最判昭和49年9月2日
家屋明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たず、明渡しが先履行である。敷金返還請求権による留置権も成立しない
出題:司法H29・司法R1・司法R4・司法R5・司法R8・予備H29・予備R4・予備R8
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和48(オ)30 家屋明渡請求
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第28巻6号1152頁
- 参照法条
- 民法533条,民法619条2項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
賃借家屋明渡債務と敷金返還債務との間の同時履行関係の有無
裁判要旨
家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。
解説
事案
Xは、任意競売手続で本件家屋を競落した。昭和45年11月に代金を納付して所有権を取得し、所有権移転登記も経た。Yは本件家屋の一部を占有していた。
Xは、所有権に基づいてYに占有部分の明渡しを求めた。これに対しYは、次のように主張した。
- 昭和44年9月1日、前所有者から占有部分を期限昭和46年8月31日までとして賃借し、引渡しを受けた。
- 賃貸借の際に前所有者へ敷金を差し入れており、その返還請求権に基づき同時履行の抗弁と留置権を主張する。
原審は、賃貸借は期限の日限りで終了したと判断した。そのうえで、敷金返還請求権に基づく同時履行・留置権の主張をいずれも退け、Xの明渡請求を認容した。Yが上告した。
争点
- 賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務は、同時履行の関係(民法533条)に立つか
- 賃借人は、敷金返還請求権を被担保債権として家屋に留置権を主張できるか
- 賃貸借の終了原因が期間満了か解除(解約)かで結論が変わるか
判旨
上告棄却。
- 規範(敷金の性質):敷金は、賃貸借終了後、家屋明渡義務の履行までに生ずる賃料相当損害金債権その他、賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得しうる一切の債権を担保する。賃貸人は、明渡しがされた時点で被担保債権を控除し、なお残額があるときにその残額の返還義務を負う。
- 同時履行:家屋明渡債務と敷金返還債務は、特別の約定のない限り同時履行の関係に立たない。賃貸人は、明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足りる。この理は、終了原因が解除(解約)の場合でも同じである。
- 留置権:明渡債務が敷金返還債務に対して先履行の関係に立つ以上、賃借人が敷金返還請求権をもって家屋に留置権を取得する余地はない。
- 本件でYは特約の存在を主張していないから、同時履行・留置権の主張を退けた原審判断は正当である。
判決文から
「賃貸借における敷金は、賃貸借の終了後家屋明渡義務の履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのある一切の債権を担保するものであり」
敷金の被担保債権の範囲=明渡しまでの一切の債権
「敷金契約は、このようにして賃貸人が賃借人に対して取得することのある債権を担保するために締結されるものであつて、賃貸借契約に附随するものではあるが、賃貸借契約そのものではないから」
対価的債務関係を否定する根拠
「賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく」
明渡し先履行の結論と特約による例外
「このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であつても異なるところはないと解すべきである。」
終了原因を問わないという射程
「賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもつて家屋につき留置権を取得する余地はないというべきである。」
留置権の否定
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