令和4年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、35:35:30〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 会社法339条2項を出発点とすること/「解任」そのものがされていないことの指摘と、直接適用不可を前提とする類推適用(又は「解任」の拡張解釈による適用)の提示7点
- 任期短縮の定款変更がされた場合の在任取締役の任期(Dの任期がいつ満了したか)への言及3点・簡潔に
- 339条1項・2項の趣旨を踏まえた類推適用(適用)の基礎と、何を「実質的な解任」と評価するか(対象の特定)8点
- 「正当な理由」の意義(最判昭和57年1月21日等)と本問事実への当てはめ9点
- 損害に関するDの主張とその当否(変更前定款の任期満了までの報酬相当額/慣例の4年)と、類推適用対象との整合8点
設問2
- 会社法423条1項の要件に沿った検討枠組みの設定3点・簡潔に
- 経営判断原則の妥当性と利益相反関係(構造的利益相反+Gの個別的利益相反)を踏まえた義務違反の判断基準の提示12点
- デュー・ディリジェンスを行う必要性の程度と義務違反の有無の具体的検討12点
- 義務違反の内容と整合する損害(及び因果関係)の主張8点
設問3
- 会社法22条1項の適用検討と、商号そのものの続用がないことの指摘→類推適用の問題設定6点
- 22条1項の趣旨の正確な理解、商号と商標の異同、類推適用の可否とその要件の定立10点
- 本問事実の当てはめ(登録商標Pの意味・戊社の使用態様・丁銀行の立場)と債務引受の外観の評価10点
- その他の法律構成(会社法23条の2第1項の詐害事業譲渡、23条1項の債務引受広告)への言及4点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
1 本問は、公開会社でない株式会社において、①取締役の任期を短縮する定款変更がされ
るとともに取締役選任議案が否決されたという一連の経緯によって取締役の地位を失った
者が会社に対して損害賠償請求をすることの可否(設問1)、②親会社の圧力の下でいわゆ
るデュー・ディリジェンスを行うことなく事業を譲り受けたことに関する取締役の任務懈
怠責任(設問2)、③事業を譲渡した会社(譲渡会社)の商号の一部が含まれている商標を
使用した場合における事業を譲り受けた会社(譲受会社)の責任(設問3)を問うもので
ある。いずれについても、会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、
問題点を適切に分析した上で、具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか
否かを問うものである。
2⑴ 設問1においては、Dが甲社の取締役の地位を失ったことが実質的な解任であると考
えていることを踏まえると、Dとしては、まず、甲社に対して会社法第339条第2項
の規定に基づいて損害賠償請求をすることが考えられる。本問では、取締役の任期を短
縮する定款変更がされるとともに取締役選任議案が否決されたにすぎず、Dが解任され
たわけではないことから、そのことを指摘した上で、同項の規定の類推適用又は適用を
することができるか否かを検討することになる。なお、そのような検討をする前提とし
て、取締役の任期を短縮する定款変更が行われた場合における在任中の取締役の任期に
ついて言及することができると、なお望ましい(例えば、取締役の任期を短縮する定款
変更が行われた場合には、定款変更の効力が発生した時点において在任している取締役
の任期も短縮されると解され、本問のDは、短縮後の任期が既に経過しているので、定
款変更がされた時点で取締役の任期が満了したことになるなどと言及することが考えら
れる。)。
⑵ 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用を検討する場合には、同項の趣旨
を踏まえつつ、類推適用の基礎は何であるか、何をもって実質的な解任であると評価す
るかを意識した検討をする必要がある。すなわち、取締役の任期を短縮する定款変更を
したことを対象とする、取締役選任議案を否決したことを対象とする、その双方を対象
とするといった様々な考え方があり得るが、いずれの考え方によるにせよ、どのような
行為についての正当な理由の有無が問題になるのか、損害としてどのような主張をする
ことができるのかといった問題にも関連することから、類推適用又は適用の対象とそれ
以外の部分についても一貫した論述が求められる。
