平成27年 司法試験 論文式 民法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,4:3:3〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)
- 材木①の所有権帰属(所有権留保と加工)12点
- Cの反論=即時取得(192条)の成否9点
設問1(2)
- 不動産の付合(242条)とAの償金請求(248条)の根拠9点
- 不当利得要件の検討と請求できる額(200万円か150万円か)6点
- Dの反論(利得消滅/即時取得による法律上の原因)7点
設問2(1)
- Eの請求の前提=立木の所有権と切り出し後の丸太への承継4点・簡潔に
- 対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造と主張・立証すべき事実10点
設問2(2)
- 民事留置権(295条)の主張の明示と要件の提示6点
- 目的物所有者(E)と債務者(F)が異なる場合の留置権の成否7点
- 占有が不法行為によって始まった場合(295条2項)の検討4点・簡潔に
設問3(1)
- Hの責任能力と714条の不適用、709条による監督義務者責任への接続6点
- Cの監督義務違反と相当因果関係の当てはめ7点
設問3(2)
- 過失相殺(722条2項)と被害者側の過失9点
全体
- 論理的構成・答案全体のバランス・表現4点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,AがBとの間で丸太について所有権留保付き売買契約を締結していたにもかかわら
ず,BがAに無断でその丸太を製材し,製材後の材木をCに売却した後,Cがその材木の一部
をDから請け負った乙建物のリフォーム工事に使用した事例(設問1),Aがその所有する甲
土地上の立木をEに売却し,Eがその立木の半分に明認方法を施した後,Aから甲土地を買い
受けたFが全ての立木を切り出し,その切り出した丸太をGに預けた事例(設問2),Cの子
である15歳のHが夕刻に自宅前の道路に角材を置いたことにより,その道路を通り掛かった
Kの運転する自転車が転倒し,その自転車の幼児用シートに乗っていたKの子である3歳のL
が傷害を負った事例(設問3)に関して,民法上の問題についての基礎的な理解とともに,そ
の応用を問う問題である。当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,その前提
として,様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,それに即して論旨を
展開する能力などが試される。
設問1は,添付と即時取得という物権法の基本的事項に対する理解を問うとともに,これと
関連する形で不当利得についても検討させることにより,法律問題相互の関係の正確な理解と
それに基づく法的構成力を問うものである。
⑴では,Aは,Cに対して,材木①の所有権がAに帰属すると主張してその引渡しを請求し
ていることから,材木①の所有権の所在について検討することが求められる。その際,AB間
における丸太の売買契約では,Bが売買代金を支払うまで丸太の所有権はAに留保されている
こと,Bがまだ売買代金を支払っていないこと,丸太の製材は加工に当たり,民法第246条
第1項本文及びただし書によると,材木①の所有権は丸太の所有者であるAに帰属することを
的確に分析することが期待されている。
これに対し,Cの反論としては,即時取得(民法第192条)を主張することが考えられる。
Cは,Bとの売買契約,つまり取引行為に基づき,材木①の引渡しを受けているからである。
しかし,【事実】2によれば,Bが材木①の所有者であると信じたことにつき,Cには過失が
認められる。ここでは,事実を的確に評価する能力が問われる。
⑵では,Aは,Dに対して,材木②の価額の償還を求めていることから,その根拠が確認さ
れなければならない。まず,材木②は,材木①と同様の理由からAの所有物であるが,Dの所
有する乙建物に組み込まれて一体化されている。これは付合に当たり,民法第242条本文に
よると,乙建物の所有者であるDが材木②の所有権を取得する。その結果,材木②の所有権を
失ったAは,民法第248条に従い,Dに対し,その償金を請求することができる。このAの
請求を基礎付けるに当たっては,付合の意義が正確に説明され,本問に示された事実関係に即
して適切な当てはめをすることが求められる。
また,民法第248条は「第703条及び第704条の規定に従い」としていることから,
AのDに対する請求の具体的な内容を確定するためには,不当利得の成立要件について,本問
に示された事実関係に即して検討する必要がある。ただし,要件を単に羅列することは求めら
れておらず,付合に関する当てはめをする中で,これらの要件を実質的に検討することでも足
りる。
さらに,AがDに対して請求することができる額について,AB間の関係を考慮に入れた分
析をすることも期待されている。材木②の価額は200万円であるから,材木②の所有者であ
るAは,Dに対して,200万円を請求することができるはずである。他方,材木②の材料に
当たる丸太の価額は150万円であるため,Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対し
て請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。
これに対して,Aの償金請求に対するDの反論として考えられるのは,例えば,DがCに請
