令和4年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 大学の自治の憲法上の根拠付けとその内容(研究・教育の内容や方法の自律的決定権限)13点
- 決定①:Yの活動が学問の自由(研究・成果発表)の保障範囲外の社会的活動であるとの主張(主張a)8点
- 決定①:研究助成金制度の趣旨不適合と制約の軽微性(主張b・c)8点
- 決定②:教授の自由と成績評価に対する大学の自律的決定権限(主張d)8点
- 決定②:成績評価の学術的範囲からの逸脱と学生の不利益(主張e・f)8点
設問2
- Yの反論①:社会科学分野における学問研究と社会的活動の不可分性・保障範囲(主張ア・イ)7点
- Yの反論②:助成不交付による研究活動への重大な制約(主張ウ)6点・簡潔に
- Yの反論③:教授の自由の広さと成績評価への及び方(主張オ・カ)6点
- Yの反論④:見解(観点)に基づく差別的取扱い(主張エ・キ)6点
- 自説(総論):大学の自治と個々の研究者の学問の自由の緊張関係の整理と判断枠組み9点
- 自説(決定①):保障範囲の画定と不交付の当否の結論8点
- 自説(決定②):授業内容の問題と成績評価の問題の区別・学生の不利益を踏まえた結論8点
全体
- 論理的構成・文章表現・事案に即した論述5点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
1.本問は、大学の自治と学問の自由との関係、学問の自由の射程とその制約の可否について、
問うものである。学問の自由については、学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由が
含まれることについても、留意する必要がある。
決定①については、大学が進める研究方針に基づく研究助成の趣旨に合致しないことを理
由とした、学問研究の自由の制約が問題となる。決定②については、大学の成績評価として
著しく妥当性を欠くことを理由とした、教授の自由の制約が問題となる。決定①、決定②の
双方について、大学が研究・教育の内容や方法に関し大学の自治に基づきどこまで自律的に
決定できるのか、学問研究と関連する社会的活動にどこまで学問の自由の保障が及ぶのか、
特定の見解(観点)に基づく差別的取扱いがなされていないかなどの論点に留意しつつ、議
論を組み立てる必要がある。
2.設問1では、X大学の側から、決定①、決定②が正当であることを基礎付ける憲法上の主
張を検討することになる。大学が研究・教育の内容や方法に関し広い裁量権を有していると
主張するだけでなく、X大学が大学の自治の主体となり得ることを踏まえ、そうした裁量権
を憲法から基礎付けることが求められる。
判例(東大ポポロ事件、最判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁)は、大学の
学問の自由と自治は、大学が学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究す
ることを本質とすることに基づくから、直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発
表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味する、と指摘している。
判例は、大学の自治の内容として、研究者の人事、大学の施設・学生の管理を挙げているが、
判旨を踏まえれば、さらに、大学が、個々の教員の研究・教育の自由に配慮しつつも、大学
としてどのような研究に重点を置くかを決定したり、講義や成績評価が適切な範囲でなされ
ているかを判断したりするなど、研究・教育の内容や方法について自律的に決定することも、
大学の自治の内容を構成すると論じることは十分に可能であろう。
3.決定①をめぐっては、Yが、A研究所からの研究助成金を用いて研究所のサーバー上に開
設しているウェブサイトに、YやYが主宰する団体Cの政治的な性格を持った活動の様子を
記録した動画を掲載していること、また、研究助成金を用いた調査のための出張に際し政治
的な内容を含む講演を行ったことの評価が、問題となる。
X大学の側からは、まずは、(a)Yによるこうした活動は、学問の自由として保障される
学問研究や成果発表の範囲を超えた社会的活動であって学問の自由の保障を受けない、とい
った主張をすることが考えられる。さらに、(b)これらが学問研究や成果発表と関連し学問
の自由の保障を受けるとみる余地があるとしても、地域経済の振興に資する研究活動を支援
するという研究助成金の趣旨に適合せず、また、(c)Yは他の研究資金を得るなどして研究
活動を継続することも可能であるから、研究活動に対する制約も軽微であるなどと主張する
こともできよう。
決定②をめぐっては、Yが、地域経済論の講義において、ブックレットの執筆者である団
体Cの構成員をゲストとして招くとともに、学生に対して団体Cに加入するよう勧誘したこ
と、また、期末試験において、自身が主宰する団体Cに加入した学生にいずれも高い評価を
与える一方、ブックレットの内容を批判した学生の多くに不合格の評価を行ったことが、問
題となる。
