令和4年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、45:30:25])
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 課題1:被告を甲と確定することができる見解とその当てはめ(意思説又は実質的表示説)10点
- 課題1:被告を乙と確定することができる見解とその当てはめ(行動説又は表示説)10点
- 課題2前半:裁判上の自白の成立要件と第2回期日のAの陳述への当てはめ10点
- 課題2後半:自白の撤回禁止の原則と撤回が許される要件の構成(理由付け)7点
- 課題2後半:自白撤回の許否についての当てはめ6点
設問2
- 第1点:旧訴訟の訴訟状態の利用可能性と訴訟経済7点
- 第2点:訴訟の複雑化という弊害が生じない旨の立論7点
- 第3点:軽率な提訴等を誘発するおそれがない旨の立論7点
- 第4点:著しい訴訟遅延を招来しない旨の立論7点
設問3
- 「文書」の定義5点
- USBメモリが「文書でないもの」に当たることの論証6点
- 「情報を表すために作成された物件」該当性4点
- 書証の意義とUSBメモリを録音テープ等と同様に取り調べ得る理由(法231条の適用)9点
全体
- 論理的構成・表現5点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
本問は、令和3年4月20日、Xが、その所有する建物の一部(以下「本件事務所」とい
う。)につき、平成30年5月21日設立の会社である甲(商号「株式会社Mテック」)との
間で締結した賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の終了に基づき、「株式会社M
テック」を被告と表示して本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した(以下、この訴えに
係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)ところ、本件訴訟の提起前である令和3年4月2日、
甲の代表者Aが、甲の商号を「株式会社Mテック」から「株式会社Gテック」に変更し、甲
の代表取締役としてAの配偶者Bを就任させ、商号の変更等の登記をした一方で、自身を代
表取締役とし、商号を「株式会社Mテック」とする乙という会社を新たに設立し、設立の登
記をしていたことに加え、Xが訴状の附属書類として添付した代表者事項証明書には「株式
会社Mテック」の設立年月日の記載がないため、乙を甲と誤認したまま本件訴訟を提起して
いたという事案を素材としている。この事案について、①原告が請求の原因として主張した
本件賃貸借契約締結及びその解除の事実等を被告が認めたことを踏まえて口頭弁論が終結さ
れた後、Aから口頭弁論の再開が申し立てられ、被告と表示された乙はXと賃貸借契約を締
結していない等として自白の撤回が主張された場合における当事者の確定の基準及び自白の
撤回を主張することの当否の検討(設問1)、②本件訴訟の被告が乙であることを前提とした
場合に、Xが甲を被告として追加する主観的追加的併合を申し立てる際に留意すべき4つの
問題点の検討(設問2)、③本件訴訟の被告が乙と確定され、Xが甲を被告として本件賃貸借
契約の終了に基づき本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した場合において、甲が本件賃
貸借契約には賃料支払猶予の合意(以下「本件合意」という。)があることを理由に解除する
ことができないと主張し、その証拠として提出された本件合意を記録した電子ファイルを保
存したUSBメモリの取調べを書証によってすることができることの論証(設問3)をそれ
ぞれ求めるものである。
まず、設問1の課題1では、当事者の確定の基準に関する種々の見解から、被告を甲と確
定し得る見解と乙と確定し得る見解をそれぞれ一つ取り上げ、これらの見解に従えば被告を
甲又は乙と確定し得ることを実際に論証することが求められている。甲は訴状に現れていな
いため、被告を甲と確定することができる見解としては、例えば、意思説が考えられ、この
見解によるならば、この見解が、原告の意思に着目するものであることを指摘した上で、X
が甲を被告とする意思であったことを、訴状の記載等に言及しつつ、説得的に論証すること
が求められる。次に、被告を乙と確定することができる見解としては、例えば、行動説が考
えられ、この見解によるならば、この見解が、被告らしく行動した者は誰であるかに着目す
るものであることを指摘した上で、実際に訴訟追行をしたのは乙の代表者Aであることに言
及するなどして被告らしく行動したのは乙であることを説得的に論証することが期待される。
次に、設問1の課題2では、被告を乙と確定した場合に、第2回口頭弁論期日において乙
(代表者A)が請求原因事実を認める旨を陳述したことにより裁判上の自白が成立したこと
になるか、仮に自白が成立したとして、再開後の第3回口頭弁論期日における自白の撤回が
許されるかどうかの検討が求められる。課題2の前半部分では、裁判上の自白の成立要件を
明らかにした上で、乙(代表者A)の上記陳述について要件該当性を検討することが求めら
れる。課題2の後半部分では、裁判上の自白が成立した場合には、原則としてその撤回が禁
止されることを踏まえ、例外として自白撤回が許される場合を明らかにすることが期待され