負代金を支払済みであることから,その限度でDの利得は消滅したという主張である。この反
論を基礎付けるためには,Aが受益をした時点,つまり材木②が乙建物に付合した時点におい
て,Dが善意であり(材木②の所有権をCが有しないことを知らなかった),かつ,悪意に転
じる前に,Cに請負代金を支払ったことが指摘されなければならない。
しかし,仮にDが自分で乙建物のリフォーム工事をするためにCから材木②を購入し,まだ
材木②が乙建物に付合していないとすると,Dについて即時取得が成立しない限り,DがCに
材木②の売買代金を支払ったとしても,AはDに対して材木②の返還を請求することができる
はずである。このような観点からすると,DがCに請負代金を支払っていることを理由として,
Dの利得の消滅を認めることは適切でなく,むしろ,Dにおいて材木②の価値に相当するもの
を即時取得したと評価することができる場合に,Dの利得について法律上の原因が認められ,
DはAの償金請求を拒絶することができると考える可能性もある。その際には,引渡し時にお
ける善意無過失という即時取得の要件について,Dは,乙建物の鍵のうちの1本をCに交付し
て仮住まいの家に移っただけであるから,Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価す
ることができ,材木②が乙建物に付合した時に材木②の引渡しを受けたのと同じ状況となるか
ら,Dの善意無過失について判断すべき基準時は付合が生じた時点であること等が問題となる。
設問2は,立木が二重に譲渡された後に切り出された場合においてその切り出された丸太に
ついて返還請求がされた事例を素材として,所有権に基づく物権的返還請求権の主張に対する
典型的な抗弁の1つである対抗要件具備による所有権喪失の抗弁について正確な理解を有して
いるかどうか及び民事留置権の成否に関して事案に即した適切な検討ができるかどうかを問う
ものである。
⑴では,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造を正確に理解した上で,それを本問の
事例に即して展開し応用する能力が問われている。
Gが「丸太③をEが所有することを争うことによって」Eの請求を拒否する旨主張する根拠
は,Fが対抗要件を具備することにより丸太③の所有権を確定的に取得した結果,Eがその所
有権を喪失したことに求められる。そのため,ここではまず,Gの主張の根拠が,この意味で
の対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に求められることを説明し,Gが主張・立証すべき事
実を的確に示すことが求められる。
その前提として,EのGに対する請求は,丸太③の所有権がEに属することを理由とする。
これは,丸太③が,甲土地から切り出される前は,甲土地に生育していた立木であること,こ
の本件立木は,甲土地の定着物(民法第86条第1項)ないし甲土地と付合して一体となるも
の(民法第242条)であることから,甲土地の所有者であるAに帰属すること,EはAから
売買により本件立木の所有権を取得したこと,その後本件立木が甲土地から切り出されても,
Eの所有権は切り出された丸太に及び続けることによって基礎付けられる。
その上で,Gの主張は,Aが甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約が締結
され,それに基づき甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことによって,民法
第177条により,Fが本件立木の所有権を確定的に取得したこと,したがってEは本件立木
の所有権を喪失したことによって基礎付けられる。本件立木は甲土地の定着物ないし甲土地と
付合して一体となるものであることから,厳密に言うと,Fは,甲土地の売買により本件立木
の所有権を取得し,甲土地の所有権移転登記により本件立木についても対抗要件を具備するこ
とになる。
このほか,Gの主張の根拠としては,対抗要件の抗弁を考える余地もある。これは,Aから
Eへの本件立木の売買に基づく物権変動について,Fから丸太③の寄託を受けたGが民法第1
77条の第三者に当たること,あるいは民法第177条の第三者に当たるFの地位をGが援用
することにより,丸太③に対応する立木について明認方法を具備していないEはその所有権の
取得をGに対抗することができないという構成による。その際には,受寄者が民法第177条
の第三者に当たるか否かが問題となることなどを踏まえて,対抗要件の抗弁が認められる理由
を適切に論じることが求められる。
⑵では,寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に
検討することができるかどうかが問われている。
ここでは,まず,Gの主張が民事留置権(民法第295条)に基づくものであることを示す
必要がある。商事留置権の成否について検討する必要はない(【事実】9を参照)。
このGの主張が認められるためには,民事留置権の要件の全て,すなわち,(i)他人の物を
占有していること,(ii)その物に関して生じた債権を有すること,(iii)被担保債権の弁済期
が到来していること,(iv)占有が不法行為によって始まったものでないことについて,主張・
立証責任の所在にも留意しつつ,それぞれの要件の意味を示し,それに該当する事実の有無を
判断することが求められる。
本問では,民事留置権の目的物である丸太④は,切り出される前の立木についてEが明認方
法を具備していたことから,Eの所有に属する。それに対して,被担保債権である丸太④の保
