令和4年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕、〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は、50:30:20〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)
- 問題の基本構造の把握(Bは無権利者であり、無権利者からの譲受人Cは原則として所有権を取得できないこと、例外として民法94条2項類推適用が問題となること)5点
- 権利外観法理の拡張と要件(帰責性の類型の区別と、外形与因型における判例法理=94条2項・110条の法意/趣旨の類推と第三者の善意無過失)10点
- 本問へのあてはめと結論(Aの帰責性の有無・Cの善意無過失)11点
設問1(2)
- 177条と背信的悪意者排除論(Bの背信的悪意者該当性)6点
- 背信的悪意者からの転得者Cに対する権利主張の可否(請求1の帰趨)6点
- 詐害行為取消権の行使可能性の前提問題(被保全債権が特定物債権であること、177条との関係)5点
- 詐害行為取消しの要件のあてはめ(424条・424条の5第1号)7点
- 詐害行為取消権の効果(請求1・請求2の結論)5点
設問2
- 下線部㋐の主張の根拠(605条の2第1項による賃貸人の地位の移転)と同項の趣旨6点
- 下線部㋑の主張の根拠と当否(担保目的譲渡が605条の2第1項の『譲渡』に当たるか)9点
- 下線部㋒の主張の根拠と当否(605条の2第2項の類推適用)及び請求3の結論(5月分・6月分の異同)11点
設問3
- Mの請求の根拠及び㋓の主張の根拠(死因贈与への1022条・1023条1項の準用)6点
- Mの反論と㋓の当否(554条の『その性質に反しない限り』の解釈、相手方の保護と最終意思の尊重の調整)及び請求4の結論9点・簡潔に
全体
- 論理的一貫性・構成の適切さ・表現力4点
出題の趣旨(法務省公表)
1 設問1⑴について
⑴ 設問1⑴は、虚偽の外観を信頼して取引をした者の保護をどのような要件の下で図るか
という問題に関する理解を問うものである。
設問1⑴においては、甲土地の所有権登記がAからB、BからCと順次移転しているが、
Bは無権利者であり、Cが外観を信じて取引をした者として保護されるかが問題となる。
虚偽の外観の作出・存続に本人の意思が直接には関与していない事例について、判例は、
民法(以下「法」という。)第94条第2項と第110条の法意を重畳的に適用すること
によって、権利外観法理の伸張を図っている。本問の解答としては、この判例法理の趣旨
を正確に理解した上で、本人の帰責性の程度を勘案しつつ第三者に求められる要件を論じ、
本問に当てはめて結論を導くことが求められる。
⑵ まず、無権利者からの譲受人は権利を取得できないのが基本であるところ、判例は、虚
偽の権利外観の作出・存続が所有者の意思に基づくと評価される場合に法第94条第2項
を類推適用し、登記の外形を信頼して無権利者と取引をした善意の第三者の保護を図って
いる。解答に当たっては、こうした本問の基本構造が提示されることが求められる。
なお、本問においては、代理権の存在についての信頼を保護することを趣旨とする法第
110条の適用が問題となるわけではない。
⑶ 法第94条第2項が類推適用される要件である本人の帰責性が認められる場合として
は、本人自らが虚偽の外観を作出したとき(外形意思対応=外形自己作出型)や、虚偽の
外観の作出が他人によるものであっても、本人がその存在を知りつつその存続を明示又は
黙示に承認していたとき(外形意思対応=外形他人作出型)が挙げられる。これに対し、
本人が作出した虚偽の外観に他人の行為が加わって更なる虚偽の外観が作出されたが、本
人がそれを知らなかった場合(外形意思非対応型)や、本人が他人を信用して交付した書
類が濫用されて虚偽の外観が作出されるなど、本人が虚偽の外観作出の原因を与えていた
場合(外形与因型)には、判例は、法第94条第2項と第110条の「法意」又は「趣旨
の類推」により、善意無過失の第三者を保護するものとしている(最判昭和43年10月
17日民集22巻10号2188頁、最判平成15年6月13日判時1831号99頁(以
