令和元年 司法試験 論文式 憲法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
全体(前提)
- 法案の正確な読解と立法措置①・②の区別、問われ方(法律家としての意見)に即した構成6点
- 虚偽表現が表現の自由(21条1項)の保障範囲に含まれるか・保障の程度12点
立法措置①
- 規制の性質の分析と審査基準の定立10点
- 明確性の原則・過度の広汎性と合憲限定解釈12点
- 目的・手段審査(立法事実の検討、対抗言論・より制限的でない手段)12点
立法措置②
- 制約を受ける権利主体の分析(SNS事業者・発信者、私的検閲のおそれ)10点
- 規制の性質と関連判例の適切な参照(内容規制性、SNSの拡散性、検閲・事前抑制の法理、選挙運動規制の先例、検索結果削除の判例)12点
- 要件の限定性の評価と目的・手段審査(明白性要件、「選挙の公正」の明確性、第13条の過剰削除のおそれ、より制限的でない手段)12点
- 行政手続法適用除外と適正手続(31条・適正手続の憲法上の位置付け)8点・簡潔に
全体
- 論理的構成・文章表現・条文摘示の正確性6点・簡潔に
出題の趣旨(法務省公表)
本年の問題は,虚偽の表現の規制の可否を問うものである。問題文にもあるとおり,また,
報道などでも知られるとおり,フェイク・ニュースは,各国で様々な課題を生じ,対応が模
索されている現代的な問題であり,新たな技術的な展開が事態を深刻化させている側面があ
る現象である。しかし,その規制は,内容規制という古典的な表現の自由の問題であり,ま
た,本問の規制は,表現の削除という強力な制限の問題でもある。表現の自由の保障の意義
という基本に立ち返った検討が求められる。
虚偽の表現,とりわけ虚偽と知ってなされるものについては,そもそも表現の自由の保障
範囲に入らない,あるいは,保障の範囲に入っても,保障の程度が低いという議論もあり得
なくはない。その点について論じる際には,そのように考えることに問題はないか,また,
そのような考え方は先例に基づいたものといえるかといった点も考察する必要があろう。さ
らに,虚偽ではあっても種々の観点から有益な表現も様々に考えられることや,真実は誤り
と衝突することによってより明確に認識されるのだから虚偽の言明ですら公共的な議論に価
値のある貢献をするものだ,という考え方もあり得ることにも留意が必要である。
立法措置①については,具体的状況によっては虚偽か真実かの判定が難しい場合が相当あ
るという意味において不明確ではないか,処罰の範囲が広すぎ過度に広汎ではないか,とい
った点について検討することが求められる。目的が極めて重要な公共の利益といえるか,問
題文に示されている混乱の事例をどのように評価するか,対抗言論や報道による検証などが
優先されるべきではないか,他の規制方法が考えられ必要最小限度のものに留まっていると
は言い難いのではないか,訴追は公平になされるかといった点についても同様であろう。
その際には,立法措置①が,特定の人の社会的評価や業務とは無関係の規制であり,あり
とあらゆる表現が,虚偽であるというだけで,規制の対象となるため,政治的に激しい争い
のある事柄や,歴史的・学問的な事柄まで対象となり,真実性の判断が難しいものとなり得
ることに留意が必要である。立法措置①が認められるとなると,あらゆる領域について,何
が真実かを,刑事責任を問うことで問題にできるということになり,恣意的な訴追を通じて,
全て真実は政府が決めるということになりかねないという懸念もある。これらの点を踏まえ
た上で,立法措置①について検討することが求められる。
次に立法措置②について,ここでは,削除義務を課されるという形で直接に制約の対象と
なっているのは,SNS事業者の自由であるとともに,削除されるという形で制約されてい
るのは個々の発信者の表現の自由であることを適切に分析することが必要である。SNSの
特徴である拡散性が,SNSのみを規制の対象として取り上げることを正当化するかどうか
が論じられる必要もある。SNS事業者が私的な検閲の主体となるおそれについても論じる
ことは不可能ではなかろう。
立法措置②については,選挙の公正ということの明確性が問題になるかもしれない。その
場合,合憲限定解釈の可能性も含めて検討することがあり得る。立法措置②を,内容中立規
制とする見解があるかもしれない。しかし,内容規制と,時・場所・方法の規制のような内
容中立規制が組み合わされたときに,直ちに内容中立規制と評価することは問題がないか,
検討が必要であろう。選挙に関する表現をどのように位置付けるべきかについては,国際的
に比較しても非常に厳しい我が国の選挙運動規制を合憲とする先例は多数あるが,その評価
を含めて論じることが可能であろうし,それらの選挙運動規制と本問を区別することも可能
であろう。
立法措置②は,表現の削除を罰則をもって強制するという強力な規制であるので,検閲や
事前抑制の原則的禁止の法理との関係を問題にすることも可能である。ただ,その際には,
立法措置②による規制によって,発表が禁止されている訳ではなく,一旦発表されたものの
削除が命じられていることに留意が必要である。また,選挙の公正は,仮処分による差止め
で保護される名誉権のような人格的権利ではなく,この点についての分析も必要であろう。
一旦表現されたものの削除が命じられるという点では,検索結果の表示の削除が問題とな
った事案も参考になり得よう。比較衡量的な枠組みを提示しつつ,要件が満たされているこ
とが「明らか」なことを要求する判例の立場から見た場合,立法措置②の要件が十分に限定
されたものになっているか否かを検討することになろう。
ただ,その場合であっても,立法措置②が,司法手続ではなく行政手続によるものである
こと,さらに,行政手続法の事前手続や理由提示の制度が適用除外とされていることをどの
ように評価するかが問題となり得る。人格権侵害を理由に仮処分で差止めを認める場合,少
なくとも審尋が必要とされているが,要件が充足されていることが明白である場合には例外
が認められている。行政手続の適正性の要求を憲法上どのように位置付けるかを踏まえつつ,
これらのこととの関係をどう理解するかを論じることが必要となろう。
選挙は公共性が高く,迅速な対応が必要だとはいい得るが,誤って削除された場合には公
益が大きく害される。より制限的でない手段の検討が必要である。選挙に際してのSNSが
問題であるというのであれば,SNS事業者に自主的な削除手続を定めることを義務付け,
これについての報告義務を課すという方法も考えられる。ただ,この場合には,上に述べた
私的な検閲のおそれは増大するかもしれない。また,とりわけSNS上のフェイク・ニュー
ス記事の拡散が,出所の不透明な資金に支えられていることが問題であるというのであれば,
政治資金規制を及ぼして,資金の流れの透明化を義務付けることも考えられる。このような,
諸外国・地域で実施・検討されている他の方法が有益ではないか,といったことも論じるに
値する。
以上のような諸点についての検討を踏まえ,自らの示した判断枠組みの中で適切に結論を
導くことが求められている。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「令和元年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
