最判昭和35年9月20日
建物買取請求権行使の前は敷地の不法占有による賃料相当損害金、行使後は建物引渡拒絶中の敷地占有による賃料相当額の不当利得返還義務を認めた。
出題:司法H29・予備H29
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 昭和33(オ)518 建物収去、土地明渡請求
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第14巻11号2227頁
- 参照法条
- 借地法10条,民法709条,民法703条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 建物取得後借地法第一〇条の買取請求権行使までの間における敷地不法占有と損害の有無。 二 借地法第一〇条の買取請求権行使後における敷地占有と不当利得の成否。
裁判要旨
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代金の支払を受けるまで右建物の引渡を拒むことができるが、これにより敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得としてその賃料相当額を返還する義務がある。
解説
事案
土地賃借人である訴外Dモーターースが、昭和25年4月1日、土地賃貸人の承諾を得ないまま、地上建物とともに借地権を上告人に譲渡した。賃貸人(被上告人)は上告人に対し、建物収去・土地明渡しと賃料相当損害金の支払を求めた。上告人は借地法10条の建物買取請求権を行使した。
原審は上告人の主張をいずれも退けた。具体的には次のとおりである。
- 借地権の譲渡は背信行為に当たらないとの主張、明渡請求は権利濫用であるとの主張を、いずれも退けた。
- 相当賃料は約定賃料(坪当り月2円)によらず、鑑定により認定した。同年7月11日以降は地代家賃統制令の改正で本件土地が賃料統制を外れたためである。
- この相当賃料をもとに、買取請求権行使の前後を通じて賃料相当額の支払義務を認めた。
上告人が上告したが、上告は棄却された。
争点
- 建物・敷地賃借権の無断譲渡は、使用収益の方法に大差がなければ原則として背信行為に当たらないといえるか(民法612条)
- 借地法10条の買取請求権を行使する前の期間について、賃貸人は賃料請求権を失わないのに、建物取得者による敷地不法占有を理由に賃料相当の損害金を請求できるか(民法709条)
- 買取請求権を行使した後、代金の支払まで建物の引渡しを拒む建物取得者は、敷地占有について賃料相当額の不当利得返還義務を負うか(民法703条)
判旨
上告棄却。判旨は次の3点である。
- 買取請求権行使前の損害:敷地賃貸借は、借地法10条の買取請求権の行使によって初めて目的を失い消滅する。そのため賃貸人は、行使前の期間について、特段の事情がない限り賃料請求権を失わない。しかし、賃料請求権があるというだけで、賃料相当の損害が生じないとはいえない。賃貸人が現に賃料の支払を受けた場合を除き、無断転借人(または譲受人)に賃料相当の損害金を請求できる。
- 買取請求権行使後の不当利得:行使後、建物取得者は買取代金の支払があるまで建物の引渡しを拒むことができる。しかし、建物の占有によって敷地も占有する限り、敷地占有に基づく不当利得として敷地の賃料相当額を返還する義務を負う。
- 背信性:使用収益の方法に大差がないことから、借地権譲渡が原則として背信行為に当たらないと解することはできない。
判決文から
「借地法一〇条による建物等買取請求権の行使によりはじめて敷地賃貸借は目的を失つて消滅するものと解すべきであるから」
賃貸借が消滅する時点を買取請求権の行使時とする前提
「しかし、単に賃料請求権を有するというだけで、その間賃料相当の損害を生じないとはいい難い。」
賃料請求権があっても損害は否定されない
「貸主が現に右賃料の支払を受けた場合は格別、然らざるかぎり、無断転借人(又は譲受人)に対し賃料相当の損害金を請求するを妨げないものと解すべきである。」
現実の賃料受領がない限り損害金請求ができるという規範
「建物買取請求権を行使した後は、買取代金の支払あるまで右建物の引渡を拒むことができるけれども、右建物の占有によりその敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得として敷地の賃料相当額を返還すべき義務あることは」
引渡拒絶は認めつつ敷地使用の利得返還を課す核心部分
「使用収益の方法に大差なければ背信行為に当らないと解することは許されないからである。」
背信性を否定する事情の判断基準の限定
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