三菱樹脂事件
人権規定は私人間に直接適用されず、思想を理由とする雇入れ拒否や思想関連事項の調査も当然には違法でないとした判例
出題:司法H23・司法H26・司法H28・司法H29・司法R1・司法R4・司法R5・司法R8・予備H23・予備H28・予備H29・予備R3・予備R6
- 裁判所
- 最高裁判所大法廷
- 事件番号
- 昭和43(オ)932 労働契約関係存在確認請求
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 民集 第27巻11号1536頁
- 参照法条
- 憲法14条,憲法19条,民法1条,民法90条,労働基準法3条,労働基準法第2章
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一、憲法一四条、一九条と私人相互間の関係 二、特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか 三、雇入れと労働基準法三条 四、企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否 五、試用期間中に企業者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約に基づく留保解約権の行使が許される場合
裁判要旨
一、憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。 二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。 三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。 四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。 五、企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである。
解説
事案
被上告人は大学在学中に上告人会社の大卒社員採用試験に合格した。卒業と同時に、3か月の試用期間付きで採用された。ところが試用期間の満了直前に、会社から本採用を拒否すると告げられた。
会社が挙げた拒否理由は、採用試験の際に提出させた身上書や面接で虚偽の申告・秘匿をしたことである。具体的には次の2点である。
- 学校当局の承認を得ていない学生自治会の中央委員として、安保改定反対運動を推進し、無届デモ・無届集会・ピケ等に参加した事実を記載しなかった。面接でも「学生運動はしていない」と答えた。
- 生活協同組合の理事・組織部長の経歴を記載しなかった。
会社は、これらが民法96条の詐欺に当たり、管理職要員としての適格性も否定すると主張した。
原審は次のように判断し、本採用拒否を無効とした。
- 秘匿等をした事実は政治的思想・信条に関係する。
- 優越的地位にある企業が思想・信条に関係する事項の申告を求めることは、憲法19条・14条、労基法3条に反し、公序良俗に反する。
最高裁は原判決を破棄し、差し戻した。
争点
- 憲法14条・19条は私人相互間の関係に直接適用されるか(私人間効力)
- 企業が特定の思想・信条を理由に雇入れを拒否することは違法か
- 労基法3条は雇入れそのものを制約するか
- 企業が採否決定にあたり、思想・信条に関連する事項の申告を求めることは違法か
- 試用期間中の留保解約権(本採用拒否)の行使はどの範囲で許されるか
判旨
原判決破棄・差戻し(裁判官全員一致)。
- 私人間効力:憲法14条・19条を含む自由権的基本権の規定は、もっぱら国・公共団体と個人の関係を規律する。私人相互の関係を直接規律することは予定していない。事実上の支配関係がある場合に限って適用・類推適用するという見解も採らない。社会的に許容しうる限度を超える侵害には、立法措置のほか、民法1条・90条や不法行為規定の適切な運用によって調整する。
- 雇入れの自由:企業者は憲法22条・29条等に基づく契約締結の自由を有する。そのため、特定の思想・信条を理由に雇入れを拒んでも、当然に違法とはいえない。労基法3条は雇入れ後の労働条件に関する制限であり、雇入れそのものを制約しない。
- 調査の自由:雇入れ拒否が違法でない以上、採否決定にあたり思想・信条を調査し、関連事項の申告を求めることも違法ではない。
- 本採用拒否:本件の本採用拒否は、留保解約権の行使であり、雇入れ後の解雇に当たる。その行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される。
判決文から
「もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」
直接適用説を否定した核心部分
「民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。」
間接適用説と評される一般条項による調整の枠組み
「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」
雇入れの自由の結論
「労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。」
労基法3条の射程を雇入れ後に限定
「ことに本件において問題とされている学生運動への参加のごとき行動は、必ずしも常に特定の思想、信条に結びつくものとはいえないとしても、多くの場合、なんらかの思想、信条とのつながりをもつていることを否定することができないのである。」
外部的行動の調査も思想と無関係ではないと認めた点
「前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」
本採用拒否の適法性の判断基準
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