る。本件において問題となる自白撤回の要件としては、自白した事実が真実に反し、かつ、
自白が錯誤に基づくことが証明されたことが挙げられるが、個々の要件につき、反真実を錯
誤よりも重視する見解、また、錯誤を反真実よりも重視する見解が主張されていることに鑑
み、撤回要件の当てはめに先立ち、自白撤回の要件をどのように構成するかを理由付けとと
もに明らかにすることが期待される。この理由付けができている限り、自白撤回の要件をど
の見解に従って構成したかによって評価に差を設けることはない。当てはめにおいては、自
らが採用した見解に従い、乙(代表者A)による自白撤回の許否を検討する必要があるとこ
ろ、反真実については、本件賃貸借契約の締結当時、賃借人は「株式会社Mテック」こと甲
であるから、Xと乙との間で賃貸借契約が締結された事実はないことに言及する必要がある。
他方で、錯誤については、乙(代表者A)は、請求原因事実を認める旨を陳述した際、本件
賃貸借契約の賃借人が乙ではないことを知っていたことに言及する必要がある。
設問2では、本件訴訟の被告が乙と確定されることを想定し、Xが甲に対する給付判決を
得る上で便宜な手段として主観的追加的併合の申立てがあるところ、最判昭和62年7月1
7日民集41巻5号1402頁が主観的追加的併合を認めた場合の問題として主に4点を指
摘していることを踏まえ、Xによる主観的追加的併合の申立てが認められるような立論を上
記4点を踏まえて検討することが求められている。第1に、新たな当事者に対する別訴に対
し、旧訴訟の訴訟状態を利用することができ、それが訴訟経済に資する旨の立論については、
Xが乙を甲と誤認して旧訴訟(X乙間の訴訟)に提出した資料は、本来甲に対する新訴訟(X
甲間の訴訟)において提出すべきであったことを踏まえ、甲と乙はたとえ別法人であっても、
それはAがXに乙を甲と誤認させるように図った結果であるから、信義則上、旧訴訟におい
て形成された乙に不利な訴訟状態が弁論の併合を通じて新当事者が引き継ぐことを甲は拒否
することができないのではないか、といった点に言及することが期待される。第2に、主観
的追加的併合を認めることにより全体として訴訟が複雑化するという弊害は予測されない旨
の立論については、旧訴訟では請求原因事実について乙が自白しているところ、弁論の併合
の結果、この訴訟状態が新訴訟に引き継がれることにより、裁判所は事案全体を統一的に把
握することができるようになるから、必ずしも訴訟が複雑化するという弊害は生じないので
はないか、といった点に言及することが期待される。第3に、主観的追加的併合を認めても
軽率な提訴等を誘発するおそれはない旨の立論としては、Xが乙を甲と誤認した主な原因が、
甲の商号変更、乙の設立及び甲の旧商号の使用等のAによる一連の行為にあることから、X
は被告の誤認について帰責性が乏しいため、この事案において主観的追加的併合による被告
の追加を認めたからといって、必ずしも軽率な提訴は誘発されないのではないか、といった
点に言及することが期待される。第4に、主観的追加的併合が訴訟の遅延を招来しない旨の
立論としては、例えば、主観的追加的併合の申立ては、甲を被告に追加するXの申立てを伴
うところ、追加された甲に対して防御の機会を保障するには新たな期日を設ける必要がある
以上訴訟手続の遅延は生じるが、そもそも訴訟手続の遅延はそれが著しい場合に限り不適法
となることに鑑みると(民事訴訟法(以下「法」という。)第143条第1項ただし書の類推)、
甲を被告に追加する旨をXが申し立てた時期は第1審手続の係属中であり、旧訴訟の訴訟状
態が引き継がれることなどからすれば、著しい訴訟遅延が生じるおそれはないといった点に
言及することが考えられる。
設問3では、Xが、甲を被告として、本件賃貸借契約の終了に基づいて提起した、本件事務
所の明渡しを求める訴えに係る訴訟手続において、第1回口頭弁論期日に出頭した甲の代表者
Bが証拠として提出したUSBメモリが、「情報を表すために作成された物件で文書でないも
の」(法第231条)に該当し、書証により取り調べることができることの論証が求められて
いる。設問3の課題前半部分では、「文書」の定義を明らかにした上で、USBメモリが「文
書でないもの」に該当することの論証が求められる。文書は、「文字その他の記号を使用して
人間の思想、判断、認識、感情等の思想的意味を可視的状態に表示した有形物」(大阪高決昭
和53年3月6日高民集31巻1号38頁)のように定義されることから、このような文書の
定義に照らして、USBメモリが文書に当たらないことを論証することが期待される。設問3
の課題後半部分では、USBメモリを録音テープ等と同様に取り調べることが許される理由の
検討が求められる。ここでは、証拠方法の一つとしての書証がどのようなものであるかを明ら
かにした上で、法第231条においては、USBメモリのようなコンピュータ用の電磁的記録
媒体が例示されていないことに留意しつつ、USBメモリに保存された電子ファイルは、適切
な出力装置によってこれを閲読可能な状態にすることができる限り、これを閲読し、その結果
を証拠資料にすることができることに言及する必要がある。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和4年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
