大槌郵便局事件
「侵入」とは管理権者の意思に反する立入りをいい、拒否の意思が明示されていなくても諸事情から推認できるとした判例
出題:司法H24・司法H26・司法H28・司法H30・司法R3・予備H28・予備H29・予備R2
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和55(あ)906 建造物侵入
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 刑集 第37巻3号215頁
- 参照法条
- 刑法130条前段
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 刑法一三〇条前段にいう「侵入」の意義 二 建造物の管理権者が立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合と建造物侵入罪の成否
裁判要旨
一 刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。 二 建造物の管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、建造物侵入罪の成立を免れない。
解説
事案
被告人らは、労働組合の春季闘争の一環として、多数のビラを貼る目的で、管理権者である大槌郵便局長の事前の了解を受けずに夜間、多人数で土足のまま郵便局舎内に立ち入った。そして「大巾賃上げ」「スト権奪還」などと印刷したビラ約1000枚を局舎の各所に乱雑に貼った。
郵政省庁舎管理規程では、局舎でのビラ貼りは、法令等に定めがある場合を除き、管理権者が禁止すべき事項とされていた。局長は、東北郵政局から組合のビラ貼りを警戒するよう指示を受けており、当夜は局長代理と交代で局舎の外側から警戒していた。被告人らのビラ貼りを確認すると局舎に入り、退去を求めた。なお、判決は、局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、と仮定してこの点に言及している。
原判決は、局長がビラ貼り目的の立入りを予測しながら事前に阻止する具体的措置をとらなかったことなどから、立入り拒否の意思が外部に表明されていたとはいえないとした。そのうえで、管理権者の意思に反したとはいえず建造物侵入罪の構成要件に該当しないとした。検察官が上告した。
争点
- 刑法130条前段にいう「侵入」の意義
- 管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合に建造物侵入罪が成立するか
- 管理権者から許諾権限を与えられていない宿直員の許諾が侵入該当性に影響するか
判旨
原判決を破棄し、仙台高裁に差し戻した。
規範
- 刑法130条前段の「侵入」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。
- 管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合でも、建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情がない限り、建造物侵入罪が成立する。
あてはめ
本件の立入りは局長の意思に反するものであり、被告人らもそれを認識していたと認定するのが合理的である。許諾権限のない宿直員の許諾は、この認定に影響しない。
判決文から
「刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきである」
「侵入」を意思侵害として定義した中心部分
「管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて」
明示不要とし、推認のための考慮要素を列挙
「現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。」
答案に書ける判断基準と結論
「右宿直員は管理権者から右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。」
権限のない者の許諾は意味を持たない
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