国有農地売払特措法事件
財産権の内容を事後の法律で変更しても、公共の福祉に適合する限り憲法29条に違反しないとし、その判断枠組みを示した大法廷判決
出題:司法H23・司法R2
- 裁判所
- 最高裁判所大法廷
- 事件番号
- 昭和48(行ツ)24 国有財産買受申込拒否処分取消
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第32巻5号946頁
- 参照法条
- 憲法14条,憲法29条,国有農地等の売払いに関する特別措置法2条,国有農地等の売払いに関する特別措置法附則2項,国有農地等の売払いに関する特別措置法施行令1条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 国有農地等の売払いに関する特別措置法二条、同法附則二項、同法施行令一条と憲法二九条 二 国有農地等の売払いに関する特別措置法二条、同法附則二項、同法施行令一条と憲法一四条
裁判要旨
一 国有農地等の売払いに関する特別措置法二条、同法附則二項、同法施行令一条は、憲法二九条に違反しない。 二 国有農地等の売払いに関する特別措置法二条、同法附則二項、同法施行令一条は、憲法一四条に違反しない。
解説
事案
自作農創設特別措置法(自創法)で国に買収された農地について、改正前の農地法80条は、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じたときに、旧所有者へ「買収の対価に相当する額」で売り払う旨を定めていた。昭和46年に施行された国有農地等の売払いに関する特別措置法(特措法)は、同条2項後段を削った。そのうえで、売払いの対価を政令で定める適正な価額とし(特措法2条)、施行令1条1項はこれを時価の10分の7と定めた。さらに附則2項で、施行日以後に売払いを受ける土地にこの規定を適用するとした。
上告人は、特措法の施行前に目的外とすべき事実が生じた買収農地について売払いを求めていた旧所有者であり、施行日前には売払いを受けていなかった。上告人は、特措法2条・附則2項・施行令1条について、次の2点を主張した。
- 買収対価相当額で売払いを求めうる財産権を侵害するもので、憲法29条に違反する。
- 既に売払いを受けた者との間で対価に差を設けるもので、憲法14条に違反する。
原審(名古屋高裁)は上告人の請求を退け、上告人が上告した。
争点
- 法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で不利益に変更することが憲法29条に違反しないか、その判断基準
- 売払い対価を買収対価相当額から時価の7割に引き上げ、施行前に申込みをしていた旧所有者にも適用することの合憲性
- 施行日前に売払いを受けた者と施行日以後に売払いを受ける者とで対価に差が生じることが憲法14条に違反しないか
判旨
上告棄却。特措法2条・附則2項・施行令1条は、憲法29条にも14条にも違反しない。
規範(29条)
- 憲法29条2項は、財産権の内容を公共の福祉に適合するように法律で定めるとしている。そのため、法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲とはいえない。
- 公共の福祉への適合性は、次の事情を総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものかによって判断する。
- いったん定められた法律に基づく財産権の性質
- 内容を変更する程度
- 変更によって保護される公益の性質
あてはめ
- 時価の7割への変更は、社会経済秩序の保持と国有財産の処分の適正という公益上の要請と、旧所有者の権利との調和を図ったものであり、公共の福祉に適合する。
- 施行前に申込みをしていた旧所有者の権利が害される点も、権利自体の剥奪ではなく対価の不利益変更にとどまる。したがって憲法上容認される。
14条
- 立法に合理的理由がある以上、施行日の前後で売払いを受けた者の間に差別的取扱いが生じても違憲ではない。
判決文から
「法律でいつたん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、これをもつて違憲の立法ということができないことは明らかである。」
事後法による財産権内容変更の合憲性の基本命題
「財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによつて保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによつて、判断すべきである。」
答案に書く判断枠組み(三要素の総合勘案)
「それは売払いを求める権利自体が剥奪されるようなものではなく、権利の内容である売払いの対価が旧所有者の不利益に変更されるにとどまるものであつて」
侵害の程度の評価(権利剥奪との区別)
「憲法一四条は、もとより合理的理由のある差別的な取扱いまでをも禁止するものではないから」
施行日前後の取扱いの差に関する14条判断
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