管料債権の債務者はFであるため,このような場合に単純に民事留置権の成立を認めると,E
の所有物がEとは無関係のFの債務の担保に供される事態を認めることになり,民事留置権の
成立を認めることが適当かどうかという問題が生じる。そこで,(i)の要件について,被担保
債権の債務者以外の者が所有する物も「他人の物」といえるか否か,あるいは,(ii)の要件に
ついて,このような場合に被担保債権と物との間に牽連性が認められるか否かについて,留置
権の制度趣旨に遡った検討をすることが期待される。
また,本問では,Fが丸太④を甲土地から切り出してGに寄託した行為はEに対する不法行
為に該当すると考えられることから,Gが丸太④を預かった行為もEに対する不法行為に該当
し,(iv)の要件が充足されないことになるか否かも問題となる。この点については,【事実】
9の事情を適切に評価して,Gの不法行為の成否を判断することが求められる。
なお,民事留置権の主張を認めるためには,その全ての要件が充足されていることを確認す
る必要があるのに対し,例えば,(i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が
否定される場合には,民事留置権の成立を否定する結論を出すために,他の要件について検討
する必要はない。そのような場合,他の要件について検討していないことを理由に不利に扱わ
れることはない。
設問3は,未成年者であるHの不法行為を素材として,不法行為法についての基本的な知識
とその理解を問うものである。責任能力がある未成年者の不法行為についての監督義務者の責
任と被害者側の過失についてはいずれも確立した判例があることから,それを踏まえて検討す
ることが期待されている。
⑴で問われているのは,Hの親であるCの責任であるが,Cの責任については,Hに不法行
為責任が認められるか否かによって,その法律構成が異なる。Hが本件角材を路上に置く行為
は,客観的に不法行為に当たると考えられるが,Hに責任能力が認められない場合,Hの不法
行為責任は否定される(民法第712条)。その場合には,Hの親権者であり,法定監督義務
者となるCについて,民法第714条に基づく責任が認められる可能性がある。他方で,同条
は,直接の加害者に責任能力が認められない場合の補充的責任を定めたものであり,Hに責任
能力が認められる場合には,適用されない。しかし,このように直接の加害者である未成年者
に責任能力が認められる場合でも,判例は,その監督義務者が民法第709条によって責任を
負う可能性を認めている。本問では,これらの全体的な相互関係を踏まえて,Cの不法行為責
任の成否を適切に論じることが求められる。
まず,Hの責任能力については,民法には明確な年齢基準が定められていないものの,従来
の判例では,12歳前後がその基準とされていることから,既に満15歳に達し中学3年生で
あるHについては,特段の事情がない限り,責任能力が肯定されると考えられる。したがって,
これを前提とする限り,Cについて,民法第714条に基づく責任を追及することはできない。
しかし,判例は,未成年者の責任能力が肯定される場合でも,監督義務者に監督義務違反と
しての故意又は過失が認められ,それと結果との間に相当因果関係があれば,監督義務者自身
の不法行為として,民法第709条の責任を負うことを認めている。これによると,Cについ
て監督義務違反が認められるか否か,認められるとした場合,その監督義務違反とLの権利侵
害との間に相当因果関係が認められるか否かについて,本問に示された事実関係に即して,的
確に検討することが求められる。もっとも,このように判例に依拠して検討することが唯一の
解答ではなく,適切な理由付けによってこれと異なる論じ方をすることも排除されていない。
⑵は,賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるかを検討させるもので
ある。ここでは,過失相殺について論じることが期待される。
【事実】16及び17によると,既に付近がかなり暗くなっていたにもかかわらず,Kが前照灯
の故障した自転車を,携帯電話を使用していたため,片手で運転していたことから,Kについ
て過失と評価されるような事情が認められるが,Lについては,過失と評価されるような事情
は認められない。本問の損害賠償請求はLによるものであるため,L自身には過失がないにも
かかわらず,こうしたKの過失が,Lの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮され
るかどうかが問題となる。この点について,判例は,被害者自身の過失でなくても,被害者と
身分上・生活関係上の一体性が認められる者に過失があった場合については,その者の過失を
過失相殺の対象として考慮することを認めている。判例に即して論じる場合には,以上の点を
的確に示し,本問に示された事実関係に即して,その要件が満たされている否かを的確に検討
することが求められる。
もっとも,判例による被害者側の過失法理に依拠して検討することが唯一の解答ではない。
特に,被害者側の過失法理については,その妥当性を疑問視する見解も有力であり,判例と異
なる構成を採る場合であっても,適切な理由付けが行われ,その要件等が的確に検討されてい
れば,それに相応した評価がされることになる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成27年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
