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令和元年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説

令元司法 民事系科目第3問(民事訴訟法)民事訴訟法

問題

〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:40:25])

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事 例】 Xは,A県A市(以下「A市」という。)に住む会社員であり,夫と3人の小学生の子供がい る。X一家はキャンプ好きのアクティブな一家である。Yは,自動車製造会社であるS社の系列 会社であり,S社の製造するワゴン車等をキャンピングカーに改造して販売している。Yは,本 店がB県B市(以下「B市」という。)にあり,全国各地に支店を有する。 Xは,ある日,A市内にあるYのA支店において,Yとの間で,甲というシリーズ名の新車の キャンピングカーを400万円で買うとの売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し,4 00万円を支払った。Xは,本件契約を締結する際,YのA支店の従業員から,甲シリーズのキ ャンピングカーは,耐荷重180kgの上段ベッドシステムがリビング部の上に設置されており, 成人男性で言えばリビング部に3名,上段ベッドに2名の合計5名が就寝可能であるという仕様 (以下「本件仕様」という。)を有しているとの説明を受けた。また,本件契約の対象となるキ ャンピングカーが本件仕様を有することは,本件契約の契約書にも明記されていた。 本件契約の契約書は,Yが用意したものであり,そこには他に「本件契約に関する一切の紛争 は,B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との定め(以下「本件定め」という。)が記載 されていた。B地方裁判所は,Yの本店があるB市を管轄する裁判所である。 Xは,本件契約に定められた納入日にキャンピングカーの引渡しを受けた(以下,Xが引渡し を受けたキャンピングカーを「本件車両」という。)。引渡しを受けた当日,Xの子供3人が本件 車両の上段ベッドに乗ったところ,この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段 ベッドが落下した(以下,この事件を「本件事故」という。)。幸い3人の子供にけがはなかった が,本件事故により5名が就寝可能なキャンピングカーとして本件車両を利用することが不可能 になった。XがYに本件車両の引取りと本件車両の代わりに本件仕様を有する別のキャンピング カーの引渡しを要求したところ,YのA支店の従業員は,子供が上段ベッド上で激しく動き過ぎ たために仕様上の想定を超えた負荷が掛かり上段ベッドが落下したのではないかなどと主張し, これに応じなかった。そのため,Xは,以後,本件車両を自宅車庫にて保管している。 Xの委任を受けた弁護士Lは,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,履行遅滞に よる本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行として支払済みの代金400万円の返還を求め る訴えを,A市を管轄するA地方裁判所に提起し(以下,この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」と いう。),訴状において以下の①から⑦までの事実を主張した。 ① XがYとの間で,本件仕様を有するキャンピングカーを目的物とする本件契約を締結した 事実 ② XがYに対して本件契約に基づき400万円を支払った事実 ③ YがXに対して本件契約の履行として本件車両を引き渡した事実 ④ 本件事故が起きた事実 ⑤ 本件車両が本件仕様を有していなかった事実 ⑥ XがYに対して本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡すように催告をし,それから 相当期間が経過したので本件契約を解除する旨の意思表示をした事実 ⑦ Xが自宅車庫に本件車両を保管している事実 Yは,本案について弁論する前に,A地方裁判所に対し,本件定めによりB地方裁判所のみが 管轄裁判所となるとして,民事訴訟法第16条第1項に基づき,本件訴訟をB地方裁判所に移送 するよう申し立てた。 なお,Xの居住地,Lの事務所,YのA支店及びA地方裁判所は,いずれもA市中心部にあり, Yの本店及びB地方裁判所は,いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距 離は,約600kmであり,新幹線,在来線等の公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かる。 以下は,Lと司法修習生Pとの間の会話である。 L:Yの移送申立てに対して反論をする必要がありますが,反論にはどのような理由が考えられ ますか。 P:Yは,本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内 容とすると解釈しているようですが,本件定めがそのような内容の定めではないという理由が 考えられます。 L:そうですね。そこで,Yの解釈の根拠も踏まえつつ,本件定めの内容についてYの解釈とは 別の解釈を採るべきだとの立論を考えてください。これを課題⑴とします。ところで,本件定 めの内容についてのYの解釈を前提とすると,民事訴訟法第16条第1項が適用され,Xとし ては,本件訴訟の移送を受け入れなければならないのでしょうか。 P:Xとしては何とかしてA地方裁判所での審理を求めたいところだと思います。 L:そうですね。本件定めの内容についてのYの解釈を前提とするとしても,本件訴訟はA地方 裁判所で審理されるべきであるとの立論を考えてください。これを課題⑵とします。本件の事 例に即して検討することを心掛けてください。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして,Lから与えられた課題⑴及び課題⑵について答えなさい。 