下「平成15年判決」という。)、最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁【民
法判例百選Ⅰ<第8版>22事件】(以下「平成18年判決」という。))。
⑷ 本問は、Aは、Bに対して抵当権抹消登記手続を委託しているものの、甲土地の所有権
をBに移転させる意思は有していないことから、上記の「外形与因型」に該当する。「外
形与因型」の事例への対処については、判例のように法第94条第2項と第110条の法
意に照らし判断するもののほか、学説には、法第110条を持ち出さずに、法第94条第
2項類推適用によるものとする見解や、「外形与因型」の事例は法第94条第2項類推適
用の許容範囲を超えるものとして第三者保護を否定すべきとの見解もある。論拠が適切に
示されているのであれば、判例とは異なる見解に依拠するのであっても等しく評価される
が、いずれの見解によるとしても、法第94条第2項類推適用が認められる事例の限界に
ついては言及がされるべきである。
⑸ 本問の解答としては、ここまでに述べてきた法的論拠に関する議論を踏まえ、本人Aの
帰責性と第三者Cの善意又は善意無過失の要件具備の当否を適切に判断することが求めら
れる。平成18年判決は、虚偽の外観作出について権利者本人が知らなかった事案におい
て、権利者に不実登記を承認したと「同視し得るほど重い」帰責性がある場合に無過失の
第三者が保護されるとした。本問においても、Cの無過失はもとより、Aの帰責性につい
ても、その判断については相当の慎重さが求められる。
Aの帰責性に関しては、所有権移転登記手続に必要となる書類をBに言われるまま交付
していることが事実4に示されているものの、契約①の契約書がBの偽造によるものであ
ることは重視されるべきである。所有権移転登記それ自体にAの意思的関与はなく、Bに
よって作出された外観を是正し得る契機も見いだせない。こうしたことからすれば、本問
は、上記の平成18年判決の事案よりも平成15年判決の事案に類似しているといえる。
法第94条第2項と第110条の法意に照らしても、Cに対抗し得ないとすべき程の帰責
性がAにあるとは評価できず、Cに対する権利主張は妨げられないものと解される。ただ
し、Aの帰責性を是認する答案も、その論拠が説得的に示されていれば、相応に点を与え
る。
2 設問1⑵について
⑴ア 設問1⑵は、Aが、甲土地をDとBに二重譲渡した事例であり、登記名義はAからB、
BからCへと順次移転している。登記のない譲受人が自己の所有権取得を登記のある譲
受人に対抗するための方途としてまず考えられるのは、登記を有する譲受人が背信的悪
意者であるとの主張である。通説・判例によれば、法第177条にいう「第三者」には
背信的悪意者は含まれず、登記がなくても物権の取得を対抗することができる(最判昭
和40年12月21日民集19巻9号2221頁、最判昭和43年8月2日民集22巻
8号1571頁等)。自由競争の前提となる信義則に違反し、権利濫用法理に違背する
ような者は、自由競争の範囲を逸脱し、登記による保護を認められるべきではないから
であるとされている。背信的悪意者の典型例としては、「不動産登記法第5条の第三者
と類似する立場にある第三者」、「不動産取得の目的や方法が著しく信義に反する第三
者」、「第1譲受人の不動産取得を害意をもって侵害しようとする第三者」、「譲受人と実
質的に同一人格と判断される第2譲受人」などが挙げられる。
もっとも、学説上は、悪意者排除論や有過失者排除論も有力であり、これらを論拠と
する場合も、判例法理となっている背信的悪意者排除論への疑問を提示しつつ説得的に
論じられていれば、同様に点を与える。
設問1⑵において、Bは、第1売買の事実を知り、またDへの第1売買を妨害する意
図をもって自己への所有権移転、Cへの転売をしているため、上記の「不動産取得の目
的が著しく信義に反する第三者」に該当し、背信的悪意者であると認定することができ
る。したがって、悪意者排除論に依拠する場合はもちろん、判例・通説のいう背信的悪
意者排除論に依拠するのでも、Dは、甲土地について登記なくして自己の所有権取得を
Bに対抗することができると解される。
イ では、Dは、背信的悪意者からの転得者Cとの関係でも、同様に登記なくして所有権
の取得を対抗することができるか。背信的悪意者からの譲受人は所有権を取得し得るの
