平成26年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:4:3〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 本件株式発行がEの選任・選定手続の瑕疵により代表権のない者によってされたものであることの指摘4点
- 非公開会社における募集株式発行の手続(株主総会特別決議の要否)と本件における決議の欠缺4点
- 新株発行無効の訴えの提訴期間徒過3点・簡潔に
- 新株発行不存在確認の訴え(829条1号)の選択と「不存在」の意義の解釈4点
- 不存在該当性の具体的あてはめ(肯定要素・否定要素の双方の摘示)6点
- 不存在確認請求が認容された場合の法律関係(原状回復・現物出資財産の収益)4点
- 不存在が認められない場合のCの救済(429条1項・不法行為に基づく損害賠償)3点・簡潔に
設問2
- Hの主張①(代表権のあるEによる行為)と甲社の反論(選任手続の瑕疵)3点・簡潔に
- 表見代表取締役の規定(354条)の類推適用8点
- 不実登記の効力(908条2項)7点
- 多額の借財(362条4項2号)についての取締役会決議の欠缺とHの主観9点
- 代表権の濫用とHの主観6点
- 各主張相互の論理的関係と悪意・重過失の対象の区別5点
設問3
- 株主代表訴訟の原告適格・提訴手続3点・簡潔に
- Eの責任の根拠(事実上の取締役・423条1項の類推適用)5点
- Eの任務懈怠の内容と損害・因果関係(本件借入れ・本件貸付け)7点
- 相続により承継した所有権移転登記義務が株主代表訴訟の対象となるか6点
- Dの取締役としての地位(331条4項・346条1項)4点
- Dの監視義務違反の成否と因果関係3点
全体
- 論理的構成・事実の摘示・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,非公開会社である甲社において,適法な選任手続を経ずに代表取締役の就任登記が
された者がした行為に関し,株主総会及び取締役会の適正な手続を経ることなく行われた募集
株式の発行の効力(設問1),取締役会の決議を経ることなく,また,権限を濫用して,多額
の金銭の借入れを行った場合の甲社への効果の帰属(設問2),一連の行為に関する株主代表
訴訟による責任追及の可否及び範囲(設問3)について,事案に即して検討することを求める
ものである。
設問1では,新株発行の無効の訴えの提訴期間を経過した後の時点において,瑕疵のある募
集株式の発行の効力を争う方法とその法律関係を,事案に即して論ずることが求められる。
本問では,甲社における平成24年6月の本件株式発行については,検査役の調査に代わる
弁護士の証明等を受けて現物出資財産の給付が完了しているものの,その時点において,代表
取締役として登記されたEは,そもそも取締役としての株主総会の選任決議を欠き,代表取締
役としての取締役会の選定決議も欠いており,これらの手続に瑕疵が認められる。また,甲社
は,問題文別紙の履歴事項全部証明書によれば,株式の譲渡について取締役会の承認を要する
旨の定款の定めを有しており,このような非公開会社では,募集株式の発行は,株主割当ての
場合を除き,株主総会の特別決議による必要がある(会社法第199条第2項,第201条,
第309条第2項第5号)。しかし,甲社においては,全ての株主が会した席上で,400株
の募集株式を発行してその全部をEに割り当てることについて,株主に対して賛同を求めた経
緯は認められるが,株主のうち,Cはこの提案に反発して退席し,Aも賛成の意思表示はして
おらず,招集手続についての瑕疵が治癒されたと評価する余地があるとしても,それを越えて
全ての株主が賛成したという事実までは認められない。
この場合に,本問では,平成26年4月の時点では,本件株式発行がされた平成24年6月
10日から既に1年を経過した後であるため,新株発行無効の訴えを提起することはできない
(会社法第828条第1項第2号括弧書き)。そこで,本件株式発行の効力を争うためには,
訴えの提起について期間制限のない新株発行不存在確認の訴え(同法第829条第1号)を提
