平成28年 司法試験 論文式 商法 出題の趣旨・論点・解説
問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:3:3.5〕)
論点の一覧
出題の趣旨・採点実感をもとに、採点で問われる点を整理したものです(配点は 100 点満点に換算した目安)。
設問1(1)
- 取締役会の招集権者・招集手続・議題特定の要否5点
- 一部取締役への招集通知欠缺と取締役会決議の効力(最三判昭44.12.2)6点
- 解職対象の代表取締役と特別利害関係取締役(369条2項、最二判昭44.3.28)4点
- 特段の事情の有無の具体的あてはめと結論3点
設問1(2)
- 取締役報酬規制の枠組みと取締役会への配分決定の一任(361条1項、最三判昭60.3.26)5点
- 具体的報酬額の契約内容化と一方的減額の可否(最二判平4.12.18)5点
- 役職の変動に伴う減額への同意の有無のあてはめと請求できる額5点
設問2(1)
- 339条1項・2項の枠組み、同条2項の趣旨と「正当な理由」の意義5点
- 経営判断に基づく海外事業の失敗が「正当な理由」に当たるかのあてはめ5点
- 賠償すべき損害の範囲ないし額4点
設問2(2)
- 役員解任の訴えの手続の説明7点
- 流会の場合に854条1項の「否決されたとき」に当たるか(制度趣旨からの解釈)と不正行為の存在7点
設問3
- 423条1項の責任の要件5点
- 内部統制システムの決定義務・構築義務・運用義務の関係6点
- 甲社の内部統制システムが事業の規模・特性等に応じて決定・構築されているかの検討6点
- Cの任務懈怠の有無(信頼の原則を含む)5点
- Dの任務懈怠の有無6点
- 因果関係が認められる損害の範囲ないし額5点
全体
- 論理的構成・条文及び判例への言及・文章表現6点
出題の趣旨(法務省公表)
本問は,① 会社法上の公開会社でない取締役会設置会社において,取締役会の開催に当
たり,当該取締役会において解職決議がされた代表取締役に対する招集通知を欠いた場合に
おける当該取締役会の決議の効力(設問1⑴),② 取締役の報酬の額について,株主総会の
決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で取締役会の決議によって役職
ごとに一定額が定められこれに従った運用がされていた会社において,役職の変動に伴い,
その運用により定まる報酬の額よりも更に減額する旨の取締役会の決議がされた場合に,取
締役が会社に対して請求することができる報酬の額(設問1⑵),③ 株主総会において取締
役から解任された者が,その解任について正当な理由がないとして,損害賠償請求をした場
合における会社の損害賠償責任(設問2⑴),④ 役員の解任の訴えの手続と,役員の解任を
議題として招集された株主総会が定足数を満たさずに流会となった場合において,役員の解
任の訴えを提起することの可否(設問2⑵),⑤ 役員等の会社に対する損害賠償責任と,大
会社である取締役会設置会社における代表取締役等の内部統制システムの構築義務及び運用
義務(設問3)に関する理解等を問うものである。
設問1⑴においては,取締役会の招集権者(会社法第366条第1項)や,取締役会の目
的である事項の特定の要否を含む招集手続(会社法第368条第1項),決議要件(会社法第
369条第1項,第2項)について正確に理解していることが前提となる。そして,取締役
会の開催に当たり,一部の取締役に対する招集通知を欠いた場合には,特段の事情がない限
り,その招集手続に基づく取締役会の決議は無効であるが,その取締役が出席してもなお決
議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは,決議は有効であるとす
る判例(最三判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)や,代表取締役の解職
決議については,その代表取締役は,特別利害関係を有する者に当たるとする判例(最二判
昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)を意識しながら,会社法上の公開会社でな
い取締役会設置会社において(いわゆる閉鎖会社においては,特別利害関係を有する者に当
たらないという見解等もある。),取締役会の開催に当たり,当該取締役会において解職決議
がされた代表取締役に対する招集通知を欠いた場合に,上記の特段の事情があると認めるこ