【事 例(続き)】 Yの移送申立てが却下され,本件訴訟はA地方裁判所で審理されることになった。本件訴訟の 第1回口頭弁論期日においてLが訴状を陳述したところ,Yは,上記①から⑦までの事実のうち ⑤の事実以外の事実を認める陳述をする一方,上記⑤の事実に関しては,本件仕様を有する本件 車両を引き渡したと主張した。 その後に行われた今後の訴訟方針についての打合せの際,Lは,Xから,本件事故が起きたと きに落下した上段ベッドの下敷きになりXが夫から結婚10周年の記念にもらった時価150万 円の腕時計が損壊したこと(以下「本件損壊事実」という。),損壊した腕時計をXがメーカー修 理に持ち込んだところ修理費用として100万円を請求され支払ったことを告げられた。Xがこ れまで本件損壊事実を告げなかった理由について,LがXに尋ねたところ,メーカー保証により 腕時計については無償修理ができると考えていたためであるとのことであった。そこで,Lは, 本件訴訟において,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,本件契約の債務不履行に 基づく損害賠償請求として100万円の支払を求める請求を追加し,⑧本件損壊事実及び⑨Xが 腕時計の修理費として100万円を支払った事実を追加主張した。 Yの訴訟代理人は,100万円という高額の請求が後から追加されたことでXの主張する本件 事故の発生経緯に疑いの目を向けるようになった。そこで,Yの訴訟代理人は,その後に開かれ た口頭弁論期日において④の事実に関する従前の認否を撤回し,④及び⑧の事実を否認し,⑨の 事実に対し不知との陳述をした。これに対し,Lは,Yが④の事実に対する認否を撤回すること は裁判上の自白の撤回に当たり,許されない旨異議を述べた。 以下は,本件訴訟を担当する裁判官Jと司法修習生Qとの間の会話である。 J:本件訴訟では,Xが訴えの変更をして請求を追加していますね。このように訴えが追加的に 変更された場合に,元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料はどのような関係に立ち ますか。 Q:元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくとも追加された請求についての訴訟資料に なると理解しています。 J:元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料の関係については異なる理解もあり得るか もしれませんが,ここではあなたの理解を前提としましょう。Lの述べるとおり,Yは,④の 事実を認める旨の陳述を自由に撤回することができなくなっているのでしょうか。 Q:裁判上の自白の成立要件に照らして検討してみる必要があると思います。 J:そのとおりですね。裁判上の自白の成立により,Yが④の事実を認める旨の陳述を自由に撤 回することができなくなっているかどうか,検討してみてください。これを課題とします。本 件では,元の請求及び追加された請求のそれぞれにおける④の事実の位置付けを考慮する必要 がありますね。その上で,Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響するかど うかも考えてみましょう。なお,自由に撤回することができないとしても,例えば事実に反す ることを証明した場合など一定の事由があれば,撤回が許される場合がありますが,ここでは その事由があるかどうかまでは検討する必要がありません。 〔設問2〕 あなたが司法修習生Qであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。 【事 例(続き)】 本件訴訟の争点整理手続が行われている間,Lは,Yの元従業員から,同じくYの元従業員で Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたTが,甲シリーズ のキャンピングカーの仕様について疑問を口にしていたことがあるとの情報を得た。 LがTを訪ねたところ,Tの妻Zが応対し,Lに対し,以下の(ア)から(ウ)までの事情を述べた。 (ア)Tは,Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたが, 先日,死亡した。Tの相続人はZだけである。 (イ)Tは,生前日記を作成していた。その日記は,今はZが保管しており,そこには,要約す ると,甲シリーズのキャンピングカーには上段ベッドシステム部分に設計上の無理があり, その旨を上司に進言したが取り合ってもらえなかった,という内容の記載がある(以下,こ の日記のうち,この内容が記載されている箇所を「本件日記」という。)。 (ウ)Zとしては,本件日記の詳しい内容はプライバシーに関わるから言えないし,その内容を 直接見せたり証拠として提供したりすることもできない。 そこで,Lは,Zを所持者として本件日記についての文書提出命令を申し立てた。その申立書 には,上記(ア)から(ウ)までの事情が記載されていた。 以下は,Jと司法修習生Rとの間の会話である。 J:あなたには,Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際にどのような観点か らどのような事項を考慮すべきかを検討してもらいます。文書提出義務の根拠条文に照らして 検討する必要がありますが,申立書に記載されているもの以外の事情を仮定する必要はありま せん。また,文書提出義務の有無についての結論までは示す必要はありません。これを課題と します。 R:本件日記に書かれている内容がキャンピングカーの上段ベッドシステム部分に係る設計上の ミスということなので,民事訴訟法第197条第1項第3号の「技術又は職業の秘密」に該当 する可能性を考える必要はないでしょうか。 J:ここでは「技術又は職業の秘密」に該当する事柄が記載してあることまで考える必要はあり ません。今回の検討ではその点は除外して考えましょう。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Rであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。

