交通事故報告義務事件
交通事故の報告義務は事故の態様に限られ、刑事責任に関わる事項を含まないから憲法38条1項に反しないとした大法廷判決
出題:司法R4・司法R5・予備R4・予備R5
- 裁判所
- 最高裁判所大法廷
- 事件番号
- 昭和35(あ)636 重過失致死、道路交通取締法違反
- 裁判
- 判決・その他
- 判例集
- 刑集 第16巻5号495頁
- 参照法条
- 道路交通取締法24条1項,道路交通取締法28条1号,同法施行令67条1項,同法施行令67条2項,憲法38条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 道路交通取締法施行令第六七条第二項にいう「事故の内容」の意義 二 同条項中事故の内容の報告義務を定めた部分の合憲性。
裁判要旨
一 道路交通取締法施行令第六七条第二項にいう「事故の内容」とは、その発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度並に物の損壊及びその程度等交通事故の態様に関する事項を指すものと解すべきである。 二 同条項中事故の内容の報告義務を定めた部分は、憲法第三八条第一項に違反しない。
解説
事案
被告人は、自動車を運転して事故を発生させた。その際、所轄警察署の警察官に事故を報告して指示を受けることをしなかった。第一審は、この不報告を道路交通取締法24条1項、28条1号、同法施行令67条2項により有罪とし、原審(東京高裁)もこれを認めた(事件名は重過失致死・道路交通取締法違反)。
令67条は次の内容を定めていた。
- 1項:事故発生時、操縦者らは直ちに被害者の救護・危険防止等の必要な措置を講じ、警察官が現場にいればその指示を受ける。
- 2項:措置を終えた際に警察官が現場にいないときは、直ちに「事故の内容」と講じた措置を管轄警察署の警察官に報告し、その後の行動について指示を受ける。
弁護人は上告した。「事故の内容」には刑事責任を問われるおそれのある事項も含まれるから、報告義務を定める部分は自己に不利益な供述を強要するもので、憲法38条1項に違反し無効だと主張した。
争点
- 道路交通取締法施行令67条2項にいう「事故の内容」の意義(報告義務の範囲)
- 同条項中、事故の内容の報告義務を定めた部分は憲法38条1項(自己に不利益な供述の強要の禁止)に違反するか
判旨
主文は「本件上告論旨第一点及び第二点はいずれも理由がない」とするもの(上告棄却の判決ではない)。裁判官全員一致で、奥野・山田両裁判官の補足意見がある。
- 「事故の内容」の意義:事故の発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度、物の損壊及びその程度など、交通事故の態様に関する事項を指す。操縦者らは、警察官が事故処理をするのに必要な限度でのみ報告義務を負う。刑事責任を問われるおそれのある事故の原因その他の事項は報告義務の対象に含まれない。
- 38条1項の法意:何人も、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである(最大判昭和32年2月20日を引用)。
- 結論:報告事項は上記のとおり限定されるから、令67条2項による報告の命令は、憲法38条1項にいう自己に不利益な供述の強要に当たらず、合憲である。
判決文から
「同条二項掲記の「事故の内容」とは、その発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度並に物の損壊及びその程度等、交通事故の態様に関する事項を指すものと解すべきである。」
報告義務の対象を事故の態様に限定した核心部分
「刑事責任を問われる虞のある事故の原因その他の事項までも右報告義務ある事項中に含まれるものとは、解せられない。」
事故原因など刑事責任事項を報告対象から除外
「何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべき」
38条1項の保障範囲の規範
「令六七条二項により前叙の報告を命ずることは、憲法三八条一項にいう自己に不利益な供述の強要に当らない。」
合憲の結論
「少くとも事実上犯罪発覚の端緒を与えることになり」
奥野補足意見による多数意見への疑問
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