最判昭和44年7月3日
債務者所有甲と物上保証人所有乙の共同抵当では、乙の抵当権を放棄しても、甲の代価から全額の優先弁済を受けられる
出題:司法H28・司法R5
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和41(オ)1284 債権一部不存在確認請求
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第23巻8号1297頁
- 参照法条
- 民法392条,民法504条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
先順位共同抵当権者が抵当権の一部を放棄した場合における次順位抵当権者との優劣
裁判要旨
甲乙不動産の先順位共同抵当権者が、甲不動産には次順位の抵当権が設定されているのに、乙不動産の抵当権を放棄し、甲不動産の抵当権を実行した場合であつても、乙不動産が物上保証人の所有であるときは、先順位抵当権者は、甲不動産の代価から自己の債権の全額について満足を受けることができる。
解説
事案
D銀行は、Eを主債務者とし、F・被上告人らを連帯保証人とする貸越契約を結んだ。その債務を担保するため、E所有の不動産とF所有の不動産(第一物件)に極度額250万円の根抵当権が設定され、その後、被上告人所有の第二物件にも極度額50万円の根抵当権が設定された。両者は極度額の限度で共同抵当の関係にある。
その後、上告人は第一物件について次順位の抵当権(債権額200万円)の登記を得た。
被上告人は、Dに対する掛込金債権78万円との相殺と残額27万円余の支払により、Eの債務を完済した。そして第一物件については根抵当権移転の付記登記を受け、第二物件についてはDの根抵当権設定登記を抹消した。
その後、被上告人が第一物件の抵当権を実行して競売を申し立てた。その売得金の配当をめぐり、次順位抵当権者である上告人が争った。
争点
- 先順位共同抵当権者が一部の不動産(乙)の抵当権を放棄した後に他の不動産(甲)の抵当権を実行した場合、甲の次順位抵当権者に対して優先弁済を受けられる範囲
- 乙が物上保証人所有の場合に、甲の後順位抵当権者による民法392条2項後段の代位と、物上保証人による弁済による代位のいずれが優先するか
判旨
上告棄却。被上告人は第一物件の売得金から求償権の全額に満ちるまで支払を受けられる。
- 原則:甲・乙がともに債務者所有の場合、共同抵当権者が甲の実行前に乙の抵当権を放棄したときは、放棄がなければ甲の第二順位抵当権者が乙に代位できた限度で、その者に優先できない(大判昭和11年7月14日参照)。
- 乙が物上保証人所有の場合:乙が先に実行されれば、物上保証人は民法500条(当時)により甲の抵当権の全額について代位する。第二順位抵当権者の代位と物上保証人の代位が衝突するときは、後者が保護される。
- 結論:甲が競売されても、第二順位抵当権者はもともと乙に代位できない。したがって、乙の抵当権が放棄されても不利益を受けない。共同抵当権者は乙の放棄後に甲を実行しても、甲の代価から債権全額の満足を受けられる。
- 保証人など、弁済により当然に甲の抵当権に代位できる者がその抵当権を実行した場合も、同様である。
判決文から
「放棄がなかつたならば第二順位の抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位できた限度で、右第二順位の抵当権者に優先することができないと解すべきである」
債務者所有不動産のみの場合の放棄の原則ルール
「物上保証人としては、他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく、その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではないからである」
物上保証人を優先させる実質的理由
「第二順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には、後者が保護される」
代位の衝突の優劣を示す規範
「共同抵当権者は、乙不動産の抵当権を放棄した後に甲不動産の抵当権を実行したときであつても、その代価から自己の債権の全額について満足を受けることができる」
本件の結論(放棄後も全額優先)
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