か、また、背信的悪意者としての地位を承継することにならないのかが検討されるべき
こととなる。判例は、背信的悪意者につき相対的に判断をしており、第1譲受人との関
係で登記の欠缺を主張できない背信的悪意者も所有権取得者であって、背信的悪意者か
ら所有権を承継取得する転得者は、自身が第1譲受人との関係で背信的悪意者と評価さ
れるのでない限り、登記を備えれば第1譲受人に対抗できるとしている(最判平成8年
10月29日民集50巻9号2506頁【民法判例百選Ⅰ<第8版>61事件】)。
本問では、事実11において、背信的悪意者Bからの譲受人Cが、Dへの第一売買(契
約③)を知っていたものとされており、悪意であるということができるが、Dを害する
意図がBにあったことまでは知らなかったというのであるから、背信的悪意者とはいえ
ないものと解される。したがって、Dは、登記名義人が背信的悪意者であることを理由
として、Cに対して、自己に所有権があることを主張し、自己への登記名義の移転を請
求することはできない。
⑵ア 次に、Aは、財産権移転義務・登記移転義務を負っているDを害することを知りなが
ら、評価額よりも低い価額で、唯一のめぼしい財産である甲土地をBに売却し、登記移
転をしている。Dとしては、この売買契約が詐害行為に当たるとして(法第424条)、
転得者Cに対し、法第424条の5に基づいて詐害行為取消権を行使することが考えら
れる。
本問において、DがAに対して有しているのは甲土地の引渡しや登記の移転を目的と
する債権である。一般債権者の共同担保を保全するという詐害行為取消権の趣旨からす
れば、被保全債権は金銭債権に限られるのではないか、この見地から、本問において詐
害行為取消権の行使は認められないのではないかが問題となる。判例・通説は、特定物
債権でも、債務者が目的物を処分することにより無資力になる場合なら、処分行為の取
消しは認められるとしている(最判昭和36年7月19日民集15巻7号1875頁【民
法判例百選Ⅱ<第8版>15事件】)。特定物債権でも窮極において損害賠償債権に変じ
うることが、その理由とされる。
イ 詐害行為取消権を行使するための要件としては、「債権者を害することを知ってした
行為」「受益者の悪意」があり(法第424条)、転得者に対して行使をするには、さら
に「転得者の悪意」が要件として加わる(法第424条の5第1号)。本問においてこ
れら要件が具備されているかを事実に即して確認することが求められる。
第1に、Aが債務超過状態に陥っていること、甲土地がAの唯一のめぼしい財産であ
ることが事実8に示されていること。また、事実7にあるように、甲土地の時価は40
00万円であるところ、その半額で売却をしていること。以上より、契約④は詐害行為
に当たる。第2に、事実9からすれば、Aに詐害意思があることも明らかであり、受益
者Bの悪意も、同事実に示されているとおりである。第3に、事実11において、売買
③の存在やAが無資力であることにつき転得者Cは知っていたことが示されているた
め、転得者の悪意の要件も満たされている。
以上より、本問では、Cに対する詐害行為取消権の行使は認められると解される。
ウ 詐害行為取消権の行使によって、転得者に対してはどのような内容の請求が認められ
るか。法第424条の6によれば、債務者のした行為の取消しとともに、転得者が転得
した財産の返還を請求することができる。Dは、転得者Cに対して債務者Aに登記を戻
すよう請求することはできるが、直接自己に移転登記せよと請求することはできない(法
第424条の9の反対解釈。最判昭和53年10月5日民集32巻7号1332頁【民
法判例百選Ⅱ<第8版>16事件】)。
3 設問2について
⑴ 設問2は、賃貸不動産が債権担保を目的として譲渡された場合における法第605条の
2第1項及び第2項の適用可能性を問うものである。事案は、対抗要件を備えた賃借権の
負担が付いた不動産が債権担保の目的で譲渡され、その譲渡につき所有権移転登記がされ
た場合において、被担保債権の弁済期が経過した後、設定者の受戻権が存続する状態で、
設定者が賃借人に対して賃料の支払を請求した、というものである。設定者(譲渡人)F
がHに債務αを弁済することなく、賃借人Gに賃料を請求したのに対して、Gが法第60
