北方ジャーナル事件
裁判所の仮処分による出版物の事前差止めは検閲に当たらない。名誉権に基づく差止めを認め、公職候補者批判の事前差止めの厳格な要件を示した。
出題:司法H24・司法H26・司法R1・司法R3・司法R5・予備H24・予備R5・予備R7・予備R8
- 裁判所
- 最高裁判所大法廷
- 事件番号
- 昭和56(オ)609 損害賠償
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第40巻4号872頁
- 参照法条
- 憲法13条,憲法21条,民訴法757条2項,民訴法760条,民法1条ノ2,民法198条,民法199条,民法709条,民法710条,刑法230条ノ2
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めと憲法二一条二項前段にいう検閲 二 名誉侵害と侵害行為の差止請求権 三 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否 四 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋
裁判要旨
一 雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法二一条二項前段にいう検閲に当たらない。 二 名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。 三 人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。 四 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法二一条の趣旨に反するものとはいえない。
解説
事案
被上告人Bは昭和38年から49年まで旭川市長を務め、昭和50年の北海道知事選挙に立候補した。さらに昭和54年4月施行予定の知事選挙にも、同年2月の時点で立候補を予定していた。
上告人は月刊雑誌「A」昭和54年4月号(同年2月23日頃発売予定、第一刷2万5000部)に、上告人代表者が作成した記事「ある権力主義者の誘惑」を掲載しようとしていた。記事はBを知事不適格と論じるもので、「天性の嘘つき」「メス犬の尻のような市長」「昼は人をたぶらかす詐欺師、夜は闇に乗ずる凶賊」などの表現でBの人格を評していた。私生活についても、妻を卑劣な手段で離別し自殺させたなどと記していた。
B側は同年2月16日、名誉権侵害の予防を理由に、札幌地裁へ雑誌の執行官保管、印刷・製本・販売・頒布の禁止等を求める仮処分を申請した。裁判官は同日これを相当と認めて仮処分決定をし、執行官が執行した。
上告人は、本件仮処分とその申請が違憲・違法であると主張して損害賠償を求めたが、原審は仮処分は「検閲」に当たらない等として上告人の主張を退け、上告人が上告した。
争点
- 仮処分による出版物の事前差止めは憲法21条2項前段の「検閲」に当たるか
- 名誉侵害を受けた者は人格権としての名誉権に基づき侵害行為の差止めを求めることができるか
- 公務員・公職選挙の候補者に対する評価・批判等の表現の事前差止めは、憲法21条1項の下でいかなる要件で許されるか
- 公共の利害に関する事項の表現を仮処分で事前差止めする場合に、口頭弁論または債務者審尋を経る必要があるか
判旨
上告棄却。
- 検閲該当性:検閲の定義は税関検査事件の判示による。仮処分による事前差止めは、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所が当事者の申請に基づき被保全権利の存否・保全の必要性を審理判断して発するものであり、「検閲」に当たらない。
- 差止請求権:名誉(人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価)を違法に侵害された者は、損害賠償(民法710条)や名誉回復処分(同法723条)を求めることができる。そのほか、人格権としての名誉権に基づき、現に行われている侵害行為の排除、または将来生ずべき侵害の予防のため、侵害行為の差止めを求めることができる。
- 実体要件:表現行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件のもとでのみ許容される。公務員・公職選挙の候補者に対する評価・批判等の表現の事前差止めは、原則として許されない。ただし、①表現内容が真実でなく、又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
- 手続要件:仮処分で事前差止めを命ずるには、口頭弁論または債務者審尋を行い、真実性等の主張立証の機会を与えるのが原則である。もっとも、債権者の提出資料によって上記①②が認められるときは、無審尋でも憲法21条の趣旨に反しない。
判決文から
「個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであつて、右判示にいう「検閲」には当たらないものというべきである。」
仮処分が検閲に当たらない理由の核心
「名誉は生命、身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきであるからである。」
人格権に基づく差止請求の根拠
「表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。」
事前抑制の原則禁止を示す一般論
「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは」
例外的に差止めを許す実体要件
「口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべきものと解するのが相当である。」
仮処分の手続的保障の原則
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
