平成26年 司法試験 論文式 民事訴訟法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:2:4〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1
- 問題の所在の設定──昭和45年最判の判例法理(訴訟手続における会社代表者の決定に表見法理の適用なし)が、訴訟上の和解という場面にも及ぶかという形での問題提起6点・簡潔に
- 「取引行為と訴訟手続は異なる」という適用否定の論拠に対する反論──訴訟上の和解の私法上の和解契約としての側面(互譲という取引的性質)11点
- 「手続の不安定を招く」という適用否定の論拠に対する反論8点
- 訴訟行為としての和解の効力を否定した場合の不都合──私法上の和解契約としては表見法理により効力を維持し得るとしても、訴訟法上の効力を否定することの帰結の検討7点
- 結論の明示4点・簡潔に
設問2
- 昭和38年最判の理解と本問への位置付け5点
- 規範の定立──民訴法55条2項2号の和解の特別授権により与えられる権限の範囲をいかに画するか7点
- あてはめと結論6点
設問3
- 原則の指摘──和解条項第2項及び第5項(特に第5項の清算条項)に生じる既判力により、後遺障害に基づく損害賠償請求権の主張は遮断されるのが原則であること5点・簡潔に
- 民訴法117条の趣旨と人身損害の特殊性の確認8点
- ①既判力縮小構成又は②和解の合意内容限定構成による具体的論述20点
- 結論の明示3点・簡潔に
全体
- 論理的構成・表現(問いに正面から答える姿勢、法的三段論法、自分の言葉による論述)10点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,不法行為に基づく損害賠償請求事件を題材として,訴訟上の和解に対する表見法理
の適用(設問1),訴訟上の和解についての訴訟代理人の代理権限の範囲(設問2),予測でき
なかった後遺障害の主張と訴訟上の和解における既判力との関係(設問3)について検討する
ことを求めている。受験者には,問題文において与えられた事実関係,関係する判例,示され
た考え方を踏まえ,問題文の指示に従った考察を行うことが求められている。
〔設問1〕は,XとA及びB社との間で成立した訴訟上の和解について,表見法理の適用に
よりその効力を維持する議論を行うことを求めるものである。問題文においては,表見法理の
適用を否定する見解に関し,取引行為と訴訟手続(訴訟行為)の違いを指摘する判例(最高裁
判所昭和45年12月15日第三小法廷判決・民集24巻13号2072頁)の考え方のほか,
手続の不安定を招くといった考え方が示され,これらの論拠には説得力がないとする立場から
論述することが求められている。また,問題文においては,訴訟上の和解は,私法上の和解契
約とその内容を一致して裁判所に陳述する合同訴訟行為との併存であることから,訴訟行為と
しての和解の効力が否定されるとした場合において私法上何の効果も生じないことになるの
か,といった観点も考慮することが求められている。したがって,本設問に対する解答では,
先に掲げた考え方が,訴訟上の和解に表見法理の適用を否定する論拠として説得力を欠くこと
に加えて,訴訟上の和解に係る私法上の和解契約としての側面が表見法理の適用により効力を
維持する余地がある一方で,訴訟行為の側面は有効となる余地がないと解した場合に不都合が
生じることについて,具体的な理由を挙げて説得力ある論述をすることが求められる。
なお,問題文においては,訴訟上の和解に表見法理を適用することの可否に絞って論述する
ことが求められているから,本問では,表見代表取締役Cに対する訴状送達により訴訟係属の
効力が生じるかについては論じる必要がない。また,本問は,訴訟行為に対する表見法理不適
用説に対する一般的,抽象的な反論を求めるものでもない。
〔設問2〕は,Xに対して謝罪することを内容とする本件の和解条項第1項について,和解
期日に欠席したAにおいて,こうした内容の和解をする権限をL2に明示的に授与していな
かったから,この条項を含めて和解全体が無効である,と後日主張するに至ったため,この条
項も和解の訴訟代理権の範囲に含まれているという角度からの検討を求めるものである。問題
文においては,訴訟物である貸金返還義務についての分割払いという譲歩を引き出すため,抵
当権の設定という訴訟物の範囲外の譲歩を被告側訴訟代理人がした場合につき,明示的に授権
がなくてもそれが和解の代理権限に含まれるとした判例(最高裁判所昭和38年2月21日第
一小法廷判決・民集17巻1号182頁)が示され,この最高裁判決の内容を踏まえた立論が
求められている。そのためには,L2に対して授権された和解権限に一定の制約があるとして
も,本件の和解条項第1項のような和解をする権限はその中に含まれているから,Aは本件和