⑶ 正当な理由の有無については、判例(最判昭和57年1月21日集民第135号77
頁参照)等を踏まえ、取締役でもあり、株主でもあるAらとの間で経営方針をめぐって
意見が対立していたなどの本問における事実関係を適切に分析した上で論じることが求
められる。なお、正当な理由の有無を検討するに当たっては、会社法第339条第2項
の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても意識して検討することが
できると望ましい。例えば、取締役の任期を短縮する定款変更をしたことに対して同項
の規定を類推適用又は適用すべきであるという考え方による場合には、「信任を得る機会
を多くし、取締役の業務に緊張感を持たせたい」という定款変更議案の理由の本事案に
おける当否についても検討をすることなどが考えられる。
⑷ 損害については、Dの立場から考えられる主張とその当否を検討することが求められ
ているのであるから、Dが変更前の定款に定められた任期を満了するまで取締役を務め
たいと考えていたことを踏まえると、まずは変更前の定款に定められた任期が満了する
までの期間の報酬相当額に関する主張とその当否を検討し、それが認められないとする
場合には、慣例となっていた4年の任期が満了するまでの期間の報酬相当額が認められ
るか否かを検討することなどが考えられる。そして、その当否を検討するに当たっては、
会社法第339条第2項の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても
意識して検討する必要がある。例えば、取締役の任期を短縮する定款変更をしたことで
はなく、取締役選任議案を否決したことに対して同項の規定を類推適用又は適用すべき
であるという考え方による場合には、変更後の任期以上の期間の報酬相当額を損害とし
て主張することは困難となるはずであるが、そのような理論的な関係も踏まえた検討を
することが求められる。
⑸ 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用以外の法律構成もあり得るところ
ではあるが、いずれにしても、会社に対する損害賠償請求の可否が問われていることを
踏まえた上で、本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求められる。なお、
設問1では、定時株主総会の招集の手続及び議事は適法であったものとされていること
から、これに反する法律構成(例えば、株主総会の招集の手続等が法令等に違反するこ
とを理由とする株主総会決議の取消しを前提として報酬相当額の損害賠償請求をするこ
となど)を採用しても評価はされない点に留意する必要がある。
3⑴ 設問2においては、事業譲渡の譲受会社である戊社の少数株主であるJとしては、その
代表取締役Gが親会社である甲社の代表取締役Aの圧力の下でデュー・ディリジェンス
を行うことなく高値で事業を譲り受けたことについての任務懈怠責任を問うことが考え
られるところであり、会社法第423条第1項が定める要件に沿って検討することが求
められる。
⑵ まず、Gの義務違反の有無については、①通常であれば、いわゆる経営判断原則が妥
当し得るところ、甲社が戊社の親会社であるという関係に着目し、以下に述べるような
利益相反関係が存在することを指摘した上で、Gの善管注意義務又は忠実義務違反の有
無を判断する基準を提示し、②本問の事実関係の下でデュー・ディリジェンスを行う必
要性がどの程度あったかなどを踏まえて検討することが求められる。
①の検討においては、甲社が戊社の総株主の議決権の60パーセントを有する親会社
であり、本件事業譲渡が、親会社である甲社の利益にはなるものの、戊社の利益にはな
らないおそれがあるとともに、戊社には、親会社である甲社だけではなくJをはじめと
する少数株主が存在することから、構造的な利益相反が生じる可能性があることを考慮
するとともに、Gは、親会社である甲社の代表取締役Aから取締役として再任されない
可能性があることを示され、甲社の利益のために戊社にとって不利な事業譲渡を進める
ように圧力をかけられており、具体的な利益相反が生じていたことを考慮した上で、ど
のように義務違反を判断するのかについて検討することが求められる。
また、②の検討においては、戊社の取締役であるHが銀行や弁護士に確認して、デュ
ー・ディリジェンスを行う必要性が高いことを認識し、このことをGに指摘していたと
いう経緯等に言及した上で、本件事業譲渡契約を締結するに当たってはデュー・ディリ
ジェンスを行う必要性が高いことを指摘しつつ、Gとしても、甲社の利益のみを考えて
