最判昭和62年4月23日
遺言執行者がある場合、相続人による遺贈目的物の処分は無効であり、指定された者の就職承諾前も同様だとした判例
出題:司法H22・司法H28
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和61(オ)264 第三者異議
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第41巻3号474頁
- 参照法条
- 民法1012条,民法1013条,民事執行法38条,民事執行法194条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 遺言執行者がある場合と遺贈の目的物についての受遺者の第三者に対する権利行使 二 民法一〇一三条に違反してされた相続人の処分行為の効力 三 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前と民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」
裁判要旨
一 遺言者の所有に属する特定の不動産の受遺者は、遺言執行者があるときでも、所有権に基づき、右不動産についてされた無効な抵当権に基づく担保権実行としての競売手続の排除を求めることができる。 二 遺言執行者がある場合には、相続人が遺贈の目的物についてした処分行為は無効である。 三 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」に当たる。
解説
事案
遺言者が、自己の所有する特定の不動産を遺贈し、遺言で遺言執行者を指定していた。遺言の効力発生後、相続人がその不動産に第三者のために抵当権を設定し、登記をした。この処分は、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前にされたものであった。その後、抵当権に基づく担保権実行としての競売手続が開始された。
そこで受遺者ら(被上告人ら)は、競売手続の排除を求めて第三者異議の訴え(民事執行法194条・38条)を提起した。
原審は、次のとおり判断して受遺者らの請求を認めた。
- 受遺者は、遺言執行者がある場合でも原告適格を有する。
- 相続人の処分行為は、民法1013条に反して無効である。
これに対し、抵当権者側(上告人)が上告した。
争点
- 遺言執行者がある場合に、受遺者が自ら所有権に基づいて第三者に権利行使(無効な抵当権に基づく競売の排除)できるか
- 民法1013条(改正前)に違反して相続人がした遺贈目的物の処分行為の効力と、受遺者の対抗要件の要否
- 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も、民法1013条の「遺言執行者がある場合」に当たるか
判旨
上告棄却。判断は次の三点である。
- 受遺者の権利行使:特定不動産の遺贈では、遺言の効力発生と同時に所有権が受遺者に移転する。そのため受遺者は、遺言執行者がある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、無効な登記の抹消登記手続を求めることができる。無効な抵当権に基づく競売手続の排除も求めることができる。
- 処分行為の効力:遺言執行者がある場合に、相続人が民法1013条に違反して遺贈の目的不動産を譲渡し、または抵当権を設定して登記をしても、その処分行為は無効である。受遺者は、遺贈による所有権取得を登記なくして処分の相手方である第三者に対抗できる。
- 就職承諾前:民法1013条の「遺言執行者がある場合」には、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も含まれる。承諾前にされた相続人の処分行為も効力を生じない。
判決文から
「受遺者は、遺言執行者がある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができる」
遺言執行者がいても受遺者自身が権利行使できる
「遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たもの」
民法1012条・1013条の趣旨。結論の根拠
「相続人が、同法一〇一三条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり」
1013条違反の処分は無効(絶対的無効)
「同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当である」
就職承諾前も処分禁止が及ぶ
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