起することの可否が検討されるべきである。
新株発行不存在確認の訴えは,法文上,どのような場合に募集株式の発行が「不存在」であ
るかが明らかでなく,不存在の意義を解釈により明らかにした上で,本問の事案に即して当て
はめることが必要になる。前述のとおり,本件株式発行に関しては,その発行手続について,
Eの取締役への選任手続及び代表取締役への選定手続に瑕疵があり,本件株式発行は代表権の
ないEによって行われたものであること,また,本件株式発行について株主総会の特別決議を
欠くことなど,諸手続に重大な瑕疵があり,これらは本件株式発行を不存在と認定する事情と
して指摘されるべきである。他方,本件株式発行の実体を肯定し得る事情としては,本件株式
発行の対価について現物出資財産の給付がされ,登記が完了していることや,代表取締役Aが,
Eについて代表取締役として行動することを容認した上で,役員変更の登記申請を行い,Eが
「副社長」という肩書で対外的に活動することを認めていたことなどが挙げられる。
なお,本件株式発行の効力について,新株発行不存在確認の訴えを認容する判決が確定した
場合の法律関係としては,現物出資財産の返還を含めた原状回復の在り方が問題となるが,新
株発行無効の訴え(会社法第839条)と異なり,新株発行不存在確認の訴えについては,遡
及効を否定する規定がない。そこで,本問では,現物出資財産に不動産としての収益が生じて
いるため,新株発行無効の訴えについての同法第840条を類推して原状回復の範囲を限定す
る立場と,新株発行無効の訴えとは異なり,不当利得についての規律(民法第703条,第1
89条等)の適用による解決を図る立場のいずれかによることが検討されるべきである。他方,
新株発行不存在確認の訴えが認容されない場合の法律関係としては,既存株主であるCは,本
件株式発行によって持株比率の低下(単独の持株比率が10%から約6%に低下するほか,A
の有する株式数と合わせても発行済株式総数の過半数を占めることができず,会社の支配に及
ぼす影響力が低下する。)という損害を受けるので,この損害の賠償を会社法第429条第1
項又は不法行為責任に基づき請求することが考えられる。
設問2では,適法な選任手続を経ずに代表取締役の就任登記がされたEが,取締役会の決議
を経ることなく,また,権限を濫用して行った本件借入れに関し,その効果が甲社に帰属する
かについて,事案に即して適切に論ずることが求められる。
本件借入れに係る借入金の返還請求を主張するHの立場では,①代表権のあるEによる行為
であること,②Eに代表権がないとしても,Eは「副社長」という肩書を付されていた点で表
見代表取締役についての規定(会社法第354条)を類推適用することができること,③Eに
代表権がないとしても,故意に不実の事項を登記した場合の効果(同法第908条第2項)が
認められることを,それぞれ主張することが考えられる。これらのうち,②については,Eは
使用人にすぎず,取締役の地位にないため,同法第354条を直接適用することはできないが,
本問では,A及びDがEに「副社長」の肩書で対外的に活動することを認めていたという経緯
があり,「株式会社が…副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称
を付した場合」(同条参照)に該当すると評価して,同条の類推適用を主張することが考えら
れる。また,③については,Eの選任手続に瑕疵がある関係で,甲社による不実の事項の登記
があったと評価できるかが問題となり得るが,代表権のあるAが,自らEの代表取締役への就
任登記を申請していることから,甲社により不実の事項の登記がされたものと評価する余地が
あり,これらの点について事案に即して検討する必要がある。
他方,借入金の返還請求を否定する甲社の立場としては,上記①に対してEの選任手続に瑕
疵があることを主張し,上記②③に係る瑕疵についてHに悪意又は重過失があったことを主張
するほか,④本件借入れは甲社にとって多額の借財(会社法第362条第4項第2号)に該当
するところ,その取締役会の決議を経ておらず,かつ,Hは取締役会の決議を欠いていること