論点の一覧

出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。

設問1(課題(1))

  • 管轄合意の2類型(専属的管轄合意/付加的管轄合意)の区別と問題の所在の把握、及びYの解釈(専属的管轄合意説)の根拠の摘示8点
  • 本件定めを付加的管轄合意と解すべき論拠の展開7点

設問1(課題(2))

  • 合意による専属管轄には移送の制限が及ばないこと(法20条1項)の指摘3点・簡潔に
  • 法17条の類推適用によるA地裁での自庁処理という立論とその根拠8点
  • 本件訴訟がA地方裁判所の法定管轄に属することの条文上の論証4点
  • 法17条の要件(訴訟の著しい遅滞の回避・当事者間の衡平)への本件事案に即した当てはめ5点

設問2

  • 裁判上の自白の成立要件の正確な提示と(1)(2)要件の充足の確認6点
  • (3)要件にいう「事実」の意義(主要事実限定説/間接事実包含説)についての自説と論拠6点
  • 元の請求(履行遅滞解除に基づく原状回復請求)における④の事実の位置付け7点
  • 追加された請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)における④の事実の位置付け6点
  • 訴えの追加的変更後に認否が撤回されたという事案の特殊性に対する問題意識と説得的な検討10点
  • (4)自己に不利益な陳述であるとの要件についての自説(証明責任説等)と(3)要件の自説との整合5点

設問3

  • 法220条4号ニ(自己利用文書)該当性が検討対象であることの特定と、判例の要件の正確な提示8点
  • 内部文書性((ⅰ)要件)について考慮すべき事項の抽出4点・簡潔に
  • 不利益性((ⅱ)要件)又は特段の事情((ⅲ)要件)における本件の特殊性—プライバシーの帰属主体と所持者の不一致・帰属主体の死亡8点
  • 文書作成に対する一般的萎縮効果という観点の考慮5点

出題の趣旨(法務省公表)

