高輪グリーンマンション事件
4夜の宿泊を伴う連日の任意取調べを、妥当性を欠くが社会通念上やむを得ず違法ではないとした。伝聞証言の黙示の同意も判示した。
出題:司法H26・司法R2・予備H25
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和57(あ)301 殺人
- 裁判
- 決定・棄却
- 判例集
- 刑集 第38巻3号479頁
- 参照法条
- 刑訴法197条1項,刑訴法198条1項,刑訴法309条,刑訴法320条1項,刑訴法324条,刑訴法326条1項,刑訴規則205条,刑訴規則205条の2
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 被疑者を所轄警察署近辺のホテル等に宿泊させて取調べを続行したことが任意捜査の方法として違法とまではいえないとされた事例 二 伝聞証言につき異議の申立がなかつた場合の証拠能力
裁判要旨
一 被疑者につき帰宅できない特段の事情もないのに、同人を四夜にわたり所轄警察署近辺のホテル等に宿泊させるなどした上、連日、同警察署に出頭させ、午前中から夜間に至るまで長時間取調べをすることは、任意捜査の方法として必ずしも妥当とはいい難いが、同人が右のような宿泊を伴う取調べに任意に応じており、事案の性質上速やかに同人から詳細な事情及び弁解を聴取する必要性があるなど本件の具体的状況のもとにおいては(判文参照)、任意捜査の限界を越えた違法なものとまでいうことはできない。 二 いわゆる伝聞証言であつても、異議の申立がないまま当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立ができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとして、証拠能力を有する。
解説
事案
昭和52年5月、マンションで女性が殺害された。かつて被害者と同棲していた被告人は、自ら警察署に出頭してアリバイを主張したが、裏付捜査で虚偽と判明した。6月7日早朝、捜査官4名が独身寮の被告人居室に赴いて任意同行を求め、被告人はこれに応じた。同日、ポリグラフ検査の後、約3.3㎡の調べ室で取り調べたところ、午後10時ころに自白した。
被告人は「寮に帰るのはいやなのでどこかの旅館に泊めて」ほしい旨の答申書を提出し、警察署近くの宿泊施設に泊まった。初日の夜は捜査官が同宿し、隣室から監視した。2日目以降の3夜はホテルに宿泊し、捜査官が周辺に張り込んで動静を監視した。この間、警察車両で送迎し、朝から深夜まで連日取り調べた。宿泊代は最初の3晩分を警察が負担した。
6月11日まで取調べが続き、自白を内容とする答申書・供述調書が作成された。決め手を欠いたため逮捕はせず、実母に引き渡して身柄請書を徴した。同年8月に逮捕し、勾留中の自白を経て起訴された。第一審・原審は有罪とした。
争点
- 任意捜査としての被疑者取調べの許容限界(刑訴法197条1項・198条1項)
- 4夜の宿泊を伴う連日長時間の取調べの適法性と、その間の自白の任意性
- 伝聞証言に異議の申立てがなかった場合の証拠能力(刑訴法320条1項・326条1項)
判旨
結論:上告棄却。宿泊を伴う取調べは違法とまではいえず、その間の自白の任意性・証拠能力を肯定した原判断は結論において相当である。
規範(2段階)
- 任意捜査では、強制手段を用いることは許されない。強制手段とは「個人の意思を抑圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」をいう(最決昭和51年3月16日を引用)。
- 任意捜査の一環としての被疑者取調べは、強制手段によれないというだけでなく、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案し、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度においてのみ許容される。
伝聞証言:伝聞・再伝聞証言について、異議の申立てがないまま当該証人の尋問が終了した場合は、直ちに異議を申し立てられないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があったものとして証拠能力が認められる。
判決文から
「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし様態及び限度において、許容されるものと解すべきである。」
任意取調べの限界の規範(第2段階・相当性)
「被告人は、捜査官の意向にそうように、右のような宿泊を伴う連日にわたる長時間の取調べに応じざるを得ない状況に置かれていたものとみられる一面もあり」
問題性を認めた部分。あてはめの消極事情
「社会通念上やむを得なかつたものというべく、任意捜査として許容される限界を越えた違法なものであつたとまでは断じ難いというべきである。」
結論は違法でない(不当だが適法)
「異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとしてその証拠能力を認めるのが相当である」
伝聞証言の黙示の同意の規範
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