長沼ナイキ事件
保安林指定解除処分の取消訴訟で、直接の利害関係を有する住民の原告適格を認め、代替施設による訴えの利益消滅を認めた判例
出題:司法H25・司法R1・司法R8・予備H29・予備R6
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和52(行ツ)56 保安林解除処分取消
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第36巻9号1679頁
- 参照法条
- 森林法27条1項,行政事件訴訟法9条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」と保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格 二 森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格が認められた事例 三 いわゆる代替施設の設置と保安林指定解除処分取消訴訟の訴えの利益 四 保安林指定解除処分に伴う立木竹の伐採後の跡地利用によつて生ずる利益侵害の危険と保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格
裁判要旨
一 保安林の指定につき森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」は、右指定の解除処分取消訴訟の原告適格を有する。 二 農業用水の確保を目的とし、洪水予防、飲料水の確保の効果をも配慮して指定された保安林の指定解除により洪水緩和、渇水予防上直接の影響を被る一定範囲の地域に居住する住民は、森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」として、右解除処分取消訴訟の原告適格を有する。 三 いわゆる代替施設の設置によつて洪水、渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、右防止上の利益侵害を基礎として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格を認められた者の訴えの利益は失われる。 四 保安林指定解除処分に伴う立木竹の伐採後の跡地利用によつて生ずる利益侵害の危険は、右解除処分取消訴訟の原告適格を基礎づけるものではない。 (一につき意見、三に関連した反対意見がある。)
解説
事案
a町一円の農業用水の確保を動機として、水源かん養保安林が指定されていた。指定にあたっては、洪水予防と飲料水の確保の効果も配慮されていた。その後、被上告人(処分当時の農林大臣)は、ミサイル基地設置を目的として、森林法26条2項により保安林の指定を一部解除した。周辺住民らは、この解除処分の取消しを求めて訴えを提起した。
解除後、札幌防衛施設局は代替施設を設置した。b川本支流の沢部分の砂防堰堤7基と、余水吐を備えたb一号堰堤である。
原審(札幌高裁)は訴えを却下した。理由は次のとおりである。
- 伐採による理水機能の低下で直接影響を受ける地域は、排水機場流域に限られる。その流域外に住む者は原告適格を欠く。
- 流域内の住民には原告適格がある。しかし、代替施設により洪水の危険は社会通念上なくなったので、訴えの利益は失われた。
上告人らは、原告適格・訴えの利益の判断の誤りを主張した。あわせて、ミサイル基地設置による平和的生存権侵害のおそれを根拠に、法律上の利益があると主張して上告した。
争点
- 保安林指定解除処分の取消訴訟において、周辺住民に行訴法9条の「法律上の利益」(原告適格)が認められるか
- 森林法27条1項の「直接の利害関係を有する者」の意義・範囲
- 代替施設の設置により、原告適格を認められた者の訴えの利益が消滅するか
- 解除後の跡地利用(ミサイル基地設置)による利益侵害の危険が原告適格を基礎づけるか
判旨
上告棄却(訴え却下の原判決を維持)。
- 反射的利益の原則:法律が不特定多数者の利益を抽象的・一般的な公益として保護し、その見地から私権を制限しているにすぎない場合、個々人の利益は反射的利益にとどまる。その侵害を受けたにすぎない者は、行訴法9条の法律上の利益を有しない。
- 例外:法律がその利益の全部または一部を、帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むときは、原告適格が認められる。
- 森林法へのあてはめ:森林法は、保安林の指定につき「直接の利害関係を有する者」(27条1項)に利益主張の地位を法律上与えている。この者は、解除処分の取消訴訟の原告適格を有する。範囲は、生活利益の具体的内容と性質、その重要性、森林の存続との具体的関連の内容・程度等に照らして決する。
- 本件の範囲:洪水緩和・渇水予防の点で直接影響を受ける一定範囲の地域に居住する住民がこれに当たる。
- 訴えの利益:代替施設の設置で洪水・渇水の危険が解消され、その防止上保安林を存続させる必要がなくなったと認められるときは、訴えの利益は失われる。
- 跡地利用:伐採後の跡地利用による利益侵害の危険は、原告適格を基礎づけない。
判決文から
「かかる侵害を受けたにすぎない者は、右処分の取消しを求めるについて行政事件訴訟法九条に定める法律上の利益を有する者には該当しないものと解すべきである。」
反射的利益論による原告適格否定の原則
「法は、森林の存続によつて不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益としてとらえ」
公益と並ぶ個別的利益としての保護を認めた核心
「そのそれぞれの生活利益の具体的内容と性質、その重要性、森林の存続との具体的な関連の内容及び程度等に照らし」
「直接の利害関係を有する者」の範囲の判断基準
「本件におけるいわゆる代替施設の設置によつて右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは」
訴えの利益消滅の基準
「伐採後のいわゆる跡地利用によつて生ずべき利益の侵害のごときは、指定解除処分の取消訴訟の原告適格を基礎づけるものには当たらないのである。」
平和的生存権等の主張を訴訟要件から切り離した
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