本問は,会社員Xが,全国展開している業者Yから購入したキャンピングカーが契約どお
りの仕様を有していなかったことを理由として,履行遅滞による売買契約の解除に基づく原
状回復としての売買代金の返還と債務不履行に基づく損害賠償をYに求めるという事案を題
材として,①管轄に関する合意が存在し,それを専属的管轄合意と解釈した場合には管轄を
有しないことになる裁判所に訴えを提起したことを前提に,民事訴訟法(以下「法」という。)
第16条第1項による移送をすべきではないとの立論をすること(設問1),②原告が主張す
る特定の事実を認める旨の被告の陳述が裁判上の自白に該当して自由に撤回することができ
なくなるかを検討すること(設問2),③作成者が死亡しその相続人が所持するに至った日記
を対象とする文書提出義務の成否を判断するためにどのような観点からどのような事項を考
慮すべきかを検討すること(設問3),を求めるものである。
まず,〔設問1〕の課題(1)は,管轄合意の解釈の在り方を問うものである。本件定めのよ
うな管轄合意には,特定の裁判所を管轄裁判所から排除する専属的管轄合意と特定の裁判所
を管轄裁判所に付け加える付加的管轄合意があるが,Yは,本件定めを専属的管轄合意と解
釈していると考えられることから,本件定めを付加的管轄合意として解釈すべきだという議
論を適切な論拠を示しつつ展開することが求められる。
このような論拠としては,Yが本件定めを作成するに当たり,本件定めが専属的管轄合意
であることを明記し得たのにしていないのであるから,専属的管轄合意と理解するのが合理
的であるとはいえないことや,本件定めは,Y側から提起する債務不存在確認の訴えなどB
地方裁判所の法定管轄に属しない場合にもB地方裁判所が管轄裁判所となることを基礎付け
るものであり,これを付加的管轄合意と解釈することに合理性がないとはいえないこと,と
いったものが考えられる。
この他本件定めを付加的管轄合意として理解すべきとする論拠は,複数考えられ得るが,
説得力をもって以上のような論拠を適切に展開し,本件定めを付加的管轄合意として理解す
べきことを結論付けることが,課題(1)との関係では求められる。
次に,〔設問1〕の課題(2)は,本件定めを専属的管轄合意と解釈することを前提としても,
管轄違いによる移送(法第16条第1項)をすべきではないとする立論を求めるものである。
このような立論としては,仮にB地方裁判所に本件訴訟が係属したとしてもB地方裁判所
がA地方裁判所に法第17条に基づく移送をするための要件を満たす場合には,A地方裁判
所として移送をせずに自庁処理をすることが認められる,というものが考えられる。また,
その根拠としては,法第17条の要件を満たす場合には,仮にA地方裁判所からB地方裁判
所に対し管轄違いによる移送をしてもB地方裁判所からA地方裁判所に同条による移送がさ
れることが考えられることから,そのようなう遠な処理をするまでもなく,法第17条の類
推適用によりA地方裁判所で自庁処理をすることが適切と考えられること,場面は異なるが
法第16条第2項が管轄違いの場合の自庁処理を認めていることなどが挙げられる。
そこで,課題(2)との関係では,以上のような立論をした上で,本件がA地方裁判所の法定
管轄に属することを指摘しつつ,法第17条の要件が満たされることを本件事案に即して示
していくことが求められる。
〔設問2〕は,問題文中の④の事実を認める旨のYの陳述が裁判上の自白に該当して撤回
制限効が生じているかどうかを問うものである。ここでは,裁判上の自白の成立要件に照ら
した検討が求められる。
一般に裁判上の自白の成立要件は,(1)口頭弁論又は弁論準備手続における弁論としての陳
述であること,(2)相手方の主張と一致する陳述であること,(3)事実についての陳述である
こと,(4)自己に不利益な陳述であること,であるとされるが,本問では(1)と(2)の要件を満
たすことは明らかであり,(3)と(4)の検討が中心となる。
(3)の要件との関係では,この要件を満たす「事実」について,主要事実に限定されるとす
る見解と間接事実も含まれるとする見解があり,このうち,後者に属する見解では,これを
重要な間接事実に限るとする見解から広く間接事実一般を含むとするものまで様々なものが
ある。解答に際しては,まず以上のうちのいかなる立場に立つかを論拠を示して明らかにす
る必要がある。
さらに,とりわけ主要事実限定説や重要な間接事実限定説では,④の事実が訴訟物との関
係でいかなる位置付けを有する事実であるかにより(3)の要件の成否が異なってくることから,
元の請求と追加された請求における訴訟物との関係での④の事実の位置付けを要件事実の考
え方を踏まえて整理した上で,自説に当てはめることが求められる。
また,Xが新請求を追加したのは,Yが④の事実を認める旨の陳述をした後,それを撤回
する前である。このような事実経過からは,例えば元の請求との関係で自白は成立しないが
追加された請求との関係では自白が成立すると考える立場では,Xが新請求を追加する前は
自由にできた陳述の撤回が新請求の追加により制限されてよいか,また,元の請求との関係