を知り又は知ることができたこと,⑤本件借入れは,甲社の事業上の必要性によるものではな
く,Eの個人的な思惑によるものである点で,権限濫用行為に該当するところ,Hはこれを知
り又は知ることができたことを主張することが考えられる。上記④については,本件借入れが,
甲社の年商に匹敵する額であり,1株当たりの純資産額から算出される甲社の純資産の額など
に照らしても「多額の借財」に該当すると認められることを,具体的な事実を示して指摘する
ことが求められる。そして,Hが甲社の取締役会の決議を欠いていることにつき,悪意である
とまでは評価することができないとしても,取締役会議事録等の確認をしなかった経緯をどの
ように評価するかについて,言及されるべきである。上記⑤については,Eは,Hに対し,借
入金を私的な使途に充てることを疑わせるような事情を説明してはいないが,使途についての
説明が曖昧であったという経緯があり,このような事実関係の下で,Hが権限濫用を知り又は
知ることができたといえるか否かにつき,事案に即して論ずることが求められる。
設問3では,Cが株主代表訴訟を提起する場合に関し,Eに対しては,本件借入れ及び本件
貸付けの結果甲社に生じた損害に関する任務懈怠責任を追及し,また,Eが相続により承継し
た本件土地の所有権移転登記義務の履行を請求することができるか,Dに対しては,Eの任務
懈怠責任に関連したDのいわゆる監視義務違反の結果甲社に生じた損害に関する任務懈怠責任
を追及することができるかについて,それぞれ事案に即して法的問題点を論ずることが求めら
れる。
Eに対する株主代表訴訟においては,まず,Eが適法な取締役選任手続を経ておらず,実体
法上は使用人の地位にあるにすぎない点が問題となるが,代表取締役として行動している一連
の経緯に照らし,事実上の取締役に該当するなどとして,会社法第423条第1項の類推適用
によりEの任務懈怠責任を肯定する余地がある。この場合に,Eの任務懈怠の内容としては,
本件借入れによる債務の負担及び本件貸付けによる貸付金の回収不能という具体的な損害と直
接の因果関係を認め得るEの任務懈怠が指摘されるべきであり,本件借入れ及び本件貸付けに
ついて,多額の借財及び重要な財産の処分として必要となる取締役会の決議を欠いていること
を指摘することも求められる。また,EがFから相続した甲社に対する所有権移転登記義務に
ついては,そのような債務も株主代表訴訟の対象とすることが認められるか否かが問題となる。
Eの所有権移転登記義務は,取締役間のなれ合いによる請求の懈怠のおそれがあるという点で
は,任務懈怠責任と共通の問題点を有しているが,他方,Eが取締役の地位に基づき負担した
義務ではなく,相続を原因として承継した債務であること,法律上,甲社がEに対して移転登
記請求権を行使することができることは当然としても,この権利を株主代表訴訟によって実現
することを認めると,甲社における取引上の裁量的判断を制約することになりかねないが,そ
のような結論は妥当かなどの観点も踏まえて検討することが求められる。
さらに,Dに対する株主代表訴訟においては,Dの取締役の退任登記はされているが,Eが
適法な取締役選任手続を経ていないため,甲社において,A及びCだけでは法律で定められた
取締役の員数(会社法第331条第4項)を充たしておらず,任期満了により退任したDがな
お取締役としての権利義務を有する地位にあること(同法第346条第1項)を前提に論ずる
ことが必要である。その上で,Dは,Eによる本件借入れ及び本件貸付けに際して,Eからあ
らかじめ相談を受けながら,「やめた方がよいのではないか。」と述べるだけで,積極的に違法
な借入れ及び貸付けの実行を制止するために適切な措置を講じていないが,この点について,
損害と因果関係のある任務懈怠として,Dの監視義務違反が認められるか否かを事案に即して
検討することが求められる。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成26年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