解の無効を主張することができないという方向での論述が求められる。例えば,和解の本質が
互譲にあることを説明した上で,Xが賠償金額の減額に応じるという譲歩とAがXに謝罪する
という譲歩との間には対価性が認められることを踏まえ,抵当権の設定が互譲の一方法として
訴訟代理人の和解権限に含まれる以上,謝罪を内容とする和解をすることも同様に本件和解の
代理権限の範囲内にある,といった内容の論述が考えられるところである。
なお,弁護士に与えられた和解権限はそもそも無制限であることを根拠とすることも考えら
れないわけではないが,そのような論述においては,問題文で示された上記最高裁判決を,無
制限説を採用するものとして理解することが可能かという問題のほか,訴訟代理人の権限が無
制限であるとすることの理由付けについて触れる必要があろう。
〔設問3〕は,訴訟上の和解には既判力があるから,本件後遺障害に基づく損害賠償請求権
の主張が遮断される,との主張に対する反論を求めるものである。問題文においては,①本件
の和解条項第2項及び第5項(特に第5項)について生じる既判力を本件後遺障害に基づく損
害賠償請求権の主張を遮断しない限度にまで縮小させる議論,又は,②本件の和解は本件後遺
障害に基づく損害賠償請求権を対象として締結されたものではないから,この請求権を不存在
とする趣旨の既判力は生じないとの議論という2つの法律構成の可能性が示されている。①は,
訴訟上の和解の既判力を確定判決のそれに引き寄せて理解した場合に考えられる法律構成であ
る。これに対し②は,訴訟上の和解の既判力とは,和解の更改的効力に反する蒸し返し的な主
張を不適法として遮断する訴訟法上の効力であるが,本件のような後遺障害に基づく損害賠償
請求権の主張が本件和解の既判力により遮断されるか否かは,本件の和解条項(特に第5項)
がその不存在をも確認する趣旨のものであるか否かに係り,それは本件和解条項の解釈の問題
である,とする考え方に依拠した法律構成である。また,ヒントとして,定期金方式による損
害賠償を命じた判決の基礎となった事情に事後的な変動が生じたときには損害額の再調整をす
ることができるという民事訴訟法第117条が示されている。
これらを踏まえると,上記①・②の論述に共通する前提として,人身損害においては,その
性質上将来的に後遺障害の程度の変化により変動する可能性があり,それを全て予測して訴訟
追行をし,判決をすることは困難であることから,民事訴訟法第117条は,定期金方式によ
り長期にわたって損害賠償を命じる場合について,将来の事情変動を考慮して損害額の再調整
をすることを許しているということを,まず確認する必要があろう。
その上で,①の論述としては,上記のような民事訴訟法第117条が前提とする人身損害の
性質は,一時金方式であっても同様であり,したがって,判決当時に予測ができなかった形で
損害が生じたときに,その損害を不存在とする趣旨の既判力が作用するからそれを主張するこ
とは遮断されるというように,既判力を絶対的なものとして理解すべきではなく,既判力は,
正確な将来予測に基づいて完全な攻撃防御を尽くすことが期待できる限度まで縮小されるので
あり,訴訟上の和解の既判力もこれと同じである,といった内容のものが考えられる。
また,②の論述としては,将来生じるかどうか定かではない新たな後遺障害も含めて損害の
全体像を正確に把握して和解の合意を行うことは不可能であり,本件訴訟上の和解は,その成
立時に当事者双方においてその発生が認識されていたか,又は認識が可能であった損害のみを
対象として行われたものと解するのが,当事者の合理的意思に合致すること,訴訟上の和解に
対して付与される既判力の範囲が,和解の更改的効力が及ぶ範囲を超えることはないことから
して,本件の和解は成立当時にいまだ生じていなかった後遺障害に基づく損害賠償請求権を対
象として締結されたものではないので,当該請求権を不存在とする趣旨の既判力は生じない,
といった内容のものが考えられる。
これらの論述は,既判力の縮小(上記①)又は訴訟上の和解における合意内容の限定(上記
②)という法律構成を,人身損害の性質や,訴訟上の和解に既判力が認められることの意味な
どを踏まえて説明するものであり,受験者には,自らの言葉で理論的でかつ具体的な説明を試
みる姿勢が求められる。このような観点からは,後遺障害については手続保障が欠けるから訴
訟上の和解の既判力が縮小されるといった抽象的な論述にとどまるもの,期待可能性の欠如に
よる既判力縮小を抽象的に論じるにとどまるものは,十分かつ的確な論述とは言い難いであろ
う。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成26年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