とができるかどうかを説得的に論ずることが求められる。その際には,特別利害関係を有す
る者に当たると,当該取締役会の審議に参加して意見を述べることも認められないか否かや,
Aが当該取締役会の審議に参加することが認められる場合であっても,Aの意見が決議の結
果を動かさないであろうことが確実に認められるか否かなどについても触れつつ,事案に即
して具体的に検討されることが望ましい。
設問1⑵においては,取締役の報酬等の額について,定款に定めていないときは,株主総
会の決議によって定めるが(会社法第361条第1項),判例(最三判昭和60年3月26日
判時1159号150頁)は,株主総会の決議により,取締役全員に支給する総額の最高限
度額を定め,各取締役に対する配分額の決定は,取締役会の決定に委ねてもよいとしている
ことや,取締役の報酬等の額が具体的に定められた場合には,その額は,会社と取締役間の
契約内容となり,契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから,当該取締役が同意
しない限り,会社が一方的にその報酬等の額を減額することはできないと解されていること
(最二判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁参照)を意識しながら,取締役の
報酬等の額について,株主総会の決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲
内で,取締役会の決議によって役職ごとに一定額が定められ,これに従った運用がされてい
た場合に,取締役が,役職の変動に伴う報酬の減額に同意していたと認められるかどうかを
事案に即して論ずることが求められる。なお,上記のとおりの運用により定まる報酬の額の
範囲内で,Aが,役職の変動に伴う報酬の減額に同意していたと認められるとすれば,Aの
報酬の額を減額する旨の定例取締役会の決議の後であっても,Aは,甲社に対し,その運用
により定まる月額50万円の報酬を請求することができることとなろう。
設問2⑴においては,取締役は,いつでも,かつ,事由のいかんを問わず,株主総会の決
議によって解任することができる(会社法第339条第1項)が,会社は,その解任につい
て正当な理由がある場合を除き,任期満了前に取締役を解任したときは,取締役に対し,解
任によって生じた損害を賠償しなければならない(同条第2項)ことを理解していることが
前提となる。その上で,Aが,事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を行い,そ
の調査結果に基づき,事業の海外展開を行うリスクも適切に評価していたことから,このよ
うな経営判断に基づいた海外事業の失敗が,正当な理由に含まれるかどうかについて,会社
法第339条第2項の趣旨や「正当な理由」の意義も踏まえつつ,説得的に論ずることが求
められる。そして,このような海外事業の失敗が正当な理由に含まれないとする場合には,
会社が取締役に対して賠償しなければならない損害の範囲ないし額について,Aの取締役と
しての任期が8年と長期間残っていたことをその減額要素として考慮することができるかど
うかにも言及した上で,検討することも求められる。
設問2⑵においては,役員の解任の訴えについては,会社法上の公開会社でない株式会社
の場合には,役員の職務の執行に関し不正の行為等があったにもかかわらず,当該役員を解
任する旨の議案が株主総会において否決されたときに,総株主(当該役員を解任する旨の議
案について議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る役員である株主を除く。)
の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主(当該役員を解任する旨の議案について
議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る役員である株主を除く。)又は発行
済株式(当該株式会社である株主及び当該請求に係る役員である株主の有する株式を除く。)
の100分の3以上の数の株式を有する株主(当該株式会社である株主及び当該請求に係る
役員である株主を除く。)が,当該株主総会の日から30日以内に提起することができること
(会社法第854条第1項,第2項)を説明することが求められる。
また,役員の解任の訴えについては,会社及び当該役員を被告とすること(会社法第85
5条)や,本問においては,代表取締役Bが株主として甲社及び取締役Aを被告として役員