5条の2第1項に基づいて、Fは所有権とともに賃貸人の地位をも喪失したと主張して(下
線部㋐)Fに対する賃料の支払を拒絶した場合に、Fからの反論として想定される根拠(下
線部㋑㋒)の妥当性につき検討することが求められている。
⑵ まず、下線部㋐㋑㋒の各主張の根拠は次のとおりであると考えられる。
下線部㋐が法第605条の2第1項を根拠として、乙建物の所有権移転に随伴して直ち
に賃貸人の地位がFからHに移転したという趣旨を述べるものであることを示す必要があ
る。そのために、同項を摘示しつつ、下線部㋐の主張が、乙建物の所有権に随伴して賃貸
人の地位がFからHに移転したという趣旨を述べるものであること、乙建物に係るGの借
家権が引渡しにより対抗要件を備えていること(借地借家法第31条)、乙建物が所有者
FからHに譲渡されたことを指摘することが求められる。
次に、下線部㋑の反論の趣旨及び論拠を明らかにする必要がある。反論㋑は、契約⑦に
基づく譲渡が債権担保を目的とする譲渡であり、譲渡担保は一般的に法第605条の2第
1項の「譲渡」に当たらないから、賃貸人の地位はHに移転することなくFのもとにとど
まるという趣旨を述べるものであることを指摘することが求められる。加えて、請求3の
時点において債務αの弁済期が経過していること、契約⑦に基づく担保の実行が未了であ
り、かつHは乙建物を第三者に処分しておらず、Fの受戻権が失われていないことを確認
することも必要である。
さらに、反論㋒が、法第605条の2第2項の類推適用により、賃貸人の地位がFに留
保されるという趣旨を述べていることを指摘することが求められる。そのためには、①F
H間における乙建物の使用・収益に関する合意は賃貸人の地位をFに留保する趣旨を定め
たものと解されること、②Fの設定者留保権に内包される利用権限は賃貸借に類比するこ
とができること、③Fの設定者留保権が担保の実行により消滅すると、賃貸人の地位が確
定的に譲受人Hに移転することが予定されていることから、同項の類推適用の基礎がある
という趣旨の主張であることを指摘する必要がある。
以上を踏まえて、Fの反論の当否を検討しつつ、請求3の可否について結論を述べるこ
とが求められる。その際、5月分と6月分との間で違いが生じ得るか、つまり債務αの弁
済期経過が本問の検討において意味を持ち得るか、という点にも留意しなければならない。
反論㋑は、契約⑦に基づく譲渡が法第605条の2第1項の「譲渡」に当たらないと主張
するものであり、反論㋒は、上記の主位的主張が奏功しない場合に備えて、契約⑦に基づ
く譲渡が同項の「譲渡」に当たると仮定した場合の追加的主張であり、反論㋑を不当とす
る場合は反論㋒の当否を検討することが不可欠となる一方、㋑の反論を正当とする場合は、
重ねて㋒の当否を論じる必要はない。
⑶ Fの反論の当否及び請求3の可否を論じるに当たっては、それに先立ち、法第605条
の2第1項の趣旨を確認する必要がある。同項は、不動産の賃借権が対抗力を備えている
場合、賃貸不動産の譲渡に伴い、特段の事情がない限り、当然に賃貸人の地位が譲渡人か
ら譲受人に移転するものとした平成29年改正前民法下の判例法理(最判昭和39年8月
28日民集18巻7号1354頁)の趣旨を明文化したものとされている。その趣旨の理
解については、(合理的)当事者意思の推定を根拠とするという説明が一般的になってい
るが、賃貸人の債務の性質、法律関係の複雑化の回避など、当事者意思の推定以外の説明
が記載されていた場合も、その説得力に応じて相応に評価される。
⑷ 譲渡担保においては、債権担保の目的の範囲内で所有権が譲渡担保権者に移転すること
を認める法律構成が定着しつつあるといえる(最判昭和57年9月28日判時1062号
81頁)が、確定的な所有権移転と目的物の使用・収益権限との関係につき従来十分な議
論がされているとはいえず、譲渡担保と賃貸人の地位の移転の関係について直接判断した
最高裁判例は存在しない。よって、譲渡担保の法的構成に関する上記の昭和57年最判の
法律構成に依拠する場合、反論㋑の当否に関しては、理論上、肯定・否定いずれの結論も
導くことができる。検討に当たっては、純然たる所有権的構成ではなく、担保的構成に依
拠する場合であっても、譲渡担保においては所有権移転という法形式が採られている以上、
