吉祥寺駅構内ビラ配布事件
駅構内での無許可ビラ配布・演説と退去要求無視を鉄道営業法35条・不退去罪で処罰しても憲法21条1項に違反しないとした判例
出題:司法H29・司法H30・司法R3・予備R2・予備R3
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 昭和59(あ)206 鉄道営業法違反、建造物侵入
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 刑集 第38巻12号3026頁
- 参照法条
- 鉄道営業法35条,刑法130条,憲法21条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段を適用しても憲法二一条一項に違反しないとされた事例 二 鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」の意義 三 刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」の意義 四 鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」及び刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたるとされた事例
裁判要旨
一 駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反しない。 二 鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいう。 三 刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいう。 四 構造上駅舎の一部で鉄道利用客のための通路として使用されており、また、駅の財産管理権を有する駅長が現に駅構内への出入りを制限し又は禁止する権限を行使している本件駅出入口階段付近(判文参照)は、鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」にあたるとともに、刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたる。
解説
事案
被告人4名は、他の数名と共に、京王帝都(A線)吉祥寺駅の南口一階階段付近で、駅係員の許諾を受けずに乗降客らにビラ多数枚を配布し、演説等を繰り返した。さらに駅管理者からの退去要求を無視して、約20分間にわたり駅構内に滞留した。
被告人らは鉄道営業法35条違反と不退去罪(刑法130条後段)で処罰され、原審もこれを維持したため上告した。
現場の状況は次のとおりである。
- 階段付近は構造上駅舎の一部で、A線・C線の乗降客の通路として使われていた。
- 駅長は財産管理権の作用として、駅構内への出入りを制限・禁止する権限を行使していた。
- 階段下の支柱2本に、駅長の許可のない物品販売・配布・宣伝・演説等を目的とする立入りを禁止する掲示板3枚が取り付けられていた。
- 公道との境界付近のシャッターは駅業務の終了後に閉鎖されていた。
営業時間中は階段付近が一般公衆に開放され、人の出入りは事実上自由であった。
争点
- 駅構内での無許可ビラ配布・演説と退去要求無視を、鉄道営業法35条・刑法130条後段で処罰することは憲法21条1項に違反するか
- 鉄道営業法35条の「鉄道地」の意義
- 刑法130条の「人ノ看守スル建造物」の意義
- 営業時間中は一般公衆に開放されている駅出入口階段付近が、「鉄道地」かつ「人ノ看守スル建造物」に当たるか
判旨
上告棄却(有罪維持)。
憲法論
- 憲法21条1項は表現の自由を絶対無制限に保障したものではない。公共の福祉のため必要かつ合理的な制限は許される。
- 思想を外部に発表するための手段であっても、他人の財産権・管理権を不当に害するものは許されない。
- よって本件各所為に鉄道営業法35条と刑法130条後段を適用して処罰しても、憲法21条1項に違反しない(大法廷判例の趣旨に照らし明らか)。
解釈論
- 「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有・管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの、及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいう。
- 「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいう。
あてはめ
- 本件階段付近は、構造上駅舎の一部で乗降客の通路として使用されている。
- 駅長が現に出入りの制限・禁止権限を行使している。
- したがって両者に当たる。営業時間中に一般公衆に開放され、出入りが事実上自由でも、駅長の看守内にないとはいえない。
判決文から
「たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されない」
法廷意見の合憲判断の中核となる規範
「鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいい」
「鉄道地」の定義
「刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいうと解すべき」
看守の意義=事実上の管理・支配
「たとえ同駅の営業時間中は右階段付近が一般公衆に開放され事実上人の出入りが自由であるとしても、同駅長の看守内にないとすることはできない。」
公衆に開放中でも看守性は否定されない
「道路、公園、広場などは、その例である。これを「パブリツク・フオーラム」と呼ぶことができよう。」
伊藤補足意見のパブリック・フォーラム論
「その機能にかんがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる。」
PF上の表現への配慮の要請
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