最大判昭和32年6月5日
債権者が契約の存在を否定するなど受領しない意思が明確なら、債務者は口頭の提供をしなくても債務不履行責任を負わない
出題:司法H26・司法H30・司法R1・司法R4
- 裁判所
- 最高裁判所大法廷
- 事件番号
- 昭和29(オ)522 家屋明渡請求
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第11巻6号915頁
- 参照法条
- 民法493条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
弁済を受領しない意思が明確な債権者に口頭の提供をしない場合と債務不履行
裁判要旨
債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は言語上の提供をしなくても債務不履行の責を免れるものと解すべきである。
解説
事案
賃貸人(上告人)は、賃借人(被上告人)が賃貸人に損害を及ぼす工事を無断でしたという契約条項違反だけを理由に賃貸借を解除したと主張した。そのうえで、貸室の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めて提訴したが、第一審で敗訴した(昭和27年5月17日弁論終結、同年6月19日判決)。
賃貸人は敗訴判決後の同年6月27日付で、特約に基づき催告をせずに、5・6・7月分の賃料(前月25日払の約束)の不払を理由とする解除の意思表示をした。これを予備的請求として、控訴審の口頭弁論期日で初めて主張した。
原審はこの解除を無効とした。賃貸人は、賃借人が賃料について言語上の提供(口頭の提供)をしていない以上、履行遅滞があるとして上告した。
争点
- 債権者が受領しない意思を明確にしている場合にも、債務者は民法493条ただし書の口頭の提供をしなければ債務不履行責任を免れないか
- 解除を主張して賃貸借の存在を否定する賃貸人に対し、賃借人が賃料の口頭の提供をしなかった場合、賃料不払を理由とする解除は有効か
判旨
上告棄却。
規範:債権者が契約そのものの存在を否定するなど、弁済を受領しない意思が明確と認められる場合には、債務者は口頭の提供をしなくても債務不履行の責任を負わない。
あてはめ:賃貸人は、第一審以来賃貸借の解除を主張して賃貸借契約そのものの存在を否定している。3か月分の賃料も、損害金としてならともかく、賃料としてはあらかじめ受領を拒絶していると認められる。したがって受領しない意思が明確であり、賃借人が賃料の口頭の提供をしなくても履行遅滞の責任を負わない。
そのため、賃料不払を理由とする解除の意思表示は無効である。原判決の説示は不十分だが、結論は正当とされた。
判決文から
「債権者において予め受領拒絶の意思を表示した場合においても、その後意思を翻して弁済を受領するに至る可能性があるから、債権者にかかる機会を与えるために債務者をして言語上の提供をなさしめることを要するものとしているのである。」
口頭の提供を要求する趣旨=債権者の翻意の機会確保
「債務者が言語上の提供をしても、債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合においては、債務者が形式的に弁済の準備をし且つその旨を通知することを必要とするがごときは全く無意義であつて」
口頭の提供が不要となる場合の規範
「それ故、かかる場合には、債務者は言語上の提供をしないからといつて、債務不履行の責に任ずるものということはできない。」
効果=債務不履行責任を負わない
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