非占有担保・占有担保いずれの形態も対等に成立し得ることに留意すべきである。また、
抵当権においても被担保債権の債務不履行後は果実に抵当権の効力が及ぶ(法第371条)
とされていることとの均衡上、譲渡担保においても被担保債権の弁済期到来が譲渡担保権
の実体法上の効力にどう影響するのか、特に目的物の処分権限についての制約が撤廃され
ること以上の変化がないと考えるべきか否か、といった点にも目配りがされることが望ま
しい。
⑸ 次に、反論㋒の根拠とされる法第605条の2第2項は、賃貸不動産の譲渡人と譲受人
との間における賃貸人の地位を譲渡人に留保する旨の合意の存在のみをもって譲渡人が賃
貸人の立場にとどまり続けることができるとすれば、賃借人の法的地位を不安定なものに
してしまうから妥当でないとした平成29年改正前民法下の判例法理(最判平成11年3
月25日集民192号607頁)を受けて、賃借人の法的地位の安定化を阻害しない範囲
で、賃貸人の地位の留保合意の効果を認めるものである。そのために、譲渡人に使用・収
益権限を留保することに加えて、譲受人との間の賃貸借契約の存在が求められている。譲
渡担保契約の当事者間において、譲渡担保権者が設定者に目的物を賃貸するという法律関
係は通常予定されていないため、同項前段が定める賃貸借契約の存在という要件を満たさ
ず、同項を直接適用することはできないと考えられる。
もっとも、法第605条の2第2項は、賃貸不動産の譲渡にもかかわらず賃貸人の地位
が移転しない場合を完結的に要件化しているわけではなく、同項の類推適用や趣旨の類推
により、譲渡人への留保が認められるべき場合が存在し得ることを否定する趣旨まで含ん
でいないと考えられる。
⑹ 請求3の当否を論じるに当たっては、契約⑦に基づく譲渡が、法第605条の2第1項
の「譲渡」に当たるかどうかを検討する必要がある。一つの方向性として、同項の「譲渡」
に当たるためには、目的物の確定的な所有権が譲渡担保権者に移転していることが必要で
あり、設定者の受戻権が存続する限りは、その趣旨が妥当しないという立論の方向性が考
えられる(構成α―1)。他方で、所有権留保に関しては、担保目的で所有権を留保する
売主は、被担保債権の弁済期経過後は、目的物の占有権限を取得し、目的物に関して必要
となる管理行為を行うことができるものと解されている(最判平成21年3月10日民集
63巻3号385頁)。このような考え方を譲渡担保にも推及し、「譲渡」は、目的物の所
有権及び使用・収益の基礎となる占有権限を取得する必要があるが、それで足り、所有権
が確定的に譲受人に移転していることまで要求すべきだと考える必然性はないという方向
の立論も考えられる(構成α―2)。
⑺ 以上のような法律構成に対して、債権担保目的での所有権移転も「譲渡」に当たると解
した上で、乙建物に関する使用・収益権限に関するFH間の合意の効果として、賃貸人の
地位がFに留保されるかどうかを検討するという方向性の立論もあり得る(構成β)。こ
の立場による場合、法第605条の2第1項の「譲渡」は所有権の移転があれば足り、そ
れが債権担保目的でなされていれば十分であること、譲受人は、所有権の部分権能である
使用・収益権限も観念的には取得した上で間接占有を取得し(譲渡担保は、抵当権と同様
に非占有担保として扱われることが多いが、不動産譲渡担保に関しては、所有権移転登記
を備えることにより、特段の事情がない限り、同時に占有改定の合意が認められ、譲受人
は、目的不動産の(間接)占有を取得しているものと考えられる。)、賃借人に使用・収益
させる義務を履行することが可能な状態にあることを指摘することが求められる。以上を
踏まえて、反論㋒の当否を検討するに当たっては、まず、譲渡担保に関しては、典型担保
(抵当権や質権)と異なり、使用・収益権限の帰属が当事者の合意に委ねられていること、
次に、本件合意の内容を解釈し、同第2項の類推の可否を論じ、結論を述べる必要がある。
譲渡担保の場合、被担保債権の弁済期経過後であっても担保権の実行まで使用・収益権
限を設定者Fに委ねる趣旨を内包しており、担保権者が担保の実行を遅らせることもしば
しば見受けられる。本件においても、弁済期が経過した後もHが担保権を実行しておらず、
第三者への目的物の処分もしていないことから、黙示的に期限の猶予がされ、5月分・6