の解任の訴えを提起することとなるため,監査役が甲社を代表すること(会社法第386条
第1項第1号),役員の解任の訴えは,会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専
属すること(会社法第856条)を説明することも期待される。
その上で,役員の解任を議題として招集された株主総会が定足数を満たさずに流会となっ
た場合において,役員の解任の訴えを提起することができるかどうかについて,会社法第8
54条第1項に規定する「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」
の意義を役員の解任の訴えの制度の趣旨等に照らして解釈するなどしながら,説得的に論ず
るとともに,会社資金の流用という役員の職務の執行に関し不正の行為等があったと認めら
れることに言及することが求められる。
設問3においては,取締役は,株式会社に対し,その任務を怠ったこと(任務懈怠)によっ
て生じた損害を賠償する責任を負うこと(会社法第423条第1項)や,任務懈怠責任は,
取締役の株式会社に対する債務不履行責任の性質を有するため,任務懈怠,会社の損害,任
務懈怠と損害との間の因果関係に加え,取締役の帰責事由が必要であること(会社法第42
8条第1項参照)について理解していることが前提となる。そして,大会社である取締役会
設置会社においては,取締役会は,内部統制システムの整備を決定しなければならず(会社
法第362条第5項,第4項第6号),善管注意義務(会社法第330条,民法第644条)
及び忠実義務(会社法第355条)の一内容として,取締役は,取締役会において,会社が
営む事業の規模や特性等に応じた内部統制システムを決定する義務を負い,代表取締役等は,
取締役会の決定に基づいて,事業の規模等に応じた内部統制システムを構築して運用する義
務を負うことについて,的確に論ずることが求められる。
その上で,まず,甲社について,その事業の規模や特性等に応じた内部統制システムが決
定され,構築されているかどうかを事案に即して丁寧に検討することが求められる。
次に,構築された内部統制システムの運用については,C及びDのそれぞれに任務懈怠が
認められるかどうかを事案に即して丁寧に検討することが求められる。Cに任務懈怠が認め
られるかどうかを検討するに当たっては,構築された内部統制システムを運用する際に,会
社が営む事業の規模や特性等に応じた内部統制システムが外形上機能している場合には,他
の役職員がその報告のとおりに職務を遂行しているものと信頼することができるかどうかに
ついても,検討することが期待される。また,Dに任務懈怠が認められるかどうかを検討す
るに当たっては,これまで甲社において同様の不正行為が生じたことがなく,また,会計監
査人からも不正行為をうかがわせる指摘を受けたことがなかったものの,本件通報は甲社の
従業員の実名によるものであることなどの事情を踏まえた上で,本件通報があった旨の報告
を受けていたDが,本件通報には信ぴょう性がないと考え,本件通報等の調査を指示しなかっ
たことなどをどのように評価すべきかについても,具体的に検討することが期待される。
そして,任務懈怠及び帰責事由が認められるとする場合には,因果関係が認められる損害
の範囲ないし額についても,検討することが求められる。なお,構築された内部統制システ
ムの運用について,Dに任務懈怠があったと認められるとしても,本問において,Dは,平
成27年3月末に本件通報があった旨の報告を受けており,甲社は,乙社に対し,同年4月
末に残金合計3000万円を支払ったこと,他方で,Cの指示により甲社の法務・コンプラ
イアンス部門が調査をした結果,2週間程度で,EとFが謀り,本件下請工事について不正
行為をしていたことが判明したことからすれば,Dの任務懈怠との間で,当然に因果関係が
認められる損害の範囲ないし額は,EとFが着服した5000万円の全額ではなく,甲社が
乙社に対して同月末に支払った3000万円とすることが考えられよう。
参考答案と AI 採点
この問題の参考答案(出題の趣旨と照合済み)は Pro で読めます。自分で答案を書けば、論点の一覧に沿って AI が採点し、参考答案と項目ごとに見比べられます。
答案を書いて AI 採点する出典:法務省「平成28年司法試験」(問題文・出題の趣旨。表示のため改行等を整えています)。論点の一覧・参考答案は AI を用いて X-Law合同会社が作成したもので、誤りを含む可能性があります。
