すると評価することができるか否かを説得的に論じることが求められる。
⑶ 次に、損害については、そもそも本件事業譲渡契約を締結すべきではなかったのか、
それともデュー・ディリジェンスを行った上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結す
べきであったのかのいずれの立場を前提とするのかにもよるが、いずれの立場によるに
せよ、自己の立場と整合的な論述をすることが求められる。例えば、そもそも本件事業
譲渡契約を締結すべきではなかったと考える場合には、本件事業譲渡契約の対価の額か
ら本件事業譲渡に係る評価損計上後の資産の額を控除した残額にその後に計上した負債
の額を加えたものを損害とすることが考えられるし、デュー・ディリジェンスを行った
上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結すべきであったと考える場合には、本件事業
譲渡契約の対価の額から公正な対価の額を控除した残額を損害とすることなどが考えら
れる。
4⑴ 設問3においては、乙社から事業を譲り受けた戊社が、乙社の商号の一部である「乙」
が含まれている登録商標Pを使用している場合において、乙社の債務を弁済する責任を
負うか否かが問われている。本問において、乙社の事業を譲り受けた戊社の責任の有無
を検討するに当たっては、まず、会社法第22第1項の規定を適用することが考えられ
るが、本問では、戊社が乙社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないこと
から、そのことを指摘した上で、同項の類推適用をすることができるか否かを検討する
ことになる。
⑵ 会社法第22条第1項の規定の類推適用を検討するに当たっては、譲受会社が、譲渡
会社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないものの、その使用する登録商
標に譲渡会社の商号の一部が含まれているという本問の事情に着目し、同項の規定の趣
旨を踏まえ、譲渡会社の商号の一部が含まれている商標を使用した場合にも同項の規定
の類推適用をすることができるか、できるとする場合にはどのような要件が求められる
のかを論じた上で、本問の事実関係の下で同項の規定の類推適用をすることができるか
否かを検討することが求められる。その際には、商号が事業主の表示であることを踏ま
えつつ、商号と商標の異同、乙社における登録商標Pの意味と戊社による登録商標Pの
利用方法、戊社に対して乙社の残債務の弁済を求めている者が銀行であることなどの事
情を意識しつつ、説得的に論じることが求められる。例えば、登録商標Pは、商号では
ないものの、乙社の商号の一部である「乙」を含むものであり、消費者には譲渡会社で
ある乙社を示すものとして受け取られていたことを指摘しつつ、乙社が登録商標Pを使
用した商品を消費者等に対して直接販売することはなかったものの、戊社が、本件事業
譲渡後に、その店舗の入口に登録商標Pを描写した看板を掲げたり、ウェブサイトに登
録商標Pを掲載したりするなどした上で、乙社が製造していた商品と重複する商品を製
造販売して消費者等に直接販売していたことなどから、譲受会社である戊社が譲渡会社
である乙社の債務を引き受けたかのような外観が作出されたものと評価し得るか否かを
検討することなどが考えられる。なお、本問においては、乙社が戊社に日用品製造販売
事業を譲渡したことが事業の譲渡に当たることは明らかであるから、事業や事業譲渡の
意味等を詳細に論ずる必要はない。
⑶ 会社法第22条第1項の規定の類推適用のほかには、会社法第23条の2第1項の規
定により詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求をすることや、会社法
第23条第1項の規定により債務引受広告をした譲受会社の責任に言及することなども
考えられるが、いずれにしても、本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求
められる。

参考答案と AI 採点

第1 設問1 一 考えられる法律構成 Dは、甲社に対し、会社法(以下法名省略)339条2項に基づく損害賠償を請求することが考えられる。もっとも、Dは株主総会決議によって「解任」(同…

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出典:法務省「令和4年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。