月分いずれの賃料もFに賃貸人の地位が留保された状態で発生したものと解するのが合意
の趣旨に沿うとする立場があり得る(構成β―1-1)。他方で、本件合意は、債務αの
弁済期経過によりHは債権担保目的に伴う制約である処分権の制約から解放され、担保権
実行を待つことなく使用・収益権限を取得するものであり、5月分に関してのみ本件合意
の効果に基づく賃貸人の地位の留保を認める考え方も成り立ち得る(構成β―1-2)。
さらには、法第605条の2第2項の類推適用を否定する考え方もあり得る(構成β―2)。
この立場からは、同第1項の原則に従い、賃貸人の地位はHに移転しており、反論㋒は妥
当せず、請求3は5月分・6月分ともに認められない、という結論が導かれることになる。
4 設問3について
設問3は、被相続人が死亡前に同一の不動産について死因贈与契約を締結した後に特定遺
贈を行っていた場合における、死因贈与契約の遺言による撤回(又は解除(以下では、「撤
回」を用いるが、「解除」を用いる答案も「撤回」を用いる答案と同等に評価される。))の
可否について、条文を踏まえた考察の能力を問うものである。
本問におけるMの請求は、契約⑧が死因贈与契約(法第554条)であって、Kの死亡に
よってそれが効力を発したことを理由に、Kの唯一の相続人として贈与者の地位を承継して
いるLに対し、契約⑧の履行を求めるものである。これに対するLの㋓の主張は、死因贈与
契約には遺贈の規定が準用され(同条)、贈与者は遺言の撤回と同様に死因贈与契約を遺言
によって撤回することができる(法第1022条・法第1023条)との論拠によるもので
ある。Kが丙不動産をNに特定遺贈する遺言を行っているため、前の死因贈与契約が「後の
遺言と抵触するとき」に当たり、死因贈与契約が撤回されたものとみなされることになる(法
第1023条第1項準用)。
Lの㋓の主張の当否は、遺言に関する法第1022条及び第1023条が死因贈与契約に
準用されるか否か、法第554条が死因贈与契約に遺贈に関する規定が準用されるのは「そ
の性質に反しない限り」としていることをどのように考えるかによって左右される。Mから
の反論としては、遺言の撤回の規定を準用するならば、相手方との間で締結された契約を単
独行為である遺言によって一方的に撤回できることとなり、相手方の利益を害するから、そ
れらの規定の準用は死因贈与契約の性質に反し、認められない等の主張が考えられる。
この点について、判例は、死因贈与への遺言の撤回の規定(法第1022条、法第102
3条)の準用を原則として肯定しつつ(最判昭和47年5月25日民集26巻4号805頁)、
負担付死因贈与において負担が履行されている場合における類型的な例外(最判昭和57年
4月30日民集36巻4号763頁)及び死因贈与の動機や内容等に照らして撤回を否定す
ることが相当と認められる場合における個別事例に即した例外(最判昭和58年1月24日
民集37巻1号21頁)を認める立場であるものと一応まとめることができるが、判例の立
場をどのように捉えるかは見解が一致しているわけではない。
学説には、準用肯定を原則とすることに批判的な見解が多いが、死因贈与契約と遺贈との
共通性を強調する準用肯定説も有力であり、準用の可否を論じるのではなく個々の事案にお
ける具体的な諸事情の総合的な考慮によって撤回が認められるかどうかを判断すべきとする
説もある。
本問では、第1に、死因贈与契約について遺言の撤回の規定の準用の可否が問題になると
いう基本的な理解を有することを前提に、第2に、条文の文言を踏まえつつ、契約の相手方
の保護と死亡後の財産の処分に係る被相続人の最終意思の尊重との調整をどのように行うか
について検討し、結論を示すことが求められる。その際、第2については、上記のとおり、
判例の立場の捉え方も、学説上の見解も、必ずしも一致した状況にあるわけでないことから、
判例の知識があれば相応の評価が与えられるものの、判例の知識の有無にかかわらず、上記
の調整についての考察を立ち入って行うことができているかどうかが問われる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和4年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