でも追加された請求との関係でも自白が成立すると考える立場では,これらが異なる請求で
あることから,元の請求との関係で成立した自白の効力を追加された請求との関係でもその
まま維持してよいか,といった疑問が喚起される。設問で示されたJの問題意識に照らし,
こういった点についても検討することが求められる。
(4)の要件については,相手方が証明責任を負う事実の存在を認める場合に限りこの要件を
満たすとする見解,認める旨の陳述をした当事者の敗訴可能性を基礎付ける事実であればこ
の要件を満たすとする見解,不利益要件は必要ないとする見解などが主張されており,(3)の
要件に関する自説との整合性に留意しながら,いずれの立場に立つかを明らかにする必要が
ある。
〔設問3〕は,文書提出義務の有無を判断するに当たって考慮すべき観点や事項を問うも
のである。本件の文書は日記であるので,法第220条第4号ニの自己利用文書の該当性の
判断に当たり考慮すべき観点等について検討する必要がある。
判例(最高裁判所平成11年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁ほ
か)によれば法第220条第4号ニの自己利用文書該当性の要件は,(ⅰ)内部文書性(「専ら
内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書
であること」),(ⅱ)不利益性(「開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人又は団
体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益
が生ずるおそれがあると認められること」),(ⅲ)特段の事情の不存在であるとされており,
独自に適切な要件を考案して設定するのでない限りは,これに即して考慮すべき観点と事項
を抽出することが求められる。
そして,本件日記は,日記である以上専らTが自らの利用に供する目的で作成し,Tも外
部の者に開示することは予定していなかったと考えられる。また,Zは死亡したTの妻であ
り,Tの相続人として日記を所持するに至ったものであって,Zも外部の者に開示すること
を予定していない。そこで,(ⅰ)の内部文書性の要件が満たされると判断されることとなる
と考えられる。
もっとも,(ⅱ)(ⅲ)との関係では問題が生じ得る。(ⅱ)の不利益として問題となるのは,
通常の場合には,作成者であるところの所持者のプライバシーの侵害であるが,本件では作
成者は死亡し,作成者と異なる者が本件日記を所持するに至っている。そのため,本件日記
については,(a)保護されるべきプライバシーの主体が現在の文書の所持者と同一ではなく,
(b)その主体が死亡しており要保護性を欠くに至っていると評価をすることも可能であると
して,(ⅱ)の要件が満たされないとも考えられる。もっとも,(a)(b)から本件では(ⅱ)に
いう不利益は生じないと即断することも早計である。なぜなら(ⅱ)で保護される利益には文
書作成の自由に対する利益も含まれると考えられるところ,本件のような事案で安易に本件
日記の開示を認めると,死亡後に開示対象になることを恐れ,日記作成に対する萎縮効果を
生みかねないからである。ここでは,破綻した信用組合の貸出稟議書の提出義務が問題とな
った最高裁判所平成13年12月7日第二小法廷決定・民集55巻7号1411頁の考え方
も参考となろう。なお,上記の問題は(ⅱ)の不利益性に係る問題といえるが,この判例から
も分かるとおり,(ⅲ)の特段の事情の問題として整理することも可能であり,いずれの要件
の問題として扱っても,評価に差異はない。
そこで,本設問に対する解答としては,法第220条第4号ニの自己利用文書の要件とし
て不利益性が要求されること,その不利益性としては本件日記との関係ではまず所持者のプ
ライバシーが問題となること,自己利用文書該当性で問題となる不利益性として文書作成に
対する萎縮効果も考慮されるべきことなどといった観点から,本件日記にはTのプライバシ
ーに属する事柄が書いてあること,当該プライバシーの帰属主体であるTと現在の所持者で
あるZが異なっていること,プライバシーの帰属主体であるTが死亡していること,本件で
Zに対し文書提出義務を認めると将来の日記作成に対する一般的な萎縮効果を生むおそれが
あることなどを指摘して論ずることが期待される。なお上記で「観点」に位置付けた内容を
「考慮すべき事項」に位置付けたり,あるいはその逆であったりしていても,論理的に筋の
通った答案になっている限りは,問題ない。

参考答案と AI 採点

第1 設問1 1 課題⑴について ⑴ 管轄の合意(民訴法11条)には、法定管轄に付加する付加的管轄合意と、他の法定管轄を排除する専属的管轄合意とがある。専属的合意であればA地裁は管…

この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。

答案を書いて AI 採点する

出典:法務省「令和元年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。