いたわけではなく戊社を含む甲社を中心としたグループ全体の利益を考えていたこと、
戊社にとって甲社は重要な取引先であることなども踏まえた上で、それでもデュー・デ
ィリジェンスを行わずに本件事業譲渡契約を締結したことが善管注意義務又は忠実義務
に違反すると評価することができるか否かを説得的に論じることが求められる。
⑶ 次に、損害については、そもそも本件事業譲渡契約を締結すべきではなかったのか、
それともデュー・ディリジェンスを行った上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結す
べきであったのかのいずれの立場を前提とするのかにもよるが、いずれの立場によるに
せよ、自己の立場と整合的な論述をすることが求められる。例えば、そもそも本件事業
譲渡契約を締結すべきではなかったと考える場合には、本件事業譲渡契約の対価の額か
ら本件事業譲渡に係る評価損計上後の資産の額を控除した残額にその後に計上した負債
の額を加えたものを損害とすることが考えられるし、デュー・ディリジェンスを行った
上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結すべきであったと考える場合には、本件事業
譲渡契約の対価の額から公正な対価の額を控除した残額を損害とすることなどが考えら
れる。
4⑴ 設問3においては、乙社から事業を譲り受けた戊社が、乙社の商号の一部である「乙」
が含まれている登録商標Pを使用している場合において、乙社の債務を弁済する責任を
負うか否かが問われている。本問において、乙社の事業を譲り受けた戊社の責任の有無
を検討するに当たっては、まず、会社法第22第1項の規定を適用することが考えられ
るが、本問では、戊社が乙社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないこと
から、そのことを指摘した上で、同項の類推適用をすることができるか否かを検討する
ことになる。
⑵ 会社法第22条第1項の規定の類推適用を検討するに当たっては、譲受会社が、譲渡
会社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないものの、その使用する登録商
標に譲渡会社の商号の一部が含まれているという本問の事情に着目し、同項の規定の趣
旨を踏まえ、譲渡会社の商号の一部が含まれている商標を使用した場合にも同項の規定
の類推適用をすることができるか、できるとする場合にはどのような要件が求められる
のかを論じた上で、本問の事実関係の下で同項の規定の類推適用をすることができるか
否かを検討することが求められる。その際には、商号が事業主の表示であることを踏ま
えつつ、商号と商標の異同、乙社における登録商標Pの意味と戊社による登録商標Pの
利用方法、戊社に対して乙社の残債務の弁済を求めている者が銀行であることなどの事
情を意識しつつ、説得的に論じることが求められる。例えば、登録商標Pは、商号では
ないものの、乙社の商号の一部である「乙」を含むものであり、消費者には譲渡会社で
ある乙社を示すものとして受け取られていたことを指摘しつつ、乙社が登録商標Pを使
用した商品を消費者等に対して直接販売することはなかったものの、戊社が、本件事業
譲渡後に、その店舗の入口に登録商標Pを描写した看板を掲げたり、ウェブサイトに登
録商標Pを掲載したりするなどした上で、乙社が製造していた商品と重複する商品を製
造販売して消費者等に直接販売していたことなどから、譲受会社である戊社が譲渡会社
である乙社の債務を引き受けたかのような外観が作出されたものと評価し得るか否かを
検討することなどが考えられる。なお、本問においては、乙社が戊社に日用品製造販売
事業を譲渡したことが事業の譲渡に当たることは明らかであるから、事業や事業譲渡の
意味等を詳細に論ずる必要はない。
⑶ 会社法第22条第1項の規定の類推適用のほかには、会社法第23条の2第1項の規
定により詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求をすることや、会社法
第23条第1項の規定により債務引受広告をした譲受会社の責任に言及することなども
考えられるが、いずれにしても、本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求
められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和4年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
