最判昭和46年6月17日
暴行が被害者の重篤な心臓疾患とあいまって死亡させた場合、素因を予見できなくても致死罪の因果関係を認め得るとした判例
出題:司法H27・司法R8
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和45(あ)1070 強盗、私文書偽造、同行使、詐欺
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 刑集 第25巻4号567頁
- 参照法条
- 刑法240条,刑訴法405条2号
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
暴行と致死の結果との間の因果関係
裁判要旨
致死の原因たる暴行は、必ずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に高度の病変があつたため、これとあいまつて死亡の結果を生じた場合であつても、右暴行による致死の罪の成立を妨げない。
解説
事案
被告人Xは、B方の四畳半一間を賃借りしていたが、Bの妻である被害者A(当時60代の女性)と、折り合いが悪くなり立ちのきを求められて転出した。その後、生活費に困ったXは、支払済みの部屋代など2万数千円の返還をAに求めた。Aに強く拒まれたうえ10月分の部屋代の日割り支払いを要求されて激昂し、暴行を加えて金員を奪うことを決意した。Xは、Aの胸倉をつかんで仰向けに倒し、左手で頸部を絞め、右手で口を押さえ、さらに顔面を夏布団で覆って鼻口部を圧迫するなどしてAの反抗を抑圧し、現金240円と預金通帳1通を奪った。Aはその場で死亡した。
- 第一審:死因はXの暴行による急性心臓死であると認定し、強盗致死罪(刑法240条)の成立を認めた。
- 原審:死因は暴行に誘発された急性心臓死であることを認めた。しかし、Aには極めて軽微な外因でも心臓死に至るほどの高度の心臓疾患があり、近親者もかかりつけ医も知らず、Xも知り得なかったとした。そのうえで折衷的相当因果関係説に立って因果関係を否定し、強盗罪(236条)にとどめた。
- 検察官が判例違反を理由に上告した。
争点
- 被害者の身体に行為者が知らず予見もできない高度の病変(重篤な心臓疾患)があり、暴行がこれとあいまって死亡を生じさせた場合に、暴行と致死の結果との間に因果関係が認められるか
- 致死の原因である暴行は、死亡の唯一または直接の原因である必要があるか
判旨
原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。
規範
- 致死の原因たる暴行は、必ずしも死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要しない。
- たまたま被害者の身体に高度の病変があり、これとあいまって死亡の結果が生じた場合でも、その暴行による致死の罪の成立は妨げられない。
あてはめ
- 仮に、重篤な心臓疾患という特殊事情がなければ致死の結果は生じなかったとしても、因果関係は否定されない。
- 行為者が行為当時その特殊事情を知らず、致死の結果を予見できなかったとしても同じである。
- 暴行がその特殊事情とあいまって致死の結果を生じさせたと認められる以上、因果関係を認める余地がある。
- 死因を暴行に誘発された急性心臓死と認めながら因果関係を否定した原判決は、因果関係の解釈を誤り、判例に違反する(刑訴法405条2号)。
判決文から
「致死の原因たる暴行は、必らずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に高度の病変があつたため、これとあいまつて死亡の結果を生じた場合であつても、右暴行による致死の罪の成立を妨げない」
本判決の中心規範。素因競合でも因果関係を認める
「被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らず、また、致死の結果を予見することもできなかつたものとしても、その暴行がその特殊事情とあいまつて致死の結果を生ぜしめたものと認められる以上」
素因の認識・予見可能性は因果関係判断に不要
「行為の当時、平均的注意深さをもつ通常人が知りまたは予見することができたであろう一般的事情、および通常人には知り得なかつた事情でも、行為者が現に知りまたは予見していた特別事情を基礎として」
原審の折衷的相当因果関係説。最高裁はこれを退けた
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