X大学の側からは、まずは、(d)大学教員には教授の自由が保障されるが、成績評価は教
員が全く自由になし得るわけではなく、また教授の自由に基づき授業内容だけでなく成績評
価をめぐる裁量が認められるとしても、大学は大学の自治に基づき教育の内容・方法を自律
的に決定することができ、教授の自由も大学が定める教育目的や科目編成等の方針の範囲内
で行使されるべきものであるといった主張を行うことになろう。その上で、(e)Yによる成
績評価は、政治的観点に強く影響されており、学術的観点からなされるべき成績評価の範囲
を明らかに逸脱していること、(f)地域経済論は必修科目であり、以上のような不適切な成
績評価により不合格となった学生の不利益が極めて大きいこと、などを主張することができ
よう。なお本問では、司法権の限界について論じる必要はないが、この分野において、単位
認定や専攻科修了認定について判断した判例(最判昭和52年3月15日民集31巻2号2
34頁、最判昭和52年3月15日民集31巻2号280頁)の考え方は、学生の不利益の
大きさを論じる上で参考になろう。
4.設問2では、まずは、Yの側からの憲法上の主張を検討することになる。決定①をめぐっ
ては、(ア)Yのような社会科学分野の研究者にとっては学問研究と研究成果に基づいた社
会的活動を切り離すことは困難である、(イ)学問研究と切り離すことができない活動を記
録した動画を研究所のサーバー上のウェブサイトに掲載したこと、調査のための出張に際し
交流のある団体の集会で講演を行ったことは、いずれも研究の自由や成果発表の自由に含ま
れる、(ウ)決定①は翌年度に予定されていた研究活動を困難にするもので、研究活動の自
由に対する重大な侵害に当たる、(エ)決定①は経営審議会での学外委員の発言を考慮して
なされたもので、X県の産業政策を批判するという特定の見解に着目してYの研究を差別的
に取り扱うものである、といった主張が考えらえる。
決定②をめぐっては、(オ)教授の自由は教育の内容・方法の決定及び成績評価の自由を
含み、そうした自由の行使について大学では教員に広い裁量が認められる、(カ)講義も成
績評価も研究成果に基づきなされている、(キ)X県の産業政策を批判する見解に対する否
定的な立場から、団体Cに加入した学生への高い評価やX県の政策をめぐるYの主張に批判
的な学生への低い評価を問題視し、Yの教授の自由を制約するものである、といった主張が
考えられる。
5.以上のようなYの主張を踏まえ、設問1でのX大学の主張も考慮しつつ、決定①、決定②
について自説を展開することになる。
Yの主張のうち、決定①に関わる(ア)(イ)については、X大学側からの(a)(b)の主張
も踏まえつつ、社会科学分野の研究者にとっては研究活動と社会的活動とを切り離すことが
難しい場合もあることを考慮して、学問の自由の保障範囲を見定め、その制約の当否を論じ
る必要がある。決定②に関わる(カ)についても、X大学側からの(d)の主張を踏まえ、同
様に論じる必要がある。
また、決定①・決定②の双方について、X大学が大学の自治の主体であることにも意識し
つつ、学問の自由の制約を論じなければならない。県立大学であるX大学を公権力としての
み捉え、公権力が精神的自由である学問の自由を侵害しているとして厳格な判断基準を導く
といっただけの形式的・図式的な議論では不十分であろう。行政機関とは異なり、大学が研
究・教育の内容や方法について自律的に決定し得ること、本来は学問の自由の保障のために
認められる大学の自律性に基づく決定が、個々の研究者の学問の自由と対立する側面がある
ことにも、留意しなければならない。
決定①に関する(ウ)については、学問の自由を論じる際には、今日の社会では研究者は
学問の自由が保障された大学のような機関に所属しその支援を受けなければ研究の継続が難
しいという点にも留意してほしい。その上で、X大学側からの(c)の主張も踏まえつつ、決
定①がYの研究にとってどの程度の制約となるのかを慎重に見極める必要があろう。
決定②に関する(オ)については、判例(旭川学テ事件、最判昭和51年5月21日刑集
30巻5号615頁)が、普通教育とは異なり、大学教育の場合には、学生が一応教授内容
を批判する能力を備えていると考えられると指摘していることが参考になろう。Yが教育の
内容・方法の決定や成績評価について広い裁量を有していることを踏まえつつ、X大学側の
(e)(f)の主張にも留意して、学問の自由と社会活動の関係や学生の不利益にも配慮しながら、
決定②の妥当性を検討することになろう。
(エ)(キ)については、事案も踏まえつつ、見解(観点)に基づく差別的な取扱いがな
かったかを検討することになる。表現の自由をめぐる見解(観点)規制に準じて考えること
ができよう。研究助成という仕組みにおいては大学の裁量が認められるとみることもできる
が、これまで研究員全員に一律に研究助成金が配分されてきたことにも留意し、決定①につ
いて検討する必要があろう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和4年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
