最判昭和56年1月19日
受任者の利益のためにもされた委任でも、解除権放棄と解されない事情があれば、委任者は651条で解除でき、受任者は損害賠償で足りる
出題:司法H25・司法R5・予備H25
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和54(オ)353 譲受債権
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 民集 第35巻1号1頁
- 参照法条
- 民法651条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
受任者の利益のためにも締結された委任契約において委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合と民法六五一条
裁判要旨
受任者の利益のためにも締結された委任契約であつても、その契約において委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合は、委任者は、やむをえない事由がなくても、民法六五一条に則り右契約を解除することができる。
解説
事案
Dは、所有する共同住宅(本件建物)を訴外E不動産会社に一括して賃貸した。同日、建築・不動産管理を業とするYとの間で本件建物の管理契約を締結した。
- Yは、賃料の徴収、公租公課の支払、修理など賃貸に関する事務の一切を任された。あわせて、賃借人がDに差し入れる保証金880万円の保管も委ねられた。
- Yは管理を無償で行い、保管中は月1分の利息をDに支払う。その代わりに、Dは、Yが保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することを許した。
- 賃貸借の期間は2年、管理契約の期間は5年で、更新も認められていた。両契約とも順次更新され、Yは約11年間、保証金を事業資金として利用した。
- その後、Dは管理契約の解除の意思表示をし、保証金の返還を請求した。
原審は、本件管理契約が受任者Yの利益のためにもされたものである以上、やむをえない事由がない限り解除できないとして、解除の効力を否定した。
争点
- 受任者の利益のためにもされた委任契約を、委任者が民法651条により解除できるか
- やむをえない事由がない場合でも解除できるか、できるとすればどのような要件の下か
- 解除された受任者の不利益をどう調整するか
判旨
破棄差戻し。
- 本件管理契約は委任契約の範疇に属する。委任者Dだけでなく、保証金を事業資金として自由に利用できるという点で、受任者Yにも利益を与えるものである。
- 規範(1):受任者の利益のためにもされた委任であっても、受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事由があるときは、委任者は解除できる。
- 規範(2):やむをえない事由がない場合でも、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、委任者は民法651条により解除できる。受任者がこれによって不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることで不利益を填補されれば足りる。
- 原審は、解除権放棄と解されない事情の有無を認定しないまま解除の効力を否定した。これは法令の解釈適用を誤り、審理不尽・理由不備の違法を犯したものである。
判決文から
「受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事由があるときは、委任者において委任契約を解除することができるものと解すべきことはもちろんであるが」
やむをえない事由があれば解除可能という前提
「かかるやむをえない事由がない場合であつても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは」
本判決の核心となる要件
「委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任者の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから」
解除を認める実質的理由
「受任者がこれによつて不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによつて、その不利益を填補されれば足りるものと解するのが相当である。」
受任者の保護は損害賠償で図るという構造
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