最決昭和55年10月30日
元の場所に戻す意思があっても、他人の自動車を数時間完全に支配下に置く意図で無断で乗り回せば不正領得の意思が認められるとした決定
出題:司法H22・司法H28・司法R8・予備H28・予備R3・予備R8
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和55(あ)1081 窃盗、道路交通法違反
- 裁判
- 決定・棄却
- 判例集
- 刑集 第34巻5号357頁
- 参照法条
- 刑法235条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思があるとされた事例
裁判要旨
他人所有の普通乗用自動車を、数時間にわたつて完全に自己の支配下に置く意図のもとに、駐車場から所有者に無断で乗り出し、その後約四時間余りの間乗り廻していたなどの事情があるときは、たとえ、使用後に元の場所に戻しておくつもりであつたとしても、右自動車に対する不正領得の意思があつたということができる。
解説
事案
被告人は、深夜、広島市内の給油所の駐車場から、他人所有の普通乗用自動車(時価約250万円相当)を、所有者に無断で乗り出した。乗り出した時点で、被告人には数時間にわたってその自動車を完全に自己の支配下に置く意図があった。その後、被告人は4時間余りの間、同市内を乗り回した。決定は、仮に被告人が使用後に自動車を元の場所に戻しておくつもりであったとしても、不正領得の意思は否定されないとしている(返還意思の存在を事実として認定したものではない)。
被告人は窃盗・道路交通法違反で起訴された。第一審判決とそれを是認した原判決(広島高裁)は窃盗罪の成立を認めた。上告趣意は量刑不当と判例違反の主張であったが、最高裁はいずれも適法な上告理由にあたらないとして上告を棄却した。そのうえで「なお」として、職権で不正領得の意思の有無について判断を示した。
争点
- 他人の自動車を一時的に無断使用し、使用後に元の場所へ戻すつもりであった場合に、窃盗罪(刑法235条)の成立に必要な不正領得の意思が認められるか
判旨
結論:被告人には自動車に対する不正領得の意思があり、窃盗罪が成立する(上告棄却)。
規範(答案に書ける形):他人の自動車を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で乗り出し、その後相当時間(本件では4時間余り)乗り回していたなどの事情があるときは、たとえ使用後に元の場所に戻しておくつもりであったとしても、不正領得の意思が認められる。
つまり、返還意思があることだけでは不正領得の意思は否定されない。一時使用であっても、所有者の利用を排除して物を完全に自己の支配下に置く意図があれば、可罰的な窃盗となる。
判決文から
「数時間にわたつて完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で乗り出し、その後四時間余りの間、同市内を乗り廻していた」
不正領得の意思を肯定する根拠となった具体的事情
「たとえ、使用後に、これを元の場所に戻しておくつもりであつたとしても、被告人には右自動車に対する不正領得の意思があつたというべきである」
返還意思があっても不正領得の意思は否定されないとした核心
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